大帝国のネタバレがあります
ワープゲート。
この"大帝国"世界の各星域にいくつか存在する歪んだ空間。
その空間で艦のワープ機関に
ワープなしでの星域間の移動には最速の宇宙船でも何百年もかかってしまい、ワープゲートを使用しない星域間の移動はありえない。
「条件が揃うことで、未発見のワープコードにより北京と
居並ぶ面々にそう説明するレーティア。
「おこるはずって、なに? あんたは預言者かなにか?」
そう噛み付くのはキャロル・キリング。
軍産複合体を支配するキリング財閥の令嬢。ガメリカ共和国の真の支配者、若草会の1人でもある。
「ただ異世界の経験によって
「救助? 囚われの先が変わっただけよ」
レーティアの予想よりも早いガメリカのCOREの開発を知り、COREが暴走するきっかけとなるキャロルの拉致をマインに指示したが間に合わず、COREの反乱が勃発。
その後に彼女を確保、Uボートにてドクツまで連行した。
「少なくともドクツは捕虜を陵辱したりはしないぞ。あのままCOREに捕まっていたらお前はどうなっていたかな?」
「くっ」
COREに捕まった人間たちの扱いが酷いのはキャロルの耳にも届いていた。
特に、キングコアを倒し新たな首領となったグリーンコアは、女性は全て自分のものと公言。捕まえた女性たちを弄んでいる。
「私が止めたかったCOREの反乱の首謀者はキングコアのはずだった。が、グリーンコアでも僅かにマシな程度で世界中に狂気を撒き散らしている」
「……そうね」
その原因が自分にもあると知っているキャロルの表情は暗い。
「COREは人工知能などではなく、犯罪者の脳を使用した物だ。そんなものを使うからこんなことになるんだ」
「人型機動兵器なんてナンセンスな物を使ってるあんたには言われたくないわ」
ガメリカ軍は兵器の性能を飛躍的に高める人工知能としてCOREを大量投入、日本軍に対抗していた。
そのCOREが反乱した。
兵器のコントロール系をCOREに依存していたガメリカ軍はまともに機能せず、被害は拡大。
グリーンコアの下で軍を編成したCOREはガメリカ各地を制圧下に収めた。
「やつらはCORE生産ラインを確保し、捕らえた人間や解放した犯罪者をCOREへと改造して仲間を増やしている」
ワープゲートならぬポータルによってドクツへと移動し、CORE対策会議へと参加している仲帝国首脳陣。その詠からの情報。
「元エイリスの星域にもCOREが出てくるようになっている。あたしが蹴散らしたけどな」
会議室に入室しながらそう発言したのはドクツに敗れたエイリス王家の姫、マリー・ブリテン。
だが、彼女は以前のマリーではなかった。
エイリス帝国を破ったレーティアがマリーに会った時に彼女の状態に気づいたのだ。
「翠、もういいのか?」
「ああ。まだよくは理解できてないけど、あたしがマリーで馬超なのはなんとなくわかったよ」
レーティアの問いに頷きながら答える彼女の髪は長く、ポニーテールになっている。
「まさか翠がエイリスの姫と融合してるとはのう」
「中の人が同じせいですかねぇ?」
美羽と七乃がひそひそと話す通り、マリー・ブリテンは馬超と融合してしまっていた。外見は完全に彼女たちの知る少女だ。
だが、外見と違い中身は彼女たちの知る翠ではなかった。
「まあ、異世界のもう1人のあたしってのがレーティアたちと同じやつと結婚してるってのは信じられないけど」
「別に信じなくてもかまわんが、そんな嘘をつく必要もないだろう」
「それもそうなんだけど、あたしが結婚ってのがさぁ」
赤い顔でぽりぽりと頬をかく翠マリー。
「結婚? 異世界? そんな妄想にミーリャを巻き込まないで!」
「妄想ではないぞカテーリン。これは現実だ」
手を握り合う幼い少女2人。そのうちの1人が翠の言葉に抗議し、もう片方が彼女を諭す。
彼女たちこそ人類統合組織ソビエトの最高委員会委員長カテーリンと親友ミーリャである。
