寒い。
なんか変な音が聞こえて目が覚めてしまった。
ここはどこ?
一応言っとくか。
「知らない天井だ……」
マジでここどこだろう?
自分の状況を確認しようと寝ていた場所を確認する。
「って、天井っていうかカプセル? 閉じ込められてた?」
棺桶……じゃないよな、なんかメカメカしい。
あれだ、
「はわわっ! ビッグ・ファイアさまがお目覚めしちゃいました!?」
声がした方を見ると、白い羽扇を持った少女がいた。
「朱里ちゃん?」
なんか聞き捨てならないようなこと言ってたけど。よく見たらスーツ姿だし。
「な、なぜ私の真名を知ってるんでしゅか?」
「え? 俺、君の夫だよね?」
「そ、そんなおそれおおおい……」
かみながら震える朱里ちゃんの左手には指輪がない。
「……まさか、あれは夢だったの?」
そうか、夢だったのか。
俺が美少女たちと結婚できるなんてあるはずもないか。
「な、泣いているんですか?」
ずっと憧れ続けて、諦め切れなかったものが手に入ったと思ったら夢だった。これが泣かずにいられようか。
こうなったら、夢の続きを見るしかない!
俺は寝直すことにした。メカメカしいベッドに潜り込んで……あれ? もしかして俺、裸だった?
「見たな?」
「は、はわわわ、いつも通りビッグ・ファイアさまのご様子を確認しにきただけで、決してその御身体を覗こうなんて!」
……ええと、起きる前からずっと観察されてたの、俺?
しかも全裸で!
「もうお婿にいけない!」
顔を両手で隠す俺。ギャグで誤魔化しでもしないと恥ずかしすぎる。
あれ、この顔に当たる金属の感触は?
自分の左手を確認すると、薬指にはちゃんと指輪をしていた。
「これって結婚指輪だよね! じゃあ……夢じゃなかった?」
なにか他に確認できるもの……そうだ、鏡!
俺が若返っていたら、あれは夢じゃないはずだ。
スタッシュから鏡を取り出し、自分の姿を映す。
混乱していた俺は
「よし! 若い! ……でもなんで白髪?」
俺はたしかに若返っていて。
でも髪が真っ白になっていて。
あの機械ベッドのせいで脱色したんだろうか?
あれはそういう機械で全裸だったのは服まで脱色しないように?
「ビッグ・ファイアさまの
「ビッグ・ファイア?」
さっきも朱里ちゃんが俺をそう呼んでいたな。
俺の嫁じゃない朱里ちゃんが。
「もう一度聞く。君は俺の嫁じゃないんだね?」
ビニフォンのスワップアプリを使って瞬時に着替えながら彼女に問う。
あれ、こんな学ランみたいな服、登録してたっけかな。
「は、はい」
俺の嫁じゃない朱里ちゃん。俺の嫁とは別の朱里ちゃんということか。華琳ちゃんと同じく無印恋姫†無双の諸葛亮かな? 服がなんか違うけど。
むむ?
スーツ姿の諸葛亮孔明!
さらには俺をビッグ・ファイアと呼んでいる!
……もしかしてこれってさ。
もう一度鏡で自分の姿を確認。
「ビッグ・ファイア……俺が?」
俺のコールサイン、ファイヤーじゃなくてホワイトだったんですがね。
華琳ちゃんがホワイトが白髪に、って言ってたのを
ビッグ・ファイア。
ジャイアントロボに登場する悪の秘密結社、BF団。
OVA版ジャイアントロボのBF団
ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日、は同じ原作漫画家の他の作品のキャラクターも多数登場する。
その中に三国志のキャラもいて、それが諸葛亮孔明。ビッグ・ファイア直属の部下。
孔明ちゃんは無印恋姫のでもなくてジャイアントロボの孔明ちゃん?
