大有双   作:生甘蕉

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10話 Q

 ロプロス、じゃなかったガルーダに乗って飛びながら、勢いにまかせて護衛を振り切っちゃったことを謝るメールを孔明ちゃんに送る。

 ついでにC級以下のエージェントでも任務によってはあのマスク以外の方法が必要なんじゃないかとも意見しておいた。

 

「これでよし、と」

 かなりの高度を高速で飛ぶガルーダ。目的地にはすぐにつきそうだ。

 あまり寒くも苦しくもないのはビッグ・ファイアと融合(フュージョン)してしまったせいだろう。

 

 目的地は日本。世界は違えど、日本の方が安心できるはず。

 本当は恋姫嫁さんたちが目指しそうな中国大陸に行きたいところだけど、国際警察機構の北京支部や総本山の梁山泊がある。国際警察機構の秘密捜査員であるエキスパートも多いと思われるので、向かうのは各地にマーキングをして逃げ場を確保してからだ。

 嫁さんたちと合流しても落ち着ける場所がないのは困る。拠点が1つも起動していないのは痛いね。

 

 バビル2世だったらそれこそサンドストームでディフェンスされてる基地を持っているのに、ジャイアントロボだと敵に奪われている。

 漫画版(スクライドの人の方)だとライセが建てたんだっけ?

 バベルの塔だったら戦時中でも安心できそうなのにさ。いい場所があったらいっそのこと、塔を成現(リアライズ)してしまうのもありか。ジャイアントロボ世界のじゃなくて、バビル2世のバベルの塔をさ。

 

 孔明ちゃんとの話だと一年戦争中らしい。BF団もいるからこの世界はスーパーロボット大戦αの世界なはず。

 ……逆に日本は危険か? スーパーロボットの基地が多くて狙われるな。

 安全なとこってどこだろう?

 とりあえず、基地のなさそうな地方都市に潜り込めばいいか。

 

 

 日本に近づいたらガルーダをスタッシュに収納する。ロプロスと同じくロボットだったようで入れることができた。

 ロプロスと同じだったらヨミ担当のライセのテレパシーで操られるかもしれない。今の俺はその能力もビッグ・ファイアより弱っているようだし。それになにより、目立つしね。あとでネプチューンにも入ってもらおう。

 

 魔法の箒代わりのロボ掃除機改で海上を飛行し、日本にたどり着く。

 いい加減疲れたよ。目覚めてから食事もとってない。さすがに空中じゃ食べる気がしなかったからね。

 隠形も使ってるし時間的には深夜なのであまり目立たずに侵入できたはずだ。騒がれる前にマーキングだけして……はいOK。海岸だけどまあいいでしょ。

 

 戦時中だけどコンビニ開いてるかなと明かりの方に歩き始めたら、波の音に混じってわずかにだけど奇妙な音が聴こえた。

 なにこれ、獣の鳴き声?

 感知スキルにも海岸の先にでっかい生物の反応がある。もしかしてこれが孔明ちゃんの言っていた怪獣だろうか?

 そのそばに人間らしき反応も1つあった。

 

 見過ごすわけにもいかず、怪獣らしき反応に向かって走る。やばくなったらガルーダもいるしだいじょうぶだ。

 けっこう遠いな。それでも聴こえたってことは聴力も強くなっているのか。

 たどり着いた先には10メートルは超えてそうな生物がいる。手足の数も多い。蛸というかトドというかまさに怪獣なシルエット。

 

 そばにいたはずの人間は……いた! まだ無事のようだ。

「危ないから下がってて!」

 いきなり怒鳴られました。この暗闇でしかも隠形を使ってる俺に気づくとは普通の人間じゃなさそう。

 よく見ると大きな銃を持った少女だ。歳の頃は中学校に入ったかどうかのあたり。今の俺の外見と同じくらいだろう。

 

