「アリアの家に泊まった翌日、ご両親に呼ばれて応接室に入ったら綺麗な土下座をする女性が居る件について」
「ほら、ツカサ君がパニックになってるからやめなさい」
「そうよ、まずは話をしてからにしないと分からないでしょう?」
「伯父様、伯母様……申し訳ありません」
「おお、なんつー美人」
アリアより薄い青に近い銀色の髪でドストライクな年上のキリッとした女性にツカサはドキドキしていた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私の名前はシオニー・レジス、カロスの外務大臣を務めています」
「ご丁寧にどうも……私の名前はシラカワ ツカサ、次期カロスチャンピオンで現フリーランスのドクターです」
「……はっ!? そ、そうでした! お願いしますす、助けてください!」
「ファッ!?」
綺麗な無駄のない土下座への移行に驚きオロオロしている。
「私の、私のヒンバスを助けてください!」
「! シオニーさん、とにかくソファに座って詳しく話を聞かせてください」
政治がらみだったら即拒否予定だったがヒンバスと聞いて土下座をやめさせ、追い詰められた表情をしているのを見て隣に座り詳しく話を聞き始めた。
よく分からない症状でセンターを盥回しにされ、挙げ句の果てには袖の下を要求してから無理だと言う屑まで出る始末。
それを聞いている内にツカサの額には青筋が浮かび、顔面蒼白で助けてくださいを連呼しながら泣き出したシオニーの背中を撫でて落ち着かせている。
「腐ってるんだよなぁ……外科が出来るドクターが少ないからって王様気分かよ、反吐が出るわ」
「ツカサ君……君なら何とか出来るんだね?」
「出来ます、なんて無責任な事は言えませんが最善は尽くしますよ。問題は症状を診ても、それをどうにかする設備と助手が足りないって事です」
センター側は所属していないドクターに使わせる訳にはいかないという建前で権力に屈しており、回復と宿泊しか使えずネット上ではフリーランスの締め出しとほぼ無能しか残っていないと阿鼻叫喚の大騒ぎになっている。
「そうか、あのフリーランスの締め出し……屑どもは足を引っ張る事しか出来ないのか」
「あなた、今は使わせてくれそうな場所を探しましょう。それからツカサ君の自宅と我が家にその設備を整える事も」
「え? いやいや、あれ新しく建築して機材やら集めるのに軽く二桁億とかかかりますから! それに自分には扱いきれませんし」
「ムッシュハザマ……いや、ドクターBJの愛弟子への先行投資のようなものだよ。今回の件も彼に連絡したら君を使えばいいと言われてね」
「まさかツカサ君の名前が出るとは思わなかったわ……またディアンシーに会いたいのだけれど」
「先生が俺に投げた、だと……?」
………
……
…
カロスにもいるエーテル財団と連絡を取り、どうにか場所を貸してもらえる事になり……
「いや、これマジ危なかった……先生の見て必死に練習してなかったら俺じゃ無理なレベルだった。やっぱ先生はあんだけ金を毟るだけあってすげぇわ」
助手についていた者達は未だ興奮が収まらず、録画されているオペの映像を参加出来なかった者も含めた皆で見ていた。
シオニーとアリアの両親には軽く説明をし、詳しくは明日話しますからと告げてフラフラしながら車に乗り込んでいた。
そんな翌朝、よく寝て元気になって執事達と世界観の違う手合わせを行っていた。
「砕く……止めても無駄だ!」
「なっ、何処に……うぐっ!」
目にも留まらぬ速さの一足飛びで相手の執事の背後を取り、重い裏拳が相手の身体に響き動きを止めている。
「でやあああっ!!」
「うあぁぁぁっ!!」
そしてそのまま蹴りのラッシュで宙に蹴り上げ……
「せいやぁっ!!」
「やめ……ぐあぁぁっ!!」
落ちて来た所に渾身の左ストレートを放ち、吹き飛ばしていた。
ルカリオが最近参考にしているツカサのバトルスタイルであり、その動きに惹かれたらしくはどうだんの放ち方まで変えている。
ちなみにツカサは久々に連絡した師達に、次に会った時に劣っていたら死んだ方がマシレベルで鍛え直すと言われて必死になって鈍っていた身体を動かしていた。
「キレが悪い、不味い、やばい、怖い」
トレーニングも終わりシャワーを浴びながらガクブルしつつ、されるがままに着替えさせられて朝食を取りに向かった。
朝食が終わるとすぐに応接間に呼ばれ、カルテやらを用意してから向かって行った。
アリアの両親は今回の報酬の為に動き、いっそ研究所のような施設に手術も出来る場所を作る事にして、ツカサ宅近くの余っている土地を購入するのに交渉をさせたりしている。
