大有双   作:生甘蕉

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32話 戦後

「アマイとカライねー」

 

「んじゃ他に酸っぱいとか塩っぱいがいるのかな?」

 

「スイはともかくショパイだと日本人ぽくないわね」

 

「日本人というのならニガイとウマイもいそうだぞ」

 

 カライの仲間の少女たちが好きなことを言っている。味じゃなくて、天と空にかけてほしいものだが。となると、花井とか嫁井が出てくるのではなかろうか? この場所は木星の天空城と言えなくもないし。

 

「そうですか、そちらのカライのそっくりさんをご主人様にしてるのですか」

 

「あれの所有物だ」

 

「これをどうぞ。詳しく教えてください」

 

 アルにドーナツを渡して情報収集しているのはアクエリオンEVOLのロ理事長ことクレア・ドロセラ?

 あの子も外見はロリだけど実年齢不明だったはず。その辺もあってアルと気が合ったのかも。

 つうか、誤解されるような言い回しをしてるのはやはりか。……ロリコンと呼ばれることになっても事実なので問題はないが。

 

 それを尻目に考える。

 BETA。

 異星の珪素系生物(シリコニアン)が造った炭素系生命体。

 尻子ニアンってロリ尻フェチっぽいよね、ってバカな話は置いといて。

 目的は資源採掘用。人類は知的生命体と認識されず、ただの自然災害扱いとして害虫駆除のように処理されている。だったかな?

 BETA製造にはG元素を消費している。重光線(レーザー)級が他のBETAより少ないのはG元素の消費量が高いからで。マブラヴ世界の人類はG元素を利用して特殊な装備を開発している。悪名高いG弾もこれを使ってた。凄乃皇にも使用されてるんだっけ。

 

「そのG元素がハルケギニアにある、と?」

 

「ああ、あの欠片はむこうで入手したものだ」

 

 カライの確認に肯く俺。クランは微妙な顔をして首を捻る。どう見ても俺の嫁の方のクランにそっくりだ。

 

「古生代カンブリア紀の葉足動物がなんなのだ?」

 

「ハルキゲニアじゃないから。よく混ざってややこしくなるけどハルケギニア。異世界の大陸の名前だよ」

 

「ってこの世界、ゼロ魔と繋がってるの? マジかよ!?」

 

 そりゃ驚くよな。

 俺だって武御雷を見るまではまったく想像もしてなかった。才人の代わりに召喚されただけで他は同じゼロ魔世界だって思ってたさ。

 っと、これも説明しておくか。

 

「ああ。ついでに言うとルイズには俺が召喚されてしまった」

 

「なんですと!? じゃ、じゃあしたのか? 契約の……キスぅ!!」

 

「ちょっ」

 

 俺に詰め寄ってガシッと肩を掴む空井。あまりの興奮に接触不可の注意を忘れてしまったか。

 もし空井が本当に俺と同じ存在ならどっちか、弱い方がカードになってしまうことになる。華琳ちゃんの時のように。

 だが、空井の手が俺の肩に触れた途端、「バチッ!」と大きな音とまるで爆発のような衝撃が俺たち二人を襲った。それに弾かれて俺たち二人は宙に舞う。

 幸いといっていいのか、この部屋の天井(てんじょう)は高く、激しくぶつかる前に落下する俺たち。

 

「にゃんぱらりん」

 

 俺の方は無事に空中で姿勢を整えて足から着地、怪我をしないですんだ。明命と特訓したお猫様空中三回転、役に立ったぜ。

 ただ、空井の方は着地失敗、床に叩きつけられたようで腕をおさえてうずくまっている。

 

「ぐっ……な、なんだ今の?」

 

「わからんが、そのまま動くなよ」

 

 また爆発したらかなわんから、触れないように治療しよう。

 

「魔法? そんなこともできるのか?」

 

 あれ? 俺、治療方法は口に出して……そうか、やっと繋がったか。聞こえてるんだな?

 

「え? ええ? 口が動いて、いない? こいつ直接脳内に!」

 

 喋らないでいい。まあ、俺も慣れが必要だったもんなあ。元々一人暮らしが長くて独り言も多かったし。

 ともかく、どうやら他の分身たちと同じく、空井ともテレパシーが使えるようになったようだ。パスが繋がったのかな。

 

「おおぅ、見つめ合う美形! ふふふふふふふ!!」

 

 サザンカが変なテンションで――サザンカにしてみれば平常運転かもしれないが――俺たちを撮影している。同じ顔が見つめ合うのを撮ってなにが楽しいんだか。あ、もう眼鏡をしておかなきゃね。でゅわっと。

 

「なんか記憶も混乱しているような?」

 

「カードになるんじゃなくて、ボクたちみたいに合成っぽくなろうとしたけど、それも失敗した?」

 

「GPが足りなかった? それとももしかしたら、俺たちんとことシステムが違うのかも。固有原理かな? 球神転生も修行神のとはなんか違うみたいだし」

 

 唯ちゃんと篁唯依、白蓮と白銀武はたしかに合成っぽい気もする。だけど合成はGPを消費して行われる。その額は一定ではなく、合成されるモノの能力によって変化する。俺はこう見えてMPの数値が膨大だからその額もとんでもない。だからか?

