魔法少女リリカルなのは ~The creator of blades~ 作:サバニア
「艦長、コーヒーです」
「ありがと、エイミィ」
会談を終えてから自室で報告書と裁判へ向けて情報を整理していた手を止めて、エイミィからコーヒーを受け取る。これは以前、なのはさんのお母さんから頂いた物。
ちょうど大まかに纏まったタイミングだったから、そのままカップを口へ傾けるとすっきりとした甘味が広がる。
「やっぱり、ヒュドラの件は本人たちの証言が正しいですか」
「本人の証言だけなら断定は出来なかったけど、ここまで情報が揃ってしまうと……」
「当事者のプレシア。局員の私。フリーランスのベル。多方向から同様の情報が集まってますし、シロウくんたちとの会談で渡されたメモリーにも詳しく記載されていましたから、ですね……」
『ヒュドラ駆動炉暴走事故』……プレシア・テスタロッサが『ジュエルシード』を求めた原因とも言える事故。それについての情報が管理局のモノと本人の証言で食い違っていた。
どちらが正しいのか当初は判断が出来なかったけど、話を聞いてエイミィに調べてもらった情報。エミヤさんと彼の保護者であるベルという魔導師と会談の中で、ベルさんから渡されたメモリースティックに入っていた情報で確証は取れた。
前任者の杜撰な資料管理。足りない日程での作業。安全基準の確認の無視。他にも色々あるけど細かい点を上げたら切りが無かった。彼女の証言通り、本社の強行が引き起こしたのは間違いない。
この件に限った話ならプレシア・テスタロッサは被害者。それで彼女の行動が正当化される訳ではないけど、『ヒュドラ』については真実を明らかにさせてもらう。
「エイミィ、その後のフェイトさんの様子はどう?」
「ちゃんとご飯を食べているので大丈夫そうには見えます。話し相手にアルフが居ますし、みんな温厚なので揉め事の心配もないですよ。
今頃、クロノ君の案内でシロウ君たちとも会ってると思います」
「ランディやアレックスたちと揉め事は起こらないでしょうし、エミヤさんなら安心だけど――――」
精神面は大丈夫なのか。それが私の持つフェイトさんへの一番の気掛かり。
彼女は『時の庭園』――――帰る場所を失い、病が原因とは言え母親を喪った。その事がどれだけ彼女に不安をもたらしているかは分からないけど、辛いことであるのは間違いない。
肉親を喪った子供の顔を私は知っている。いつも見ていた顔が二度と見られなくなると知って、明るい表情が一変したあの日。それは管理局員ならいつ訪れてもおかしくないことだった。
それでも、受け入れ難いのは変わらない。
フェイトさんが当時の子供より年齢が上でも、心の拠り所であった母親を喪ったのは同じように過酷すぎる出来事だと思う。
……いいえ……それだけじゃないわね。あの子には
けど、フェイトさんにはその母親すらもう居ない。最期の時間を一緒に過ごせても悼みが軽くなる訳でもなく、肉親の居ない世界は少女には重い。
(悲しいことだけど……これからは明るく前に進んで欲しいわね……。
プレシアも最期はそう願っていたのだから……)
パートナーのアルフは居るものの、彼女だけでは少し賑やかさ足りないと感じがする。
友達になったなのはさんがそこに加わればいい具合の賑やかさになると思うけど、再会をするまではまだ時間が掛かる。
なのはさんやアルフ以外で、フェイトさんの側に居られるのはやっぱり――――――
そう考える途中、エイミィが口を開いた。
「フェイトちゃんなら前に進めますよ。今すぐにはいかないと思いますけど、“その日”のために『今』を頑張っているんですから」
「こちらの質問にもきちんと答えているものね。
最後の最後だったけど、母親とわかり合えた……エイミィの言う通り、ここで立ち止まる心配は余計かもね」
「はい。ですから“その日”が迎えられるように私たちもやるべきことをしましょう。クロノ君も乗り気ですしね」
「……そうね。
裁判の進行準備はクロノがやるから安心だけど、真面目で堅物なあの子にしては珍しいかしらね?」
「本人は『執務官として当然の行動だ』と否認していますけど、なのはちゃんに『凄く優しい?』って言われたことに照れた反動なのが見え見えなんですけどねー。
