異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第7話    海の民の歴史

我々は、かつて、陸の民と共に生き、平和を築いてきた。

しかし、陸の民の中に人食い族という者たちが現れた。

非常に好戦的な彼らは、我らと友好的だった陸の民を追い出し、ついに海の国までその勢力を伸ばしてきた。

彼らは戦いに敗れた者を食すことで、その力を我が物にすると言う迷信を信じており、彼らに敗れた者たちは例外なく彼らの胃袋に押し込まれてしまう。

魔石を宿すほどの魔力の持ち主を多く食すことで、彼らは禍々しく変質し、既に人間とは呼べる存在ではなかった。

地の利は我らにあったが、彼らの圧倒的な魔法で多くの戦士たちが破れ、次第に我々はその数を減らしていった。

しかし、陸の民の中で人食い族に挑む者たちがいた。彼らは、海の国の長が自ら差し出した肉の力で強力な治癒の力を身に着けていた。

人食い族に勝らぬとも劣らぬ力を持つ彼らは、長い戦いの末、ついに最後の人食い族を殺し、再び大陸に平和が訪れたかに見えた。

だが、人食い族や英雄達が宿していた癒しの力の根源が我々海の民の肉と知るや、陸の民によるウミビト狩りが始まった。

英雄たちの制止に耳を貸さず、彼らは不死の肉体を得るため、我々を裏切ったのだ。

そして、陸と海の民、双方に多くの死者を出し、我々は彼らと決別したのだ。

 

「これが、海の国に伝わる決別の書・・・ですか。」

「えぇ、リクビト達とは違い獣の皮ではなく石板に記すので少々重いかもしれませんが・・・。」

「うーん、虫食いでしか読めないけど、大陸の人たちと長い間争っていたみたいですね。」

「平和な時代では、陸の民と交流し、時には彼らとの間に子供ができることもありました。」

「えっ?人魚と人間・・・いや失礼、ウミビトとリクビトの子ですか?」

「あなた達とは違って、この世界の民は一部を除き、元々一つの種族だったのです。魔石の力で姿は大きく異なりますが・・・。」

「一見、私たちと変わらない様にしか見えないんですがねぇ、根本的に同じ生物ではないと今更ながら実感しましたよ。」

「我々も驚きました、全く魔力を持たず、それゆえに幻惑の魔法も癒しの魔法も受け付けない種族がいるなんて・・しかし、異空の民と聞き納得しましたが。」

「そういえば、自衛隊の方たちに最初、幻惑の魔法をかけて追い払おうとしたんでしたっけ?」

「ニシモト殿、我々は未だにリクビト達への不信感を拭えないのです。実際に襲われることも珍しくはありません。」

「大丈夫です、大陸のある日本海側は兎も角、あなた達の拠点は伊豆諸島の海域だ、海上保安庁と自衛隊が目を光らせている間は、彼らに手出しさせません。」

「あなた達ニホン人に感謝します。お返しできるものは何もありませんが・・・。」

「いいんですよ、困ったときはお互い様です。」

「ははっ、不思議な言い回しですね。ニホン人はお人が良いみたいですな。」

「買被り過ぎですよ、さて、預かった資料は後でまとめさせて頂きますね。」


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