「……という訳で病巣は取り除けました。それとヒンバスがこんな自分の為にプライドの高いシオニーさんが土下座までしたのを知って、進化して力になりたいと」
「ぷ、プライドの高い……ですがヒンバスを進化させる方法が私には分からないのですが」
「俺が教えますよ。それと普段通りの話し方でいいですよ」
「わかり……いや、分かった。ツカサ、と呼び捨てにさせてもらっても?」
「ええ、寧ろそうしてもらった方がこちらとしても気が楽です」
「ツカサ、今回の件は本当にありがとう。伯父様と伯母様程ではないが私もツカサの力になろうと思う」
「いえ、これは当たり前のことをしただけですから。それより今度一緒に食事にでも行きませんか?」
「ふふ、それなら私のお気に入りの店を紹介しよう」
………
……
…
「あれから休日になるとシオニーさんが自宅に来るようになったでござる。最初はド緊張したけど、だんだんボロが出始めて今じゃ残念美人に」
「私とツカサの愛の巣だったのに……」
「ここだと肩肘張らないで済むのよ。私のミロカロスもツカサのミロカロスと仲良しだから」
シオニーも猫を被るのをやめたらしく、ソファでぐでーっとしながら紅茶とケーキを楽しんでいる。
シオニーのヒンバスも無事ミロカロスへと進化して、色違いのツカサのミロカロスと仲良くなっていた。
「シオニーさんがあの外務大臣……まぁ、今じゃ私と同じリオ君のファンって分かったから気にしないけど」
「みんなあの魅力が分からないなんて。撃退出来る力はあるのに、正体がバレるかもしれないからと土下座するシーンは何故かキュンキュンくるわ」
二人で仲良くBDを見始め、ツカサはいつものようにソファの隅に移動して昔の自分を見ていた。
「わっかんねー……てか日常の設定ハードよね。地味にハブられたりしてるし、好きな子は今見ると普通に屑だしなぁ。そりゃヒロイン人気出るはずないわな」
「ぶっちゃけ演じてる人も嫌いってブックレットで言ってるわね」
「私だったら付け回して、こちらから告白している」
「何で告白保留にしておいて他の奴と付き合うのか。それでリオは目が覚めて完全に想いが吹っ切れたのに、好意を向けられなくなったら相手がウジウジしだすし」
真ヒロインはハチクマンと言われるくらいに人気がなく、日常でのナチュラル屑具合だけではなくルカリオキッドの足まで引っ張るせいで殆どの者に嫌われている。
「ツカサだったらどうするの?」
「まずこんな奴を好きになんてならないから問題ない」
「身も蓋もない……」
「それと関係ないんですけど、最近やたらとシオニーさんとの関係はって聞かれるんですが」
「いや、その……男避けにツカサとは仲良くしていますとは言ったけど」
「それが原因だよ! 『現外務大臣のシオニー・レジス氏との関係をお聞きしたいのですが』って一個質問が終わる度に言われる身になってほしい。恋人ですーって言って困らせ……ヒッ!?」
「……」
「えーっと、私は別に困らないな……」
恋人云々でテレビを見ていたセレナの首がグルンとツカサの方を向き、無表情のままジーッと見つめてきて小さく悲鳴を上げていた。
「いや、その……アババババ!」
「ピカ」
見かねたピカ子が痺れさせて助け船を出している。
有耶無耶になった所にイーブイズが乱入、いつものように二人には見向きもせずツカサに飛びついて頭や身体を押し付けて甘えまくっていた。
「うぅ、ビリビリして暑い……」
「す、凄い……イーブイ達が冬場のコートみたいに埋め尽くしてる……」
「夏場は羨ましくないわ」
エアコンを使っていても太陽を浴びてぽかぽかなイーブイズは暑く、ツカサは汗がダラダラ出ている。
………
……
…
裏庭にはポケモン達が日頃の感謝の気持ちで作った大きめの簡易プール的な物があり、今はミロカロス達が入っている。
「ポケモン達とプールとか最高だろ」
『ツカサ、気持ちいいですね!』
「フーパ、浮き輪好き!」
「ツカサ、似合う?」
当たり前のようにディアンシーとフーパが遊んでいて、セレナが水着姿を披露していた。
「似合ってるよ。それでこれどうよ?」
「ピカッ☆」
テレビで見たアイドルを参考にして作った衣装にマイクを持ち、ウインクしながらポーズを決めるピカ子を見せている。
「すっごい可愛い……」
「でしょ。ピカ子にマッサージは容赦なく出来るけど、サーナイトにマッサージは妙に緊張するっていう」
「あー……」
「それと人間は対象外なのに要求してくるセレナのママさんとパパさんどうにかならない?」
「無理」
「だよなぁ。……しかしアリアのご両親は報酬だからって隣の空き地を買い取って専用の施設を作ってくれるとか金持ちって凄い。消耗品まで申請すれば無料で届けてくれるみたいだし」
