【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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HUNTER時空の1日は、24hで回ってないよなーっと改め単行本2巻を読んでいて思いました。


009:Mystic Remora

(ふぅむ。審査の内容が若干変更になったとはいえ、一次審査の突破が過半数超えですか。今年は豊作ですなぁ)

 

 あ、申し遅れました。私、今期の第287期ハンター試験一次試験を担当したサトツと申します。今は、受験者の方々を二次試験の会場まで案内を終えたので生い茂る樹の上から、その様子を眺めていました。そして、今年の受験生は質が良いですなと感心していた所です。とはいえ、私は既に監督官の役目を終えているので本来であれば、お役御免ではあるのですが……… 気になることも幾つかありましたのでね。こうして残って様子見をしていた訳です。

 

「もう、やっぱり審査の内容なんて変えるべきじゃなかったんじゃない?」

 

「しょうがないじゃないか。俺はお腹ペコペコなのに、此処から更に6時間も7時間も待たされたんじゃ堪らないし、メンチの試験だって当然終わらなかっただろうし、半数以上とはいえ人数も絞ることは出来たんだから良しとしなよ」

 

 そう喧々諤々とまでは言いませんが話し込むのは同僚であるプロハンターのメンチ氏とブハラ氏。お二人が今期の二次試験を担当すると聞いていたので、あれこれと事前に情報の共有などもしたこともあり、また試験内容も(メンチ氏の出す試験が)心配だったこともあり、先ほども述べたように、こうして様子を見ていた訳でございます。

 

 まぁ、実際には比較的常識人だと思っていたブハラ氏の審査内容も大分斜め上だったようですが。そればかりは盲点でしたね。なにより、それを事前に止めたのが、あの薄紫色の外套を身に纏った少女(たしか、近くにいる受験生仲間と思わしき少年たちからは『カナタ』と呼ばれてましたかね?)でした。

 

 そう、私がわざわざお役御免であるにもかかわらず、忍びながらも残っている理由の1つ。それが、あの少女と、この中では最も輝く美貌と称しても構わないであろう彼女の存在です。お二人とも "絶" を駆使しているとは言いませんが、見事に気配を周りへ同化させていて、その異質さを気づかせないでいる。

 

(一見しただけでは判断つきませんが、あの2人。"念" は使ってない様ですな。本当に知らないのか、知っていて使っていないのか。知っていて使っていないのであれば納得ですが、知らない状態で今があるとするならば本当に末恐ろしいと言わざる得ません。ともすれば我々が最重視しているヒソカ=モロウ(要注意人物)や他にも参加している精錬された念能力者の2名よりも注意をしておく必要があるかも。会長に報告しておくべきですかな)

 

 そう自慢の髭を手で弄りながら思案する。試験に合格した受験者がゾロゾロと招かれるように設置された仮設の屋内へ案内され、残りが取り残される。とりあえず、()()()()がまだ終わってませんので、不合格の方々を案内したら湿原に戻りましょうか。そう考えてネテロ会長の秘書を務めるマーメン氏へ一報を入れ、私は不合格者の案内を開始した。

 

 

 * * *

 

 

「予定外の事で脱線しちゃったけど、私はブハラほど甘くは無いわ。二次審査の料理は『スシ』よ。ただしニギリズシ限定。巻物や軍艦は審査の対象外だから、それが出来た人から私に順次提出し、()()()()()()()()()()()()()()、この二次試験は合格。次の三次試験に進めるわ。それじゃ、試験スタートよ!」

 

 そのツッコミどころ満載の試験内容に異議申し立てを行うよりも前に、開始の合図を取られたことで私は脱力しました。「もうダメだ、今年の試験は諦めよう」と。

 

「な、どうしたんだよカナタ!?」

 

「あ、いえ、はい。もう無理だと思いまして………」

 

「そんなに『スシ』とは難しい料理なのか? 私の知識では、それほどまで難しくなかった印象だが………」

 

