【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚 作:冷やかし中華
「あったりまえよ。料理を舐めるな!」
そう力強く宣言したのは料理界への貢献や新種の食材などの発見という功績が評価され、若干19歳という若さで
「なんで、ここの集ったメンツに料理をさせることが『料理を舐めるな!』に繋がるのか理解できません。普通、逆じゃないでしょうか?」
「まぁ、そうだよな。どの基準でモノを言っているのかによるけど、俺にだって碌なことになる気がしねえよ」
私の呟きに答えてくれたのはキルア。はい、
「ブハラさんの指定する料理とは何ですか?」
「うん? あー、まだ言ってなかったね。俺の指定する料理は『豚の丸焼き』だ。このビスカ森林公園内に生息する "豚" なら種類は問わないよ。他に質問は?」
間延びした声を含みながら指定する料理を答えてくれた内容を吟味する。
(豚、豚ですか………
確かに、
なので、もう正午だというのに、これから更に時間の掛かる『豚の丸焼き』というところに不安を憶えたので、もう少し踏み込んで聞いてみることにした。
「では、もう1つだけ。試験官は先程『料理を作ってもらい』と仰いましたね?
この場合、下処理などは全て受験者の方で済ませ、
ちなみに、
さて、今は12時です。このままでは、ここに集った不慣れな集団が獲物を捕らえて、下準備をして、首尾よく豚を料理できたとしても最短で18時を回ることは明らかになっているわけですが、それでも受験生に『豚の丸焼き』を作らせるということで良いですか?」
「「…………………」」
私の問いかけに試験官の2人が黙った。
次第にどよめきが大きくなっていく受験生の集団、余計なことをしたかもしれないと焦る私、近くで爆笑しているのが丸わかりな
なので、もう始めてしまったので引くわけには行かないと私も気を強く持って試験官を質すことにする。
「どうして、そこで黙るんですか!?
そもそも試験官は、この基本的に無骨極まりない集団に一体何を求めて
私の言葉に重々しく巨漢の男性は口を開いた。
「うん、前言を撤回しよう。とりあえず、この公園内で獲れる豚なら種類は自由だから、それを
その言葉に周りが「おぉ………」と声を漏らし、私も力強く頷いだ。とりあえず、一次審査は何とかなりそうだ。問題は全然冷静じゃなさそうな女性試験官の方だろう。メンチさん、なんであんなに冷静さを欠いているのだろうか………?
「ちょっとブハラ、なに勝手に試験内容変えてるのよ!?」
「いや、だってメンチ今の聞いてたかい?
あの娘のいうことは正論すぎて俺では自分の審査内容を撤回する以外に他に方法が見つからないよ」
「そういう問題じゃないでしょ! 私は
それが料理をさせないで試験を終わらせましたじゃ、話にならないじゃない!!」
ちょっと待て、メンチ……… 貴女、今、自分で何を言っているか解っていますか?
いいえ、全く解ってないのでしょうね。それを感じた私は宙を仰ぎ見ながら、そう考えるが先ほども感じたとおり、どう考えても今の彼女は冷静ではない。とりあえず二次審査の時に無理難題であれば、またツッコミを入れるとしよう。このままではマトモな試験が行われるとは思えない。けれど、ここで四の五の言っても先に進まないので、とりあえず決まった内容だけ反芻して前に進めようと試みることにした。
「とりあえず、メンチさんの試験内容に関しては後程、指摘があれば提言させていただきますが、まずはブハラさんの豚を用意するところが一次審査の内容に決定したということで良いですね?」
「うん。いいよ。ほら、メンチも機嫌直しなよ。とりあえず、一次審査については俺に決定権があるんだから諦めて。それじゃ、スタートォォォ!!」
隣にいる不機嫌なオーラ全開の
――ビスカ森林公園の敷地内にて
「やるじゃねえか、カナタ!」
「本当に凄いね!」
「だろ?」
なんでキルアが誇らしげなのか分かりませんが、私は寄ってくる三者三様の反応に微笑みを返しながら「まぁ、これくらい即座に反応できないと世の中、不都合なことばかりですから」と答える。それに私を除けば一番の年長者であろうレオリオと名乗った男性は「げっ」と声を大にし、まだまだ経験の足らない子ども組2人は「あはは……」と苦笑いを浮かべる。そういえば、もう1人、一緒に居たような気がするけれど、一体何処に行ったのだろうか?