ツカサ専用の研究に医療と育成・リハビリの施設で下手なポケモンセンターや研究所よりも豪華な作りであり、現在ではアリアの両親が常駐してくれる信頼出来る者達を探している。
今はセンターに不信感を持ったカロスのジョーイ一族に声をかけているらしく、後輩達に丸投げして一族総出で来てくれる可能性が高かった。
最早ツカサは何を目指しているのか本人も分かっていないが、貰えるものは貰うスタンスなのでありがたくいただく事にしている。
「ツカサがよく工事の方々とポケモンに差し入れ持って行ってるわよね」
「そりゃね。初めて行った時はみんなポカンとしてたよ」
好き勝手動き回るのでリーグ側も『街で会えるチャンピオン』をキャッチコピーにしており、そのチャンピオンがまさかお茶とお茶菓子を持ってくるとは思っていなかったらしい。
「そう言えば最近は眼鏡してもすぐバレるって言ってるよね」
「髪ボサボサにして眼鏡なのになぁ……」
「それが原因だよ!!」
「うおっ! セレナがそんな風に大声出すの初めてだからビックリした……」
「おっきくなったリオ君じゃない! バレバレ以前に宣伝してるようなものよ! 私も見たい!」
「カロスだけおかしいんだよなぁ……てか俺の情報出回りすぎてて引く。連日エリカさんから小さい方が和服は似合うって電話が毎日来るからなんだと思ったら、大きい方が好きとかいうデマが流れてたし。修羅の街マサラタウンって情報は笑ったけど」
相手への敬意を持つ心構えをツカサに教えた三つ編みで武術の達人の老人。
ポケモンにしか興味のなかったツカサに性的な知識を惜しげもなく与えた亀の甲羅を背負った老人。
亀の甲羅を背負った老人といつも争っているが可愛がってくれる鶴の顔の付いた帽子を被った老人。
レッドとグリーンが旅に出て一人ぼっちだったツカサと遊びながら十字陵を作っていた金髪オールバックの男。
いつも赤いマスクを付けていて暇だからとツカサにギャンブルや喧嘩の仕方を教えたヒモの青年。
霊力の修行という名目でボッコボコにしてくる婆さん。
全身白くて一部紫、尻尾の生えた丁寧で優しい不思議な人?
よくツカサを担いで旅行に連れて行ってくれた腕が伸びて耳が尖っている緑の人?
そして窮地に陥った時に単身どうにかする為の技術を鍛えたフォルカ。
下手な街より安全すぎて今では犯罪者が恐れる街である。
「うーん……?」
ポケモンの技を受けてもピンピンしているツカサを見ると修羅の街説が正しいんじゃないかとセレナは考えていた。
ツカサやその周りがおかしいだけでマサラタウンの人達は普通だが、その中でも分かりやすい異常具合だったツカサを穀潰し扱いするくらいの普通さである。
「亀の爺ちゃんはまだセクハラしてんのかなー。あの人が居なかったら異性に一切興味のない俺が居たかもしれない」
「ツカサをまともに導いてくれてよかったわ」
ニーソとふとももに魅力を感じ、そこから教育されて女体に興味を持つようになったのは僥倖だった。
「爺ちゃんとエロゲやったりエロ本読んだり、重い亀の甲羅を背負わされて牛乳配達したり忙しかったなぁ……一番辛かったのは素手で畑を耕した事だけど」
「だからたまに素手で耕してるの?」
「ボーッとしながらだと癖になってるみたいでやっちゃうの。『ツカサさんは今日もがんばっていますね。これ、差し入れですよ』っていつも見に来てくれた人……人?もいたから辛いだけじゃないけどね」
「やっぱり自伝書かない? 詳しく聞きたいし読みたいよ」
「嫌だよ面倒だし。その人?は夏には夏祭りとかにも連れて行ってくれたんだよなぁ……『さぁ、気にせず好きな物を食べなさい。私の財布の中身は五十三万です』っていっぱい食べさせてくれて、『見なさい、ツカサさん。こんなに綺麗な花火ですよ!』って有料席で花火まで見せてくれたし」
「凄い人なんだね……ツカサの事を気に入ってたの?」
「分からん。でもご近所の方々からは愛されてたかも。腕が伸びる緑の人とか学校休みになる長期休暇に旅行に連れて行ってくれたし。マサラタウン以外に空を飛んだりビーム出せる人居ないの旅行するまで知らなかったし」
「……は?」
「ふんふーん♪」
「ちょ、ちょっと詳しく……!」
そのままプールに入っていくツカサをセレナが慌てて追いかけていった。
マサラタウンの外れのオーキド研究所付近にはシラカワ一家を筆頭にこんな人達が住んでる。
他にも色んな常識外れな人達がいるカオスエリア。
DSのDQ5を買って楽しんでるけどメタルスライムが全然仲間にならないなぁ。
サンタローズで主人公とピエールとスラりんがレベル38とかになっちゃったぜ。