それを除いても心配は無用なことに変わりはないですよ。データもきっちり揃えているかつ証言者が『提督』と『執務官』……期間の方は始まらないと分かりませんが、無罪で収まると思います。フェイトちゃんに悪意があった訳でもありませんし」
「
自ら悪意を持っての行動だったらフェイトさんは容赦なく裁かれていた。就職年齢が低めなミッドチルダでは親に命じられて犯罪を犯す事例もあって、子供を守る法が整備されている。
今回の事件はそれが適用される筈。プレシアがフェイトさんに無理やり命じたのは記録が取れている。目的も理由も知らされず利用されただけ……クロノが『時の庭園』脱出後になのはさんたちへ説明した時の言葉を借りるなら『道具として利用されただけ』……そのことからでも情報酌量の余地はあるから重罪になる心配は無用ね。
「テスタロッサ家もそうですけど、シロウくんの方はどうなんですか? 敵対する意志が無くて『時の庭園』で協力してくれたことから、なのはちゃんと同じ現地協力者って線でいきます?」
「協力してくれたのは事実。クロノと協力戦もしてフェイトさんと一緒にプレシアの説得にも貢献をしてくれた。エミヤさんの行動理由は自分の住む世界を守る……それはなのはさんと同じで立派なことだから誰も責めるようなんて思わないでしょう。
最初は少し行き違ってしまったけどそれは仕方ないことではあったわ。その手のことは現地住民との間で全く無い訳でもないし」
「ジュエルシードに限った話なら私もそう思います。でも――――」
「……エミヤさんの“過去”……ね……」
エミヤシロウ――――なのはさんと同じで『管理外世界』である地球出身者。
彼が
なのはさんはまだ足を魔法に踏み入れるか入れないかの選択肢があった。ユーノ君から説明を受けた時、私とクロノと話をした時、少なくても2回は選択の機会もあった。
でも、エミヤさんは違う。彼には踏み入れるかの選択肢は無く、選択する機会すら無かった。
あってはならないことに両親も生まれた場所も奪われた。魔導師に救われたとしても、魔導師が彼から大切なモノを無くさせたことに変わりはない。
『帰る家も
守る術を知らず……理不尽に“大切なモノ”を奪われた奴がいたなら、“先”で生き残れる術を教える。それが、同じ魔導師として出来るせめてのことだろ』
会談の光景が思い浮かぶ。エミヤさんの保護者をしてるベルさんから漏れた怒りと一緒に。
仕事の内容から冷徹な人なのかもしれないと考えていたけど、そんなことは無かった。仕事の時はそうなのかもしれない。でも、そこ以外では優しい人なんだろう。
「ベルさんに連れられてきた後もエミヤさんに降りかかったことを考えると、どうしてそんな目に遭わないといけないのかと思えずにいられないわね……」
「身近な人を無くして得て無くして……そんな繰り返しなんて残酷ですよ……」
ミッドチルダへ渡ってテスタロッサ家に預けられた約2年後に、エミヤさんはまた巻き込まれて今度は“時間”を奪われた。
子供を使った魔法実験の事故。テスタロッサ家からベルさんのと待ち合わせへ向かう途中で拐われたらしい。それはベルさんたちの方で収拾したらしいけど、エミヤさんは巻き込まれて彼だけが犠牲になったと聞いた。
『当時6、7歳な子供だったので実験台には丁度よかったんでしょうね。ミッドの魔法学校初等科に入るぐらいの年齢で、ある意味魔法方面がまっさらな状態ですから魔法の知識の“書き込み”に適してる時期ではありました。
ただ、シロウは地球出身でミッドの魔力素にリンカーコアが驚いたのでしょう。結果として魔力の暴走で本人は危篤状態。そこで打った手はシロウが話した通りです。
他の子供は救出されてるので心配無用ですよ。他はミッド出身の子供で魔力素には慣れていたみたいで』
その理屈は分かるわ。リンカーコアに貯められる魔力素の濃度や性質が世界や場所によって異なるのは確か。
幼い子供は大抵生まれた世界で成長していくから、リンカーコアは自然とその場所に在る魔力素に慣れていく。
なのはさんは地球出身だけど、ユーノ君の教えもあってか彼女は適応をしていた。魔法を使い始めたのが地球で魔力素が馴染みやすかったとも考えられる。外である『時の庭園』でも魔法を使っていたけど、『ジュエルシード』を巡る中での戦闘と練習でリンカーコアがある程度適応できるまで成長していたのだろう。
エミヤさんもなのはさんと同じ世界出身だけれど、幼い彼のリンカーコアは外界の魔力素の変化に適応を仕切れなかった。
