異空人/イクウビト   作:蟹アンテナ

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第78話   空中大陸とタンカー

惑星アルクスを周回する空中大陸・・・・長い間、地上との接触を断ち、空で平和を謳歌していた空の民だが、自分たち以外にも空の領域を持つ種族と接触し交流を持つようになった。

度々、その民の国の上空を通過し、定期的に情報交換を行うのだが、彼らが空を飛ぶために必要な 燃える水 を空中大陸に持ち込まなければ、地上に戻れないと言う問題があった。

 

その為に、空中大陸は燃える水を貯える巨大な鉄の樽の設置を許可し、定期的に燃える水を補給する為に低空飛行するのであった。

 

 

「久しぶりの日本だな、空中大陸の暮らしも悪くは無いが、壊れた遺跡の修理ばかりで、中々町の観光が出来ないのがなぁ・・。」

 

「しょうがないじゃないか、彼らは手が翼になっているんだから手先の器用さは無くなっているし、空の民との交流の条件にも入っているし・・。」

 

「おっと、そろそろ海の上に出る頃だな?・・・チューブを下ろすぞ!お前は、ソラビトの連中に伝えといてくれ!」

 

「あぁ、時間だな、それじゃぁ行ってくるわ。」

 

 

 

空中大陸の中心部に広がるソラビト達の街、その多くは彼らが地上で暮らしていた頃に建設された古代都市であり、高度な魔法技術が随所に使われた生きた街である。

彼らソラビトがリクビトだった頃、手先の器用さが変異によって失われる事を見越して、ある程度の修復機能や、修理しやすい構造になっているのだが、それでも経年劣化により多くが使用不可能な状態になっていた。

それでも、彼らは使えなければ使えないで良いと、割り切る事が出来る(様に作られている)ので、別な物で代用したり、簡略化された物を再開発したりするのである。

 

しかし、ソラビト以外の種族を空中大陸に迎え入れるとなると、彼らも壊れた箇所が気になり始める。器用さを失った自分たちの代わりに修理をしてもらいたいと思い始めたのである。

 

そして、更に予想外な事が起こった。魔法技術に関してはまるで赤子の様だが、それ以外の技術・・・魔法を使わない物理法則を極めた技術を操る異界の民は、彼らがリクビトだった時代でも実現できていなかった事を容易く実現したのである。

最初はソラビトが、古い設計図を出して、手先の器用な異界の民に指示を出しながら、修理して行く予定だったが、彼らの技術力はソラビトの祖先の更に上を行く。

 

魔力を利用してその周辺だけ気温を過ごしやすい温度に整える魔石の柱よりも、更に出力の高いエアコン、魔力を供給する事で、薄ぼんやりと光る魔石灯より、明るいエルイーディーなど、枚挙に遑がない。

それらの科学技術の産物と、古代都市の魔法技術の産物の技術交換・交流を条件の一部に組み込み、異界の国ニパンと交流をしている。

 

 

『おぉぃ、イクウビトが燃える水の補給をしたいから、高度を落としてくれってさー!』

 

『あぁ、そろそろ来ると思って準備していたぞー!それじゃぁ、始めるかー!!』

 

 

圧倒的な技術力を持つ文明国だが、ニパンの科学技術の結晶とも言える道具を動かすにも弱点がある。

その多くが、燃える水に依存しているのである。

 

幾らか、魔法技術を伝える事で、燃える水を使わない魔法の発電方法が可能となり、消費量を抑える事が出来たのだが、それでも彼らの技術には燃える水が切っても切れぬ資源なのである。

 

『魔石柱の位置を変えるぞ!魔力を第七回路に流せ!』

 

『位置を変更しました!第六、第五回路を遮断します。』

 

『よし、今のうちに第二回路を接続しろ、主力魔石柱の出力を徐々に押さえろ!急に落とすなよ!』

 

『分かっています、墜落するのは御免ですからね!第一回路、出力を徐々に低下させます、魔法力場、安定しました。』

 

 

僅かに揺れを感じると、徐々に空中大陸の高度が下がり始め、海面が空中大陸の陰に隠れ薄暗くなって行く・・・。

 

 

『・・・見ろよ、海があんなに近いぜ?』

 

『高度が低下中・・・えぇ、しかし、タンカーと言う物はいつ見ても壮観ですね・・・。』

 

『リクビトが作る船なんて、池に浮いた木の葉みたいな物だが、イクウビトの船は、まるで島だな・・・。』

 

 

