大有双   作:生甘蕉

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23話 油断再び

 俺の嫁さんである唯ちゃんから緊急通信。

 彼女は“あっぱれ! 天下御免”のヒロインの1人だったのに“マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス”の篁唯依(たかむらゆい)になっちゃっていると言う。

 

 シエスタのひい爺さんが白銀武だったからアンリミテッドの何十年後かと思っていたんだが……白銀武が異世界に行ってしまったことにより死亡扱いとなって世界リセットされた?

 そうなると2001年スタートになるはず。さらに何度か世界リセットされているんだろうか?

 

『日本にBETAが上陸してる。ボクたち訓練生ももうすぐ初陣! 緊張と薬のせいかなんか自分が子住唯(ねずみゆい)で、お兄ちゃんのファミリアだってことを思い出したんだよ!』

 

 その状況だと1998年だったような。

 あまり年数に自信はないけど、アンリミやオルタよりも前の話なのは確かだ。

 

「わかった。なんで篁唯依になってるのかはよくわからないけどすぐ行くよ!」

 

 たしか京都防衛戦では篁唯依は生き残るけど他の訓練生や恩師が死んでしまう。そんな唯ちゃんのトラウマになりそうなことは避けたい。

 唯ちゃんが生き残る保証はないし状況もよくわからないけれど、すぐに合流しなければ。

 

『うん! すぐそばにポータル()いたよ!』

 

 唯ちゃんのビニフォンをマーカーにしてポータルを開いた。ちゃんと繋がったようだ。

 そのポータルの輝きを見てルイズも状況を察したらしい。

 

「い、行っちゃうの?」

 

「嫁が大ピンチだからね」

 

「わ、わたしも行くわ! コーイチはわたしの使い魔なんだからっ!」

 

 そんなことを言われても困る。

 むこうは危険すぎるし、こっちに戻ってこれるかもわからない。

 今は偶々どっかで世界扉(ワールド・ドア)が開いていてあっちと連絡できているだけかもしれないのだ。ワールド・ドアが閉じたら戻れない可能性だってある。

 

「これから俺が行くとこは化け物が犇く戦場だ。ルイズを連れて行くことはできない」

 

「妾はともに行くぞ、(なれ)の所有物だからな」

 

 ニヤリと笑うアル・アジフ。

 その言葉にルイズが反応する。

 

「ちょっと、所有物ってどういうことよコーイチ!」

 

「彼女は魔導書で……ってそんな説明している時間もない。しかたない、ちょっと離れてくれ」

 

 スタッシュから仮設シャワールームを出して中に入り〈分裂分身〉を行う。ここに入ったのはできたての分身は裸だからだ。

 

「コーイチ! なにしてるのよ!」

 

「ちょっと待ってってば」

 

 スワップアプリで早着替えしてすぐに出る俺たち。

 2人の俺に驚くルイズたち。

 

「コーイチが2人……偏在(ユビキタス)を使えるの?」

 

「いや、これは似てるけどちょっと違う。それよりもアルと……ティスはこれを持ってついてきてくれ」

 

「あたいも?」

 

 説明している時間すら惜しいので契約空間入りの接触判定をONにしてもう1人の俺と手を繋ぎ、俺はアルにもう1人はティスに同時に触れる。

 その瞬間、景色は白一色へと変化した。

 

「うまくいったか」

 

「そうだな」

 

 もう片方の自分と繋いだ手を離す俺たち。

 一方、アルちゃんはふむと頷き、ティスちゃんは驚いた顔を見せる。

 

「ここはどこ!? 妙な異空間に連れ込みやがってあたいをどうすりつもり?」

 

「どうもしない。ここなら時間の流れが違うからゆっくり説明もできるし、俺たちの準備もできる」

 

「ここは契約空間。使徒がファミリア候補と契約する場所だよ」

 

 2人の俺が説明すると、アルちゃんとティスちゃんは自分の付近に落ちていた紙に気がついた。

 

「それが契約書でもあるファミリアシート。ファミリア名の記入欄に名前を書けば契約完了となる」

 

「なってくれると助かるけど、契約してくれなくてもいい」

 

「使徒ってなにさ?」

 

「簡単に言えば修行中の神様の手下。ファミリアはさらにその手下」

 

 俺を使徒にした神様は駄神だ、って言いそうになるのをぐっと堪える。

 2人がファミリアになってくれることを願うからね。

 ……ルイズはファミリアにしたくないのに、アルちゃんとティスちゃんにはファミリアになってほしい。この違いはまさか、まだルーンの影響が俺の精神に残っている?

