大有双   作:生甘蕉

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オリ主の出番はもうちょい先です
今回は梓視点


痕のネタバレがあります


4話 勇者王死す!

 おかしい。

 妹たちの様子が変だ。

 

 

 煌一の担当世界に行って。

 いきなりロボで戦うことになって。

 月面ってのは動きにくくて。

 あ、煌一ってのはあたしの……夫な。えへへへ。

 

「梓お姉ちゃん、顔が赤いよ?」

 心配そうにあたしの顔を覗きこんでくる初音。

「熱でもあるの?」

 楓まで。

 

「きゃっ」

「なに?」

 思わず妹2人を抱きしめてしまった。

 こいつら可愛すぎだろ。

「あたしの未練って、あんたたちなんだろうって、思ってさ」

 

 月面でグランゾンとかいうやつと戦ってたあたしはなんか大きな爆発に……爆発? だったよな、たぶん。とにかくそれに巻き込まれて、目が覚めたらこっちにいた。

 目覚めたのがベッドだったから、さっきまでの夢じゃないかと思ったよ。

 だって、その部屋は()()()()()()だったしさ。あたしが元はフィギュアだったなんてあるはずがない、って。

 

 でもさ、左手の薬指に綺麗な指輪がはまってるし、首には外せないチョーカー。スタッシュなんかのファミリアの能力も使えて、夢じゃなかったって気づいて。

 

 心残りと遭遇するだろうって予言を思い出したよ。

 

 

「未練?」

「こっちのこと」

 こいつらに言っても……変な心配をされても困るよ。初音なら信じてくれそうだけどね。

 

「梓姉さんがおかしいのはそのせい?」

「えっ? ちょっといきなりなにを……」

「最近挙動不審」

 はっきりそう言われるとぐさっときた。

 楓は鋭いけど、もっとこう他に言い方ってもんがさぁ。

 

「おかしいのはあんたたちじゃないの? ほら、耕一がきてから」

 腕の中でびくっと反応する2人。わかりやすすぎるだろ。

 やっぱり、あのゲームと同じく2人とも従兄妹の耕一が好きなんだろうなあ。いや、千鶴姉もか。

 あたし? あたしは違うよ。

 煌一は、あたしをフィギュアから人間にする時に、耕一への想いを煌一へに改竄した。

 でもさ、それを知ってもあたしは煌一が好きだ。この想いがニセモノだって言われたってかまいやしないよ。

 耕一には千鶴姉たちがいるんだしさ。

 

 ……3人とも耕一が好きなんてどうすればいいのかね?

 楓と初音は前世からの想いだし、千鶴姉はつらい思いばっかしてるから、幸せになってもらいたい。

 こっちの世界でも重婚が可ならばよかったのにさ。3人の内、2人は泣くことになっちゃうんだよなあ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「ご苦労様、じゃなぁーーーーーーーーーーーいッ!」

 耕一を起こしに行ったはずの千鶴姉がいつまで経っても戻ってこないので、部屋に行ったら耕一は起きてはいたけどまだ布団に入ったままで、計画どおりに布団をひっぺがして、耕一を畳の上に転がした。

 

「……あたた、お前なあ」

 耕一は自分の状況に気づかない。

 あたしと千鶴姉の視線は耕一の股間に注がれているのに。

 ……千鶴姉、ガン見しすぎじゃね? そりゃ初めて見るんだろうけどさぁ。

 

「げッ!」

 やっと朝の生理現象に気づいた耕一が慌ててだす。

「……布団をたたんで早く飯を食いにこいよな。それと、ヘアバンドを忘れるなよ」

 あたしは2人をその部屋に残して居間に戻った。

 

 煌一がくれた痕のゲームをしてこの展開を知ってるあたしが、わざとこの展開をしたのはスケベ心のためじゃないよ。そんな理由だったら今頃、耕一はチョーカーの餌食になっているはずだ。

 それとも、あいつから見せたワケじゃないからセーフなのかな? ともかく、あたしが布団をはがしたのは耕一の股間を確認するため。

 

 天井梓(あたし)が柏木梓になっているんだから、もしかしたら耕一も煌一なんじゃないかって思ったんだけど、やっぱり違うようだね。()()は煌一じゃない。

 もし、ゲームのように廊下で耕一がガリバーチ○ポをかましてきてたら、あたしのキックよりも先にチョーカーが発動しただろうね。

 

 

 居間にやってきた耕一はちゃんとヘアバンドをつけてきた。

 何度見ても似合わないね。

 似合ってはいないけど、必ずつけるようにと厳命しているんだよ。

「よし、ちゃんとつけてるね」

「なあこれ、いつまで着けてりゃいいんだよ?」

「似合ってるよ、耕一お兄ちゃん」

 ヘアバンドを指差す耕一ではあったが、初音に笑顔で褒められては外すという選択肢はないみたい。

 実はあれ、ヘアバンドって言ってるけど本当はチョーカーなんだよね。

 煌一が嫁さん以外用に作ったアイテム。守りたいやつに使えるようにって嫁さんたちもたくさん渡されてるんだよ。

 サイズも調整できるから、それをヘアバンドって騙して装備させてるんだ。だって耕一にチョーカーなんてさらに変だろ?

