フラダリラボから出るとファイアローをボールから出し、そのまま肩を掴まれ空高く舞い上がりセキタイタウンに向かっていった。
「酷いな……」
町の中心に現れた古代の兵器により家屋は破壊され、怪我人も多く避難誘導が行われている。
ツカサは前に町外れの行き止まりで消えたフレア団の事を思い出したらしく、裏道を通りながらその場所へと向かっていった。
その道の途中にいたフレア団を倒し進んでいくと、やはり行き止まりではなく遺跡が基地のようになっていた。
「お約束だなぁ…さて、久々に悪の組織をぶっ潰すか」
「ツカサ、アタシも行く!」
「セレナ?」
「アタシもフラダリラボで謎の人から教わったの。フレア団が最終兵器で何をするのか! フレア団を……ううん、フラダリさんを止めましょ!」
「ああ、一緒に行こう」
そう言ってスッと手を差し出すと強く握り返され、かつての自分のような目をしたセレナがこくんと頷いていた。
「悲しむほど世界は汚れてなんかいないもの!」
「何か眩しいなぁ……」
………
……
…
秘密基地に入るとエレベーターが設置されており、先に様子を見に行くとセレナに言い残してツカサは下に降りていった。
降りた先は研究施設があり、大丈夫そうだとセレナにホロメールを出して進んでいく。
奥にフラダリの姿が見え、そこに向かうが誰にも遮られずその場所まで着く事が出来ていた。
「地上に花開いた最終兵器の美しさ……君達も心奪われただろう。何しろ伝説のポケモンのエネルギーを取り込んでいるからね」
「あんた、まだそんな事を……」
背を向け話すフラダリにツカサは呆れ、セレナが追いついたのを確認するとさっさと止めようと足を踏み出した。
「ツカサ! ラボで正解を選んだのに申し訳なく思う。だが世界の流れとは様々なエゴが混じり決まるのだ」
「最終兵器なんか使わせないんだから!」
「世界は有限なのに人もポケモンも増えすぎた。金もエネルギーも奪ったものが勝つ世界だ」
「だからって……フレア団が選んだ人だけ助けるなんて」
「君達は一つしかないメガリングを譲りあったのか?」
「ああ。当然年長者だからな」
「……一つしかないものは分け合えない。分け合えないものは奪いあう。奪い合えば足りなくなる。争わず奪い合わずに美しく生きていくには命の数を減らすしかない」
「うわぁ、出た。都合の悪い事は聞こえないフリするやつ」
「ポケモンの命は?」
「……」
ツカサの発言はスルーし、セレナの問いに振り向いたフラダリの目からは涙が流れていた。
「涙……どうして?」
「ポケモンには消えてもらう。我々人間はポケモンと助け合い共に発展してきた。それ故に争いや奪う為の道具となりかねない! 君達の望みは最終兵器を止める事! だが私はそれを拒む。少し足止めをさせてもらうよ」
そしてフラダリラボの時のようにセレナではなく、厄介なツカサにバトルを挑んできた。
だが過去最高のコンディションの今のツカサを止められるわけもなく、セレナが息を呑むような一方的なバトルで瞬殺していた。
「くっ……守る強さ、か。だが君は何を守るのだ? 今日よりも悪くなる明日か?」
「俺は自分の為に戦ってるだけで、その結果守ってる事になってるだけなんだよなぁ。それに明日が悪くても、明後日はよくなるかもしれないだろ」
「君は強い、だがもう遅い!! 希望は潰えた……! 確かめたければ最深部に行け」
「言われなくても行くよ。伝説のポケモンを解放すればどうとでもなるだろうし」
そう言ってフラダリの横を抜けセレナと共に最深部に向かっていると、フレア団の団員が立ちはだかるも息の合った連携で蹴散らしながら進んでいく。
「ツカっちゃん、セレナ!」
「ウソ……どうして……?」
「ゴメン、わかってる……足手まといだよね」
