ワールドウィザーズ Record of War   作:Pi ZERO

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#02.BRAVE WITCHES(改訂済)

 ─オラーシャ帝国・ペテルブルグ 第502統合戦闘航空団基地─ バーリングが旅立つ一時間前。

 

 502部隊隊長グンドュラ・ラル少佐が山積みの書類と格闘していると、突然電話がかかる。

 黒電話の子器を手に取り、応答する。

 

「はい、こちらは502部隊。司令のグンドュラ・ラルだ」

 

『久しぶりだな。ラル少佐』

 

「その声・・・・・・ガランド将軍?なぜあなたが」

 

 着信の主はアドルフィーネ・ガランドであることに彼女は驚く。

 自分はなにか彼女の気に触れるようなことでもやらかしただろうか。

 ──すでに彼女に関係なく結構やらかしているのだが悪びれることはない──

 

『細かいことはいい。それよりもラル・・・・・・君の部隊は今、即戦力(・・・)が欲しいんじゃないのか?』

 

「・・・ええ、もちろんです。それはもう、喉から手が出るほどです」

 

 ラルはためらうことなく正直に答えた。

 

『その即戦力となれる逸材を見つけた。君さえ良ければ今からにでもそちらへ向かわせてもいいのだが、どうだ?』

 

「あなたともあろう者が、やけに自信満々ですね。そこまで言うのなら間違いはないと見ていいのかもしれませんが、しかし事前情報も無しに送るのは・・・」

 

 あまりにも美味しい話であるために流石のラルも少しばかり躊躇する。

 

『そいつのことに関する資料はそいつに持たせて一緒に送るつもりだ。きっと驚きのあまり腰を抜かすことになるかもしれんぞ』

 

「よしてください将軍。シャレになりません」

 

 腰に爆弾を抱えているラルにとっては割と本気のことだ。

 

『はっはっは。それでどうするんだ?』

 

「是非、その逸材とやらを」

 

『分かった。今から荷造り等して向かわせるから早くても三日後にはそちらへ着くだろう。・・・・・・如何せん、少々癖の強い奴でな。まあ仲良くしてやってくれ』

 

「はっ。ありがとうございます、将軍」

 

『では、諸君らの健闘を祈る』

 

 ラルはガランドとの通話を終え、子機を戻した。

 

「・・・さて、どんな奴が来るんだか」

 

 ペンを手に持ち、書類仕事を再開しようとした時、ふと考えてその手を止める。

 傍らに置いてある新聞を手に取る。

 見出しにはこう書かれていた。

 

 〝ガリア共和国解放!!ウィッチに代わる新兵器とは──!?〟

 

 堂々と一面を飾る記事。無駄にデカデカとした写真に写るのは軍が開発したとされる新型の兵器。

 近く、量産化され、各戦地に配備されるという噂だ。

 

「・・・・・・貴様らの思い通りにはさせん。この戦いには、人間が必要だ(・・・・・・)

 

 ラルは新聞紙を放り投げ、書類仕事を再開した。

 

 

 *

 

 

 荷造りを終えて輸送機に乗り込んだ俺は、ガランドから渡された資料と睨めっこをしていた。

 紙束に書かれている内容は全てこの世界(・・・・)に関すること。いくつかは俺のいた世界と共通している事項もあるが、やはり大半がこの世界に関することだった。

 中でも驚いたのがこの世界では“パンツ”は“ズボン”だということだ。女性が下に履いているのがパンツ一枚だけってのは正直目のやり場に困るのだがそれがこの世界では当たり前らしい。ここの世界の男連中はよく訓練されてるよ。

 全く、イカレてやがる。

 だが重要なのはそこじゃない。やはり大事なのは魔法、ストライカーユニット、ネウロイ。この三つだろう。

 この世界に来て、ウィザードとなった俺は最低限これらだけでも把握しておかなければならない。魔力の使い方、ストライカーユニットでの飛行、ネウロイとの空戦。

 ネウロイと言えば、なぜ俺のいた世界にネウロイが現れたのか。こんなことになったのは、奴が俺の前に現れたからだ。そしてどういうわけか俺はこの世界に飛ばされ、ウィザードになった。

 神様や運命の悪戯にしちゃ、度が過ぎてるような気もする。

 ふと、空と陽の光の色が変わっていたことに気づく。

 外はもう夕方になっていた。

 これから二日目の夜を迎える。

 到着予定は明日の夕方。あと一日も輸送機にこもらなければならない。

 

