水族館用の巨大水槽が連なる海の民の陸上住宅、元は廃業した水族館だったが、改装が進み、仮設住宅程度の物であったが、現在は本格的な設備が揃っている。
伊豆諸島周辺の海域に保護された海の民の一部もこの陸上住宅に移る者も増えてきており、さらなる増築が検討されている。
さて、そんな彼らも巨大水槽から出て、娯楽ルームでくつろぐ事もあり、陸上でしか出来ない娯楽があった。
「罠を仕掛けたよ!そっちに誘導して!!」
「うん、わかった、それっ、角笛~~!・・・・あ、回復笛だった。」
「あ、馬鹿ーー!!!」
水中では故障と感電の恐れがあるので持ち込めない、電子ゲームに、海の民の子供たちは熱中していた。
「もー、ターゲットが逸れて、一気に3乙しちゃったじゃない!何のための作戦会議よー!」
「ウルスラちゃんだって、最初に1乙しているじゃない、間違えたのは悪かったけど、失敗は全員の責任だよー。」
「ウルスラ、間違えは誰にでもある事よ?またやり直せば良いじゃない。」
「う~~~・・・わかったよぉ・・・ゲーム下手なお姉ちゃんに言われるのは釈然としないけど。」
娯楽ルーム各所に設置されたウミビト用のビニール製クッションの上でだらしない恰好で携帯ゲーム機を弄るウルスラ、他の海の民の少年少女も似たような体勢である。
「もぉ、学校の勉強が大変なのは解るけど、息抜きもほどほどにしておくのよ?」
「そうだぞ、ウルスラ、勉学も必要だが、我ら海の民は武も極めなくてはならぬのだからな?子供の内に体を動かすことに慣れていなければ、一人前の戦士にはなれぬぞ?」
「あ、ヴィーナお姉ちゃん。」
プリシラの後ろから赤珊瑚色の髪と鱗を持った娘が車椅子に乗って現れる。
「あら?ヴィーナ?もう走り込み終わったの?」
「あぁ、車椅子は画期的な発明だな、陸上で動けて腕力も鍛えられる、多少体表が乾くのが難点だがな。」
ウミビトは体表が乾燥するのが苦手だが、保湿の為に肌や鱗部分から粘液が分泌されており、陸上でもある程度活動が可能である。
基本的に汗の様なもので、激しい運動をした時や暑い時に自然と流れてきてしまう。ヴィーナは日課として町周辺のルートを全力で車椅子を飛ばして数周する走り込みをしており、現在汗(粘液)だく状態である。
「ヴィーナ姉ちゃ・・・その、汗で・・服・・・透けてる。」
ウミビトの少年が顔を赤面させながら俯く。
「何だ?ませているな、大丈夫だ、水竜のヒレの服はインナーだ、外ではジャージを着ているから通行人には見られておらんぞ?」
「ヴィーナ・・・そういう問題じゃないと思うの、ジャージは腋に抱えていないで、せめて羽織るくらいはしてよ、後、もう水竜の素材の服にこだわるのは止めておきなさいよ。」
「何を言うか、プリシラ、この素肌に張り付くような密着感が良いのだろう!伸縮性や耐久性にも優れているのだぞ?」
薄い水色がかった色の水竜のヒレだが、水にぬれると半透明となるので、うっすらと胸が透けて見えてしまう、同性か子供しかいない場所なので、ヴィーナは気にしていないが、一度透けた服を見られて西本教授を魔法で吹き飛ばした前科がある。
プリシラとしては、偶発的な事故による被害の発生を恐れていた。
「でも透けちゃうよね?」
「ぐっ・・・だがな、プリシラ、何時までもニホンに頼り切りと言う訳にも行くまい?」
「海の素材で透けない素材は一応あるけど、海獣は凍てつきの海くらいでしか手に入らないし、海の民全員に行き渡る程の量は確保できないのよ、諦めたら?」
「いや、色々着てみたが、ニホンの服の素材でしっくりくる物があまり無くてな・・・水竜のヒレや皮の様な質感の物はついぞ見つける事が出来なかった、スクール水着と言う物は良い線を行っていたのだがなぁ・・。」
ため息をつきつつ、車椅子の籠からタオルを取り出して、汗を拭きとるヴィーナ、その時、娯楽ルームの扉が開き二人の人影が現れる。
「あ、居た居た、お二人とも、臨時会議ですので研究室に来てくださ・・・・・」
西本教授とミーティアが歴史研究の為に、聖歌隊メンバーを集めに海の民の陸上住宅に訪れたのだが、タイミングが非常に悪かった。
西本教授は、透けて服の中が露わになったヴィーナを見て固まり、横に居たミーティアは無言で西本教授の傍から離れる・・・・そして数秒後・・・。
「あ・・・う・・ひっ・・・いゃぁ・・・いやぁああああああああああああああああ!!!!」
「なばるでうおぉどあぁああああぁぁぁっ!?」
珊瑚色の髪や鱗と同じ位に顔を赤く染めたヴィーナに、いつぞやの魔力衝撃波を叩き込まれ、娯楽ルームから強制退場させられてしまう西本教授、ミーティアは、もう既に何回か巻き添えを食らっているので回避パターンは脳内にインプット済みである。
「ヴィーナぁ~~?もうこれ何回目なのよぉ~!?」
ヴィーナが水竜素材の服にこだわる限り、何回でも西本教授は吹き飛ばされるのだろう、ミーティアとプリシラは内心ため息を付きつつ、吹き飛ばされて気絶した西本教授の元へ駆け寄るのであった。