ワールドウィザーズ Record of War   作:Pi ZERO

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#04.Take off(改訂済)

 部隊の小隊編成において、ルーキー(ひかり)と組まされた俺は、体良く子守を押し付けられたような気がした。

 いや、実際そうだ。雁淵と組んだことで、彼女の訓練に付き合う羽目になったのだ。

 俺に関しては腐っても元々パイロットだったこともあるので、“飛ぶ”という感覚に関しては多少の差異を感じつつも根本は似通っているため、正直一番最初のテスト飛行とこの前の初実戦ですっかり慣れた。

 一応、俺も“新入り”なのでロスマンとサーシャの教導は受けているが、二人の俺への評価は概ね良判定なので、そこまでダメ出しを食らってるわけじゃない。

 ──まあ強いて言うなら飛行訓練でサーシャから「もっとユニットを気遣ってあげて」と言われたぐらいだ──

 だが雁淵は違う。聞けば訓練学校での成績すら散々なものだったらしく、射撃はかなりの距離まで近づかないとまともに当てられないし、飛行訓練の時も見てて危なっかしい。おまけに潜在魔力が低いせいでどうしても周りとは大きなアドバンテージがある。一応、ロスマンからの指南で魔力のコントロール術を身に付けたらしいが、それでもカバーしきれる範囲はたかが知れている。恐らくストライカーユニットも性能を限界まで引き出せてないだろう。哀れなもんだ。

 そんな彼女でもちゃんとした強みはある。それは基礎体力が誰よりも優れていること。長時間の飛行や戦闘でも切れることのない持久力が売りで、恐らくハートは誰よりもタフだろう。その点は評価できる。

 

 

 *

 

 

 翌日。ブリーフィングルームにて哨戒任務を強化するとの話が出た。

 人員が増えたことで、今までよりも効率よくローテーションできる余裕ができたかららしい。

 で、その哨戒任務の強化というのは、主に範囲を拡大し、一日で行う時間や回数を増やしていくことだ。

 するとロスマンが大きな地図を広げて話し始めた。

 

「ここ数日間、周辺に展開する部隊との交信が非常に不安定な状態になっているわ。原因は未だ不明。はじめは天候による影響かとも思ったけど、各地のここ最近の天気は至って良好。気象による影響は考えにくいから、恐らくは・・・・・・」

 

「ネウロイか」

 

「そう考えたほうが妥当ね」

 

 ロスマンの話によると、ここ最近他の部隊との交信が良くないらしい。今後の作戦や戦術、戦略を練るためにも他部隊との連携は重要なわけだが、今はそれをやるのが困難な状況だということだ。原因が分からないとのことだが天候の影響によるものじゃなければ、恐らく奴ら(ネウロイ)の仕業だろう。そんな俺の意見を彼女は賛同した。

 

「そこで、今回の哨戒任務ではこの異常事態の調査にあたってもらいます。担当はひかりさんとバーリングさんにお願いするわ。二人とも良いかしら?」

 

「はいっ!」

 

「了解した」

 

 小隊を結成して、まさかこんなにも早く出番が来るとは思わなかった。

 

「今回はあくまでも調査がメインよ。無理な戦闘は避けて、情報を持ち帰り、生き残ることを優先してちょうだい」

 

 ロスマンはそう言うが、恐らく彼女なりの雁淵への気遣いだろうな。

 

「尚、編成は1番機をバーリングさん、2番機をひかりさんとするわ。コールサインはバーリングさんは“ガルム”、ひかりさんは“ピクシー”よ」

 

「了解。ガルム、任務了解した」

 

「ピクシー、了解です!」

 

「いい返事よ。では30分後に出撃、それまでは待機してちょうだい」

 

 話がまとまったところでブリーフィングは終了し、ロスマンが俺のもとへ来た。

 

「バーリングさん。ひかりさんのこと、頼むわね。見れば分かる通り、あの子はまだ一人前と言うには程遠いわ。あなたがちゃんと面倒を見て、出来ることなら鍛え上げてちょうだい。期待してるわよ」

 

「言われるまでもないさ。ただ子守りは苦手なんでな・・・・・・過度な期待はしないほうがいいぞ」

 

「子守りねぇ・・・・・・君の場合、泣いた赤ん坊をあやしてあげようとすると、逆にもっと泣かれちゃうタイプでしょ?」

 

「先生、こいつの帽子あの塔に引っ掛けていいか?」

 

「お好きにどうぞ」

 