 

「あたいを手下に? 誰がなってやるもんか」

 

「ティスには特にファミリアになってほしいんだけど。キミの不幸を防ぐためにも」

 

「不幸?」

 

「キミがお母さんのためにって命を落とすことになるのを防ぎたい」

 

 スパロボRだと最後、ティスちゃんたちテクニティ・パイデスの3人は造物主であるデュミナスのために自分の命を差し出すんだよね。

 ロリっ娘がそんなことになるのは避けたいでしょ、やっぱりさ。

 

「ふん、あたい達にお母さんなんてのはいないよ」

 

「デュミナスは違うのか?」

 

「なぜそれを知ってる?」

 

 可愛い顔でギロリと俺を睨むティスちゃん。

 殺気もちょっと混じっているが嫁で慣れている俺にはたいしたものではない。

 

「ファミリアになってくれたら教えてあげる。あと、そうだな、そのお母さんの悩みも俺なら解決できるかもしれない」

 

 スパロボRのラスボス、デュミナスは自分の正体、というか不完全な自分の完全体を知りたいんだよね。

 そしてその答えを知るためにタイムマシンになる時流エンジンも狙うことになる。

 俺の〈成現〉なら創造主が望んだ完全体にすることもできるし、もし殺された創造主が成仏していないなら霊と会話させることができる可能性がある。

 

「本当か?」

 

「まだ信じられないだろ。信じられるようになったら契約してくれ」

 

「おい、そのホムンクルスだけか? 妾は勧誘せぬのか?」

 

 アルちゃんが不満そうに俺を見ている。

 ……アルちゃんだとうたわれのロリっぽいな。あの子は美羽ちゃんと仲良くなりそう。

 

「もちろんアルも契約してくれると嬉しい」

 

「妾は汝抜きにはこの姿を保てぬ身。断りようがあるまい」

 

 そこまでわかっちゃってるのね。さすが魔導書。

 MPを消費して〈成現〉しているから魔法扱いってことなんだろう。

 

「それに汝はかなりの資質を秘めておる。認めよう、妾は汝と契約する」

 

 そしてアルは素早く俺の頭を掴んでぐいっと寄せて唇を奪う。

 えっ!?

 眩い光に包まれる俺たち。

 

「我が名はアル・アジフ」

 

「って、そっちの契約じゃなくて! ファミリアの契約の方!!」

 

 油断した。いくら1/6になりたててで体の感覚がちょい微妙だとはいえ、まさか再び俺の貞操が強奪されてしまうなんて!

 あとルイズの時のように舌での返礼をする気にならなかったのは、やはりあの時既に召喚魔法による精神操作があったと見るべきかもしれない。

 

「うつけ、汝のような魔力量異常体を見逃す魔導書なぞおらぬわ。さらにもはや汝以外は考えられぬほどに魔力の波長も合うのだ」

 

「まさかの魔力(カラダ)目当て!」

 

 たしかに俺のMPはとんでもないことになっているけどさあ。

 ……いいか。デモンベインに乗った時に契約してたようなもんだし。たぶんその時に隠蔽していた俺のMPにも気づいたのか。

 魔力の波長も俺が〈成現〉したせいか、それとも無意識でそう改竄していたかのどちらかが原因だろう。

 

「既に名乗っているが俺は天井煌一。契約書の方も頼む」

 

「よかろう。これで煌一は妾の術者だ。心するがよい、最高位の魔導書の主人となったことを」

 

 さらさらとファミシーに名前を書くアル。

 これであとは俺の方の準備を済ませるのみ。

 

「どっちが残る?」

 

「俺が。アルと直接契約をしたお前は行くべきだろう。武御雷も持っていけ」

 

「そうか、そうだな。デルフリンガーはどっちでもいいか」

 

 俺の準備とは、分身内でのやり取りのこと。分身して数を増やしたのは片方がハルケギニアに残るからだ。ルイズのためもあるが他にも嫁さんが出現する可能性もある。連絡要員は残す必要があるだろう。

