旅館「十千万」へおいでませ   作:イモリ

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沼津楽しかったわ


渡辺さん

 旅館従業員の業務内容は多岐にわたる。

 大体には専門の人がいるのだが、いつでもどこでも応援に入ることのできる「便利屋」なる業種が俺だ。

 或いはルームメイド、或いは料理人、或いは掃除人、或いは売店エトセトラエトセトラ。

 当館内で俺が行えない仕事はない。せいぜい電気系や工事系といった業者に頼むものくらいだ。

 なので俺は結構忙しい。業務時間は六時に始まり九時に休憩があり、十二時から十三時半まで休憩があり、十六時に休憩があり、十九時に終了となっている。あれ、十二時間くらい働いてね?

 まあ一応ちょこちょこと休憩もあるし、実は専門の仕事がない分、暇なときはすこぶる暇なのだ。それを考慮してのことである。

 

 さてそんな忙しい俺だが、週休二日制という非常にクリーンかつホワイトな待遇だ。正社員ではあるのだが、バイト契約なのではないかと疑ってしまう。

 日曜と水曜が俺の定休日だ。そして本日は日曜日。言わずもがな、休みだ。

 外は春の陽気に包まれ、散り気味の桜吹雪がこれからへの期待と去年への哀愁を漂わせている。

 このような日は遊びに出かけるにかぎる。

 

「新しい模型でも探しに――」

「あーーそーーぼーーーー!!」

 

 自室の扉が勢いよく開け放たれる。

 純和風である当館及び当家の扉は当然ながら襖だ。大声はよく通る。

 ということはつまり、旅館本館まで声が漏れるというわけで……

 

「騒ぐなと何度言わせるかなぁ……!」

「いたたたた……! ご、ごめんなさい……!」

 

 部屋へと突撃してきた千歌に思いっきり鉄の爪を食らわせる。

 こいつは当旅館の看板娘たる自覚が薄い。漫画版ではどことも知れぬ飲食店で働いたりと、十千万を甞めてるとしか思えん。

 千歌の成長を目当てにやってくる老夫婦だっているのに、何故こうも成長せんのだろうか。

 

「で、なんだって? 俺はこれから模型屋巡りに行くんだが?」

「あそぼ! たまの休みなんだし、曜ちゃんも淋しがってたし!」

「そのたまの休みに休ませてやろうという気概はないらしいな。渡辺がいるってんなら、確実に身体動かすじゃねーか」

「いいじゃーん。だってここ最近忙しそうだったんだもん。たまにはチカたちと遊ぼーよー」

「ええい、揺するな高校二年生。俺の愛機は三人乗りできねーぞ」

「チカが前かごに乗る!」

「チャリじゃねーよ!」

 

 あーだこーだと言い合う内に千歌の親友である渡辺曜がやってきて、もうどうにでもなれと了承してしまった。

 

 

 

 

 

バスを乗り継いでやってきたは三島駅前。何故三島駅を選んだかと言えば、渡辺曰く「スポーツ系のアミューズメント施設も服飾店もあるから!」らしい。やっぱり動くんじゃねーか。

 ちなみに、俺はこれでそれなりに鍛えてある。というか日々の仕事では力仕事を頼まれることが多く、自然と鍛えられていた。

 渡辺に一度見せたことがあるのだが、「おぉ~……!」と感嘆の目で触りまくられた。こいつ筋肉フェチなのかもしれん。

 

 どこでどのように見せたか、などと無粋な質問はまさかないだろうが、一応釘を刺しておく。

 そんなこたぁ設定されてねえ。たぶんプールかなんかだろ。

 

「やっぱりこっちの方は都会だねー。ほら見て、新幹線!」

「都会の定義軽すぎじゃね? こんなもん茨城にも北海道にも通ってるぞ」

 

 千歌が指差しながらアホい発言をする。渡辺に窘められるが。

 

「もう、そこは適当にうなずいておくとこだよ?」

「なるほど、それならストレスも溜まらんな」

「っていうか二人ともひどくない!?」

 

 談笑しながら(千歌を笑いながら)目的地を目指して歩く。

 今回は大きなアミューズメント施設である。よくコマーシャルで流れてるラウンド〇ン的なところだ。

 10分ほど歩けば目的地が見えてきた。が、しかし、まあ予想はしていたが。見事に混みあっていた。

 

「どうすんだ」

「まっかせといて!」

 

 ビシッと敬礼した渡辺が受付へ走り去る。二、三言店員と話したあと、店員と共にこちらに戻ってきた。

 

「予約してたからすぐ遊べるって!」

「さっすが曜ちゃん!」

「用意良過ぎね?」

 

 まあすぐ遊べるなら越したことはない。多数決の結果により最初はボーリングをすることになった。

 

「お、重い……!」

「それ10ポンドだぞ……?」

「ぽんど……? な、なにそれ……?」

「あー、いやなんでもないから千歌は8ポンドくらいのにしとけ」

「私は12ポンドかなー。腕も振りやすいし」

「腕の筋肉すげぇな」

 

 千歌のアホさ加減や渡辺の意外な力強さに席巻しながらボーリングを楽しむ。

 予想通りというか、千歌はガーター多発。スコアも時々のまぐれ当たり。俺が指導してなんとか様になり、最後は三連続ストライク。うそだろ。

 渡辺はなんとなく分かっていたが、普通に上手い。俺とスコア勝負したくらいだ。俺? 一般の高校生よりはうまいんじゃないかな。

 最終的なスコアは千歌が48、渡辺が198、俺が203。ギリギリだったが勝ったぜ。

 

 次は俺の意見を押し通して卓球。これでも中学生の時は卓球部であり、全国大会にも個人で行ったことがある。二回戦敗退だが。

 今度は渡辺よりも千歌が得意だったようで、渡辺に圧勝。三ゲームマッチを2-0でストレートした。無論俺は負けなかったが。

 

 その後もビリヤードやダーツなど、やったこともないスポーツで勝ったり負けたり。最後はカラオケに行った。

 

「歌わないの?」

「いやいやいや、俺はほら、聴いてるだけで十分だからね」

「歌ってよー。そういえば歌声とか聞いたことないしっ」

「生涯聞かんでいいわ。それよかほら渡辺、お前の曲だぞ」

「これデュエットなんだよねー。ね、一緒に歌お?」

「いやあの……」

「ね?」

 

 渡辺に押し負け、しぶしぶマイクを握る。手には力が入り、肩も頬も強張る。喉は震え、視線は右往左往。

 いよいよ歌い始めがきた。そして俺は、爆散した。

 

 

 

 

 

「そんなに落ち込むことないってー。普通に上手だったよ?」

「嘘つけこのやろう……あんな上ずって外しまくってたのに、どこが上手いんだよ……」

「まあまあ、最初は誰だってあんなもんだよ。そうだっ、今度は練習しまくろうよ?」

 

 見事にへたくそな歌声を披露し、慰められる。かなり惨めだ。

 気付けば午後の五時近く。バスも終電が近づいてきたので、改めて沼津駅で解散した。

 

 もう二度と歌うことはないだろう。二度とだ。

 




二千字ちょっと。量的にはどうだろうか。その辺意見有れば言ってほしいです。

沼津行ってきましたよ。淡島マリパ、ずら丸聖地の来迎寺、サンシャインカフェ、深海水族館、長浜城跡エトセトラ。
あとで活動報告にでも色々書こうかと思うので、行ったことある人は思い出を思い出すのに、まだ行ったことない人はここ行こうかとか注意事項見て気を付けようとか、参考にしてください。

ちなみに曜ちゃんは筋トレが趣味です。
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