「……けど今後は大丈夫でしょう。エミヤさんもクロノと同じぐらいの戦闘技能を持っていそうだから、自分の身を守ることは十分可能な筈よ」
「魔法はクロノ君の方が上だと思いますけど、剣技、弓だけでもかなりの腕ですからね。総合的な戦闘技能ならシロウ君はクロノ君に引けを取らない感じがします」
「エイミィもそう思う? 私も同じよ。一部を見ただけでもエミヤさんの戦闘能力の高さは正直驚いたわ。
でも、彼を指南していた人のことを考えると妥当かしらね?」
「そうですね……戦いを知っている人物から教えを受けたと考えると。
クロノ君も仕官学校を卒業して、経験を積んであんな感じですし」
別の方面でエミヤさんについての考えが浮かぶ。
『時の庭園』で見せたクロノのとの連携。即席にも関わらず、ミスが見当たらなかった。つまり、クロノと組めるだけの技量を持っていることになる。
そしてそれは、“戦う覚悟”を持っていることを表している。でないと、執務官のクロノ程の技量には至れない。強くなる……そこには覚悟が必要なんだから。
「でも辛いことよね……クロノは管理局員で執務官だから能力の高さは必然だけど、エミヤさんは
以前、エミヤさんは言った。
『もしあの次があるのなら、あの時助けられなかった全ての代わりに、今度こそ……俺は、目に映る苦しむ人全てを助けなくちゃいけないんだ』
あれは、生き残ったことに対しての責任からの言葉だと思う。目の前で苦しむ人を助けられなくて、負い目を感じる人は確かに居る。局員を目指す人や局員の中には同じ人もいるかもしれない。
自分が弱かったら他者を助けるどころか身を守ることなんて出来ない。そのことは局員である私たちもよく知っている。
だから、エミヤさんは戦う術を身に付けた。魔法を知って対抗策を考えて、レアスキル――――自分の持つ能力を磨いて、戦い方を教えてもらった。
でも……それを思うと胸を痛める。
「どこか……クロノに似ているのかもしれないわね」
知らずに呟いていた。
私のそれは聞こえないほど小さかったのか、エイミィは報告書に記すことを訊いてくる。
「報告書になのはちゃんとシロウ君のことも載りますけど、能力面はどう書くつもりなんですか?」
「なのはさんについてはユーノ君経由で巻き込まれて魔導師になった。経緯はあれだけど、魔法はミッドチルダでも普及している技術だから問題はないと思うわ。エミヤさんの魔法も同じ感じ。
ただ……そうね……彼の個人能力はね……」
「地球の特殊能力者。こちらでいうレアスキルに該当しますが管理外世界……魔法技術ではないので、能力自体は『そう言う能力があるのか』と言われるぐらいだとしても――――」
「ええ、扱った武器が問題。
「途切れ途切れ映像でもサーチャーであの光景が撮れちゃってますからね……削除や偽装は職務上出来ませんし……」
「けど、そのお陰でエミヤさんを拾い上げられたからよかったわ。彼が戻ってこれなかったなのはさんもフェイトさんもショックが……ね……」
そう……報告書作成にあたって悩みの種があった。エミヤさんが次元断層を防ぐために『ジュエルシード』を破壊した一本の剣。
「黄金の一撃……なのはさんの収束魔法に近いけど魔法陣を展開していなかった」
「はい。あれが魔法で無いことは間違いありませんが、こっちで言うロストロギアに匹敵しそうですね。まさか管理外世界の地球にあんな武器があるなんて……」
「“外”には私たちの知らない武具や技術があってもおかしくはないわ。
それでも、実際に目にしてると驚かずにいられないわね」
あの映像は未だに記憶として頭に焼き付いている。
人間が生成できる魔力の限界を越えた魔力放出。
なのはさんが使ったような収束魔法は空気中に在る魔力素を一点に集めて打ち出すモノだけど、あの魔力はエミヤさんの剣から溢れていた。それはもう余波でサーチャーがダメになる程の。
『ジュエルシードの報告書には“あれ”だけは不可欠だと思うのでそれだけは説明しておきます。
あの剣の銘は“イマージュ”。自分の生命力――魔力を糧に光を増幅させて一撃を解き放つ剣です。その威力はもうご存じでしょう。
残念ながら証拠としての提出はできません。前に説明した通り、あれは一撃限定の大技で剣は崩れ去ってしまいましたから』
エミヤさんの説明が頭を過った。