 少女は銃で何発も攻撃しているが、命中した怪獣はこたえた様子がない。

 一方、触手のように長い手足で少女を狙う怪獣の攻撃は、かすりもしない。

 へー、よく動くね、あの子。的が大きいせいもあるだろうけど命中率もすごい。

 女の子の注意が怪獣にむかっている隙にアイスソードもどきの木刀、GGKを出して。

「手伝ってやろうか?」

 ただし、真っ二つだけど。な素晴らしき人の台詞を借りる。あの人の技も生で見たいな。……参式が犠牲になるんだっけ。

 

「まだ逃げてなかったの?」

「女の子残して逃げるわけにいかないの」

 嫁さんたちに怒られるでしょうに。この女の子も可愛いから、特に華琳に怒られそうだ。

 

 砂浜に足を取られないように怪獣に向かって走り出す。女の子がいなかったらいきなり魔法攻撃したんだけどね。

「馬鹿、そんな木刀で……嘘っ」

 俺に近づいてきた怪獣の触手の1本をGGKで切断。あれ、こんなに簡単に斬れちゃうの?

 俺の胴より太いのに、この触手。

 BFさんとの融合でパワーアップしてるのか、俺。あとでちゃんとステータスを確認しよう。

 

「危ないっ!」

 切断されても激しく動く触手に注意していたら、別の触手に絡め獲られてしまった。

 うわっ、予想以上にネトネトしている。そのくせ締め付ける力は強いんで気持ち悪いって思う余裕がない。

 こうなったら魔法を……いや!

 

 わずかな記憶を頼りにその力を使う俺。

 それによって怪獣は激しく痙攣する。俺を掴んでいた触手の力が弱まるが、今度は逆に俺が離さない。

 慣れてきたせいかバリバリっと光と音まで発生するようになったこの力はそう、エネルギー衝撃波だ。

 しばらくこの攻撃を続けると、怪獣は焼け焦げた匂いとともに動かなくなった。

 

 生命感知のスキルにも反応しなくなったが、念のためにトドメをさそうとしたところ、手に持っていたせいかエネルギー衝撃波の余波でGGKまで焼けていてボロボロと崩れ去ってしまった。

 まだ練習が必要なようだ。服が燃えなかっただけマシか。

 

「あ、あなたは何者?」

 女の子が近づいてくる。やはり可愛いな。銃を俺にむけているのは勘弁してほしいけど。

 いきなり撃たれないように両手を上げて……あれ、なんかふらつく。

「俺は……」

 あ、バビル2世の超能力って体力使うんだった。エネルギー衝撃波なんて使いすぎると髪の毛が真っ白になるぐらい生命力を消耗する。

 魔法のつもりで使いまくっちゃったけど、どうやらMP消費じゃなかったようだ。

 やばい、ものすごく眠い……。

 

 

 

 ちょっと前に言ったばかりな気もするけど、また言っておくべきかね。

「知らない天井だ」

「あら、気がついたのね」

 あ、さっきの女の子。どうやら意識を失った俺を運んでくれたらしい。

 

「……なんかすごい腹が減ってる。俺はどれぐらい寝てた?」

「数時間よ、ブルックリン君」

 何日も寝てたわけじゃないらしい。この空腹感は超能力の使用によるものか。

 

「あ、俺の名前」

「悪いけど所持品を調べさせてもらったわ」

 スタッシュから出すのは人目につくんで、ポケットに財布と身分証を入れてたんだけど見られちゃったか。偽造したやつなんだけどね。

 

「私は銀鈴よ」

「銀鈴?」

「そう」

 まてまて。

 銀鈴? ジャイアントロボの?