 

「そいつはお守りみたいなもんだから、絶対に外すなよ」

 あたしたち柏木家は鬼の血をひいている。本当はエルクゥって宇宙人の子孫らしいんだけどね。エルクゥは同族とテレパシーも使ってたみたい。

 そのテレパシー能力のせいか、耕一とリンクしたやつが耕一の行動を覗いてるんだよね、ゲームだとさ。

 耕一も逆にそいつのことを夢で見るからややっこしくなるんだけど、それをチョーカーの力で防げないかと思ってつけさせている。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「最近、梓先輩の様子がおかしくてわたし、心配で……」

 学校から後輩のかおりが家までついてきてしまった。ゲームでもあった展開だから避けようと努力したのに無駄だったよ。とほほ。

「遅くならないうちに帰りな。最近物騒なんだからね」

「あぁん、夜道は怖いですぅ」

 隙あらばあたしに抱きついてくるかおり。マジもんで華琳の、いやあいつは両刀だから桂花か、の同類である。

 

「……ところで、あの男、なんなんですか?」

 あたしの胸に顔を埋めようとしてたのをチョーカーが反応する前になんとか引き剥がすと、ジト目で耕一を睨むかおり。

 耕一はかおりからあたしの貞操を守るために頼み込んであたしの部屋にきてもらった。だってしょうがないだろ、ゲームだと耕一がこない場合、なんかあっちゃうみたいなんだよぉ!

 

「その致命的に似合ってないヘアバンド、まさか梓先輩とお揃いのつもりなんじゃないですよね? 気持ち悪いです」

 さすがにそう言われて耕一も傷ついたのか、無言でヘアバンドを外してしまった。

「バカ……」

 思わずため息。

 

 しばらく耕一を無視してあたしにだけ話しかけてくるかおりの相手をしていたら突然、耕一が頭を抑えて部屋から出ようとしたので、()()当て身をくらわせて気絶させた。

「あ、梓先輩?」

「かおり、送ってってやるからちょっと待ってな」

 廊下に出ると驚いた顔の初音がいた。

 

「そこにいたか、ちょうどよかった。ロープを持ってきてくれ、頑丈なやつ」

「ロープ?」

「ああ、耕一を縛らないとね」

「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 初音とかおりがそろって悲鳴にも似た大声を出す。

 

「あ、梓先輩にそんな趣味があったなんて……でも梓先輩にならいいかも! 縛るならわたしをお願いしますぅ!」

「……そ、そそそそそ、そういうことは、お部屋でやったほうがいいと思うようーーーーっ!」

 いやここ、あたしの部屋だから。

 そのまま走り去ろうとする初音の襟首を咄嗟につかむ。ふう、間に合ったか。ファミリアになる前だったら逃げられてたな、こりゃ。

 

「いい? これはそんなのじゃないから! あたしにそんな趣味はないってば!」

「で、でも……」

「詳しいことはあとで説明するから急いで!」

「う、うん」

 どうやって説明しよう? ……そん時考えりゃいいか。

 ポケットからビニフォンを取り出して千鶴姉に電話する。

 

「ああっ! 梓先輩、携帯持ってるんなら番号教えてくださぁい」

 やばっ。うちなんだから家電(いえでん)使えばよかった。でも、耕一から目を離すわけにはいかないし……。

「こ、これは仕事用なのっ! 鶴来屋関係のだから教えるわけにはいかないんだよ」

「ええー?」

 疑ってるな、これは。

 初音だったらすぐに信じてくれるのに。

 

 

 耕一をロープで縛って、さらに物置にあった鎖で雁字搦めにしていたら千鶴姉が帰ってきてくれた。

「梓、いったいなにがあったの? まさか……」

「いや、念のためにだよ。あたしはかおりを送っていくから、その間耕一を見張っていて。あたしが帰ってくるまではロープも鎖も解くなよ」

「梓?」

「あとで説明するから!」

 これで、あたしが()()を逃がしても耕一は疑われない。……逃がすつもりなんてないけどね!

 

 かおりを送っていく最中、ゲームと同じく公園のそばでそいつと遭遇した。

 人間離れした大きな身体と鋭い爪を持つ異形の怪物。煌一が完全に鬼になったのとちょっと似てるかな?

「ひっ」

 あたしの背後でかおりが息をのむ。

 安心しな、あたしが守ってやるよ。あんたを陵辱なんてさせやしない!