ミーリャの救援要請を受けて、やはりマインが彼女たちを救助。ドクツへと連れてきていた。
「冥琳の方は完全に記憶を持っているようだな」
「ああ。合成されるのは2度目だ。状況もだいたい予想できる。とはいえ、またこの年齢になるとはな」
苦笑するミーリャ。その姿は以前にぬいぐるみから復活した時の幼い周瑜だった。
彼女もやはり、冥琳と融合してしまっていた。
「それが冥琳の心残り? 雪蓮や煌一を喜ばせたいって。あいつらがロリコンだからってさ」
「いや、心残りだとすれば、友を助け、共に世界を制覇する。それだろう。詠、お前と同じだ」
夫の弱みにつけこんで、との質問に自分の見解を返す冥琳ミーリャ。それを予想してたのだろう、質問側の反応も「やっぱかぶってたか」と呟く程度。
「中の人が同じでちっこいだけなら、イタリンのユリウスもいるのじゃ」
「
ぱちぱちと拍手して美羽を讃える七乃。
その光景にキャロルはキレる気力も消え失せて大きくため息。
「……カテーリンたちはCOREに殺されたって聞いたんだけど?」
「ああ、貴様らのCOREによって祖国は蹂躙されている。私達の生死を確認している余裕がないほどにな」
「なっ、なに言ってるのよ! COREがあんなに増えたのはあんたたちが作った収容所のせいじゃない。40歳以上や戦えなくなった人間を処分する施設。人権を無視しているわ!」
たしかにグリーンコア軍は惑星ラーゲリへ密かに侵入、収容されていた人間を解放してCOREへと改造し、その数を増やしていた。……収容所へと送られていた人間の大半は死亡していたが。
「人間の脳を部品にしてCOREを作ったガメリカに言われたくない!」
言い争いを始めたカテーリンを制止しようとするミーリャ。
「落ち着けカテーリン。収容所や秘密警察が失策なのはたしかだ。赤い石がなければ市民の反発は避けられん」
「ミーリャ……」
「後押しするだけで、赤い石によって暴走するお前を止めなかった私のせいだろう。すまない」
「ミーリャは悪くない! だって私は間違ってない! 世界を共有主義で統一するの! 神様がそのためにこの赤い石をくれたんだから!」
カテーリンの叫びとともに彼女の持った赤い石が光を放つ。
この石こそ幼いカテーリンをソビエトの最高委員会委員長にした原因。
彼女がこの石を使って命じれば、逆らうことができない。自殺しろとの命令にさえ従ってしまう恐ろしい力を持つ石。
この石が効かない人間はミーリャを入れてたった2人。
……そのはずだった。
「私の言う事をききなさい!」
「無駄だ。それは私たちには効かない」
レーティアたちが身に着けるチョーカー。彼女たち妻が寝取られない様に、魅了をはじめとした精神操作系を特に防御するよう夫によって成現されているそれのおかげでレジストできたかと内心ほっとするレーティア。
この場にいるメンバーにはそのチョーカーの機能限定版が渡され、装備されていた。
「どうして……どうして私の言う事をきかないの!?」
「無駄だと言っているだろう。それに、その石は同一種族に対して完全に支配権を得るもの。ここいる柴神には通用するはずもあるまい」
もしもの時にはマインもいるしな、とレーティアは心の中で付け加える。
「え? ……犬?」
カテーリンが指差したのはレーティアの隣。軍服を着て直立した、犬だった。
そのあまりの犬そのものな姿に、いつもはレーティアの側にいるゲッベルスも近づけない。彼女は大の犬嫌いである。
「日本の神様、柴神だ。COREとの戦いで忙しい中、対策会議のためにきてくれたんだ。すまない、失礼をした」
「いや、初めて見る者ならば、私の姿に驚くのも無理はない。それより、今の光が?」
「そうだ。これも相談したかったので御足労願った」
「ああ。カテーリン、それを渡してもらえないだろうか?」
怯えさせないようにゆっくりとカテーリンへと近づく柴神。
「い、いやよ! だってこれは神様に……」