「サナ」
声に振り向くとサナがおり、ツカサとセレナは驚き足手まとい発言も否定出来ずにいた。
「だってぇ……だって友達だもん」
「そうだな……友達だもんな。今から戻らせる方が危ない。サナ、俺達から離れないように」
「そうね。アタシとツカサが先に行くから、サナは付いてきて」
「うん! ありがと♪」
サナを加え三人で進み、フレア団の団員達をツカサとセレナの二人で倒していく。
そして遂に最深部に到着するも扉に電子ロックがかかっており、どうするかと悩んでいたがサナがハッとして扉に近づき鞄から何かのマシンを取り出していた。
「これ……パズルで行き詰まった時に一度だけ解いてくれるマシン! 前にシトロンさんにもらったの」
「え、それ電子ロックも解けるの?」
「電子ロックもパズルも同じよーなモノだよね♪」
そういうとサナはマシンを設置し、電子ロックを解除し始めた。
「マジで解除されたらシトロンに二度と作らないように言いに行かないと……」
「あっ! ロック開いたよ♪ ああっ……! ほんとにマシン壊れちゃった……」
「ツカサの言う通りにこれは作らないように言わないとダメね。今回は仕方がないけれど」
「下手に作られたらセキュリティ簡単に突破されちゃうからなぁ。ふぅ……よし!」
「さて……いよいよね。中にいる伝説のポケモンを助けましょ!」
気合いを入れながら力を抜いたツカサはボールを一つずつ撫で、セレナは緊張した面持ちで喉を鳴らしている。
ツカサが先に扉を開けて中に入ると、中央に機械があり何か白い樹のような物が乗っているのが見えた。
危険がないのを確認するとサナとセレナに入ってくるよう伝えている。
「ここが最深部……何だか息苦しい……」
「ねえ……あの樹みたいなのが伝説のポケモン? 生きているようには見えないけど……」
「あー、確かに。どれちょっと……」
ツカサが確認の為に近づこうとすると、どこからか現れたフレア団の団員達が立ち塞がった。
「あんた達には関係ない事だ」
「伝説のポケモンのエネルギーは99%最終兵器に取り込んだ。だが万全を期すためにこいつらをぶちのめしましょう!」
「追いかけられるの? やだー!」
サナが慌てて逃げ出すと一人がその後を追って行き、数が減ったなと思いながらツカサは腰のボールに手をかけていた。
「サナってばまた……ツカサ、こっちは頼むわね。アタシ、サナを守るから!」
「応、任された」
サナを追うセレナにそう返しながらも団員達から目を離さず、睨みつけながらいつでも出せるようにボールに手をかけている。
「逃げた子供達も始末しろ!」
「うわぁ」
「さてあんたに我々が倒せるかい?」
「寧ろ何で勝てると思っているのか知りたいわ」
………
……
…
あっさりと四人のフレア団幹部を蹴散らし捨台詞を残し逃げていく幹部を見送り、改めて機械に載せられている樹に近づいていく。
すると樹が奪われていたエネルギーを吸収し始め、激しく光り輝いたかと思うと立派な角を持った青く大きな鹿のような姿のポケモンへと変化し、そのまま機械を破壊してツカサの目の前に降り立った。
「こいつがゼルネアス……」
『……』
「直接脳内に……! 力を貸すのに実力がみたい、と」
『……』
その言葉に頷くゼルネアスを見て、ツカサはニンフィアの入っているボールを手に取り……
「ニンフィアとしばらく睨み合ったかと思ったら、スッと近づいてきてボールに自ら入ったでござる。ニンフィアの力を見抜いたのかな?」
そんな事を呟いていると背後の扉が開き、セレナとサナが目をキラキラさせながら入って来た。
「凄いよツカっちゃん! 伝説のポケモン自ら友達になりたがるなんて!」
「二人共無事でよかったよ。ゼルネアスはまだ本調子じゃないみたいだから、後で診ないといけないわ。……伝説のポケモンってどう見ればいいんだろう?」