 もしくは俺たちがそうならないように、なんらかのプロテクトが働いた?

 空井には球神が力を与えているから、別の神の使徒である俺と融合されて奪われるのを防いだというのはありえる、か。

 

「あれ? ステータスもスキルも微妙に変化している?」

 

 気になったのでビニフォンで自分の状態を確認したら、変化があった。各種能力値、スキルレベルが下がってる。かわりにいくつか見覚えのないスキルが追加されていた。

 おや? 〈独占〉ってこれ、空井のスキルだよな? もしかして?

 

「空井、これを使って自分のステータスを確認してくれ」

 

「あ、ああ……こうか?」

 

 新品のビニフォンを空井に渡し、持ち主登録させてステータス表示。使い方はすぐにわかったようでスムーズに作業が進み、結果を立体表示で見せてもらう。

 

「やはり。鍛えた俺より数値は低いけど、スキルが多いな」

 

「うん。こんなスキルなんて転生ん時に選んでないのに」

 

「どういうこと?」

 

「これってもしかして二人の合成は失敗したけど、互いに能力が混じったってこと?」

 

 アイシャが俺と同じ答えにたどり着いたようだ。マクロス30で過去を改変するような超文明の古代遺跡を調査できるぐらいだから、こんな状況には強いか?

 

「たぶんそんなとこだろう。ふむ。俺の全部のスキルがカライに分割譲渡されたってワケでもないようだ。成現はないか」

 

 あのチートスキルはないようだ。固有スキルだからかな。俺にも空井の〈死者復活〉が増えてないので残念だがそんなものなのだろう。あ、空井ってば〈魔法使い〉のスキルを持っているな。さすが俺と同じ存在。転生でも年齢がリセットされたことにならなくてこれは引き継がれるのかね?

 

「え? あ! い、いいだろう、そんなこと!」

 

「いや、恥ずかしいのもわかるが俺のとこだとかなり強力なスキルだったんだぞ、それ」

 

 MPの上昇率が無茶苦茶で、魔法のラーニングもほぼ100パーセント成功する壊れスキルだぞ。魔法がないと意味ないかもしれないけどさ。

 どうしても嫌ならさっさと捨てればいい。

 

「そんなこと言われても」

 

「まあ俺だもん、そうだよなあ」

 

 声に出していない俺の意見をテレパシーで受け取り、動揺する空井。いくら好かれている女性が多くてもそう簡単にはコトに及べはしない。俺なのだから。……ビニフォンで特典リストも表示されてるけど、処女を要求してるんだからその気はあるんだろうに。

 

「違うから! 特典の要求をする時にそうやって人数を減らさないと要求が通らなかっただけだから!」

 

「興味がないワケじゃないんだろう。そうなるとお嬢さんたち次第かな」

 

「なんの話をしてるのだ?」

 

「ほら、ここの話」

 

 ビニフォンの能力表示は使徒のキャラシートと同じ。つまり、ある個所もしっかりと表示されてしまう。

 つまり性経験の有無。クランの質問に『童貞』と明記された部分を指さすと空井の仲間の少女たちは頬を染める。で、赤い顔でチラチラと空井を見出した。

 これはやはり、脈アリだな。

 

「わ、私たち次第って」

 

「やっぱりそういうこと、だよね?」

 

「空井の記憶に強烈に残る初めて、は早い者勝ちかな」

 

 ざわざわしていた少女たちは俺の台詞で静まり返る。ゴクリと喉が鳴る音が聞こえたのは幻聴だろうか?