 

 スタッシュ内の持ち物も分けておかねばならない。

 武御雷は調査の結果、なぜか生体認証システムが作動しないようになっていた。考えてみれば内部に保管されていた皆琉神威を出すさいに操作ができたのだから当然か。

 メンテナンス用の設備も適当に〈成現〉し、充電は済ませてある。まだ跳躍(ジャンプ)ユニットの推進剤は用意していないが、むこうにいけば入手できるだろう。

 

「食料類は……半々だな」

 

「ああ。薬品も多目に持っていけ」

 

 双方ビニフォンでスタッシュ内を確認しながらの会話。分身同士ならばスタッシュから出さなくてもビニフォンだけのやり取りでスタッシュ間でアイテムを移動させることができる。

 

「よし、こんなもんか」

 

「それでは予想されるむこうの情報を説明するんでアルとティス、よく聞いてくれ」

 

「あたいの契約はいいのか?」

 

「してくれるんならスゴイ嬉しいけど、契約が完了するとこの空間が解除されてしまうからちょっと待ってくれ」

 

 この空間、解除されても表の時間は進んでないんで緊急会議には便利だから自由に使えればいいんだけどね。

 アルとティスちゃんにむこうがたぶんこうなってるってことと、BETAって宇宙生物の説明をした。

 ティスちゃんは契約してくれなかった。行き先が地球だって知ったからデュミナスの元へ帰れるつもりなのだろう。

 

「あっちにお母さんがいなかったら俺のとこへきてくれればいい。歓迎するよ」

 

「妾がおればこんなホムンクルスなんぞ不要だろうに」

 

「なんだとガキが」

 

 いやどっちも見た目が幼女なだけで実際は違うでしょ。

 ……ティスちゃんはどうなんだっけ?

 

「説明したろ、あっちの敵は多すぎる。人手はいくらでもほしい。それに俺はティスを助けたい」

 

「そんな時はこねえよ」

 

 だといいんだけどね。スパロボRとは違う展開になっちゃってきてるからその可能性もあるんだし。

 

 

 □

 

 

 契約空間を解除してすぐにもう一人の俺はアル、ティスとともに旅立ち、ポータルは消えてなくなった。

 だがむこうと連絡がつくならば行き来もできるようになるだろう。

 

「なにがどうなっているのよ?」

 

「俺はまだルイズの使い魔で、ここいるってこと」

 

 ルイズを宥めていると、青い髪の眼鏡少女が近づいてくる。

 

「さっきの子が魔導書? それに巨大ゴーレムを操ったあなたは何者?」

 

「……ルイズの使い魔さ」

 

 ううむ。目を付けられたっぽい。

 どうしようかね?

 

「タバサもダーリン狙いなの?」

 

「コーイチの好みを考えると強力なライバルね」

 

 たしかにタバサも可愛いですが。

 彼女の事情を考えるとそうも言ってられないわけで。

 タバサママの症状も万能の霊薬(エリクサー)でなんとかなるとは思うけど、それやったら後がメンドそうなんだよなあ。

 いっそのこと、ガリア王と話をつけてしまうか?

 

「魔導書なんて言って誤魔化さないで、どういう関係かはっきり言いなさいよ! ……奥さんじゃないのよね?」

 

「私の知ってる限りはコーイチの奥様にはいなかったはずよ。彼女もコーイチの好みだろうけど」

 

 さっきからモンモランシーの追撃が厳しい。そんなに俺をロリコンにしたいの?

 

 そうだよ!!

 でも最近は嫁たちのおかげでロリ専じゃないから!

 おっきいのもアリだから!

 

「本当にアルは魔導書なんだよ。本の精霊だと思ってくれればいい。魔術師(マギウス)と魔導書が揃って、さっきの鬼械神(デウス・マキナ)を操ることができる」

 

 デモンベインは正確には鬼械神じゃないらしいけどね。

 本物の鬼械神のアイオーンは1/6になってしまった俺じゃちょっと厳しいか?

 まあ、武御雷も持ってったし、なんとかなるでしょ。

 

「本の精霊……」

 

「ルイズの魔法の助けになるかなって考えていたんだけど……やっぱり杖の方がよかったかな?」

 

「わ、わたしのため? ……え、ええ。あんなヘンなのより、杖の方がいいわよ」

 

 よし、ルイズの虚無属性を無効化させる杖を〈成現〉しよう。これなら爆発もしないだろう。ルイズ以外に使えないように設定するとして、どれにするかが問題だな。

 無難にレイジングハートかバルディッシュかな?