最終兵器を止めた事で気が楽になり、三人であーでもないこーでもないと話をしている。
すると再び背後の扉が開き、またフレア団かと三人は気を引き締めてボールに手をかけながら振り返った。
「まさか君が本当に選ばれし者だったとはな! 伝説と言われつつ、随分と健気ではないかゼルネアスよ! 人に助けを求めるか、人の力を借りるのか」
機械を背負いバイザーを付けたフラダリがツカサに向かってそう呟き、ボールの中にいるゼルネアスにも声をかけていた。
フラダリの背中の機械から伸びる三本のコードの先には虫のような機械があり、それが羽ばたき宙に浮いている。
「フラダリさんはツカっちゃんに負けたんでしょ! 何よ!」
「私の勝利は最終兵器を使う事。その為にゼルネアスを返してもらおう!」
「いや、そんな事を言われたら絶対にお断りだろ常識的に考えて」
「それならば無理やりにでも奪い返すだけだ。今度は負けない。君達が旅で調べたメガリングとメガストーン、私も使わせてもらうぞ!」
フラダリがボールを投げるのを見てツカサは二人を後ろに下がらせ、遅れてボールを投げゲッコウガを出していた。
短期間で戦い慣れた相手故にゲッコウガは三体を軽く蹴散らしていた。
「やはり君は強い」
「そりゃどうも。ゲッコウガ、疲れただろうから戻っておいで。ニンフィア、お前はまだ余裕ありそうだから頼む」
「これが私の切り札、ギャラドス」
ニンフィアが待てないとばかりにボールから飛び出し、フラダリの投げたボールからはギャラドスが現れニンフィアを威嚇している。
そんなギャラドスを見てニンフィアは怯まず笑顔で返し、触覚でペシペシ地面を叩き始めていた。
「ニンフィア、お前のムーンフォースで容赦なく決めてやれ!」
「ギャラドス、メガシンカ!」
フラダリが指輪に触れると光を放ち始め、ギャラドスに付けられたメガストーンからも光が溢れ混ざり合っていく。
光の繭を吹き飛ばして現れたメガギャラドスだが、ニンフィアはメガシンカをした相手にも関わらず平然としながら駆けていく。
「馬鹿な、あのニンフィアはメガギャラドスに勝てると思っているのか」
「メガシンカしただけで勝てるなら俺は今頃チャンピオンだわ。それに俺のニンフィアは普通じゃないから……」
素早く翻弄するニンフィアを狙おうとメガギャラドスも動くが、触覚を使った立体機動で背中に乗られてしまっていた。
普通のポケモンがしないそんなニンフィアの変態的な動きをツカサは諦めの目で見て、サナとセレナは開いた口が塞がらなくなっている。
フラダリもあまりの滅茶苦茶具合に唖然としており、そのまま零距離ムーンフォースでメガギャラドスが倒れたのを見てショックを受けていた。
「くっ……世界は愚かな人間共が汚していき、残された希望を醜く奪い合うのだな……」
フラダリは付けていたバイザーを外すと地面に叩きつけ、世界に絶望をしていますとばかりの顔で厨二っぽい台詞を吐いていた。
「ウオォッ!!」
「いや、どんだけ……気持ちは分からないでもないけど」
「少なくても分け合った方がいいと思うな……。フラダリさんだってメガシンカ使えたのギャラドスが力を分け与えてくれたからでしょ? 」
「アタシはみんなが美しい世界を望むのが正しいと思うけど……」
悔しさや絶望感から叫びを上げたフラダリにサナとセレナが優しく諭すように告げていた。
「それが出来るならとっくに全ての争いが消えている!」
「フラダリ……一人で出来ないなら二人で、二人で無理なら三人でってみんなで少しずつ良くしていけばよかったんだよ。人間の知恵はそれも乗り越えられるよ」
