大有双   作:生甘蕉

25 / 49
25話 白銀武

 マブラヴシリーズの1998年7月31日に始まる京都防衛戦。

 BETAに西日本を制圧され、本州中部への侵攻を防ぐための戦い。

 1ヶ月近く激戦が繰り広げられるが結局、京都まで制圧されてしまう。

 

 唯ちゃんたち嵐山補給基地警備中の学徒兵も多くがこの日の夜の戦いで命を失うはずだったのが現在、謎の小型機飛影の乱入により死の8分間は余裕で突破して無事、という大幅に違う状況となっていた。

 

「飛影って実際見ると小さいなあ」

 

 細身なせいもあるけどATよりも小さく見える。

 そんな小型機が空中で光線(レーザー)級の光線をありえない機動で回避し手裏剣で的確に反撃。鎖分銅で自分の何倍も大きい要撃(グラップラー)級を振り回し、突撃(デストロイヤー)級の群れはマキビシランチャーをばら撒いて一気に殲滅していくのだから、ニンジャリアリティショックが多発するのも当然というところだろう。

 

『あの大きさ、強化外骨格?』

 

『なにあれ、空中で消えた?』

 

『そんなちっちゃい銃で突撃級の装甲が……一撃ぃ?』

 

『違う、撒菱(まきびし)は直接当てるものじゃない!』

 

 全開放(オープンチャンネル)の通信機から流れてくるのはそんな声ばかりだ。

 隊長クラスになると正体や所属を問い合わせていたりするようだが。

 

「妾たちの出番、あるのか?」

 

「うーん、現場が混乱しちゃっているからデモンベインはちょっとマズイかも」

 

 この上さらに謎の巨大機の出現なんて混乱に拍車をかけるだけだ。

 かといってこのままだと浮き足立った学生に犠牲者が出るかもしれん。

 ならば仕方がないか。

 

「アル」

 

「うむ」

 

 アル・アジフの力を受けてマギウススタイルになった俺はスタッシュから武御雷を出してちっちゃくなったアルとともに乗り込んだ。

 マギウススタイルになったのは副座ではないのでアルと同乗するためと衛士強化装備の代わりである。真桜がいればコクピットをGXギアに対応させてもらうんだけどね。

 

 武御雷は唯ちゃんに頼んでこっそりと跳躍(ジャンプ)ユニットの推進剤補給も済ませている。網膜投影のヘッドセットも借りたので稼働に問題は無い。

 ……これのために眼鏡を外すことになってしまった。眼鏡以外の祝福封じ装備があるから大丈夫なはずだがかなり不安だ。

 一応、唯ちゃんのこっちの同級生に眼鏡なしの顔も確認してもらったが嫌悪感はないと言っていたのでそれを信じるしかない。

 もしかしたら1/6になったことで呪いも1/6になったのかも?

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

「ボクの婚約者だよ。かっこいいでしょ」

 

「なん、だと」

 

 篁唯依のライバルで親友の山城上総(かずさ)には睨まれてしまったが、これは祝福(のろい)のせいではない。

 同じく友人の能登和泉、甲斐志摩子、石見安芸からは色々と質問を受けそうになったが戦時ということで戦いが終わったらと誤魔化した。

 

 

 △ △ △

 

 

「あの子たちを死なせるわけにはいかん」

 

「女子の前でいいかっこをしたいだけではないのか?」

 

 網膜投影装置はないが、なぜか外の様子がわかるらしいアルはそう言いながらも周囲の警戒中で俺のサポートをしてくれている。……まるでダンバインの妖精枠だな。

 

「こいつらマジで危険なんだってば。数もやたらに多いし」

 

 飛影が討ちもらした突撃級BETAの突進。それが学生たちを襲わないように斬り伏せる。

 突撃級はやたらに強固な装甲殻を持ち級名のとおりの突撃を得意とするが、武御雷の74式近接戦闘長刀にて装甲殻ごと突撃級を横一文字斬り。見事に真っ二つである。刀の勢いを殺さぬままに数体の突撃級を次々とスライスしていく。

 この戦術機用の長刀も武御雷と一緒に保管されていたものだが、もちろん固定化の魔法がかけられており、若干強化されていると言ってもいい。

 

