ワールドウィザーズ Record of War 作:Pi ZERO
その日、俺の前に現れたのはドイツの
黒いボディを持つ巨大な飛行物体だった。
はじめは敵の新型かとも思ったが、すぐにその考えは違うことに気付かされた。
まず攻撃手段。てっきり機銃を撃ってくるかと思いきや、あろうことか赤い斑点模様からビームを放ってきた。
文字通り光の速さで打ち出される赤色の光線の前に、味方機は次々と翼をもがれていった。
次に
俺は相手に向かって叫びながらたずねた。
「お前は誰だ」と。
ドイツか、日本か、イタリアか。はたまた連合でも枢軸でもない第三勢力か。
だが、どんな質問を投げかけても相手の返事はなかった。
その時に確信した。こいつには“話し合い”というものが通じないことに。
悪態をつきながら乗機のスピットファイアを操り、敵の攻撃を躱しながら機銃を撃ち込むが、奴の強固なボディは弾丸を容易く跳ね返した。
敵の攻勢は止まらず、気がついた時には味方は俺一人だけだった。
未体験の空戦を長時間やらされ続けた結果、疲労はピークに達し、向かってくる光に反応することすらできない。
次の瞬間、俺の視界は白一色に染まった──。
次に俺が目を覚ました場所はコックピットではなく、病院のベッドだった。
てっきり俺は“奴”にやられて死んだものかと思っていたがどうやら生きているらしい。
夢かとも思ったが意識や体の感覚は現実味を感じている。本当に俺は生きている・・・。
上半身を起こすと、気がついたナースが声をかけた。
「気がつきましたか?今、中将をお呼びしますので少しの間待っててください」
そう言ってナースは部屋を後にした。
それにしても中将?わざわざパイロット一人のためだけに将軍を呼ぶとはどういうことだ。
・・・恐らく、俺が遭遇した
「目を覚ましたようだな。あれだけ派手にやられたスピットファイアで、よく生きていたものだ」
そう言って俺の目の前に現れたのは女だった。まさかこいつがその将軍?しかもこの顔立ちは・・・ドイツ人だ。
最悪だ・・・どうやら今の俺の身分は捕虜らしい。病院で目を覚まして安心しきっていたらこれだ。
「どうした?なにをそんなに警戒している」
「・・・敵を前に警戒しない奴がいるのか」
「全く言ってる意味が分からない。不時着のショックで頭を打ったのか?」
意味が分からないはこっちのセリフだ。俺は連合国軍のイギリス人、対するこいつは枢軸国軍のドイツ人。ここまで言えばなぜ警戒するのかは子供でもわかる。
「まあそんな目で睨むな。君には何もしない。ちょっと話がしたいだけだ」
どう考えたって普通の話じゃない。なんてことのない世間話なら紅茶やコーヒーぐらい出るもんだ。
「まずは、君の名前、所属、階級を聞かせてもらおう」
「アレクシス・
質問に淡々と答えたが、なにか引っかかることがあったのか、女も俺に警戒心を抱く。
「一つ聞きたいんだが、イギリス空軍とはどこの国の軍隊だ?」
「? Royal Air Forceと言ったほうが良かったか?」
「王立空軍?ということはブリタニアか?」
「なんだそのブリタニアというのは。王立空軍とはイギリス空軍のことを示すんだぞ、ドイツ人」
「ドイツ・・・?」
なんなんだこの女は。さっきからまるで話が噛み合わない。こんなんで将軍とは、ドイツはそんなに切羽詰まってるのか。
「バーリング。今から私が話すことをしっかりと聞いてほしい。話す内容は・・・そうだな、この世界の
今更何を・・・そう思った俺は適当に聞き流そうとするが、次にこの女、アドルフィーネ・ガランドが語りだした瞬間、そうはいかなくなった。
「──と、こんなところだ。理解してもらえたか」
「・・・・・・」
ガランドの話を聞いていて、どれもSF小説か御伽噺に出てきそうな内容ばかりだったが、彼女が嘘をついているようには思えなかった。
簡単にまとめるなら・・・今俺がいる“この世界”は俺が知る世界ではない。最もこの場合、俺のほうが
言うならばここは
俺がいた世界では、人類が連合国軍と枢軸国軍に分かれて争い合う中、この世界は人類が一致団結し、ネウロイとかいう化物と戦っているらしい。同じ戦争をしているという状態なのに、あまりのギャップ差に複雑になる。
で、そのネウロイと戦う人類の主戦力は、
「全く、やってくれるな」
俺は天を仰ぎながら息を吐いた。
この「全く、」という台詞を頭につける喋りは俺自身の口癖でもある。
「到底信じられない話だろうが今この場で起きていることは紛れもない現実だ。受け入れるしか道はないぞ」
「・・・だろうな」
抗う術もないので諦め半分で現状を受け入れることにした。
さて、ガランドがこの世界のことを話してくれたので、俺も俺の世界の話を簡潔にまとめて話してやった。
その際、向こうも俺と同じく複雑な感情を抱いたようだ。
「なるほどな。人間同士で戦争を・・・」
どうやらこいつらにとって人間同士が争い合うことは可能性の一つとしては捉えているが、そこまで深くは考えていない様子だった。まあそりゃあ共通の
さて、ここまで話をして思うのだが今後の俺はどうすればいいのか。本職の戦闘機パイロットをやるにしたって魔法の使えない俺では足でまといになるだけだ。それだったらウィッチたちが履く鋼鉄の箒・・・ストライカーユニットとやらの整備をしたほうがよっぽど力になれるだろう。いっそのことコックでも清掃員でも、雑用でもいいくらいだ。
・・・いや、コックはやめておこう。
とりあえず俺は彼女に今後どうすればいいのかをたずねた。すると。
「これからどうすればいいかって? そうだな。とりあえず君が“空を降りる”ことはない、とだけ言っておこう」
「?」
なんだそれは?つまり俺にパイロットをやれというのか?
