今回はヨーコ視点
以前に活動報告にあげたものとほとんど同じです
「えっ?」
目の前の状況に混乱する。
焦げたにおいをさせて男が倒れていた。そして、その周りに驚いた表情を見せる戦友たち。
……戦友たち?
なんで彼らがいる? それにここは?
頭を振って混乱を振り払う。
今はまず状況を整理しなければ。
あたしはヨーコ。
元は『天元突破グレンラガン』というアニメの登場人物の
それがとある使徒の能力で人間になった。
ふざけた話だが真実のようだ。
人形に戻るのも嫌だったので、その使徒のファミリアとして契約。協力している内に彼と結婚することになってしまった。流されたという自覚はある。
その後もいろいろあって彼の担当する世界の救済にむかい、グランゾンというロボットと戦っていたはずだけど……この状況は……失敗したのかしら?
「おい、キタン!」
「だ、だいじょうぶか?」
倒れている男を戦友たちが心配している。
戦友たち――双子の巨漢ジョーガンとバリンボー、職人肌で口数の少ないマッケン、煙草を咥えてガラの悪いゾーシィ、すばしっこいキッド、ちょっとすかした二枚目のアイラック、責任感の強い少女ダリー、その双子の兄ギミー。奥に座っているのはマッケンの奥さんでメカニックのレイテ。
そして、倒れているトゲトゲした金髪の男はキタン。
みんなグレンラガンの登場人物だ。あたしは夢でも見ているのだろうか?
それともあたしのように、夫がみんなを人形から……?
「どうなってるの?」
「ヨーコの首からバリバリーっと雷みたいなのがキタンにとんでった」
言われて自分の首に手をやる。指先に触れるチョーカー。嫉妬深く独占欲の強い夫がつけた貞操帯。夫以外の男性が過剰なスキンシップをしようとすると攻撃をする機能を持つ。
あたしたちを信じてると言いながら、その夫によって機能は度々強化されている。
彼が言うには「ゼウスみたいなのがいたら危険だから」らしい。
チョーカーが発動したということはキタンがあたしに不埒なことをしようとしたということだ。
はっとして周囲を見回す。
薄暗い照明でわかりにくいが、ここは……。
「超銀河ダイグレン……」
そうだ。キタンがあたしにそんなことをしたのはたったの一度だけ。彼の最後の直前。
「い、いってえなにが……?」
目を覚ましたキタンがあたしを指差した。懐かしい声で発したのは驚愕の台詞。
「ヨーコが縮んじまった!」
「なによ、縮んだってのは!」
「だって、なあ」
「服も昔のだ」
「昔のだ」
ジョーガンとバリンボーの双子も顔を見合わせる。
……どっちがどっちだったかしら?
「しゃあないやろ、こん場面でのヨーコ姐さんはもっと育っとんはずやし」
「真桜!」
声をかけてきたのはあたしと同じく使徒のファミリアとなった少女。
あたしは超銀河ダイグレンに乗っている時はもっと成長していた。真桜の言うことは正しいわね。今のあたしは戦友たちにしてみれば7年前の姿なのだから。
見慣れない人物の出現に戦友たちがざわめく。
「誰だおま……なっ! ヨーコ級だと!?」
「今のヨーコよりデカいんじゃないのか?」
「どこを見てんのよ! 彼女は真桜。あたしの仕事仲間」
本当はそれだけではない。真桜もあたしと同じく使徒の妻となっている。
つまり、同じ夫を持つ妻仲間よ。
あたしの方が先に彼と結婚したので、真桜はあたしのことを「姐さん」と呼んでいる。