だけどあれはおっさんだったはず。はわわなんかじゃなく、もっと悪そうに笑う。
原作漫画では男でOVA版ジャイアントロボで女性化したキャラも出てきたけど、孔明ではなかったのに。
OVA版ジャイアントロボはスーパーロボット大戦αとスーパーロボット大戦64にも出てた。
スーパーロボット大戦……最初はスパロボJだと思ったらスパロボRのキャラも出てきた世界で俺たちは戦っていたはずだ。
スパロボの中でも悪役――たまに味方になっても最後に裏切るんじゃないかと不安な――ロボ、グランゾンと戦っていた。
巨大ロボ同士での初めての実戦がラスボス級ってのはきつかったけど、その最中に大きな爆発があって……。
みんなはどうなった?
夢じゃなかった俺の嫁さんたちは?
「ビッグ・ファイアさま?」
羽扇子で隠した顔を心配そうに半分覗かせる孔明ちゃん。
記憶? 俺の中にアニメの視聴者としてではない、ジャイアントロボの登場人物としての記憶が混じって……!
「……記憶が混乱しているようだ、孔明ちゃん。俺がビッグ・ファイアなのか? 君は本当にBF団の諸葛亮なのか?」
「はわわわ、も、もしかしてビッグ・ファイアさまも……」
「も?」
「アキレスさま!」
孔明ちゃんの呼びかけによって、床から液状の黒いなにかが広がったかと思うと、一瞬で俺たちを覆った。
黒いドーム状の空間に閉じ込められる俺と孔明ちゃん。
真っ暗になってしまったが、孔明ちゃんが羽扇子を水平に寝かせると、羽扇子の上にボッと火が浮上してそれが照明代わりとなる。
「これなら誰にも聴かれないはずです」
「アキレスの牢、か」
でも十傑集なら簡単に脱出されるんじゃなかったっけ?
アキレスってのはビッグ・ファイア直轄の3つの護衛団の1人。不定形生命体だ。
「ご無礼をお許しください、ビッグ・ファイアさま。十傑集にも聞かれたくないのです」
「いいよ、俺のためでもあるんだろ」
「はい」
十傑集ってのはBF団の幹部でその名の通り10人いる。各人無茶苦茶な能力を持つ特A級エージェント。ロボよりも強い、濃すぎる連中。おかげで主役ロボの影が薄くて……。
十傑集は孔明とは仲があまりよくなかったはずだ。
「ビッグ・ファイアさまはもしかして、別の人物の記憶がございませんか?」
「……うん」
迷ったが、嫁と同じ顔の少女の問いかけに正直に答えてしまった。まあ、嘘をついたところで、孔明ちゃんは騙せそうに……朱里ちゃんならともかく、ジャイアントロボの策士孔明は騙せそうにない。
「わたしも同じなのでしゅ!」
キメたかったんだろうけど、かんでしまって真っ赤になる孔明ちゃん。
ここはツッコまずに続きを促そう。
「同じ? 孔明ちゃんにも別人の記憶が?」
「は、はい。今よりももっと昔、何百年も前の大陸にいた記憶があります」
「前世の記憶ってわけではないよね?」
「違います。その記憶が現れる前まではわたしは実は男だったのです!」
「うん。知ってる」
俺がそう言うと孔明ちゃんは驚いた顔をして、それからほっとした表情になり、うんうんと頷く。
「わたしは急に女性になってしまったのです。なのに、まわりは誰もそれを異常に感じないのです。催眠も無効化できる十傑集ですら」
「それは孔明なら、そんな奇行をしてもおかしくないって思われているだけなんじゃない?」
「ち、違います! 調べたところ、各地で似たような現象がおこっているのです」
「え? 他にもいるの?」
今度は得意気な表情だ。これが策士とは思えくなってくる。
「十常寺さんも外見が変わってしまってます。やはり、他の十傑集は気にしていません」
「十常寺か」
命の鐘の十常寺。
道士のような格好と術を使う十傑集。生命を操る力の持ち主で、本人もたとえ死んでもゆっくりとだが復活できるとんでもない男。
台詞が漢詩や熟語ばっかりでなに言ってるかイマイチわかりづらいやつでもある。
……十常寺?