「退屈だな・・・・・・」

 

 ため息混じりに呟いた俺はいつもより早く眠りについた。

 

 

 *

 

 

 ペテルブルグの空が夕焼けに染められた頃。502部隊に配属された新米ウィッチ、雁淵ひかりは日課の走り込みをしていた。

 元々潜在魔力が低い彼女は、そのハンデを少しでも埋めるために体力トレーニングは欠かさなかった。その努力は功を奏し、彼女は部隊内でもトップクラスの持久力を誇るにまで至った。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・あれ?」

 

 ひかりが空を見上げると、一機の輸送機が基地滑走路に着陸した。

 

「なんだろう?物資の補給かな・・・?」

 

 気になったひかりは基地へと引き返すことにした。

 

 

 

 一方、基地の格納庫では整備兵がユニットを整備している傍ら、三人のウィッチが懲罰(・・)の正座をしていた。

 その三人を厳しい眼差しで監督する二人のウィッチ。三人の内二人は気まずそうにする中、一人は涼しそうな表情をしていた。

 

「全く、あなたたちはいつもいつも・・・・・・」

 

「ユニットだってタダじゃないって、もう飽きるほど言ったはずよ?」

 

「うぅ・・・」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「~♪」

 

「ったく、この偽伯爵は・・・」

 

 説教されてるにも関わらず、口笛を吹くほどの余裕さを見せつける長身のウィッチに呆れている中、滑走路が騒がしくなった。

 

「あら?あの輸送機、何かしら?」

 

「変ね・・・次の物資の補給はまだ先のはずだけど・・・」

 

 サーシャことアレクサンドラ・I・ポクルイーシキンと、エディータ・ロスマンの二人が疑問に思う中、輸送機から次々と積み荷が降ろされていき、格納庫へと集められていく。

 一人の作業員がサーシャに声をかけた。

 

「ポクルイーシキン大尉でありますか?」

 

「はい、私がそうですが」

 

「はっ、この度ガランド中将からの命令で新しく配属される隊員と物資の運搬に参りました」

 

「ガランド中将が?」

 

「待ってください、そんな話全く聞いてないのですが・・・」

 

「ですが、我々は正式に中将からの命令を受けています。間違いはありません」

 

 サーシャとロスマンはお互いに顔を合わせながら困惑の表情になる。あまりにも突然な話で、情報が追いついていないからだ。

 それは、正座をしている三人──ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン、管野直枝、ヴァルトルート・クルピンスキーらも同様だった。

 すると三人はコンテナから降ろされたストライカーユニットに注目した。

 

「あれって、ブリタニアのスピットファイアだ」

 

「変だね、僕たちの部隊にはブリタニアのカワイ子ちゃんなんていないはずだけど」

 

「さっき“新しく配属される隊員”って言ってただろ。多分そいつのだ」

 

「えっ?でも、この前ひかりが配属されたばかりだよ?」

 

「へえ、どんな子かなぁ♪楽しみだな~」

 

 三人が新隊員のことを気になっていると、一人の男が見下ろしていた。

 

 

 

 基地につくや否や、俺の目に飛び込んできたのは妙な三人組だった。つい気になってしまった俺は近くまで寄ってその光景を凝視していた。

 

「・・・・・・なんだよ。何見てんだよ」

 

 三人の中で最も小柄な日本人・・・じゃなくて扶桑人の少女が俺を睨みつける。

 

「いや・・・・・・何をしているのかと思ってな」

 

「見りゃ分かんだろ。正座だ正座」

 

「分からんから聞いてるんだが」

 

「なんだと!」

 

「ちょ、ちょっとカンノ!喧嘩腰になるのやめなよ~。・・・・・・ああ、ごめんね。カンノってちょっと荒っぽいけど悪い奴じゃないから・・・・・・」

 

 フィンランド人・・・じゃなくてスオムス人の少女が“カンノ”と呼ばれる少女をフォローする。いい奴だな。あと胸デカい。

 おっと、そんなことよりもこの部隊の司令(トップ)に挨拶にいかないとな。ちょうどいいから彼女たちに聞いてみるか。

 

「一つ聞きたいんだが、この部隊の隊長さんに会いに行きたいんだが、何処にいる?」

 

「ラル隊長に?隊長ならこの先を右に曲がって、そこから───」

 

「───ありがとう。助かった。じゃあ、また後で」

 