「あれ? そういえば、クラピカは?」
「ホントだ、いつの間にか消えてら」
その会話に消えた4人目について名前を思い出し、そういえば、
ところで、ご主人や姫さんは何処に行ったのでしょう?
ビスカ森林公園内にいる豚は一種類だけのはずですが……… まさか、ヌメーレ湿原にいる
それで審査に間に合わずに失格なんて恥ずかしいので止めてほしいです、そう私は切実に願いを込めるのだった。
* * *
カナタが試験官にぶつけた猛烈なツッコミに自分が如何に試験の内容を軽く考えていたのか反省したのだろう、前言を撤回し、豚を殺さずに捕えてくることが審査合格の条件へ変更されたことを受けて多くの受験生が森林公園内に豚を探しに行ったことを受けて、俺と姫さんもヌメーレ湿原へ、此処にしかいない豚の仲間を探しに来ていた。
「この辺じゃないかな?」
俺の言葉に1つ頷く姫さん。しかし、本当に機嫌が悪いな、どうしたんだろう? きっと先程から付いてきている
「大丈夫? ここは、もう詐欺師の塒だよ、死にたいの?」
「こんなところで倒れるつもりは毛頭ない」
「そう、なら引き返せるうちにお戻りよ。キミには、まだ早い。試験の最中も先頭集団から逸れていたのだろう?
少しばかり "運命力" に恵まれているようだけれど、死にたがりでないというなら、自分のレベルに見合った環境で過ごすことをオススメする」
そう世界の過酷さの「か」の字も知ら無さそうな若者を諭すが、それが気に入らないとばかりに噛みつかれた。
「知ったような口を利くな!」
瞬間、姫さんの殺気が膨れ上がりそうになるけど、それを抱きとめることで抑える。
「もう、ダメだからね?」
「…………………………………………………わかっておる」
長い沈黙を経て姫さんが出した答えに頷いて「ありがとう」と告げた。
「キミも、一体、何を苛立っているのか知らないけど、あまり姫さんを刺激しないでくれるかな?
正直に言って迷惑だ」
俺の言葉に
そうアタリを付けてみるものの、そうだとすると心当たりが多すぎて対応に困るのが何とも言えないところ、おそらく黙っていれば彼は諦めずに勝手に付いてくるだろう。それなら好都合――
「このまま湿原の奥深くまで連れ込んで、そこで撒くだけで問題は解決する。独りになった彼を勝手に湿原で騙され野たれ死なせれば良い、ほらお前は何も悪くない」
――そう冷酷な部分の俺が囁いてくる。
その悪魔の如き囁きを俺は頭を振って霧散させると姫さんの手を取って指を絡ませた。隣で大事な人が息を呑んだことが伝わってくるが、そんなものは気にしない。
「ねえ、とりあえず名前と付いてきた要件だけ聞いておくよ。それを俺たちがどう判断するかまでは判らないけれど、とりあえず、この場は諦めてキミは試験会場にお戻り」
そう伝えると思わず息を呑むほどに美しいとすら感じさせる瞳を持った見た目の容姿に反して内面が
「クラピカだ」
「そう、クラピカっていうんだね。用件は何かな?」
再度問う。こんな些細なやり取りでさえ、その何が姫さんの感情を刺激しているのか分からないが、苛立っているな、というのだけが伝わってくる。あー、これはたぶん、アレだ。意気揚々と気分が最高潮だった時に冷や水を掛けられるような何かを俺が見ていない僅かな間にクラピカからされたんだろう。それが何かまでは判断つかないけど、きっとそうに違いない。
俺は姫さんの苛立ちの原因にアタリを付けると、キュッと絡めた手を握り返して落ち着かせる。ほら、落ち着いてくれた。ツーンっとソッポを向いたままなのが愛らしいけれど、それはまた別な機会に回すとしよう。そう思いながら俺はクラピカの出す答えを待っていた。
「この瞳を見て気づいたのかもしれないが、まず初めに入っておくべきことは私がクルタ族の生き残りだということだ――」
うん、全然、試験と関係ないよね。あと俺たち自身とも関係ないネタだった。まぁ、確かに彼の持っている容姿と姫さんの容姿に酷似するところが無い訳ではないけれど、それは他人の空似というヤツだろう。姫さんみたいなヒトが3人も4人もいて堪るか(2人くらいなら、なんか思い出せないだけで『経験』はあったような気がするからギリ許容………)という思いがあるものの、彼がそれに縋りたくなる気持ちは分からないでもなかった。うん、独りきりは、嫌だものね。
「ふーん。なるほどね。まぁ、それは良いや。
「何故だ!?