だが魔力のない俺がパイロットになったところでクソの役にも立たんと思うのだが。
「ついてこいバーリング。私が言ったことの意味を確かめさせてやろう」
俺はベッドから起き上がり、傍らに掛けてあったジャケットを羽織って彼女の後についていった。
彼女に連れられて来た場所は格納庫だった。
広さとしては申し分ないが、飛行機はどこにも見当たらなかった。代わりに二つ一組みの逆円錐形の筒のようなものがいくつか陳列されていた。整備兵と思われる男たちが工具片手に作業している様からして、恐らくあれがストライカーユニットなるものなのだろう。
しかし、本当にあれを履いて空を飛ぶことなんてできるのだろうか?
「このユニットは使えるか?」
「はっ、先ほど点検が完了しましたので、試乗するには十分です」
何やらガランドが整備兵となにか話している。あのストライカーユニットをどうする気なのだろうか。
「バーリング、このユニットを履いてみるんだ」
「? どういうことだ」
「言葉通りだ。さあ」
「いや、俺は普通の人間でパイロットであって、ウィッチではないんだが」
「いいから」
ガランドに急かされて渋々ストライカーユニットに足を入れてみた。
すると突然、力が漲ってきた。青い光を放出し、足元には魔法陣が展開され、更には頭から獣の耳が、尻からは尻尾が生えた。
・・・って、
「なんなんだこれは!一体何がどうなっている!?」
「思った通りだ」
ガランドは嬉しそうにニッと口元を歪めた。どういうことか説明して欲しい。
「実は君を保護したとき、君から魔力を感じ取ったんだ。そして君が眠っている間に精密検査をしてみたところ、正真正銘“ウィッチ”・・・いや、“ウィザード”であることが判明した」
「ちょっと待て、俺はウィッチなんかじゃ・・・」
「ない、と言いたげそうだが、現にきみはストライカーユニットを起動させている。男であるにも関わらずにな」
するとガランドは近寄り、俺の左耳に手を当てた。どうやらインカムをつけたようだ。
「バーリング。試しに飛んでみろ。私が許可する」
「・・・・・・
「なに、パイロットであるきみなら問題はないだろう。やり方は違えど、“空を飛ぶ”ということに関しては同じだからな」
確かに、俺は初めてストライカーユニットを履いたはずなのに、その
この感じは、飛行機を操縦している時と全く同じだった。
ならば・・・・・・いけるはずだ。
「了解した。試飛行を開始する。アレクシス・F・バーリング、出るぞ」
ユニットの射出装置から解き放たれ、加速してスピードが十分に乗ったところで空へと飛翔した。
『気分はどうだ?バーリング中尉』
インカム越しからガランドの声が聴こえてくる。俺はただ一言、「最高だ」と返した。
『それは何よりだ。どうだ?飛んでいる感覚は飛行機となんら変わらないだろう?飛び方を見れば分かる。ベテランのように手馴れていて、とても初心者の動きとは思えない。ただ、些か乱暴なようにも見えるがな』
どうやら将軍にはお見通しのようだ。周りからよく「お前の飛び方は荒っぽい」と言われたもんだ。特に整備兵の奴らから。
その後、二十分ぐらい飛び続けたところで、ガランドから戻ってくるように言われたところで、俺の
「ご苦労だったバーリング中尉。テストは合格だ」
「テスト?いつの間に実施していたのか」
「と言っても、
言葉は随分重たいけどな。
「だがあんな簡単な訓練飛行で良いのか?」
「問題ない。あれだけやれれば十分だ。それこそ、
・・・・・・さらっと重大なことを言ってるような気がするんだが。なんだか嫌な予感がする。
「実を言うとだな、バーリング。これから展開される一大反攻作戦のために、即戦力となれるウィッチを欲しがっている部隊があるんだ。場所はペテルブルグにある」
「・・・その部隊の名前は?」
「第502統合戦闘航空団。通称『ブレイブウィッチーズ』だ」
ブレイブウィッチーズ。勇敢な魔女、ねぇ・・・・・・。強そうな名前だな。
「編入の手続きは私のほうでしておこう。準備ができ次第、すぐに出発してもらって構わないか?」
「問題ない。物事は決まり次第ちゃっちゃと進ませたいからな」
「よろしい。では準備ができたら呼ぶから、しばらくはゆっくりしているといい」
「・・・・・・そうさせてもらう」
できれば少しくらい手伝うべきかと思ったが、転移の影響で疲労が抜けきれてないため、お言葉に甘えて休ませてもらった。
それから一時間後。
俺を乗せた輸送機は、ペテルブルグに向かって飛び立った。