「・・・・・・ふぅーん。これはまた・・・・・・」

 

 親切なスオムス人の彼女に礼を言ってその場を後にした。隣にいたカールスラント人の少女が何か考えごとしながら俺を見つめて小さく呟いていたがなんだったのだろうか。

 

 

 

 スオムスの彼女から教わった通りの道を行くと、見事に執務室へとたどり着いた。

 ここにこの部隊のトップがいるのか。とりあえずドアをノックしてと・・・・・・。

 

『入れ』

 

「失礼します」

 

 椅子にかけていたのはカールスラント人の少女だった。クールビューティーがよく似合うこの人物こそが、この部隊の隊長というわけか。

 

「・・・・・・む。整備兵を呼び寄せたつもりはないぞ。生憎そっちは間に合っている」

 

 いきなりなんだ。

 

「ガランド中将が即戦力になる逸材を向かわせると言ったから、私は腕の立つウィッチを期待していたんだがな・・・」

 

 なるほど、そういうことか。

 

「その即戦力になる逸材の腕の立つウィッチが自分であります」

 

「・・・・・・はぁ。見たところきみはブリタニア人のようだが、ジョークが好きなブリタニア人のくせして、肝心のジョークが下手くそだな」

 

 ジョークが下手っていう自覚はあるが面と向かって言われると腹が立つ。

 

「俺は嘘なんかついていない。これがその資料だ」

 

 ガランドが作ってくれた書類を隊長さんに渡す。

 中身を開けてジッと見つめる。するとだんだん表情が変わっていく。

 

「・・・・・・そんなバカな。まさか、ウィザードだというのか?」

 

 まだ疑っているようだな。しょうがない、証拠を見せてやるか。

 とりあえず魔力を発動して使い魔の耳と尻尾を生やし、魔力障壁(シールド)を展開して見せた。

 

「どうだ?タネも仕掛けもない魔法(マジック)だぞ。これでもまだ不満か?」

 

「・・・・・・いや、分かった。私が悪かった。すまないな、疑った上にあんなことを言ってしまって」

 

 隊長さんはようやく観念して認めてくれたようだ。はじめからこうすれば良かったんだ。

 

「隊長、失礼します。先ほど輸送機が来て・・・・・・あら?あなたは・・・」

 

 入ってきたのは先ほど格納庫で見かけた二人の少女だ。一人はカールスラント人でもう一人はソ連・・・じゃなくてオラーシャ人だ。

 

「二人共、ちょうどいいところに来たな。この度うちに新しく配属されたウィッチだ」

 

「どうも」

 

「ウィッチって・・・・・・どうみても男の人じゃないですか」

 

 口で説明する前に、先ほどのように魔力を発動してシールドを展開した。

 当然というべきか、二人は声を上げずともかなり驚いていた。

 

「う、嘘・・・・・・!?」

 

「ウィザードだというの・・・・・・? まさか他にも(・・・)存在していたなんて・・・」

 

 ガランドから聞いてはいたがどうやらウィザードってのは本当に稀少中の稀少らしい。この世界の人々の間では太古の歴史でもいたとされるくらいの認識であるため、ウィッチと言ったら普通は少女のことを示すらしい。

 

「実は前もってガランド中将から話は聞いていた。なにせ突拍子の上にあまりにも美味過ぎる話だったからな。今ひとつ確証が持てなくて話そうかどうか迷っていたんだ。とは言え、これではっきりした。残りのみんなにはサプライズという形で紹介することにする」

 

「随分インパクトのあるサプライズですね」

 

「正直私も驚いている。まさかウィザードだとは思わなかったからな」

 

 さてはガランドの奴、ここの部隊の連中を驚かそうとして肝心なことは伝えなかったな。

 全く、やってくれる。

 

「さて、バーリング。あと一時間もすれば夕食になる。お前の自己紹介はその時にでもしようと思うんだが、構わないか?」

 

「ああ。問題ない」

 

「それじゃあ、時間になったらミーティングルームへ来てくれ。それまでは部屋で待っていろ」

 

「了解」

 

「誰か案内をつけたほうがいいか?」

 

「・・・いや構わない。ここにくる間にある程度何処に何の部屋があるかは把握しておいた。勿論、ここの部隊のウィッチの部屋もな」

 

 ちょっと気取ってみながら言って見せたが、隊長さん以外の二人がキツい眼差しを送ってきた。

 

「・・・・・・ジョーダンだよ。ジョーダン」

 