 かおりに当て身をして気絶させた。耕一で練習できてよかったよ。

 歩道にそっと寝かせ、あたしは自分の鬼を解放していく。

 

「かわいそうにね、あんたは自分の鬼に負けてしまった」

 男の鬼は強いけど、自分の()を制御できなければ、身体を乗っ取られて血に飢えた殺人鬼と化す。

 こいつの正体は爺さんの隠し子。つまりはあたしたちの叔父。

 だからこそ鬼の血をひき、鬼に負けてしまった哀れな男。

 ゲームでは何人も殺し、かおりたちを陵辱し、バッドエンドでは千鶴姉や耕一を殺し、あたしや楓、初音まで陵辱する。そんなやつ、生かしておくわけにはいかないよ。

 

「ふん、表情はわからないけど嬉しそうだね」

 無造作に近づいていくあたしに、そいつはブンッと大きな腕についた爪を振り下ろす。すごいスピードだ。

 でもね。

 

「遅いよ」

 いくら男の鬼が強いとはいっても、煌一と契約、ファミリアとなって鍛え続けたあたしの敵じゃない。化け物との戦いだって慣れてるんだよ。

 あたしの拳は鬼の腹に突き刺さっていた。

 背中まで貫通していた。当たり前さ。確実にしとめるために(アーツ)まで使ったんだから。

 

 たぶん驚いているのだろう、自分の腹を見て動きを止める鬼。

 あたしが腕を引き抜くと、ブシュッと血飛沫が飛び散る。抜き手の早さに引っ張られたのか千切れた内臓までもが身体の外にはみ出した。

「グッ、グゥアアアアァァァァァァァーーーッ!」

 苦悶の叫びを上げる鬼。あたしはかまわずスタッシュから刀を出して鬼の首をはねる。

 固かったんだろうけど、煌一のくれた刀と学園島で鍛えた剣の腕の前にあっさりとそいつの首は落ちた。急いで死体をスタッシュに収納する。

 地面に落ちた血はスタッシュから出したペットボトルの水で洗い流して、気絶したままのかおりを担ぎ、急いでその場を離れたよ。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 かおりを家に届けてから帰ったら千鶴姉たちに説明する。

 眠ってる耕一が縛られたままなのは、途中で急にうなされたって聞いたからだ。たぶん、鬼が死ぬのをリンクして見ていたんだろう。錯乱して暴れられても困るのでそのままなんだよ。

 

「私たちの……叔父?」

「ああ、調べればわかると思う。そいつがあたしたちを襲ってきたから返り討ちにした。耕一は夢でそいつと繋がってたみたいだ」

「だから耕一さんは変な夢を……梓、あなたはなんでそんなことを知ってるの?」

 ううっ、どう説明すりゃいいんだよ。

 千鶴姉に変な誤魔化しはきかないだろうし……。

 

「え、ええと……詳しくはこのゲームをやってくれ!」

「え?」

 やっちまった!

 返答に困ったあたしは、つい予備のビニフォンをスタッシュから出して千鶴姉に渡し、痕をプレイさせてしまった。

 鬼や耕一のことはそれでわかるかも知れないけど、他のことはどう説明すりゃいいんだよ? スタッシュとかビニフォンの入手先とか……。

 

「梓、ここはどうするの?」

 選択肢の選び方を聞いてきた千鶴姉。

 疑問はあるが、まずはゲームをしてくれるみたいだね。今のうちにあとのことを考えないと……。

 

「梓姉さん」

「楓か。あとであんたもあのゲームをやるか、今千鶴姉がやってるのを見てな」

「いい。それより私たちからも話がある」

「私たち?」

 千鶴姉と縛られたままの耕一を残して、あたしと妹2人は楓の部屋にむかった。

 耕一、トイレとかだいじょうぶかな?

 

 

「最近、不思議な夢を見ます」

「……耕一の夢だろ」

 楓の前世エディフェルと耕一の前世次郎衛門は恋人。ゲームだと楓と耕一は前世の記憶を夢で見ていた。

 でも、楓はふるふると首をふる。隣で初音も。耕一がいたらあまりの可愛さに悶えて転がってたろうね。

 

「以前はそうでしたが、最近は違う。耕一さんではない男性と梓姉さん、何人もの女性、それに私が結婚している夢」

「わたしも……」

「へ? ……ええーっ!?」

 それってまさか、むこうのこと?

 いったいなにがどうなってるのさ?

「たぶんこれのせい」

 楓と初音がそれぞれ1枚ずつカードを取り出した。

 それは……。

 

「SR楽進? SR呂蒙?」

 凪と亞莎?

 こ、これってまさかファミリアカードぉ!?

 

 




今んとこ、どこがスパロボだっていう……


今話タイトルの勇者王というのは今回死んだ鬼のこと
中の人ネタで2009年版をプレイしたファンの一部からそう呼ばれてます

特徴的な声なので謎の犯人がモロバレだったり

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