私は十分に良くやっていると自負している」
まるで聞き分けのない子供のようだ。否、子どもそのままである。クラピカの言葉を「笑わせるな」と一喝したいところだが、それだと話は全く先に進まないだろうし、毒にはなっても薬にはならないと判断して指摘する。
「その瞳。価値があるんだろう?
もし、俺が、俺たちが悪意の塊のようなヤツだったら、こんな人気のない、死んでも文句も言えない環境に身を置いている
少し強めの言葉を使ったが、真実その通りなので問題は無いと内心で切り捨て様子を伺えば、クラピカは、そこで初めて自分の愚かさに気付いたとでも言わんばかりにハッと息を呑んで瞳を覆うように顔を掌で抑えた。まったく、何もかもが遅すぎる上に甘すぎる。なにより、感情に振り回され過ぎて、自分で自分を制御できていない。見失っていると言い換えても良い。
――つまり、話にならない。
まぁ、もう俺たちとクラピカとの間には因果が結ばれてしまったが故、これは乗りかかった船だと諦めることにする。だから、どんなに面倒だと感じても、此処で見捨てるようなことはしない。面倒だけれども。面倒だけれども(大事なことだからry)
それから、まぁ、放っておくわけにも行くまいと姫さんを説得した後、クラピカの同行を『許可』して俺たちはヌメーレ湿原の奥へと進んでいく。
「どこへ向かっているんですか?」
そう問いかけてきたのは、クラピカ。少し前のやりとりもあり、落ち着いたのか随分と此方に対して心を砕いた反応が見て取れたことに安堵しながら、その内容を反芻して自分でもウッカリしていたなと思い至り俺は答える。
「………え?
あぁ、そうか、そういえば言ってなかったな。このヌメーレ湿原には、
「なるほど。それは分かったのだが……… 審査の基準は
俺の答えに「お前は一体何を言っているんだ?」とでも言いたげな表情を浮かべたクラピカは、俺が勘違いしていた致命的な欠陥に気づき指摘する。その口調は彼の素のものだったのだろうが、これまた先のやりとりの影響か、猫を被るようにという言い方が適切かどうかは別として礼儀正しい口調に切り替えて応対してきたことに俺はプッと笑いを零した。
「口調は素のままでいいさ。姫さん対しては、それを心がけた方が良いと思うけど、俺や、此処にはいないもう1人に対しては素のままのキミで居てくれた方が助かるかな?
その方が、俺たちも変に気を遣わなくていいしね」
そういうとクラピカも硬かった表情を和らげながら「そうさせてもらう」と答えた。うん、そっちの方が、
ただ――
「ねえ、今の、もう一回言ってくれないかな?」
――もう一度、確認しておかねばならないことを俺は確認することにした。
「もう一回? 何を?」
「さっきクラピカが言ったことだよ」
俺の言葉にクラピカは立ち止まり、少しの間、思案した後、口を開いた。
「そうさせてもらう」
「その前」
俺の言葉に意味が分からないとでも言いたげな表情を浮かべ再度答えるクラピカ。
「なるほど。それは分かったのだが……… 審査の基準は
俺の言葉に愕然とした表情を崩さず、むしろ少し苛立ったような表情さえ浮かべるクラピカは目頭を自身の指でグッと抑えた後、改めて口を開いた。
「審査の基準は
聞いてなかったのか!!」
「がーん!!!
どうしよう、姫さん。『ネヴェルエバ』は審査の対象じゃないらしいよ!?」
「そんなことは初めから知っていたが?
