旅館「十千万」へおいでませ   作:イモリ

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みじかいかも


さくらうちさん

「ご、ごめんくださーい……?」

 

 旅館の裏手――家用の玄関から声が聞こえた。旅館の客ではなく、高海家への客だ。

 あいにく現在は俺しか手が空いてるのはいないため、仕方なく俺が対応する。

 

「はーい?」

 

 玄関を開けると、見知らぬ女の子。

 赤みがかった長い髪、端正な顔立ち。一目でこの辺が出身ではないだろうと分かる、緊張した面持ち。

 何者だろうか、と考えながら来客対応。しようとしたが、女の子は固まって動かない。

 

「あの?」

「……はっ! あ、すみません! 私、隣に引っ越してきた桜内です!」

「あ、あーあー。あの空き家にね。これはどうもご丁寧に」

「あの、これ、つまらないものですけど……!」

「おやまあ、お若いのにしっかりしてる。ありがとうございます」

「……」

「……ああ、ちょっと待ってて」

「は、はいっ!」

 

 なんでか喋る度に上ずってるな。そう思いながら台所から紙袋を持ってくる。

 

「これ、ウチの名物土産品の十千万饅頭なんだ、ぜひ持ってってくれ」

「え、ええ!? そんな、わ、悪いです!」

「いやいや、これも商売戦略だからさ。あー、アンコだめだった?」

「大好きですけど……」

「じゃあ食べてくれ。味は俺が保証するから」

 

 なおも渋ろうとする女の子に無理矢理押し付ける。

 こういう手合はちょっと強引にした方がいいのだ。経験則である。

 その後、女の子は何度もお礼を言いながら帰って行った。

 

 

 

 

 

 次の日。月曜日である。千歌は学校、志満さんは仕事。そして俺も仕事。

 本日もあまりお客さんはいない。まあ四月の平日だし、当然だ。

 それでも数人いるあたり、旅館の人気度が表れている。

 部屋の掃除、お客様の御送り、食器の片付けを終えた頃には四時過ぎ。そろそろ千歌が帰ってくる時間である。

 

「ん、電話?」

 

 携帯に電話がかかってきた。相手を見ると「千歌」と表示されている。

 

「俺だが」

『もしもし、私!』

「知ってる。なんだ迎えか?」

『そうだけど、そうじゃない! タオルと着替え持ってきて!』

「あぁ?」

 

 詳しい話を聞く前に場所を言われて切られた。

 なんだってんだよ。そう思いながらも着替え二着とタオル数枚を持って言われた場所へ向かう。

 バイクを走らせること数分、件の浜辺に着くとずぶ濡れの千歌と――同じくずぶ濡れの、この間の女の子がいた。

 

「おーい! こっちこっち!」

「見りゃ分かる。なに、これどういう状況?」

「ひぇっ? え? な、なん……」

 

 女の子はみるみるうちに顔を真っ赤に染め、海へ身を投げた。

 

「なぜ!?」

「また入っちゃった!」

「がぼがぼがぼ――」

「おい溺れてねえか!? 千歌飛び込め!」

「あ、あいあいさー!」

 

 泳ぎに慣れている千歌が見事に女の子を救出。幸いにも水を飲み込んだり、意識のブラックアウト等は起きてない様子であり、救命救急は必要なかった。

 そして事情を説明してもらったが、まったく分からん。海の音とはいったい……うごごご。

 ピアノに関してスランプ気味であり、その海の音とかいう謎のSEを聴けばなんとかなるのではないか、と考え付いたらしい。その着想はおかしい。

 まあ当然、海の音なぞを聴けるのは海中しかない。しかし時期的にダイビング等の店はやっていない。ならば自分で飛び込んでやろう、と。頭大丈夫かしらこの子。

 

「四月は気温は穏やかでもな、海水はかなり冷えるぞ。比喩じゃなく自殺行為だバカ」

「ば、ばか!?」

「どうしてもってならインストラクターでも雇え。素人が海を甞めると死に目を見る」

「うぅ……っ」

「そもそも沼津の海は黒潮が――」

「ぐすっ……」

「わー! ちょっ、ストップストップ! 泣いちゃう!」

 

 と、説教をしていると千歌からストップがかけられる。海の危険性を説いているのに何事か。

 急な温度変化は血管が縮小して血流の妨げになるし、その状態で酸素を遮断など即座に意識が飛んでしまう。そうなれば海の藻屑となるのは目に見えているだろうに。夏以外の素潜りはあまり推奨されないのだ。

 まあ助かったので良しとしよう。ひとまず濡れた制服とタオルを回収し、十千万へと向かう。

 

 道中では談笑(と賞したご機嫌取り)と相成ったが、そこで衝撃の事実。

 

「高校生……!?」

「そうですけど……え?」

「完全に大学生だと思っていた……! まさか千歌と同学年だとは……!」

「それどーいう意味!?」

 

 ぱっと見で高校生にはどうにも見えんだろう。これで俺と同い年とか、都会ってこえー。

 

「え、学校行ってないんですか……?」

「金がなくてな。まあ高認試験受ける予定だし、別にどうってことない」

「すごいよねー。資格たくさん持ってるんだよ?」

「学歴がない分、不利にならないようにな」

 

 お互いに腹の内を話し合っているうちに、十千万に到着。そういや家は隣だったな。

 

「ちゃんと風呂入れよ」

「はい。ご迷惑かけました」

「あれ? お隣さん!?」

「この間越してきたんだよ。あれ、お前いなかったっけ?」

「知らないよ!」

 

 あーだこーだと文句を言われるが、タオルを顔に突っ込んで封殺。

 制服を返して家に帰るのを見送ると、俺たちも十千万へと帰宅した。

 

「制服な」

「うん?」

「もう一着は今クリーニングに出してる」

「……へ?」

「明日は夏服で行ってくれ」

「そんな!? まだ結構寒いんだけど!?」

 

 なんてことがあったりなかったり。




アニメと漫画、どっちを準拠にするか悩んだ結果。アニメの方が絡ませやすかった。
しかし別にアニメのストーリーに絡ませようとかは今のところ考えてません。オリ主が働いちゃってるからね、絡む機会がかなり限られます。

ちょっとアニメと違う部分はオリ主がいる故のバタフライエフェクトだと思ってください。蝶々が羽ばたけばハリケーンが起こるらしいですし、問題ないはず。
あと恋愛描写を書く予定も今のところないです。結婚云々とかの言葉も出てきてますが、まあ若い男女が同居してりゃそんな話もありましょう。それに高海家って男児いないし。何も不自然は無い。

感想、批評等、なんなりと申し下さいませ。
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