「ここがグレンラガンの世界ならウチも見たいもん多そうなんやけど、今はそないなこと話しとる場合やないやろ?」
真桜もグレンラガンを全話観て劇場版も鑑賞済みだからそんな結論になったのね。
彼女は機械関係が大好きなメカニックで、自分自身もドリル槍を武器にしてるからドリルガンメンのグレンラガンを調べたいのだろう。
けれどキタンの状態を考えるに、現在この超銀河ダイグレンは危機的状況に陥っているはず。
銀河螺旋海溝のデススパイラルマシーンを破壊できなければこの艦は沈む。
「そうだったわね。キタン、あんたのスペースガンメンちょっと借りるわよ」
スペースガンメン用の超螺旋弾を使うにはあたしのバルキリーじゃ小さすぎるのよ。それこそマクロス級でもまだ足りないわ。
「なっ、どういうことだよ!」
「あたしなら死なずに戻ってこれる」
言いながら、夫が聞いたという
まだチョーカーの攻撃による痺れが抜けず満足に動けないキタンを残し、あたしはキングキタンのコクピットへ。
「時間があればGXギア対応にしとくんやけど」
「デススパイラルマシーンぶっ壊してる間にあたしのガンメンをそうしておいて」
「了解や!」
スタッシュからあたしのGXギアを取り出して真桜に渡した。スタッシュホールを見てキタンたちが驚いているわ。
オリハルコンを使用したGXギアを使えばスキルや
開発や整備のスキルレベルの高い真桜の腕なら短い時間で改造してくれるわ。
◇
超螺旋弾を搭載したキタンのスペースガンメン『スペースキングキタン』でデススパイラルマシーンに向かう途中でふと気づく。
「これは……SR?」
スペースルックverと書かれた1枚のカードがあたしの胸の谷間に挟まっていた。ファミリアカードか。
「この世界のあたしね。……ここはまかせて。絶対にみんなを死なせないから!」
異世界のあたしに誓ってから、カード収納機能も持つ結婚指輪にしまった。
「あ、ごはんの用意も頼んどくんだったわ」
ため息まじりに呟いて、スタッシュからあるものを取り出す。こんな時のために夫が用意していてくれたアイテム。
「まさかこれを使うことになるなんてね」
苦笑しながらその大きめなコンパクトを開き、同じく収納空間から取り出した緑色のデコルをセット。
『READY?』
そのコンパクト、スマイルパクトからの始動音声に合わせてあたしも変身の言葉を発する。
「プリキュア、スマイルチャージ!」
『GO! GO! GO! Let's Go March!』
スマイルパクトが跳ねて光を振りまいていく。
最後にパフを使って変身はおわった。
座席に座りながらなのによく変身できると我ながら思うわ。
「勇気凛々、直球勝負! キュア……っと、そこまでの名乗りはいいか」
あたしはキュアマーチそのものではないのだし。こんなことなら名前も考えておけばよかったわね。
キュアスナイパー、それともキュアヨーコ?
「ヨ、ヨーコさん、その格好は?」
「やばっ! なっ、なんかカメラの調子が悪いみたいね」
ダリーの通信で慌ててコクピット内のカメラを殴って破壊する。この姿のあたしなら素手でも余裕。手も傷めない。
「まいったわね、見られちゃったか」
まあ、こっちのあたしの年齢で
「っと、そろそろね。気合入れないと!」
バシンと両頬を叩いてから
変身して能力の上がったあたしの技をくらいなさい!