 ロスマンから許可をもらったので伯爵の帽子を奪い、窓を開けて塔の天辺目掛けて投げ飛ばした。我ながら抜群のコントロールと上手い具合に風に煽られたことで帽子は狙い通りの場所に引っ掛かった。

 

「ああぁーー!!? き、君って奴はどこまで僕に意地悪なんだ!」

 

「俺なんかよりも風のほうがよっぽど意地悪だと思うがな」

 

「バーリングのバカー!」

 

 そう言い捨てて、伯爵は涙目になりながら帽子を取りに行った。というかあの帽子一つしかないのか?ああいうのは替えがあると思うのだが・・・。

 

「大したものね。あそこまでニセ伯爵を手玉にとる人、初めて見たわ」

 

「あんたや隊長は違うのか?」

 

「・・・・・・少なくとも、“男”では、あなたが初めてよ」

 

 それは胸を張って自慢してもいいことなのだろうか。

 まあいい、格納庫へ行って準備するか・・・。

 

 

 *

 

 

 準備を終え、俺と雁淵は哨戒任務のためペテルブルグの空へ飛翔した。

 

「わあっ、バーリングさん。雪ですよ、雪」

 

 はしゃぐ雁淵の言うとおり、雪が降り始めた。

 

「降ってきたな・・・」

 

「でも、このぐらいの雪だったら支障はないですよね?」

 

「これから強く降る可能性も有り得る。そうなる前に、やることをやるぞ。ピクシー」

 

「了解です」

 

 あくまでも調査が主任務とはいえ、状況次第ではあまり長く飛んでいても良いことはない。雪が本降りになる前に引き上げたい思いだった。

 

「・・・・・・ん。ピクシー、基地に定時連絡を頼む」

 

「はい。───こちらピクシー。定時報告します。今のところ特に異常は・・・・・・あれ?」

 

「どうした?」

 

「なんだか雑音が響いて・・・基地と連絡が取れません!」

 

「なんだと・・・!?」

 

 試しに俺も基地に連絡をとってみたが、雁淵が言ったとおりインカムからはノイズしか聞こえてこなかった。

 通信機の故障か?

 いや・・・・・・そうとは思えん。だとすれば・・・。

 

「ピクシー、気をつけろ。敵は近い」

 

「ネウロイが!?」

 

「恐らく例の異常事態の原因が近くにいる。そいつをどうにかしない限りは、この状況を脱することはできん」

 

 味方との連絡がとれない中、雪が少しずつ強くなっていく。辺りを探し回っていると、“ソイツ”はいた。

 

「・・・見つけた。あれがジャミングの発生源か!」

 

 全長30メートルくらいのタワーの形をしたネウロイが雪原にそびえ立っていた。間違いなくこいつの仕業と見ていいだろう。

 

「バーリングさん、ジャミングって!?」

 

「通信妨害だ。こいつが俺たちの通信に割り込んで遮断して、交信を途絶えさせていたんだ」

 

「じゃあ、このことを戻って皆さんに報告しないと・・・!」

 

「無理だぜ。後ろを振り返ってみな」

 

 雁淵と一緒に振り返ると、そこには小型がざっと20機確認できた。敵さんは俺たちを逃がす気はさらさらないようだ。

 

「そんな・・・」

 

「戦う以外に道はないぞピクシー。それともお前だけ基地に逃げ帰るか?」

 

「っ!! やります!私だってウィッチなんです!ネウロイと戦うのがウィッチの役目なんです!だから、逃げるなんてことはしません!」

 

 威勢はいいな。その強がりに力が追いついていないのが空しいところだが、しょうがない。子守りを引き受けてやるか。

 

「だったらやるぞ、ピクシー。・・・・・・必ず、生き残るぞ!」

 

「了解!」

 

 ───今、この瞬間(とき)を以て、番犬(ガルム)の鎖が解き放たれた───

 

 

 *

 

 

 バーリングとひかりが交戦開始した頃、502基地では──。

 

「・・・・・・定時報告の時間はとっくに回っている。二人からは?」

 

「依然として二人からの連絡はありません。とろうにもノイズが酷くて・・・」

 

「交戦状態に入った可能性もあります。何人か出撃待機させるべきかと」

 

「そうしてくれ。・・・・・・と、言いたいが・・・・・・“降り”が強くなってきているな」

 