白目のとこが赤くなってたぽっちゃりさん。モデルは三国志の十常侍だったよな。
「少年か少女かわからんような外見になっちゃったのか?」
「そ、その通りです」
恋姫シリーズには十常侍は名前だけの登場だったけど、アニメ版のには張譲が出ていた。
まさかそいつか?
「ふむ。アルベルトはどうだ?」
「アルベルトさんですか。彼に変化は見れません」
衝撃のアルベルト。
強力な衝撃波を使う十傑集。アニメでは大活躍していた。
中の人が恋姫の卑弥呼と同じだからってちょっと不安になったけど違ったか。よかったよかった。
だとすると異世界の自分と融合したのだろうか。AAAのショップで行える合成のように。
でも、異世界の同一人物同士が接触すると弱い方がカードになるだけで融合はしなかったはず。
それに、
「異常がおこった者に共通点は?」
「今のところ、名前が同じ存在に記憶や外見、性別その他が影響を受けているようです。ただし例外も見受けられます」
「名前……名前か!」
ビッグ・ファイアは本名不明。もしかしたらビッグ・ファイアが本名なのかもしれない。
だが、モデルになったバビル2世には本名がある。
苗字は山野だったり、古見や神谷だったりするけど、名はどれも同じ。
その名は浩一。俺とは字が違うけど、同じこういちだ。
なんだよ、名前が一緒だから融合って!
華琳ちゃんが、華琳・ブーンになってたのもこのせいか。名は体を表すってこのことなのか。
どうせだったら、同じ超能力関係のこういちでもさ、もっと別のがいるでしょ。可憐な
まあ、漫画版の早瀬浩一じゃなかっただけいいのかな? あのラストはしんどい。
それからも孔明ちゃんと情報をすり合わせた。
彼女はやはり無印恋姫の孔明ちゃんとジャイアントロボの孔明が融合しているようだ。
「はわわっ、ビッグ・ファイアさまが使徒?」
「といってもA.T.フィールドを張るやつじゃないけどね」
あっちの使徒も出てくるんだよな。この世界。
この世界はジャイアントロボではなく、スーパーロボット大戦αの世界のようだ。融合したビッグ・ファイアの記憶は不鮮明なんだけど、その記憶の中にスペースコロニーや光子力エネルギーといったものが存在する。
スパロボαには新世紀エヴァンゲリオンも参戦してるから、使徒もいるんだろう。
「今は新西暦179年か」
新西暦なんでスパロボ64じゃなくてスパロボαなのが確定っぽい。新西暦はαやOGシリーズの年号だ。
「ジオン公国と地球連邦政府が戦争中です」
「一年戦争か」
「一年?」
ああ、終わってないからまだ一年戦争って呼ばれてないのか。
嫁さんたちがどうなったか不明だけど、戦争してる中に現れたら大変だ。早く探しにいかないと。
「ビッグ・ファイアさま自らが動くのですか?」
「駄目か?」
じっとしてなんかいられない。悪の秘密結社のボスってのも、なにやっていいかわからん。
俺はビッグ・ファイアと融合したみたいだけど、ビッグ・ファイアの記憶も曖昧だし、煌一の部分が強いようだ。煌一が使徒だったのとビッグ・ファイアがあんなベッドで寝るほどに弱っていたせいだろうか。
「まだ記憶が混乱している。元に戻るまでは好きに動かさしてくれ」
「……わかりました。ただし、護衛をつけます。本来ならばビッグ・ファイアさまに護衛など足手まといでしかありませんが、この状態です。必要でしょう」
護衛ねえ。3つの護衛団で一番目立たずに護衛してくれそうなアキレスは孔明ちゃんに残しておきたいんだよな。
孔明直属の部下にコ・エンシャクがいるけど、あれの正体っていわれてる。それともアキレスは不定形だから分裂してコ・エンシャクがいるんだろうかね。
残りの3つの護衛団、ガルーダとネプチューンはガタイがデカすぎて目立つだろう。
……移動には便利か。ポータルで移動するためのマーカーが全くない。嫁さん探しついでに各地でマーキングしてこないと。あるかどうかわからないけど拠点を起動させることもできるかもしれないし。
「みんなには邪魔をしないように言っておきます」
「頼むよ。あ、なんかあったらこれで連絡してね。まだテレパシーの調子がつかめないみたいだから」
孔明ちゃんにビニフォンとついでに一般型の特殊チョーカーを渡しておく。
「国際警察機構が動くと面倒ですのでくれぐれも、ビッグ・ファイアさまだとばれないようにお願いします」
「わかってるよ……これならいいでしょ」
変身魔法で化ける俺。PoMっと出た煙が晴れて現れるのは大江戸学園で長くすごした幼い姿だ。
「あとは偽名か」
「ちょうどいいのがあります」
「え? こいつなの?」
資料とともに彼女が教えてくれたその名は、ブルックリン・ラックフィールド。
αの主人公キャラの1人じゃないか!