 たしか19歳だったよな。1年戦争はスパロボαの本編から7、8年前だったはずだから年齢は合ってる。まさか本人なのか。

 

「え、ええと、運んでくれてありがとう。俺はそろそろ行くね」

 やばい。銀鈴は国際警察機構のエキスパートだ。銃も持ってたし間違いないだろう。いくら戦時下でもあの銃はゴツすぎる。

「どこへ? あなたの故郷、北米は今はジオンの勢力下よ」

「え、そうなの?」

 まだ連邦の反攻は始まってないのか。

 V作戦がどうなっているのか、あとで孔明ちゃんに確認しよう。

 

「どうしてあんなところにいたの? あなたは行方不明になっていたのよ」

「よく……覚えていない」

 本当にね、なんでこの世界にきちゃったのか俺が聞きたいよ。干吉のせいなんだろうけどさ。

 

「そう。……ジオンとの戦争のせいで大きくは取り扱われないけど最近、世界中で似たようなことが起きているわ。いきなり人や建物が消えたり、逆にいきなり現れたり。中には異世界から現れたような人もいるの」

「異世界?」

 俺と同じか。まさか嫁さんたち?

 

「あなたもそうなんじゃないかしら?」

「そう言われてもわからないよ」

「あなたの家に帰してあげることはできないけど、しばらくは保護するわ」

「……俺の家族は?」

 無言で首を横にふる銀鈴ちゃん。ブリットの家族も亡くなっているというのは孔明ちゃんから聞いていた。

「そうか……」

 とりあえず落ち込んだフリをしよう。

 あとはどうやってここから逃げ出すかなんだけどさ。

 

 銀鈴って元ネタの方だと、101、バビル2世のコードネームなんだけど彼と恋人になるんだよね。諜報員だった彼女は捕まったバビル2世を逃がして、自分は死んでしまう。

 この世界がスパロボαとはいえ、一緒にいるのは不安だ。

 

 ……待てよ。

 ジャイアントロボの方の銀鈴はコードネームで、本名はファルメール・フォン・フォーグラー。

 バシュタールの惨劇を引き起こしたとされるフォーグラー博士の娘だ。

 この世界でもバシュタールの惨劇ってあったのか?

 銀鈴ちゃんこんな年齢でエキスパートをやってるみたいだし、あったのかなあ。

 

「ほら、お腹空いてるんでしょう、これでも食べて元気を出しなさい」

「あ、ありがとう」

 逃げるのは食事のあとでもいいかな。

 

 

 

 食後、コーヒーを飲みながら話を再開する。

「俺、実験台にされるの?」

「そんなことはさせないわ」

「でも……」

 バビル2世の血液って、怪我や病気を治す力があるんだったよね。で、適合者に輸血すると超能力を手にするって物騒な代物でもある。

 俺の血がそうなのかはわからないけど、調べられたくはない。

 

「ふふ。心配しないで、ここはお姉さんにまかせて」

「お姉さんって」

 俺の方が年上なんですけど。

「私の方が1歳上なんだから」

 ああ、ブルックリンはそんな年齢設定だったっけ。間違えないようにしないと。

 お姉さんぶる銀鈴ちゃんがなんとなくゆり子を思い出させる。元気にやってるだろうか?

 ……少しはお父さんがいなくて寂しがってほしかったり。

 

 そういや、銀鈴ちゃんの保護者になってるはずの誤先生こと呉学人をまだ見ていない。

 まさか、俺みたいに誰かとフュージョンしてるのか?

 それとも銀鈴ちゃんが1人で日本にきてるとか?

 さっきの怪獣と戦うためとしてもたった1人で勝てそうな相手じゃない。別の任務かな。

 

 銀鈴の家族といえば兄のエマニュエルが生きているはず。スパロボαでは出てこなかったけど、早めに会わせてあげられればOVAジャイアントロボのような悲劇もおこらないんじゃ?

 孔明ちゃんが彼をもうスカウトしてるのか確認しないと。

 

 

 

 銀鈴ちゃんの任務は俺に話してくれた異変の調査と、それによって出現した人間の保護だった。特に日本での発生件数が多いらしい。

 嫁さんを探すので都合がいいけど外国も調べたい。

 こんな時こそ分身を作ればいいんだけど、ビッグ・ファイアと融合したせいか、それが上手くできなくなってしまった。他の分身とのテレパシーが使えないのも同期がおかしくなってるのかもしれない。

 

