旅館「十千万」へおいでませ   作:イモリ

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さぼってました


創立記念日らしい

 本日は浦の星女学院の創立記念日らしい。

 金曜日である今日、そして土日で三連休だと千歌がはしゃいでいた。

 そして渡辺と桜内がお泊まりに来るらしい。

 

 時期的に客も少なく、ある程度休んでいられるこの春に何故そんな企画を立てやがるのだろうか、あいつは。

 しかも何を謀ったのか、ちょうどまったくお客様が見えない日だ。

 天は俺の敵らしい。

 客の予定がなかろうと、駆け込みが来る可能性はあるため旅館は開いておかねばならない。

 つまり渡辺と桜内は「お客様」として当旅館に来るのだ。

 もちろん、その日は俺も仕事。

 

 つまり、俺が従事せねばならん。くそが。

 

 

 

 

 

「本日はようこそいらっしゃいました」

 

 夕方四時過ぎに渡辺と桜内が御来訪なされた。志満さんは何をどうトチ狂ったのか「チカの友達だけだろうし、アンタ一人でいいわよね」などと口走ったことにより、今日は俺一人で相手せねばならない。

 渡辺は俺の仕事姿を見慣れているが、桜内は初めて見る俺の姿にたじろいている。

 

「お荷物のほう、預からせていただきます。さあ、こちらへどうぞ」

 

 二人分の荷物を奪い取り、部屋へと案内する。

 ちなみに、俺の仕事着は和風な作業着だ。番台のような服装と言えばいいか。着流しをキッチリしたような感じ。分かりにくいか。

 

「こちらでございます。当部屋は海原の見晴らしも良く、また窓を開けていただければ程よい潮風が鼻腔をくすぐる、我々としましてもお薦めのひと部屋でございます」

 

 定型文のように部屋の紹介をする。実はひと部屋ひと部屋でお薦めする文句が違うのだが、そこはまあ企業的なアレがアレでな?

 部屋の隅に荷物を投げ捨て、館内通信で千歌を呼び出す。どうやら着替え中だったらしく、慌ててすっ転ぶ音声まで流れ込んできた。着替え中に遭遇などないんだよ。

 まあ数分で来るだろう。その間に夕餉の準備を済ましてしまおうと、調理場に向かった。

 

 

 

 

 

 本日の献立は非常にシンプルなものだ。春真っ只中ではあるが、非常に良質なタラが手に入ってしまったため、鮮魚の鍋しゃぶである。白身魚の一番おいしい食べ方はこれにかぎる。

 副菜としてかま揚げシラス、タラの芽と大葉の天ぷら、菊のおひたしを添え、マツタケのお吸い物を煮詰める。

 これだけでは少々味気ないので、ここに素朴な味付けにした牛スジ煮込みを追加。タレを溶いた片栗粉で薄めてトロみをつけ、ごま油をひと回し。これで完成。

 前菜として出した赤身魚の刺身類等にも負けない、素朴で豪華な夕餉が出来上がった。女子高生にもやさしい低カロリーでありながら、素材の良さでひときわボリューミィを魅せられる献立である。

 

 通信で千歌を呼び出して料理を部屋に運んで行く。

 

「夕餉の時間でございます。それでは本日の献立を申させていただきます」

 

 それぞれの料理名と内容の紹介をしながら、一品ごとテーブルへと並べていく。桜内の目が物凄くキラキラしておる。

 

「これ、アナタが作ったの?」

「はい。僭越ながら、私が調理させていただきました」

「うわー……なんか、根に持ってる……?」

「あ、分かる? 今日はずっと仕事モードで圧倒してくるみたい」

 

 そこの二人、うっさい。

 だが二人の言うとおり、桜内は圧倒されているようだ。

 顔は蒸気しており、瞳もキラキラ輝き、食い入るように俺と料理を見つめている。

 これなんか違くね?

 

「それではごゆるりとお楽しみくださいませ」

 

 襖を閉め、一呼吸。

 五十分後に食器を下げに行くまで、しばしの休息である。

 

 一服しますかねぇ。

 

 

 

 

 

 自分で淹れたお茶を飲み、一息つく。

 タバコなんぞは吸いません。作中で十七歳と明記しているため、吸うに吸えないのだ。

 あと二十分くらいで休憩終了だな。

 そう思っていたら館内通信が俺を呼ぶ。千歌である。

 

「なんの用だ」

『お風呂入ったあとさ、一緒に遊ぼ!』

『ちょっ、チカちゃ――!』

 

 どたんばたんごとん。そんな音が流れてくる。

 他に客が居ないからいいが、あまり暴れるでない。

 

「俺そのあとも仕事あるんだが」

『ほらチカちゃん! お仕事の邪魔になっちゃうから――』

『梨子ちゃんの浴衣姿が見られるよー』

「すぐ終わらせてやろう」

 

 渡辺の甘言に乗せられたわけではないが、そこまでどうしてもと言われれば行くしかなかろう。男として。

 即座に湯飲みを片付けて食器を下げに行くが、既に千歌が下げ始めていたので手伝う。その量を一人で運ぼうとするな。

 正味十分で片付けを終え、館内のセキュリティチェック、金庫管理、ネットのホームページやメールのチェック、在庫確認、食材管理等を終わらせ、千歌達が風呂の隙に部屋の掃除と布団敷きも終わらせる。この間、わずか三十分の早業である。

 普段は一時間かけて行うこれらの業務であるが、本気をだせばこの程度造作もない。

 

 そうして残ったすべての業務を終わらせ、タイムカードを切る。ここからは夜勤の人と変わるのだが、今日の夜勤は志満さんだ。ほかに仕事を持っている人だが、どうせ今日の十千万は仕事がないので、居るだけである。

 さあ暇になったところで千歌から通信。お風呂出たから遊ぼうと。

 そこまで言われちゃあしゃーないよなぁ。足取り軽く部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 こんこん。襖をノックする。

 はーい、と中から声が聞こえた。これは入っても良いという合図なのだろう。そう判断する他ない。

 

「入るぞ」

「あっ! ちょっ……!」

 

 襖を開けて入ると同時に、桜内が布団で身体を隠してしまう。いや、というか普通に浴衣着てるじゃねーか。なんで隠す必要があるんだ。

 まあ細かいことは気にしない。その内隠すのもやめるだろう。ということでトランプ大会である。

 

「えー!? リバレボペナないの!?」

「うん、、まずリバレボペナってなに?」

「まあ地域差激しいからなぁ、大富豪」

「ラス八とかダブジョはあるみたいだけどね」

 

 そんな風にローカルルールで騒いだり、渡辺が野球拳とかおっさん臭い馬鹿な事やりだしたりと、喧しくも中々に楽しめた夜を過ごした。

 

 まあなんというか、和服美人はイイネ。




やる気湧いた時に書くから遅くなってもいいよね!
感想、評価、批評、誤字報告等お待ちしております。

ちなみにリバレボペナはリバースレボリューションペナルティ(革命返しペナ)、ラス八は八上がり禁止、ダブジョはダブルジョーカー禁止のことです。皆さんの大富豪にはどんなローカルルールがありますか?
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