 部隊のトップ3であるラル、ロスマン、サーシャは連絡がとれない二人を心配していた。サーシャの提案のもと、念のため基地にいるメンバーを出撃待機させるが、外では雪の降りが強くなり始めていた。これでは今出撃したとしても、飛行に支障をきたし、二次災害を起こしかねない。

 仲間を助けにいきたい。しかし動くのが困難だ。

 不安な心境に包まれる中、ラルは“彼”のことを思い出した。

 

「だが・・・・・・アイツがいることだしな」

 

(バーリング)のことですか?」

 

「奴が本物なら、きっとこのような苦しい状況でも生き残るかもしれんな。無論、自分一人だけじゃなく、仲間も連れてな」

 

「・・・・・・ひかりさんはまだ未熟です。そんな彼女を抱えながら戦い、勝利し、生き残ると?」

 

「何故かそんな気がするのさ。それができるかどうかで、奴が本物かどうかを確かめられる」

 

「信じていると同時に、試しているんですね」

 

「そうだ。なにせあいつは、世にも珍しいウィザードなんだからな」

 

 

 *

 

 

 厄介なことになってきた。よりにもよって雪の降りが強くなり始めた。

 降り注ぐ白銀の結晶が体にまとわりついては熱や視界を奪っていく。

 本命のタワーを堕とそうにも次々と現れる小型の大群がそれを邪魔する。

 よけれる攻撃は避けて、避けきれなければシールドで防御。手近な奴から順に撃破していくという流れ作業を繰り返していた。

 ここでひとつ驚きなのが、「意地でも俺にくっつけ」という指示を受けたピクシーこと雁淵が、言われた通りに飛んでいたことだ。

 飛行自体はおぼつかないが、必死に食らいついていることは確かだった。天候が悪化してもそれは変わらない。こんなにも持久力が優れた奴を今まで見たことがなかった俺にとっては衝撃的だった。

 

「大したものだな。・・・・・・それでも、この状況を変えなければ意味がないんだがな」

 

 それは雁淵にではなく、俺自らに言い聞かせた言葉だった。基地にいる仲間たちが増援に来てくれることが一番良いんだが通信しようにもジャミングされ、何よりもこの天候じゃ向こうも出撃を躊躇しているだろう。

 ともすれば非常に残念なことではあるが仲間の助けは期待しないほうがいいだろう。

 だったらどうするべきか。そんなのは決まってる。

 俺たちだけでこの状況から生き延びなければならない。

 その主旨を彼女に伝えた。

 

「ガルムよりピクシーへ。いいかよく聞け。俺たちは連絡手段を奪われた上に、この天候じゃ恐らく味方の増援は期待できない。だとすれば分かるな?俺たちだけでこの状況から生き延びなければならない」

 

「分かってます。私だってバーリングさんに着いて行くのに必死で、足でまといなのは自覚しています。それでも──」

 

「いい。それ以上は言うな。分かってるならOKだ。・・・・・・いいかピクシー。さっきも言ったがあのタワー型のネウロイが今回の通信異常の原因だ。奴を落とせば通信は回復し、他の部隊との連携も円滑に行えるようになる。それだけ奴の存在と喪失は大きい。そして今、奴を落とせる絶好のチャンスを、俺たちは握っている」

 

 雁淵は黙って俺の言うことに耳を傾けていた。しばらくの間を空け、俺は雁淵に考案を伝えた。

 

「俺が小型どもを引き付ける。その隙にお前がタワーを落とせ」

 

「えっ!?わ、私が、ですか?」

 

「見たところ奴には強力なジャミングがあるが攻撃手段は持ち合わせてないようだ。奴の守りが手薄になれば、お前でも倒せる。やれるな?ピクシー」

 

「・・・・・・やります!私にやらせてください!」

 

「よし、ならやるぞピクシー!」

 

「了解っ!」

 

 雁淵を先頭にし、俺たちはタワーに目掛けて突っ込んでいった。読み通りに小型どもが追ってきてビームを雨のように降らせてくるが、後ろにいる俺が防御する。雁淵もユニットに魔力を集中させ、猛スピードでタワーに接近している。無論その進路上にも小型は何機がいるが、すかさず俺がアシストする。

 

「ピクシー、俺と周りのザコは気にするな。お前は奴を堕とすことだけに集中しろ!」

 

「はいっ!」

 

 雁淵とタワーの距離は着実に近づいていた。タワーは胴長ではあるが横の面積もそれなりにあるので雁淵でも外すことはないだろう。

 

「当たって!」

 

 彼女の言葉通り、弾丸は奴に当たっていく。だが、決定打には至らない。

 