「持ち主まで精神を操作されている? これは、まさか……」
カテーリンの様子にぶつぶつと呟く柴神。
冥琳は暴れだしたカテーリンを抑えようと抱きしめる。
「カテーリン、その赤い石を捨てろ」
「ミーリャ?」
「かわりに私は……くまたんを捨てる。カテーリンに大事なものを捨てさせるのだ。私も捨てなければ対等とはいえないだろう。だが、私にとって大事なものなど、カテーリンとくまたんしかない」
「わ、私とくまたん? ……ぬいぐるみと同レベルなの?」
共有思想のために独占は禁止だからと注意してるのに、いつも部屋に置いているぐらいそのぬいぐるみを気に入っているミーリャがそれを捨てるという。
それぐらいミーリャは赤い石を捨てさせようとしているとわかって、カテーリンは苦悩する。
「あらあら、その子とぬいぐるみだけですかー。孫策さんが聞いたらなんと言いますかねぇ」
「あいつなんて絶対泣くわよ」
七乃と詠によるツッコミも冥琳はスルーするが、美羽とカテーリンが反応した。
「そ、孫策じゃと?」
「孫策? 誰よそれ?」
「そうですねー。お嬢さまがこんなにガタガタブルブルしちゃうぐらい怖ーい人ですよー。小さい子が大好きで、このままあなたがその赤い石にこだわっていたらミーリャちゃんも取られちゃうでしょうねー。あ、もう手遅れでしたっけ?」
微笑みながら脅してくる七乃に、カテーリンの目が潤み出す。
「そ、そんなのいや……」
「安心しろ、ずっとそばにいるから。……石を捨ててくれる?」
「うん……う、ううっ」
カテーリンを抱きしめながら優しく背中を叩く冥琳。ついに泣き出してしまったカテーリンの手から赤い石が落ち、彼女は意識を失った。
「これは孫策さんと会った時が楽しみですねー」
「あんた、ホントに性格悪いわね」
「恐怖に打ち震えるお嬢さま、可愛いなぁ」
詠が呆れた目で見ているが気にせず七乃は自分の台詞で怯えだした美羽を堪能する。その姿にゲッベルスは自分と同じにおいを感じるのだった。
「雪蓮はここにいないから安心しろ美羽。もしいてもお姉ちゃんが守ってやるから」
「ほ、本当かの?」
「ああ。ゲッベルス、カテーリンを医務室へ」
「え、ええ」
赤い石を拾った柴神に近づかないようにカテーリンを受け取ると、ゲッベルスは会議室を出て行く。
「その赤い石の出所はたぶん、別の宇宙」
美羽をだっこ中のまま、話を続けるレーティア。
その言葉に柴神の耳と尻尾が過剰に反応するが、キャロルはそれに気づかずに問う。
「別の宇宙? さっきの異世界ってやつ?」
「いや、たぶん違うものだ。これを見てくれ」
会議室のモニターに表示される異形の生物。なにかの幼虫のような芋虫に人面をつけた醜悪な造形にモニターを見る者も嫌悪感を感じる。
「これは?」
「ドーラ教が崇めていた神、ドーラだ」
「処分したのだろうな! あれは人類にとって害をなす存在だ!」
「ぴぃっ!」
急に声を荒げり詰め寄る柴神。
レーティアになでられ、やっと落ち着いた美羽が再び涙目に。
「ちゃんと処分したよ。それこそ念入りに。……やはりラムダスを知っているのだな柴神。いや、ノーブドックと呼ぶべきか?」
「ど、どこでそれを!」
「異世界での知識、とだけ言っておこう。ラムダスは強力な思念波で人類を操る。その石に似ているとは思わないか?」
柴神からの返事はない。
「この宇宙と、ラムダスのいる宇宙はホワイトホールで繋がっている。ホワイトホールの近いソビエト星域で赤い石が拾われたのもそのせいだろう」
「そこまで知っていたか」
「いずれ、こいつらと戦わねばならない。そのためにもCOREなんかにてこずってる場合じゃない」
「そうは言うけど、ガメリカとソビエトのほとんどを制圧されて仲帝国と日本は危機的な状況なのよ」
レーティアの決意に詠が水をさす。ガメリカ、ソビエトの両CORE星域に挟まれた日本や戦力のあまり充実していない仲帝国はかろうじてCOREの攻撃を防いでいるという状態だった。