あれの一撃は武器の性能がなければ不可能なのは私も同感するし、彼の言った通り光を放った剣は役目を終えたのを示すように形を失っていった。
「まあ、報告書を偽る訳にはいかないから事実とエミヤさんの説明を記すわ。指摘されても同じことを彼が説明するぐらいでしょうけど。
個人能力と経緯もね」
次元犯罪者でもなく、管理外世界の住人である個人の能力を明かすことの強要は出来なかったけど、報告には必要だから出来る範囲で教えてもらった。
『俺の能力は以前お話した通り、自分が所有している物の取り出しです。“イマージュ”は報告に必要だと思ったので詳細を言いましたが、あれ以外の説明は控えされてもらいます。俺の
それに、魔導師が地球で破壊活動をしないことの保証が無い以上、何らかで情報が漏れてしまえばその人たちの命も危なくなる』
管理局にも地球出身で魔法資質を持っている方はいるし、なのはさんたちも魔法資質を持っていた。
あの方の出身はなのはさんたちと違う国だと聞いているから、特殊能力者もエミヤさんの他にも居るかもしれない。
だから、彼の危惧は解るわ。
そして、扱う手札が知られてしまえば、対策をされて自分の命を危険にさらしてしまう。魔導師である私もそれは同様だから共感できる。
魔法を知らず、持ち得ない地球の人たちは魔法から身を守る術が基本的に無い。エミヤさんのような能力者ならば魔法を知らなくても多少の対抗は出来るかもしれない。
だとしても、そんなリスクを管理外世界の住民に負わせる訳にはいかない。
よって報告書に記すのは概要に止めた。
能力は『自身が所有する物質の取り出し』――――主に剣、弓矢などと現地で確認可能なモノ。フェイトさんを二回目の次元跳躍攻撃から守った盾は少し特殊な物らしいけど、同じ地球の武具と言われた。
戦闘技能は純粋な技術で、取り出した剣による剣術、弓矢による弓術。
一応、備考に『他にも同様の能力が存在する可能性あり』と記しておく。
経緯の方はベルさんからも説明があったけど、前にエミヤさんが話していた通り。
故郷を魔導師に焼かれて、身寄りの無くなったは彼はベルさんにミッドチルダへ連れてこられたこと。
その後はテスタロッサ家に預けられるものの、魔法事故に巻き込まれて延命のために冷凍保存されたこと。
現実時間にして17年後に目覚めて、それ以降はベルさんの元で魔法の知識、個人能力、戦闘技能の習得。それが完了後、地球に帰郷したこと。
なのはさんの家が経営していた喫茶店で働いて日々を過ごしていく中で『ジュエルシード』に遭遇。そこでフェイトさんと出会って、事態を収拾すべく行動開始こと。
ミッドチルダの人との人間関係があるのはテスタロッサ家とベルさんと彼の仲間たち。
テスタロッサ家と接点を持ったのは彼の友人で優しい母親なプレシアなら、エミヤさんに平穏な暮らしを送らせられると思って預けたことで関係を持った。
ベルさんたちとは戦闘技能の習得関係で。魔法の知識と技能など身を守る術を教えてもらう課程で関係を持った。
以前に、プレシアとエミヤさんが話してくれた通りだった。
「……分かっていたことだけど、重いものね……」
思い返すと改めて胸を痛める。過酷すぎる出来事の連続……幼少期から体験していてよく精神を保てたとも思う。エミヤさんは心を無くした空っぽの人間になってもおかしくないほどのことを体験している。
いえ……完全に心を無くしていないだけで、何が欠けているのは間違いないわね……。
始めて話したときのエミヤさんはまさにそうだった。故郷を奪われた過去を口にしたら普通は顔色の一つぐらいは変化するのに、彼にはそれが一切乱れなかった。
でも、プレシアの最期では悲痛な表情をしていたし、涙も流していた。
そのことから思うに、多分……彼は
局員でそれなりの事柄や人々と対峙してきた私だからか、そう感じずにはいられなかった。
「……エミヤさんにも平穏な時間が必要ね。休息とは少し違うけど、“自分の為”に時間を使える暇がね。幸い、フェイトさんの裁判が終わるまでは彼女の側にいてくれるそうだから一緒にゆっくりは出来ると思うわ。
エイミィ、彼の滞在の手続きはどう?」
「艦長を通してことですし、特別何かをする訳でもないので滞りなく済むと思います。保護者も居るので。
シロウ君も他の局員と話をすることが場合によってはあり得るので、却下も無いでしょう」
