旅館「十千万」へおいでませ   作:イモリ

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黒澤姉妹出します。

なお、今作は原作とは何一つ関係ありませんし、設定や人物相関図等、完全にオリジナルです。原作には以下本文のような設定は存在しませんので、悪しからず。


くろさわさん

 当「十千万」は極めて土地型の旅館である。

 どういうことかと聞かれれば、「地域との繋がりがあってこそ成り立っている」のだ。

 一応自営業ということになってはいるが、例えば役所や自治会など、地域特有の組織とのパイプがあるからこそ、様々な食材も手に入るし、色々な観光ツアーと提携もできる。

 極論するならば、当旅館は沼津市が一丸となって経営しているのだ。

 

 さてそんな十千万であるが、当然漁協やらの自治体だけでなく、地元の有力な地主ともパイプがある。

 寧ろ大地主とのパイプがあるからこそ、多くの組織と繋がれていると言っていい。

 今回はその地主である「黒澤家」へと来訪している。

 当家は何かしらの援助をしているわけではない。単に「十千万」と「黒澤家」の間に個人的な友好関係があるだけだ。

 言わば近所付き合いに近いだろう。

 しかし相手はこの沼津市でも非常に大きな地主、黒澤家である。それ相応の態度があるのだ。

 

「どーもー、十千万のモンでーす」

 

 それ相応の態度なんてこんなもんである。

 

「あら、少々お早いお付きですわね?」

「途中の道路が予想よりも混んでなかったもんでしてね。まあそれでも10分程度でしょう」

「まあそうですわね。どうぞ、お上がりなさい。今お茶を用意させますわ」

「お構いなく」

 

 俺を出迎えてくださったのは黒澤家の長女にして次期当主権を持つ「黒澤ダイヤ」。

 千歌や渡辺と同じ高校に通い、生徒会長を務める御仁である。

 

 今回黒澤家を訪れた理由は、簡潔に言えば親睦を深めるためだ。

 毎年、両家のトップ及びそれに連なる方々のみで宴会やらを行うのだが、今回はそれとは少々趣が違う。

 要は両家で最も下位ではあるが、一応の重要人物同士の親睦会なのだ。

 

 ダイヤさんは次期当主だが未だ高校生の未成年。家の中での発言権は殆どない。

 対して俺は十千万お抱えの最も若い正規従業員。そして住み込みでもある。一応、高海家の末席に名を連ねている状態らしい。

 大雑把に言うならば「ガキに政治ごっこさせて学ばせる」ってこだ。

 

「さて、これが去年の収支額。そしてこちらが今前期の予測です」

「拝見いたしますわ。……やはり、下回ってますわね」

「淡島や三津と同じですよ。あちらさんの客が減れば、自然とこっちも減ります」

「旅館だけではインパクトに欠ける、とはいえ水族館だけでもイマイチ、と」

「あと人口流出、漁業縮小も原因に挙げられます。一応は漁業で立っている街ですし」

「その二つは市とも話し合う必要がありますわね」

 

 政治ごっことは言うが、こうして最下層なりの会議を行う。後進を育てる効率的な方法、且つ思わぬアイデアを手に入れる場だ。

 

「まず解決策としては、やはり町興しPRですね。肝心の解決法がないわけですが」

「それこそ市との話し合いうしかないのでは?」

「いやいや、問題点はある程度見つかってるんです。ならば各陣営での方法模索をしても良いでしょう」

「ふむ……。静岡、ひいては沼津市ならではのPRですか……」

「……」

 

 結局その日は何も思い浮かばず、定例報告のみで解散となった。

 まあそう思いつくものではない。昨今、町興しなど多くの市町村が行っているし、本当に有名になる場所なぞほんの一握りだ。

 

「それじゃ、俺はこれで」

「ええ、また来てくださいな」

「まあ、忙しくない時にでも」

「……そういえば」

「あい?」

「アナタ、近々ある会合に呼ばれるらしいですわよ。給仕で」

「は?」

「それでは、さようなら」

 