「うおぉぉぉぉー!」
あたしが貫通効果をこめた技による超螺旋弾で螺旋変換フィールドを破壊、その後に放ったヨーコシュートの乱れ撃ちでデススパイラルマシーンを撃破することに成功したわ。
「すげえぜヨーコ!」
音声のみの通信による歓声で慌てて変身を解除する。
「ふう……お腹空いたわね」
あの姿の欠点の1つに燃費の悪さがある。夫いわく「なおちゃんは腹ペコキャラだから」なせいかもしれない。いや、きっとそのせいだろう。夫がそう設定したに違いない。
◇
あとはグレンラガンのストーリーとだいたい同じ。
精神防壁スキルを持つあたしと真桜にはアンチスパイラルの罠が効かなかった。夫の用意した
クライマックスではキングキタンまで天元突破したりしたけど、ほとんど記憶と同じに戦いは終わった。戦友たちが無事に生き残ったからここはあたしの記憶にある世界とはちょっとだけ違う。劇場版の世界なのかもしれないわ。
「ヨーコさん、ごめんなさい……」
あたしの回復魔法で治療中のニアが謝る。自分が完治しないことをあたしに悪いと思っているようだ。
「もういいのです」
「なにを達観してるのよ! あたしは諦めてないんだから!」
アンチスパイラルの消滅によって、彼らに造られたニアも消え去ろうとしていた。
エリクサーも効かなかった彼女は諦めてしるのかもしれないが、あたしはそれをくい止めたい。たぶんこれも心残りなのだろう。
カミナの死を防げる場面でなかったのは、2面で元気なカミナに会っていたからだろうか?
それとももしかしたら、焼きもちやきの夫が会わせてくれなかったのかも。
「真桜、煌一とはまだ連絡つかないの?」
「まだや。なんとかこっちの通信機とビニフォン繋ごうしとるんやけど、他の世界まで届いとるんかわからへん」
「そう……」
「まあ、その方がヨーコさんたちの?」
夫の名にニアが目を輝かせる。自分の消滅が近いというのに。
「ええ。使徒ってのを仕事にしてるわ」
「ヨーコや真桜だけじゃなくて他にも嫁さんいるんだろー? 兄ちゃんが会ったらそいつ絶対にぶん殴るぜ」
いつの間にかキタンの末の妹のキヤルが混じっていた。
「カミナも似たようなことしたらしいわね」
「カミナさんと会ったというのも信じられません」
ダリーまできたのね。
キヤルもダリーも女の子らしくこんな話は好きだものね。
治療のはずが女子会になってしまったけど、かまわないわ。ニアが少しでも生きたいと思えるように夫との惚気話を大盛りで話す。
「その方に会ってみたいですわ」
「会えるわよ」
煌一と会えればニアは助かる。
夫の固有スキル
「だいじょうぶや、ヨーコ姐さん。隊長はきっと間に合う。悲しい話は大嫌いなお人やからな」
「そうね。間に合わなかったら泣かすわ」
でも煌一なら間に合わなかったと知ったら勝手に泣き出すわね。
間に合っても嬉しさで泣きそう。
じっと結婚指輪を見つめる。こういう時に役立つって言っていたのに……!
「真桜! 指輪よ!」
「え? ……あ!」
ニアのことばかりですっかり失念していたわ、この指輪の機能。真桜もガンメンのスキャンに夢中で忘れていたみたね。
急いで結婚指輪を変形させる。大きな宝石、プシュケーハートが現れ、その真の力を解放する指輪。
さらにスワップアプリでGXギアを着装した。
「またヨーコさんが変身した?」
「GXギアはな、サウンドエナジーシステムも内蔵しているんや」
あたしのGXギアと通信機をケーブルで繋ぎながら真桜が解説する。
「サウンドエナジーシステム?」
「歌の持つ不思議な力を強化すんスゴイ機械や!」
稼動させるには強い歌エネルギーが必要なんだけどね。……あたしはまだ稼動させたことはない。
「すっげーな、それ! けどよ、歌ならオレもちょーっとすげーぜ」
親指で自分を指差すキヤル。
煌一に見せてもらった漫画版グレンラガンでは、彼女はアイドル歌手になっていたわね。あの漫画では最終決戦でキングキタンをキヤルが天元突破させていたわ。
「そうね、キヤルにも手伝ってもらいましょ」
「せやな」
真桜がスタッシュからサウンドエナジーシステムのジャケットを取り出してキヤルに装備させた。
「いい? 思いをこめて、歌うのよ」
「まかせとけって」
煌一、早くきなさい。
きてくれたら、あなたが見たがった裸エプロンをやってあげるから!