「スパイが手に入れた情報によればCOREに味方する人間もいる。命乞いのために資金や軍艦を提供している富豪もいるようだ」
「グリーンコア軍の中でもやたらに強い指揮官、キャプテン・ブラッドも人間のようなのじゃ!」
やっと落ち着いた美羽が告げた敵将の情報をレーティアが補足する。
「デーニッツからも聞いている。キャプテン・ブラッドと名乗っているが……キャロル、お前の姉だ」
「な! ちょっと待ってよ! 姉さんは死んだのよ!」
「実は生きていた。記憶喪失のようだがな。本名はスカーレット・東郷。日本の東郷長官の妻だが……柴神、このことは東郷には秘密にしてくれないか? 彼が知れば無茶をするだろう」
レーティアの知っている東郷も無茶をして妻を取り戻していた。だが、スカーレットなら記憶を失っていたとしてもCOREに従うなど余程の事情があるはず。その無茶も無駄になる可能性がある。
「……たしかに。彼を失えば日本ももたないだろう。だが、本当なのか?」
「姉さんじゃないわ。記憶喪失になっているからって、姉さんがCOREの味方なんてするはずがないわ!」
「残念ながらお前の姉だ。グリーンコアは手段を選ばない卑劣な男。人質をとられているんじゃないかと私は見ている。彼女が味方になってくれればいいのだが」
レーティアの読み通り、キャプテン・ブラッドは大富豪ズオルフ・マフェットの指示だからというだけでなく、家族とも慕うコロネア・ビショップを人質にされ、仕方なく従っていた。
「人質……。グリーンコアのことにも詳しいようね?」
「ああ。私の予測では、やつの正体は元寇をおこすはずだった男だ」
元寇。
大帝国のイベントの1つ。
北京とモンゴルのワープゲートが繋がり、そこから元が現れ、中帝国だった星域を制圧する。
遊牧民である元の首都に相当する旗艦オルドカオス。艦橋にいる族長、その名はランス・ハーン。
ランスシリーズの主人公本人である。
「ランス・ハーン?」
「私はランスがグリーンコアの正体だろうと考えている。なんでガメリカにいたのかはわからないが、犯罪者として捕まり改造されたのなら納得がいく。やつの別名は鬼畜王」
「鬼畜王か、なるほど。そのグリーンコアだが支配星域でなにかを探させている。女性を集めるのが最優先だが、それ以外にもなにかを」
グリーンコアの正体に頷きながら冥琳はスパイの情報を追加する。
「グリーンコアの周囲にピンクの鬣の馬がいなければ、それだろう」
「馬?」
「そうだ。名前は神馬。ランスの暴走を止める唯一の……いや、若干抑える程度か、の存在だ」
「でしたら、神馬が見つかったと偽情報を流せばグリーンコアを誘き出せるかもしれませんねー……あれ?」
発案しながらもビニフォンで先程撮影した美羽の泣き顔を編集中の七乃が変な声をあげた。
「どうした?」
「ビニフォンで連絡できる人が増えてますねー。梓さんです」
「なんだと!」
自分もビニフォンを出して確認する煌一の妻たち。
「本当だ。すぐに連絡を……梓か?」
レーティアがビニフォンで電話するとすぐに相手が出る。
『ああ、そっちはレーティアか? ここはどこだ?』
「そこは……日本? 待ってろ、今ポータルを開けるからこっちにきてくれ」
『それはちょっと無理だ。連れがいる』
「連れ?」
ポータルで移動できるのは使徒かファミリアのみ。そうでない者を連れているということが梓との会話でわかった。
「それなら私が会ってきます」
「月?」
梓のビニフォンをビーコンとしてレーティアが開けたポータルに月が入り、続いて詠が慌ててそれを追う。
ポータルを抜けた先は信じられないような光景が広がっていた。
「なにこれ? この壁、生物みたいね」
「大怪獣の中かな?」
大帝国世界で暮らすことで詠も月も巨大宇宙生物、大怪獣とそれを人間が操れることを知っていた。
「大怪獣? いや、ヨークだよ」
「梓?」
「久し振り」
そう微笑む梓の背後には数名の人間の姿があった。