 こっちじゃ杖無しの魔法は目立つから俺用にデュランダルを用意しておくのもいいかも。

 

 俺たちの会話にR勢の残った2人が交じってきた。

 そりゃ気になるよね。

 

「ここには魔法があるの?」

 

「そう。あの2つの月からもわかるようにここは地球とは違うし、もう1人の俺が行ったとこもキミたちの地球ではない。帰還するための情報は集めている最中だから、一緒に帰ろうね」

 

「は、はい。……よろしくお願いします」

 

 フィオナとミズホはとりあえずは宿に泊まってもらうとして、生活費をなんとかしないとな。

 フーケのこともあるしなにか商売を……出したままだった仮設シャワールームが目に入った。

 そうだな、湯沸し機でもコルベールに構造を説明して作ってもらって、風呂屋というのも悪くない。

 入浴剤はモンモランシーに協力してもらえばいいだろう。

 最悪、時流エンジンで湯を沸かせば……いや、エクサランスはしばらくスタッシュにしまっておいた方がいいか。

 

 あとはせっかくだからドリルも用意してもらおうかな。

 風石を掘り出すためのさ。

 

 

 □ □ □

 

 

 ポータルを抜けるとそこは地球だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「唯ちゃん!」

 

 とびついてきた唯ちゃんを受け止めて抱きしめる。

 うん、俺の唯ちゃんだ。篁唯依ではない。

 黒髪や巨乳さんではないのだ。

 

「こんなにあっさりと異世界に転移してしまうとは」

 

「おい、なんだよここ?」

 

 アルとティスちゃんが感動の再会に水を差す。

 空気を読んでもう少し黙っていてほしかった。

 せめてキスなりをするまではさ。

 

「お兄ちゃん、ちょっと離れた間にもう新しい嫁の追加?」

 

「なぜそうなる。新ファミリアとその候補なだけだ」

 

「またまた、そんなこと言って。ねえ、2人ともお兄ちゃんと離れるつもり、ないんでしょ?」

 

「如何にも。もはやこの身はご主人様抜きではいられぬ」

 

 たしかにアルもMPで〈成現〉したから俺が成現時間延長しないといけないけど、言い方ってもんがあるでしょうが!

 

「ん? なんであたいが嫁ってことになんだ?」

 

「こっちは違う? でもまあきっとなるんだよね」

 

「いや、ティスはファミリアになってくれるかさえ未定なんだってば」

 

 なってくれると嬉しいんだけどね。

 それよりも俺はこの世界にきた途端に感じるものがあって。

 

「ここには他の俺はいないのか?」

 

「え? 連絡がついたのお兄ちゃんだけだったんだけど」

 

「そうか」

 

 なんか他の分身がいるような気配がある。

 でもちょっと違う?

 テレパシーで呼びかけてもハルケギニアに残してきた方からしか返事が返ってこない。

 なんだろう?

 テレパシーが使えない状態?

 

 まあいいか。

 それよりも今は唯ちゃんの衛士強化装備に注目するべきである。

 訓練生用のスケスケタイプなのだ!

 嬉しいけど俺以外のヤローにもこれを見られると思うと複雑。

 

「出撃は近いのか?」

 

「……うん」

 

「わかった。やばくなったら俺が乱入するから適当に誤魔化してくれ」

 

「それはまかせて!」

 

 そんな感じでこっそりと唯ちゃんたちを支援しようと初のマギウススタイルになってちびアルとともに隠れて見守っていた俺。

 ティスちゃんはデュナミスに会いに行くって行ってしまった。この世界にいるのかな?

 

「あれがBETAか」

 

「リアルで見ると余計に気持ち悪いな」

 

 SANチェックが必要な見た目だ。数も無茶苦茶多い。

 こりゃもう目立つの覚悟で隠さずにデモンベイン乗ってた方がよくないか、なんてそう思ってたらさ。

 

「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

 なんで飛影がいきなり出てきてBETAを惨殺していくのさ?

 まさかこのまま戦術機と合体しないだろうな……。

 

 


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