高度を徐々に落とした空中大陸と並走するように航行するタンカーは、空中大陸から垂れ下がる太いチューブを確認し、燃料供給の準備を開始していた。

巨大な空中大陸の陰に隠れ、薄暗くなっているので、夜間の様に照明をつけ、燃料供給用に改造が施された装置を上部に向け、チューブの垂れさがる位置に合わせようとしていた。

 

「見ろよ、空中大陸が降りて来たぜ?」

 

「チューブの位置を確認、並走します・・・・えぇ、しかし、空中大陸と言う物はいつ見ても壮観ですね・・・。」

 

「空を浮く島なんて、御伽噺でしか聞いた事が無いが、ソラビトは凄い事をするもんだな。」

 

「地表を丸ごと削り取って、空に浮かせるんですからね・・・しかし、魔石の放つ力場は凄いですね、ダウンウォッシュが激しい・・・。」

 

「あんなもんを浮かせているんだ、相当な出力が必要なんだろう、それでも1000年以上降りてこないってんだから、とんでもない話だな。」

 

「東京ドームでも収まらないサイズの巨大な魔石の塊・・・・あんなものが剥き出しになって1000年以上リクビトの国々の上空を飛んでいたんですね・・・。」

 

「地域によっては、神として崇められているんだとか・・・ははっ、どうやら神様とやらは随分と気さくな連中の様だ。」

 

「えぇ、良い人達ですよね、彼らのお蔭で魔鉱石を利用した技術が一気に進みましたし、今後も仲良くやって行きたいです。」

 

 

空中大陸の降下が止まると、チューブが徐々に延ばされて行く・・・・タンカー側の燃料供給装置も吊りあがり、鈍い音を立てて接続される。

 

「ーーっ!・・・よしっ、チューブの接続に成功!さて、こっちのタンクを空にするぞ!ありったけ流せ!」

 

「今回の機会を逃すと、上の人達干上がっちゃいますからね、ソラビトの皆さんとも協力して頂いていますし、成功させないと!」

 

ポンプが作動し、チューブに燃料が送られて行く。

日本と交流を持った空中大陸には、日本の大使館と空港を含む施設が、沢山存在する。

電力は魔法技術で賄っているものの、やはり燃料が無ければ維持できない物も無数に存在するのだ。

 

 

「おーっ・・・来た来た!燃料だ!これで当分は安心できるな。」

 

「先に、食糧や電化製品の空輸が終わっているから、無くてもギリギリ行けたけどな、やはり、燃料が無いと困るんだよ。」

 

「例の油田から採掘して、精製が終わったばかりの燃料だろ?悪くない品質だと聞いているが・・・。」

 

「むしろ最高品質らしいぜ?」

 

「穢れた大地と現地の人は言っているが、俺達から見れば宝の山だ・・・ヘンテコな怪物さえいなければ良いんだがなぁ・・・。」

 

「あー・・・殉職者が度々出ているんだろう?埋蔵量は魅力的だが、何とかならないのかねぇ・・・。」

 

「でっかいナマコに、足の生えたウミウシ・・・更に、原油を採掘するパイプに紛れてタンクを泳ぎ回るスカイフィッシュもどき・・・何で見た目がグロテスクな奴らばかり何だか・・・。」

 

「資源は見つかったけど、簡単には行かないか・・・そう言えば、例の無人島・・・大規模なリン鉱石の鉱脈が見つかったんだって?」

 

「あぁ、今調査隊が派遣されているんだが、例によって化け物が出るらしい・・・。」

 

「・・・・本当に、なんでこんな星に来ちまったんだろうなぁ・・。」

 

「手つかずの資源が転がっていても、周りに協力できる国が存在しなかったら国が持たぬ・・・か。」

 

「ソラビトと国交が持てて本当に良かったよ、彼らとの技術交流は、もはや生命線だ。」

 

「そうだな・・・まだまだ、国交を持っていない国は沢山ある・・・多くと手を結び、地球の頃よりも日本を発展させてやらないとな!」

 

「さて、細かい調整を行うぞ!電動ポンプの様子を見に行くから燃料タンクの方を頼む。」

 

「ほいほい、了解!これが終わったら暫く羽を伸ばせるな!」

 

 

日本の近くに寄って来た空中大陸に滞在する職員の人員交代、物資の補給、情報交換を終わらせると、再び空中大陸は上昇する。

空中大陸の長い旅はこれからも果てしなく続いて行くだろう・・・しかし、日本に接近する際に高度を落とすことで、日本以外の地上に住む民に、影響を与えるのはまた別の話・・・。

 


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