「ならば今すぐに愚民共にその知恵を授けてみせろ! そんな事が出来るはずがない。取り込んだゼルネアスのエネルギー……能力……目覚めた時に取り戻されたが出力を抑えれば望む結果は得られるか……。ツカサ、私と永遠に生きよう……美しい世界を作るまで死ねない苦しみをくれてやる!!」
「えっ……美人さんからの誘いならともかく、おっさんからの誘いはちょっとNO THANK YOU……逃げるぞサナ、セレナ!」
目が完全に据わっているフラダリを見てこれはヤバイと感じ、サナとセレナと共に外に向かって逃げ始めた。
………
……
…
最終兵器から放たれたエネルギーは宇宙にまで届き、世界に拡散するかと思われたがそのまま真っ直ぐに最終兵器の元に落ちてきていた。
そして地下に最終兵器を押し戻しながら破壊し、その衝撃でセキタイ周囲に激しい爆風と様々な破片が飛び散りかなりの被害を出している。
「エレベーターから出なくて助かったな……なんて火力とパワーだよ、こいつは」
「うー……」
「うー……」
「凄まじい衝撃でサナとセレナが抱きついて来たけど……両脚を固定するのはやめてください死んでしまいます」
サナとセレナは左右からツカサの脚に抱きついて固定しており、落ち着くまで待つしかなかった。
そんなこんなで十分程が経過し、外も避難していた者達が戻って来たのか騒がしくなっていた。
ツカサはようやく落ち着いた二人を連れ、最終兵器のあった町の中心へ向かってみる事にしている。
「はあ……皆さん無事でよかったですわ!」
「あ、謎の仮面戦士。トロバとティエルノまでいるじゃないか」
「避難誘導してたんだよぉ。後はみんなで力を合わせて十番道路の列石に繋がれたポケモンを助けていたんだ。フレア団と戦うのはジーナさん達に任せたけどねぇ」
「あたくし達は謎の人なの!」
「いいんだよティエルノ君。フレア団の作戦に対してそれぞれベストを尽したんだよ」
「はい、ボク達はボク達の出来る事をしましたよ!」
「んん! 貴方達の勇気、優しさ……あたくし、尊敬しているのよ!」
フラダリラボの件を聞きたいのかチラッチラッとツカサを見ながら話をしていた。
「あー、どうも」
「あと君達にニュース。フレア団のラボにあったホロキャスターを勝手に受信する機械は壊したから」
「じゃあもうフレア団に関わる事もありませんね。これで安心して図鑑を集められます!」
「はあ……終わったんだよね? また冒険出来るんだよね?」
「ああ、ようやく安心して旅が出来るな。今まではたまに見かける赤いスーツに警戒してたし」
フレア団のあの変なポーズも見ないで済むとホッとしながらサナに返していた。
「じゃあヒャッコクシティから出発しなおそうよ♪ 」
「そうだなー、明日の朝くらいに集合しようか」
細かい事は決めず明日の朝にヒャッコクシティ集合と決め、皆それぞれセキタイから離れていった。
ツカサは最終兵器跡地を少し眺め、そろそろ行こうと振り返ると皆と共に行ったはずのセレナが立っていた。
「ツカサ、ありがとう。アナタの事、友人として尊敬するわ。だからこそライバルとしてアナタに勝ちたい! これは本気よ」
「ふっ、いつでも受けて立つよ」
「言質は取れた、と。それじゃあ、また明日ね!」
セレナがポケットに仕込んでいたボイスレコーダーに格好つけて言った事を録音されてしまい、以後セレナからのバトルを断る事が出来なくなってしまっていた。
「マジか……ん? あんたは確かAZ、だっけ?」
呆然としているツカサの背後から大きな背の男が現れ、最終兵器跡地を見ながら口を開いた。
生き返った永遠を生きるポケモンと永遠を生きる男の重い話を語り、どうすれば会えるのかと呟き、ツカサの事を見ずにAZは背を向けて去って行った。
「どっちも救われないな……」
フレア団関係がつまらなくて辛かったです(小並感)