「こうも戦えるとは……ルーン消さない方がいいか?」

 

 高性能でも操縦に慣れてない戦術機、しかも1/6に弱体化してしまった俺がこうまで戦えるのはマギウススタイルで強化されているのと、ガンダールヴのルーンあってのことだろう。

 

『あ、あれは武御雷? もう完成していたのか?』

 

『紫? ……え、えええっ!?』

 

 一部さらに混乱が広がってしまったようだ。謎の戦術機はともかく、紫はまずかったか。

 それを唯ちゃんがフォローしてくれる。

 

『落ち着いてみんな! あの戦術機と小型機は斯衛軍でも極秘の隠密部隊!』

 

『隠密部隊? で、でもなんで紫なのよ!』

 

『あれは影武者。そう、影将軍! 影武者とはいっても将軍の前で無様な姿を見せるつもり? ボクたちの力を見てもらうんだよ!』

 

 すらすらと適当なことを言うのはさすが快盗というべきか。……怪盗の方だっけ?

 というか隠密部隊って飛影も一緒の扱い? まさか唯ちゃんもそう認識してるんじゃないだろうな。

 

「あのニンジャロボと通信が繋がったぞ」

 

『何者っ!?』 

 

「いやこっちの台詞なんですが」

 

 アルがなんとかむこうとの回線を開いてくれた。

 

『敵ではないのか』

 

「BETAなわけがないだろう。それとも他に敵がいるのか?」

 

『……危険なやつがいる。どうやら学生たちはこっちを誤解している様子。誤解ついでにこのまま共闘といきたいがいいか?』

 

「了解。身体がもつようならそっちはそのまま光線級を重点的に狙ってくれ。俺は学生たちを護る」

 

 飛影は無人で戦っているわけではないようだ。だとすれば身体に負担がかかるって設定あったよな、たしか。

 通信しながらも光線級がしとめられていくのでその心配はないのかもしれんけどさ。

 

『そこまで知って』

 

『大阪に小型機が多数出現! 黒の騎士団を名乗り、BETAと交戦中!』

 

「……トビカゲ=サン、これ知り合いか?」

 

 黒の騎士団ってあれだよな。

 小型機ってことはナイトメアフレーム(KMF)か?

 

『一応。こいつはたぶん敵じゃない』

 

「こいつは、ってまだ他にもいるのか?」

 

『どうやら来たようだ』

 

 俺の〈感知〉にもまたBETAや戦術機とは別の反応が引っかかった。

 今度は戦術機と同じくか大きいぐらいだがビーム兵器を装備している機体だ。

 

「ヘビーメタル? ってエルガイムMk-IIじゃないか!」

 

 エルガイムMk-IIとエルガイム、それに赤いディザードの3機のヘビーメタルが現れ、やはりBETAをがんがん倒していく。

 そういやディザードも飛べたっけ。もしかして光線級がいなくなるのを待っていたのか?

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 付近からBETAがいなくなったので嵐山補給基地に戻って謎の勢力とご対面。

 この基地もモビルスーツ(MS)部隊が出現し無事だった。しかもその母艦はエターナルときたもんだ。

 ガンダムSEEDかよ!

 

 見つからないように素早く武御雷をスタッシュに収納してマギウスタイルを解除。ヘッドセットも外して、やっと眼鏡装着。

 ふうぅ、落ち着く。

 マブラヴで油断してると危険なのは例のトラウマシーンで嫌と言うほどわかっているつもりだけど、俺の〈感知〉には地中も含めて生きたBETA(やつら)の反応はなかった。

 

「唯ちゃんも着替えたか」

 

「うん。さっきの誤魔化しもばれてるけど、あの場合は仕方ない判断だったかもしれないってことになりそう。これからの会談次第だけどね」

 

 飛影とエルガイム、種の連中は篁唯依を指名して接触を図ってきた。

 トータル・イクリプス(TE)ヒロインの篁唯依に会おうとしている?

