『なんだぁ?あの店は?』
休憩のために立ち寄った村に以前は存在していなかった、レンガとも岩ともつかない石材で作られた建物を目にして、旅人は呟いた。
どうやら、工芸品を扱う店のようで、風変わりな置物が材質不明の透明な板の中に展示されていた。
『へぇ、変わったものを売っているな・・・とても凝った造りだ。』
日本ゴルグ自治区の付近に点在する小さな集落に一部の民間企業が進出していた。
主に大陸の資源地帯開拓のために派遣された各企業の職員向けの飲食店などが多いのだが、少数ながら現地住民向けに日本の製品を売り出す企業も存在する。
『4つ足の獣が魚を咥えている木彫りの置物に、陶器の器・・・美しい。』
当てもない旅を続け、時折立ち寄った集落で日雇いの仕事で金を得る旅人は決して多く金を持ち歩ている訳ではないのだが、時折珍しい品を買い取り、遠く離れた地で転売する事で儲ける者もいる。
『うむむ・・・どれも素晴らしい物だが、少しばかりかさばるな・・・指輪のような持ちやすい物は・・・ん?』
旅人が、展示ケースを眺めていると、その横に立っていた金属の柱に無造作に吊るされている物に目が向いた。
『これは、宝石?いや、中に色とりどりの装飾が入っている?この様な工芸品があるとは・・・それに何だこの値段は、何かの間違いではないのか!?』
これまた材質不明の網の中にキラキラと光り輝く宝玉に目を奪われ、そしてその値札に更に驚く旅人
無理もなかった、たったの銅貨4枚である、物価を考えると日本で買うよりも少しばかり割高だが、大陸の現地住民からすれば破格の価格である。
『これを、遠くの街で売れば一儲けできる・・・くそぅ!もう少し金を持っていれば良かった!』
旅人は、迷わずにニーポニアの宝玉・・・ビー玉を可能な限り購入する事に決めた。
食糧などの都合を考えると、そう多くは買えないが、それでもこの宝玉の魅力には抗えない、数日間断食する事も覚悟で旅人は購入したビー玉を背嚢に入れるのであった。
「アリガト・ゴザ・マシター!」
ニーポニアの商人が後ろから笑顔で挨拶をして頭を下げる。旅人はよく訓練されたニーポニアの商人に感心しつつ、店の扉を押し開け出て行く。
『ニーポニアの建物は扉に透明な板を使うのか、何で出来ているのか分からないが、相当金がかかっているんだろうな。』
高台へ上ると、日本が建て直したゴルグガニアの巨大な城壁が遠くに霞んで見える。
『ゴルグガニアに寄る予定は無いが、一儲けさせて貰ったら立ち寄るのも良いかもしれないな・・・。』
その後、旅人は日本がまだ進出していない遠くの国で、ビー玉を転売して、ちょっとした財を築いた。
個人用の小型馬車を購入した旅人は、数カ月後再び訪れた村の変化に驚き、そして初めて訪れたゴルグガニアに圧倒されるのであった。
『ニーポニア・・・この国が関わった場所は別世界に改造されちまうんだな・・・』
隅々まで行き届いたインフラ、馬にも引かれていない自律走行する馬車、港で荷揚げされた物資を纏めて大量に運ぶ鉄の蛇・・・彼らにとって、まさに異世界と呼べる地であった。
『旅人を辞めて、商人になるのも悪くないかもな・・・。』
後に、一部の日本企業は、現地住民を力仕事の単純労働でだけはなく、商売のノウハウを学ぶ社員として雇う制度を試験的に導入し大陸中の国々に少しずつ影響力を与えて行くのであった。