提督の誕生日を祝うために、提督の好きな料理について悩む海風SS。
割とさっくり読めると思います。

pixivに同時掲載。

1 / 1
2016/11/12:細かな修正。


提督の好みは

「好きな料理?」

「はい。何かありますか?」

「うーん、そうだなあ」

 

 提督とケッコンして、はや半年近くが過ぎ。外を出歩くには何か羽織るものが必要になってきた頃のこと。

 白露型駆逐艦の七番艦にあたる海風は、あることで悩んでいた。

 

「海風の料理が好きかなあ」

「もう、提督。海風は真面目に──」

「だって事実なんだ、仕方ないだろ?」

「それは……その、そうかも知れないですけど」

 

 提督の好きな料理が分からないことである。

 どう聞いても、どう探っても、結局ははぐらかされてしまうのだ。

 

「じゃあ、今食べたい料理などはありますか? なんでもお作りしますよ?」

「海風の作った料理が食べたい」

「もう……」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はあ? あいつの好きな料理?」

「教えてください叢雲さん。初期艦のあなたが頼りなんです」

「私に聞かれてもねぇ……」

 

 遠征から帰ってきた叢雲の艦隊が獲得した資材を、資材庫へ運ぶのを手伝いつつ、叢雲へと質問をぶつける。

 彼女はこの鎮守府の創立からいる艦娘、つまり最初期からいる艦娘の一人。そんな彼女なら、何か知っているのではないかと思ったのだ。

 叢雲は耳のような電探をひょこひょこと動かし、上の空を見る。上には木目の並んだ古ぼけた木の天井しかないが。

 二歩三歩と歩みを進め、やがてそれが十になったあたりで、ふと叢雲が口を開いた。

 

「そうね。鎮守府が出来てすぐの頃は間宮さんがいなくて、あいつが食事係も兼任してたわ」

「提督が、料理を?」

 

 これは意外な事実を知った。普段から私が提督の料理を作っているので、提督が料理をするところなど見たことがない。提督の料理は、さぞかしおいしいに違いない。

 

「今となったら、あの時の料理も懐かしいわ。盛り付けがかなり不格好だったのは覚えてるわよ」

「味はどうでした?」

「味はまあ……良かったは良かったけど、多分海風の方が数倍いいわよ」

「そうですか……」

 

 どうやら提督はそこそこらしい。少し期待してもいいのだろうか。今度一緒に料理をしてみようと思う。

 しかし、問題はそこではない。というよりずれている。が、知らないものは知らないのだろう。仕方ない。

 

「ところで、提督はどんなものを作ったのでしょうか?」

「そうねぇ、野菜炒めとか、すぐに作れる炒め物系が多かった気がするわ。多分技術がなかったからでしょうけど」

「炒め物、ですか」

 

 炒め物。野菜炒めはもちろん炒め物で、炒飯だって炒め物。ようは高火力でサッと仕上げるもの。ある程度の技術は必要だが、工程はいたってシンプルなものだ。

 なるほど、技術がなかったというのも納得がいく。

 

「その他には特に思いつかないわ。悪いわね、何も情報出せなくて」

「いえ、いい話が聞けたので、嬉しいです」

「そう言ってもらえると助かるわ。……ん、着いたわね」

「では、テキパキと片付けてしまいましょう」

「そうね。さっさと終わらせましょう」

 

 いい話は聞けたが、好みの料理には至っていない。

 提督の好みの謎は深まるばかりだった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はあ? 提督の好きな料理ィ?」

「はい! 教えてください、隼鷹さん!」

 

 本日出撃、遠征ともに予定がなく、昼間から間宮で酒を煽る隼鷹。海風はその横に昼餉を持って座った。提督は朝から鎮守府を出ており、適当に食べてくるから昼餉はいらないとのこと。

 この鎮守府の空母の中で着任が一番早く、また酒飲みであるため、前から提督ともよく飲んでいたという。

 そんな彼女なら、何かいい情報をくれるのでは。だが、そんな彼女は、何かを渋るような顔をしていた。

 

「ん~そうだねぇ……話すのはいいけど、なにかつまみが欲しいなあ」

「つまみ、ですか?」

「隼鷹さん、貴女私に料理頼んだばかりでしょう? なに駆逐艦の子に要求してるんですか」

 

 机の上に料理を置いて、私の思考を遮ったのは、間宮。出てきた料理は……なんですかこれ。大きいフライドチキンの上に、サラミなどと一緒にチーズが乗せられ、ピザのように焼かれている。なんという女の敵のような料理だろうか。

 美味しそうではあるが。

 ……美味しそうではあるが。

 

「だって聞いてくれよ間宮ぁ~。海風ってば料理が凄く美味いんだぞ~?」

「隼鷹さん、言いすぎです……」

「あら、そんなことないですよ? 正直、うちに来てほしいくらいです」

「間宮さんまで……」

 

 海風の料理が何故ここまで好かれているのかはさておき、提督の事について聞かなければ。

 

「それより、提督はいつもどんな感じの料理を好んで食べてましたか?」

「そうだねぇ、提督はホントに雑食だからねぇ」

「雑食……」

 

 つまり美味しければなんでもいいということだろうか。それでは困る。海風は好きなものを作ってあげたいのだ。

 

「あぁ、でも、提督はいつも、料理を食べ終えてから酒に手を付けてたかなぁ」

「食べ終えてから?」

「なんでも、出来立てが美味いものは出来立てのうちに食べ終えたいからとか言ってたような」

 

 美味しいものは美味しいうちに食べる。なるほど、理に適っている。

 これはまたひとつ覚えておかなければ。

 

「なるほど……参考になりますね」

「だろぉ? 隼鷹さんだってやればできる!」

「じゃあ戦闘開始して早々に大破するのやめてもらっていいですか? 心臓に悪いです」

「そ、それとこれとは話が違うって」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 その後も心当たりのありそうな人に聞いて回ったが、結局のところ、提督の好みは分からなかった。

 だが、海風の料理が好きだと言ってくれる以上、なにかしら好きになる要素があるのだろう。

 だから私は、いつも通りの食事に加えて、あるものを用意して待つことにする。

 そして、提督が帰ってきたらこう言おうと思う。

 

「提督。お誕生日、おめでとうございます」

 

 ──と。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。