「コアを探さないと・・・!」

 

 雁淵はコアを探すが、落とし損ねた小型が一機、俺を掻い潜って彼女に接近した。

 

「ピクシー!一機回ったぞ!」

 

「えっ!?うわわわ!」

 

 雁淵は背後を取られ、追われる形になってしまう。助けにいこうにもたくさんの小型どもが邪魔をする。

 逃げ回る雁淵だが、後ろに気を取られすぎているあまりに、タワーに接近していることに気づいていなかった。

 まずい、あれでは確実にぶつかる。

 

「ピクシー、前を見ろ!」

 

「っ!? わぁあああーーーー!!!」

 

 雪が降り注ぐ寒空に、派手な破壊音が響いた。ぶつかった衝撃で、右ユニットが半壊した。

 

「ピクシー!」

 

「・・・っ! 見えた!バーリングさん、頂辺にコアがあります!」

 

「なにっ・・・!?」

 

 落ちていく雁淵の言葉をもとに、タワーの頂辺にDP28の銃弾を叩き込む。装甲を抉るとコアが剥き出しになり、さらに弾丸を撃ち込んでいく。直後に、タワーはガラス破片のように崩壊し、それにつられて小型も全部消滅した。

 すかさず俺は落下していく雁淵を地面に衝突する寸前に受け止めることに成功した。抱えられた彼女は気を失っていただけで、無事であることを確認し、一息つく。

 

「・・・こちらガルム。502基地、聞こえるか?」

 

『・・・・・・こちら502基地。感度良好。よくやった、ガルム、ピクシー』

 

 タワーを倒したことで通信は回復し、基地とも連絡がとれた。インカムの向こうからは聴こえてくるのは雑音ではなく、隊長の声だった。

 

「任務達成。報告は基地に戻ったあと伝える。これより帰投する」

 

『了解した。みんなが心配している。早く戻って安心させてやってくれ』

 

「ガルム了解」

 

 一度通信を切り、雁淵を抱えたまま、基地へと戻っていった。

 ちょうどその頃には雪も止み始めていた。

 

 

 *

 

 

 滑走路にはメンバー全員が出迎えてくれた。向こうも俺たちの存在を確認して安堵の表情を浮かべた。

 ゆっくりと下降していき、スムーズに着地し、みんなのもとへ向かう。

 

「ガルム、ピクシー。帰投した」

 

「ご苦労だった。よく無事に帰って来てくれた。それだけでなによりだ」

 

「こいつのユニット《・・・・・・・・》は無事じゃないけどな」

 

「うう・・・・・・でも、雁淵さんが無事ならそれでいいです」

 

 サーシャが苦い顔をする中、当の本人はまだ目を覚ましそうになかった。一応ジョゼに見てもらおうか・・・。

 

「・・・・・・それにしても、なんていうか・・・」

 

「君も見せつけてくれるね~。バーリング」

 

「・・・・・・は?」

 

 何故か照れるニパに、ニヤける伯爵。周りも同様の反応をしていた。

 一体なんの話だ?

 

「ひかりが目を覚ましたら、このこと話してあげようよ」

 

「そりゃいい。面白くなりそうだね」

 

 こいつ(伯爵)にとっての面白いは俺にとってはほぼ間違いなく面白くないことだろう。おかしな真似したらまた帽子を投げ飛ばしてやるか。

 というか周りの奴らはいつまでニヤけてるんだ・・・・・・。

 

 

 *

 

 

 翌日───。

 

「───あっ!バーリングさん・・・!」

 

「ん? ああ、雁淵か。調子はどうだ?」

 

「え、ええっと、大丈夫です・・・」

 

 大丈夫とは言うが妙にぎこちないような気がするな。

 

「そうか。早朝のトレーニングはもう終わったのか?」

 

「はい。ちょうど今さっき終わったところです」

 

「いつも朝早くごくろうだな・・・俺には真似できん」

 

「・・・・・・あ、あのっ、バーリングさん」

 

「ん?」

 

「あの、えっと、その・・・」

 

 雁淵はもじもじしながら顔を赤くしており、俺との目線を合わせない。

 

「どうかしたのか?」

 

「あうっ・・・・・・な、なんでもないです! 先に食堂に行ってますねー!」

 

 結局雁淵はなにも言わず走り去っていった。

 一体なんだったんだ?




本日ペテルブルグ大戦略観に行きました
控えめに言って面白かったです
終始ニヤニヤが止まりませんでした
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