「お前、本当にジョーク下手だな」

 

 うるせぇ。

 

 

 *

 

 

 バーリングが部屋を出たあと、執務室に残った三人──部隊のトップ3──は真剣な表情を崩すことなく話し始める。

 

「どうやら、噂は本当だったようですね」

 

「501をはじめに、各地で目撃されている男の魔法使い」

 

 ウィザードはあまりの稀少さ故に多くの人物たちから良くも悪くも目をつけられている。彼が持ってきた資料を見る限りでは、彼の身はガランド将軍の保護、監視下に置いてあるということになっている。とすれば彼の身の安全は保障されている。

 

「心強い味方が来てくれましたね」

 

「そうだな。これから先、起きるであろう激戦には我々の力と存在感を改めて世界に示さなければならない。そのためにも、あいつには協力してもらう。同じウィッチ、ウィザードとして。502の仲間として」

 

 しばらくしてサーシャとエディータは退室した。

 その頃には夕陽は傾きはじめ、空は暗闇に覆われようとしていた。

 

 

 *

 

 

 そんなこんなで時間は訪れ、ミーティングルームへと足を運んだ俺を待っていたのは、この部隊のウィッチたちとテーブルに並べられた暖かい食事だった。きっちり俺の分も用意されている。

 それにしても当然というか、誰もが皆俺を珍獣でも見るかのような眼差しを送ってきている。複数の女性から視線を向けられるなんてこと、今までなかったからな・・・正直ちょっと緊張してしまう。

 

「では、この度新しく配属された隊員の自己紹介に入る」

 

「イギリ・・・・・・コホン、ブリタニア空軍第660飛行隊所属、アレクシス・フレッド・バーリングだ。階級は中尉、年齢(トシ)は・・・・・・秘密だ」

 

 先ほどのリベンジを兼ねてこれまた決めてやったが、皆の反応は寒気を感じるほどの冷たかった。

 

「・・・・・・22だ。よろしく頼む」

 

 くそ、なぜ俺のジョークは“あいつら”みたく冴えないんだ。何がそんなに違うと言うんだ。

 

「502部隊隊長のグンドュラ・ラルだ。よろしく頼む。・・・・・・ぷっ」

 

 おいなに吹いてるんだ。俺がジョークすべった時の思い出し笑いかそれは。

 

「戦闘隊長のアレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキンです。・・・私のことはサーシャって呼んでください」

 

 笑いこらえてるのバレバレだぞ。

 

「エディータ・ロスマンです。・・・この部隊で教育係を務めているわ」

 

 あんたもか。

 

「下原定子です。趣味は料理です。よろしくお願いしますね、バーリング中尉」

 

「ジョーゼット・ルマールです。私のことはジョゼでいいです」

 

 この二人は特に気にしていないのか、下原は普通に微笑みながら自己紹介してくれたが、ジョゼというフランス人・・・じゃなくてガリア人の少女はやや目線が逸れていたように見えたのは気のせいだろうか。

 

「ヴァルトルート・クルピンスキーだよ。それにしても君、本当にブリタニア人?やけにジョークが冴えていないけど」

 

 こいつ包み隠さずストレートに言いやがった。・・・・・・おい、なに笑ってるんだトップ3(ラル、サーシャ、ロスマン)

 

「管野直枝だ。ふんっ」

 

 ああもう、いっそこの反応してくれたほうがマシだ。

 

「ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンだよ。私のことはニパでいいよ。あ、あとさ・・・私はさっきのブリタニアジョーク面白かったと思うよ、アハハ・・・」

 

「えっと、雁淵ひかりです!この前この部隊に配属されたばかりですが、よろしくお願いします! あ、あと、その・・・私もさっきのジョーク面白かったですよ!年齢ってあまりバラシたくないですもんね!」

 

「ぶっふぅ!」

 

「ちょっと、ひかりさん、ダメ、そんなこと言っちゃ・・・・・・!」

 

「そ、そうですよ。そういうのは黙っておくものですよ・・・・・・!」

 

「ひかりちゃん、君、最高だね」

 

「えっ?えっ?」

 

 

 

 

 *

 

 

「・・・?バーリング中尉、どうしましたか?お料理、お口にあいませんでしたか?」

 

「・・・・・・ああ。ちょっと、塩の味付けが濃いかな・・・・・・」

 

 泣いてない。決して泣いてなんかいないからな。

 視界が潤んでるような気がするが泣いてなんかいないからな。

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