 ううむ。他人事だと楽しいな。

 

「煽るな!」

 

「嬉しいくせに。それとも嫌なのか?」

 

「そんなことあるワケないだろう! バッチこーいだ! ……あ」

 

 無言だった少女たちの目が光った気がした。こりゃ明日には〈魔法使い〉のスキル消えているかな。

 っと、誰が空井の初めてを奪うかは気になるけどこっちの話も進めないといけない。空井には協力者になってもらわねば。

 

「なにを気楽な」

 

「気楽じゃないぞ。俺としてはこっちの方が重要なんだよ、嫁さんたちとはぐれちゃってるんだから!」

 

 俺の能力値が下がったのは痛いが、ゼロになったワケではない。空井と回線が繋がって協力を得られるなら、みんなを見つけるのにも助かるはずだ。

 空井の仲間も、ここの装備も凄いのだから。

 

 ……む。ここの装備か。

 

「この工廠で新マクロス級って造れる?」

 

「そうね。カライの携帯端末(セルラー)にアクセスできるようにしてくれたら教えてあげるわ」

 

 シャロンの提案。どうやらシャロン・アップルであってもビニフォンには侵入できないらしい。セキュリティには力入れたもんなあ。

 テレパシーで空井と悩みながらビニフォンの設定を調整すると、空井ビニフォンからシャロンの立体映像がヌッと生えてきた。

 

「馴染む、実に馴染むわ、これ。小さいのに高性能」

 

「まあね。それでどうなの、新マクロス級?」

 

「造れるわ。その資材も充分にある」

 

 そうか。だとするとこれはやはり、そういうことなのだろうな。

 この世界は俺にとっては過去。エクサランスの暴走によって跳ばされてしまったのだ。

 そして、マ†・エロースを造るのもこの工場衛星なのだ。

 だが、あんな超大型艦を造ってくれ、なんて簡単には頼めないよな。なにか出せる対価が俺にはあるか?

 

「まさかAL5用に新マクロス級を使おうってのか?」

 

「いや、そうじゃない。俺たちの世界の方で方舟が必要って予言されてるから」

 

「方舟ね。で新マクロス級ってか」

 

 ううむ。あのマ†・エロースはここで造られた可能性が高い、と思う。他の分身がなんとかするかもしれないが、確実なのはここだろう。なにか対価は……。

 

「建造してもらえないか? 実物のデータはある。たぶん普通の新マクロス級より強力なやつだ」

 

「そう言われてもな」

 

「タダとは言わない。空井の仕事も手伝おう」

 

 現金よりもその方がいいはず。金なんかあってもこんな地球から離れた場所じゃ使いようがないのだから。

 まったく、いくら目立ちたくないからってこんな木星のそばまで離れるなんて。

 球神は地球担当だけじゃないのかな? うちの駄神は普通の主神でも惑星が担当みたいなことを言ってた気がするが。

 それとも木星の神? ってゼウスじゃないかよ。

 あんまりいい印象ないなあ。

 

 転生者が12人なのとオリンポス12神ってのはなにか関係してるのかしらん?

 あ。そうだ。

 

「空井が表に出たくないというのなら、俺がお前の影武者として、12番として代わりに他の転生者と会おうじゃないか」

 

「え?」

 

「おいおい、相手はBETAだぞ。他の転生者たちとの連携なしに駆逐なんてできないだろうが」

 

 空井が覚えている範囲で他の転生者の特典も聞いたが、どれも一人だけではBETAの駆逐なんてできるような気がしない。だからこそ球神は12人も転生させたんだろう。

 

「みんな特典あるからなんとかなるだろ」

 

「なんとかなったとして、その後どうする?」

 

「え?」

 

「BETAを駆逐した後のこと、なにか球神から聞いてない?」

 

 黙り込んでしまった。テレパシーでも混乱した声しか伝わってこない。

 聞いていない、のだろう。だからって先のことを考えていないのはおかしい。もしかして思考制御、されてる?

 ここは声に出さない方がいいかな。空井、〈独占〉で自分の思考をチェックしてみてくれ。そうテレパシーを送る。

 

「う、うん……ええと、俺はずっとここで暮らすつもりで……」

 

「BETAがいなくなった後もずっと一生? 女の子たちもずっとここで?」

 

「だ、駄目かな?」

 

 子供の教育とか老後とか考えなかったのか。え? とにかくBETAがなんとかならなきゃってそこまで気が回らなかった?

 思考制御とかなかった?

 他の転生者もそうなのだろうか。ますます集めて話をした方がいい気がしてきた。

 まだエルガイムや飛影のチームとは接触できるのでそこから話を持って行けば。

 

「BETAがいなくなったら世界情勢がどうなるかは予想できるだろ?」

 

「簡単に平和ってわけにはいかない、か」

 

「転生者たちも力を狙われたり、邪魔にされたりする可能性だってある。だからここに引きこもるつもりなんだろ?」

 

 似たようなことは俺だってあっぱれ対魔忍世界で考えたからなあ。

 だけどこの世界は融合しちゃった嫁さんたちの世界でもある。まだ他にも嫁がいるかもしれないワケで。

 他の転生者たちも交えてBETA戦とその後も相談しておきたい。

 

 


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