「また会談が必要になるかもしれないものね。
でも、エミヤさんが側に居てくれることにフェイトさんたちは喜ぶでしょう。話し相手も増えるし」
「私とクロノ君も手が空いている時は話をしていますけどね。
あ、私も嬉しいですよ。また料理勝負が出来ると思うと腕が鳴ります」
話題が“これから”のことになると「ふふーん」と、エイミィは得意気に鼻をならす。彼女は『アースラ』の通信主任であるけど、デスクワークの他に料理も上手い。
航行中にフェイトさんとアルフに料理を振る舞った際はアルフから「意外」っと言われたらしい。
「喫茶店で働いていたと聞いていたので料理上手だとは思っていましたけど、あれほどとは思っていませんでした」
「エイミィの料理も十分に美味しいけど、エミヤさんの料理も美味しいわよね。私に審査員を頼まれた時は驚いちゃったわ。
二人が『アースラ』の厨房を預かったら安泰ね」
「シロウ君、調理実習で無敗記録を残せそうですよ。
あの“二人”も調理実習では無敗だったらしいですし。あーあ、やっぱり『嘱託魔導師』になってもらって一緒に仕事できないかなー。二人ともまた一緒に料理したい」
“二人”のことを思い出したのか親しげな声で口にする。姉の方は同い年とあって親睦が深い。
私としても二人には『嘱託魔導師』になって欲しいのよね。彼女たちとの相性はクロノともエイミィともいいみたいで、能力的にも文句無し。
けど、本人たちにも都合があるなら仕方ないのよね。
「そう言えば、依頼の返事が着ていないわね。もう事件は済んでしまったけど――――」
と、言い欠けたところでメッセージ着信の電子音が鳴った。
音は職務用、依頼用などと分けて設定しているからすぐに判る。
早速とメッセージをホロウィンドウに開く。
『連絡が遅くなってすみません。
ご無沙汰しています、リンディさん。
姉さんはまだ手が離せないので、わたしが代理として返信します』
メッセージの送り主は噂をしていた
相変わらず控えめで優しい文面ね。姉が雑とは言わないけど、彼女ならもう少し砕けた感じが出る。
返信を読み進める。
依頼の方は場合によっては受けると言う内容だった。
その条件は大まかに……
報酬の内容。
掛かる経費の割り当て。
そして――――――
「艦長、今着たメッセージってもしかして……」
「ええ、噂をすればってやつね。
妹さんからよ。前に連絡したことの返信」
「……!
あ、でも、もう済んでしまったのでキャンセルですね……うぅ、久しぶりに会えるチャンスが……」
会う機会が無くなったと残念がるエイミィ。
私も条件の最後を見るまではそう思ったわよ。
「いえ、会えるかもしれないわよ。依頼を受ける最後の条件は今でも満たせる。
それにしても、彼女たちにしては意外ね。先祖の住んでいた世界の特殊能力者には興味があるということかしら?」
「え? 何て書いてあるんですか?」
「『その地球の特殊能力者と姉妹の三名で面会を開く機会を作ること』
要するに、エミヤさんと引き合わせるってことね」
「なるほど……私たちがシロウ君と彼女たちの仲介を請け負う。そうすれば会えるって寸法ですか」
「そう言うことよ。
それにこれはチャンスだわ。これで一回分の借りを作れる。次に依頼を出すときは受けてもらいやすくできる」
内心で歓声を上げる。
お金を掛けずに“チケット”が手に入ると考えれば十分に得だわ。
それに、私もエイミィと同じで久しぶりに会いたい気持ちがある。
「と言うことは受けるんですね?」
「ええ。エミヤさんにはちょっと頼み事をすることになるけど、悪い話じゃないわ。彼も彼で得る物があるかもしれないし、友達になれたらいいじゃない?」
「そうですね、年が近くて話もしやすいでしょうし。
二人とも元気にしてるかなー。そうだ! クロノ君にも伝えないと!」
思わない幸運に目を輝かせるエイミィ。
でも、勝手に約束を取り付けるのはいかないから、まずはエミヤさんと相談しないといけないわね。
依頼の方はもう済んでしまったのでキャンセル。
条件に有る面会については、『本人に会うか訊いた後、こちらから連絡を入れます』とメッセージを書いて、私は送信ボタンを押した。
法のことなどを小説版などで再度確認したら時間が掛かってしまいました……。
前々から参戦が囁かれていた二人は24話で登場予定です。次回はアースラでの後半パートにあたるので。