 でなければおかしい。譜代武家の出身だけどまだ訓練生の彼女を指名するなんて他の理由が思いつかない。

 

 この嵐山補給基地には現在、エルシャンクとターナが停泊中だ。

 折鶴みたいなエルシャンクは京都には似合うかもしれんけど、ターナとともに巨大なのでどっちも着陸させるわけにはいかず空中にいる。

 エターナルは使者とその愛機だけ残して別の戦場に向かっていった。

 黒の騎士団は他のやつと話し合いの場を取ったようだ。

 

 あ、俺の嫁の白蓮もこの世界にいることがわかった。

 さっき連絡がついたばかりだ。

 

『よかった、煌一か?』

 

「うん。白蓮も無事か?」

 

『無事と言っていいのかどうか……とにかく私は白銀武(しろがねたける)ってことになっている』

 

「そっちもか!?」

 

 白蓮は今、唯ちゃんと同様に白蓮の記憶だけではなくBETAのいるマブラヴ世界の白銀武として生きてきた記憶も持っていた。

 周回したり、BETAのいないマブラヴ世界の白銀武の記憶はないようだ。因果導体の白銀武ではないということだろう。

 唯ちゃんと同じく日本の危機とついでに身近な異常事態で白蓮としての記憶が目覚め、ビニフォンで連絡をしてきた。

 

『なんか弟が変なこと言い出してさ、止めたんだけど戦艦に乗って行ってしまったんだ』

 

「弟? ええと……公孫越、だっけ?」

 

『いや、こっちの世界、白銀武の双子の弟だよ』

 

 そんなんいたか?

 むう、俺の知っているマブラヴ世界と違うのか。ゼロ魔と繋がっているし……まさか才人が双子の弟とかないよな?

 

『ややこしいことに同じ武って字でタケシって読むんだ』

 

「たしかに紛らわしい」

 

『タケシは私が女だって事に驚いて、さらに鏡を見てショックを受けていたところにラジオでBETA戦のことを聞いて俺は行くって言い出して……』

 

 唐突に出現した飛行戦艦と合流して飛んで行ってしまったと言う。

 咄嗟にビニフォンで撮影したという画像を送ってもらうとそれは。

 

「バイク戦艦?」

 

『え、これバイクなのか?』

 

 ああ、白蓮は2面での勉強会はあまり出てないか。

 飛行形態だとタイヤが分割されて開きになっているからバイクには見えないよね。

 

「この輪っかが艦の下でくっついて2つのタイヤになってね、地上を走行して巨大ローラー作戦を行うんだ」

 

『……正気の沙汰とは思えない戦艦だな』

 

「だけど強いんだよ」

 

 モトラッド艦にはGジェネでお世話になった。

 ビームシールドも持っているしBETA相手にも強い艦だと思う。BETAの群れ相手でも地ならしで無双できそう。

 なんで白蓮の弟がそんなのに乗って戦場へ行ったのかは疑問だけど。

 

「とにかく白蓮、こちらが落ち着き次第迎えに行くけど、それまでは自分と鑑純夏の安全を最優先でいてくれ。いざとなったらロボを使ってもいいから」

 

『純夏のことも知っているのか』

 

「わりと重要人物なんだよ。詳しいことは合流後に教える。護ってやってくれ」

 

 彼女のことがなければすぐにでも白蓮と合流したいのだが、まだどこが安全だとも言い切れない。白蓮には純夏の護衛をしてもらおう。

 

『わかった。そっちももし弟のことを見かけたらよろしく頼む。外見は黒髪の私だ』

 

「本当に気をつけてくれ。なにかあったらすぐに連絡をするように」

 

 白蓮が白銀武……唯ちゃんと唯依、白蓮と白銀。名前が似ているというのは偶然か?

 唯ちゃんは剣魂開発者の娘で唯依姫は戦術機開発関係者の娘、白蓮は強引に結びつければメインヒロインに懐かれているという共通点もあるが……。

 全く持って状況が不明だ。

 

 あ、篁唯依の親父さんて74式近接戦闘長刀も設計していたんだっけ。刀か。ますます唯ちゃんの親父さんとの共通点があるな。

 あとアメリカにTEの主役である息子がいて……。

 

 まさかユウヤ・ブリッジスが結花か由真ってこと?

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。