 バタン、と戸を閉められる。

 無駄にデカい純和風な屋敷、無駄に広々とした綺麗な庭園のある黒澤家前に放り出され、一人惚けるしかなかった。

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 会合の日が来た。

 会合とは言ってもあくまで黒澤家の身内的なものだが、こちらの当主が俺をいたく気に入ったらしく、給仕として呼ばれた。

 ちなみにお給金は日給八万円。嘘だろおい。

 給金多さは期待の大きさだ。それだけ期待されておいて、受けないなんて選択肢はなかった。ダイヤさんはジト目でその現場を見ていたが。

 というわけで現在は黒澤家の調理場にいる。会合自体は話し合いであるため、特に仕事はない。

 しかしその後には所謂お食事会があるので、多くの料理を拵えなければならないのだ。

 

「はいカルパッチョ六つできた。あと何がある?」

「ヨモギ等山菜の天ぷらお願いします」

「うーい」

 

 用意されていた山菜に衣をつけ、豪快に油へ投入。

 山菜は栽培された野菜と違って固いものが多いので、多少なりとも力業で調理してしまった方がいいのだ。

 

「そろそろ会合終わりまーす!」

「はやっ。出来た物から順に持ってっちゃって!」

 

 メインであるキンキの煮付けがまだ調理中である。仕方ないので荒業として、水分を少なめにして火を強める。

 火加減が難しいが、これで一気に煮詰まるので問題ない。

 

「キンキできたー! あ?」

 

 煮付けの火加減に手間取っていた隙に他の給仕さんがいなくなってしまった。満漢全席ばりに料理の数が多いので、皆して運んで行ってしまったのだ。

 

「おいマジか、一人じゃ運べねえぞ……?」

 

 ふと、廊下の扉に目を向けると、何かが飛び出していた。

 なんだろうか……赤い……?

 

「……」

「……ぁっ、ピギャっ!」

 

 赤い何かは髪であった。髪に続いて顔が生えてきたかと思えば、奇声を上げて引っ込む。そしてまた髪が覗き込む。

 

「……この家の人か?」

「ピ……! は、はぃ……!」

 

 なんか怖がられてるっぽい。あとどっかで見たことあるなーと思ったら、あれだ。千歌送った時に俺を見て逃げてた女生徒。

 しかし黒澤の者と分かれば好都合。もう時間もない。この人に煮付けその他諸々の運搬を手伝ってもらおう。

 

「ちょうどいい。手、空いてるか。こいつら運ぶの手伝ってくれ」

「ピギィ!」

「あ、逃げ」

 

 なぜか何度も逃げられながら、それでもどうにか手伝ってもらえた。時々奇声を上げられたが。

 

 

 

 

 

 会合も終わり、午後八時。

 

「今日はあいがとうございました。父に代わり、正式に御礼を送りますわ」

「いえいえ、これくらいなら何時でも言い付けてくだせえ」

 

 黒澤家前でダイヤさんとお別れの挨拶中である。ちなみに給金は手渡しで貰った。

 静岡各地に居られる黒澤家のお歴々はそれはもう、ヤの付きそうなカタギじゃなさそうな雰囲気を放っていたが。話してみると気さくで良い人達であった。見た目すっげー怖いけど。

 まあ黒澤家は普通の大地主なので道を極めているわけではないが。

 

「そういえば、ルビィとはどこで会ったんですの?」

「誰それ?」

「アナタと一緒に料理を運んでいた娘ですわ。ワタクシの妹ですの」

「ほー、そういや顔立ちとか似てますねぇ。いや、困ってたら調理場覗きにきてたんでね?」

「珍しい……あの子、男性苦手なのに……」

「マジ? じゃあ悪いことしちったか……すんません、謝っといてくれます……?」

「あら、いいんですのよ。別段、昔に何があったというワケではありませんしね」

 

 その後、二三言交わしたあと、バイクに跨り十千万に帰宅した。

 今回は中々に良い体験をした。お給金も八万円と懐具合もかなり温まった。

 こういう機会があれば、また参加したいところである。

 

 

 

 その後、千歌に何処行ってたとか、なんか奢れとかと喧嘩したわけだが。そこは割愛。




3000字いかないくらい。少ない?多い?読みやすい文字量がイマイチ分かんね。
今後も何かとつけてアクアの皆さんだそうかと思ってます。堕天使どう絡めればええんや……

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