 そうこうしている内に数週間経ってしまった。嫁さんたちの情報はさっぱりである。

「ガルマ・ザビが死んだようね」

「ニュースでもよく流れてるよ、あの演説」

 思わず「坊やだからさ」って言いそうになるのを我慢するのが大変だ。

 

 銀鈴ちゃんと俺はこっちでは疎開したって設定で一緒に暮らしている。といっても銀鈴ちゃんの任務につきあってあっちこっちに出向いてるんだけどさ。

 

「あ、電話だ」

「え?」

 ビニフォンが鳴ってるのを見て銀鈴ちゃんが驚く。だって俺に電話してくるのって銀鈴ちゃんぐらいしかいないからね。

 

 孔明ちゃんとはメールでのやり取りのみに控えてるしぃ。

 そのメールは俺にしか見えないようにしてるしぃ。

 最新ビニフォンのプライバシー保護はバッチリだしぃ。

 

 いかん、久しぶりのむこうの知り合いにテンション上がって言語回路がおかしくなってしまった。

 電話の相手は一刀君。

 彼が今、地球に向かっているらしい。

 

「ブリット君、今のは?」

「俺の友達。あれ? まただ」

 再び着メロを鳴らすビニフォン。

 今度の相手は俺。分身の1人(キング)だ。

 

 やつは、華琳ちゃんとスパロボJヒロインズといっしょにいるらしい。場所は、もう1つの地球。

 え? αだけじゃなくて、Kも混じってるの?

 

「マジ?」

『ああ。すごい怒ってたぞ。なんで気づいてやらなかったんだよ?』

「そう言われても……」

 電話先の俺から呆れた声が聞こえる。

 それはそうだろう。

 俺が目覚めたあの日、俺はすでに嫁さんに会っていたんだから!

 

「まさかねねちゃんがエージェントになってるなんて……」

 しかも俺の護衛をするはずだったなんて、さ。

 あのちっこい覆面さんがねねちゃんだったようだ。あの唇覆面のせいで全然気づかなかったよ。せめて変なリーゼントだったらすぐにわかったのに!

 

『おそらく、Qボスと融合しちゃったんじゃないか?』

「たぶんそうかも」

 Qボス。OVAジャイアントロボだとオズマって名前があるんだけど、スパロボではQボスって名前(コードネーム?)で表示されている。

 陳()だから、きゅう繋がりでフュージョンか。

 

 分身(キング)が入手した情報だと、やはり名前が融合の条件らしい。しかも世界がシャッフルされていて、さらに時間差がある、と。

 心残りも重要だって情報も得たしこれで少しは探しやすくなるかな?

 

 ねねちゃんは融合で記憶が曖昧になっていてずっとモヤモヤしてたんだけど、やっと自分の記憶を完全に取り戻して、あっちの俺に連絡をしたようだ。

 彼女に許してもらうためにも早く恋を見つけたいところである。

 恋……レン……ケルゲレン……まさかケルゲレン子?

 ちょっと強引だけどねねちゃんがQボスだし、ありえないとも言い切れないのが怖い。

 

 まいったなあ。こんなことなら護衛と一緒に行動してればよかったか。

 でもそうなると、いくら怪獣と戦っていても国際警察機構の銀鈴ちゃんとは仲良くなれなかっただろう。

 

 待てよ。もしかしてあの怪獣も別の世界からきたのか?

 怪獣か。スパロボK……フェストゥムじゃなくてよかったなあ。

 だとすると擬態獣かな。

 って、そっちもヤバいじゃん!

 

 インサニアウイルスなんて、エージェントやエキスパートのいるこの世界だと危険すぎる。あいつらが凶暴化したらそれこそ大惨事間違いなし。

 俺だって接触しちゃったし……。

 早いところ専門家にその情報を与えて調査してもらわないと。

 

 生物関係か。クランがいれば相談できるのに。

 だとすると……ネルフ?

 いや、今はまだゲヒルンか。使徒やエヴァが凶暴化しても困るけど、あの司令と話をするのも危険な気しかしない。

 

 どうしよう?

 

 


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