なんだ、本当に知らずに此処まで来たのか、
「うわ、酷い言われよう……… めずらしく滅茶苦茶フォローしてたのに、この扱い。俺、不憫過ぎだと思う。思わない?」
「八尋の扱いに関しては半ば自業自得の様な気もするが……… それに私が口を挟むべきではないな」
同意を求めるようにクラピカへ水を向けたが、どうにも姫さんに対して羨望の様なものは残しつつも苦手意識を植え付けられてしまったのか、踏み込んだ内容には言及せずにいるようだった。まぁ、賢明なのかもしれない。それにしても、惜しいという思いが滲むのは湿原まで戻ってきたのに狙っていた獲物を仕留められなかったことだろうか。うん、実に惜しい。今度、狩ろう。絶対、狩ろう。そう思いながら話を前に進めることにした。
「うーん、『ネヴェルエバ』を捕えられないことには惜しい気持ちはあるが、ここで試験に落ちたら後で何を言われるか分かったものじゃないからね。よし、戻ろう。すぐ戻ろう。クラピカ、手を出して?」
俺の言葉を訝しみながら、それでもある程度の信頼を気づけたらしいクラピカは俺に向かってそっと手を出してくる。俺は、その手を取って「口を閉じろ。舌を噛むぞ?」と一言告げると、一気にビスカ森林公園にいる獲物がいそうな場所に向かって駆け出したのだった。
――ネヴェルエバ
それは湿原の珍味という代名詞を持ち、ここ
普段は非常に
* * *
「ほい、到着。目先120m先に標的の獲物多数、殺さずに仕留めるけどって……… おーい、息してるか?」
「…………………」
俺に手を惹かれるかたちで、ざっと10km近くの距離をものの数秒で走り抜けたのだからクラピカには少し刺激が強すぎたのかもしれない。もちろん、手を引いて走っている間にクラピカが振り回されて障害物に叩きつけられる、なんてことにならない程度の配慮はしたつもりだったのだが。
(気絶、してる?)
(あの程度のことでか?)
(いや、この
(ふむ……………)
反応が無いクラピカの様子を見ながら声を殺して姫さんと会話をしている最中に、当人が悪そうな笑みを浮かべたところで失敗したかなと思うものの後の祭、クラピカごめんね? きっと彼女が飽きるまで玩具にされるかもしれないけど、許してね!
と内心で勝手に謝罪しつつ、供に
「ひ、ひぎれる。ひぎれちゃうよ。いはいいはい」
「何を言っているか分からんな。もっと私が理解できる言葉で話せ。それと、こんなことくらいで千切れるわけなかろう。それよりも、なんだその笑みは? なにか文句でもあるのか?」
もう完全に解ってて煽りにきてるよね、それ!? などという火に油を注ぐことがミエミエな抵抗をすることなく、しばらく「意外と伸びるものだな」などとクラピカの意識が戻るまで俺は遊ばれ続けるのだった。
「うっ 私は?」
「おー、起きた起きた。なんか気を失っていたみたいだから寝かしてたんだけど気分は………」
気分はどうだと聞こうとしたが、その答えを得られるよりも前にクラピカが木陰に隠れてえずいてしまったのを見て、少し無茶が過ぎたかと反省した。割と真剣に。
「その、すまん。
「私は先に行くが?」
「うん、俺の分まで任せるよ。殺してはダメって話だから、ほどほどにね?」
「分かっておる。
「………絶滅させないように」
「わ、私とて、そこまで大食漢ではないわ! ばか者!!」
クラピカに向けて謝罪の言葉を口にしながら『空の水』、『究極の軟水』とも呼ばれるエアアクアの詰まった筒を手渡し、姫さんとは、この二次試験を通過する為の段取りをしていると、何故か顔を赤らめて走り去ってしまった。何か変なことを言っただろうか?
「八尋は、もう少し女性に対するデリカシーというものを持った方が良いと思うぞ」
「なんのこと?」
「……………そうか。ならば、何も言うまい」
俺の言葉にクラピカは何とも言えない表情をして肩を竦めると「やれやれ」とでも言わんばかりの態度を取る。いや、本当に、何の事?
アレは、いつも通りのやり取りだったと思ったんだけどなぁ。そう考えることしかできなかった俺も内心で肩を竦めるのだった。
それからクラピカが自力でグレイトスタンプを獲り、ゴンとキルア、そしてカナタと合流、姫さんと揃って提出しブハラの出した一次審査を無事に通過したのだった。
―――第287期ハンター試験 第二次試験(一次審査:豚狩り)通過者:91名
QAは、活動報告に書くことにしました。