「彼は非常に強い念動力を持っていて、BF団としてもスカウトの準備をしていたのですが亡くなってしまいました」
「亡くなった? ジオンとの戦争でか?」
主人公キャラが死んだ?
非常に強い念動力って、そりゃ育てれば他の主人公キャラよりも念動力の最高LVが高かったけどさ。第2次α以降はそうじゃないし、まだ10歳ぐらいだからそこまで強いはずじゃないのに。
「戦争ではなく、最近出現している謎の怪獣に襲われました。BF団エージェントがこの怪獣を始末しましたが彼の死亡が確認されています。世間では行方不明ということになりました」
「怪獣……」
エヴァの使徒じゃないよな。十傑集なら倒せるだろうけど、それ以外のエージェントだとA.T.フィールドは破れないと思う。
「彼はBF団以外にも念動力者として知られていましたから、もしもビッグ・ファイアさまのお力が検知されても多少は誤魔化せるはずです」
ビッグ・ファイアってαだと最古のサイコドライバーって設定だったらしいから、サイコドライバーのブリットならば隠れ蓑にはなるのか?
「まあ、この名前ならみんなも気づいてくれるかもな」
担当世界に行く前に、スパロボキャラや参戦作品のキャラはある程度、みんなに説明した。時間がなかったから動画でだけどね。
OGのアニメもみんなで観たから、主要キャラのブリットの顔や声が違ったら気づいてくれるはずだ。
「って、顔が違うんだけど」
「ですから多少の誤魔化しです」
そうはっきりと言われても。
孔明ちゃん、ジャイアントロボの策士、というか言い逃れの得意な孔明と融合したんで朱里ちゃんとちょっと性格が違ってきてるのかもしれない。
もしかしたら俺も性格が変わっているのか?
以前の俺だったら悪の秘密結社なんて許せずに本部を破壊して幹部を殲滅……。
ないな。どう考えてもそんなことをしたとも思えない。ビッグ・ファイアも私欲のために世界征服を策謀してたわけでもないようだ。理由は思い出せないけどね。
念のためにビニフォンで調べたけど嫁さんたちが見つからなかったので、孔明ちゃんから偽造した身分証と現金、カードをもらって俺はBF団本部を出発した。
護衛はC級エージェント。
BF団のエージェントってC級以下は分厚い唇のついた覆面着用が義務付けられている。
だからってさ、護衛任務でついてくる連中までマスクしてなくてもいいだろうに。
スーツにマスクって目立ってしょうがないでしょ。子供がこんなのと一緒にいたら怪しいことこの上ない。
面倒なんで、孔明ちゃんには悪いけどガルーダを呼んで1人でさっさと飛んでいってしまったのは許されるよね。
マスクマンたちはビッグ・ファイアだと知らされてなかったみたいだけど、俺が
一応、子供の姿な俺に合わせてか小さいエージェントもまじっていたけど、どこかで見たような……あの唇覆面のせいか?
少しは会話してみるんだったかねえ。
原作主人公キャラ(の1人)を死亡させてしまったので『アンチ・ヘイト』タグを追加します