 メンチさんの審査内容を聞いて笑顔を浮かべたまま固まるご主人と、我関せずを貫く姫さん。それはそれとして、聞いた内容のあんまりな内容に内心どころか身体全体で『Orz』となる私。それを心配してくれたキルアに軽く礼を言って立ち上がると、クラピカが声を掛けてきた。

 

「いえ、『スシ』という料理そのものは取り立てて難しいものではありません。多少、握り方にコツは必要ですが、どういうものか知っていて、そのイメージさえ掴めれば、誰でも簡単に料理することは出来ます」

 

「はー、良かった。それなら簡単だね?」

 

「なんだよ、驚かすんじゃねえぜ。カナタが、すげえオーバーなリアクションするもんだから、そんなに難しいのかと思ったがコツさえ掴めれば楽勝なら、このまま91人が合格するなんてこともありうるんじゃねえか?」

 

 私の言葉に安堵の声を漏らし、反応したのはゴンとレオリオ。表には出していないがキルアやクラピカも先程に比べたら幾らか柔らかい表情をしているのが一目で分かる。

 

「いえ、問題はそこではありません。とりあえず、簡単に説明しますので外へ出ましょうか………」

 

 そういって私は、ゴンとキルア、レオリオ、クラピカを連れて、屋外へ出た。ご主人と姫さんは、この調子だときっと試験は受けないのだろう。ある意味で分かり易い反応ではある。あの2人であればメンチに『おいしい』と言わせる『スシ』も、その気になれば作れるのに、こういう時に手を抜くなんて本当にイイ性格をしてらっしゃいます。まぁ、私としても、ここで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ところと思っていたので好都合といえば、好都合なんですけどね。

 

 そして、外へ出た私は4人の子どもたちに『スシ』とは何かを説明した。

 

「サカナァァァ!? この森の中の何処にサカナなんて……… イテェ! 何するんだクラピカ!!」

 

 その説明に、目も当てられないようなリアクションをして『スシ』を作るのに必要な具材の1つ(別にサカナだけが具材というわけではないのだが)を大声で叫ぶレオリオ。この人は、一度、万枚に下ろされても文句は言えないと思う。というか、クラピカが殴って止めなければ下していた自信がある。それくらい軽率な行動を取ったレオリオを一瞥して、私は一言告げた。

 

「あまり、私を怒らせない方が、いい」

 

「は、はひ………」

 

 それに腰砕けになって尻餅を着くレオリオ。キルアとゴン、そしてクラピカは「カナタは怒らせたらダメだ」的なことを話し合っており、それを拾った私は笑顔で答えた。

 

「えぇ、本当に私は怒らせないでくださいね?

 さもないと万枚にして下しちゃいますよ?

 

 あと真面目な話をするなら、私以上に、ご主人と姫さんは怒らせない様に。あの2人が本気でキレるようなことがあったら超大国の一国家でも、キルアくんのご実家でも、数日と掛からずに落としてしまうでしょうから………」

 

「ま、マジかよ……… って、それは、そうか。親父たちも、それは分かってるだろうしな」

 

「えぇ、そうですね」

 

 そんな会話をしていると、レオリオの叫び声に反応したのであろう受験生が一気に、この近くに流れる川や池に向かって走り去っていった。

 

「とりあえず、ダメ元でやるだけやってみますか。メンチさんのあの様子を見る限り、やるだけ無駄の様な気もしますが……… それでも、やらないよりはマシでしょうしね」

 

 私は、そう呟くと本当に試験を受けるつもりのない素振りを見せている3人(ご主人、姫さん、マチ)に目を向けてから溜息を1つ吐いて、4人を伴い食材の確保に向かうのだった。

 

 

 * * *

 

 

「食えるかぁ」

 

「403番とレベルが一緒!」

 

「ダメ」

 

「違う」

 

「ある意味おしい」

 

「ちょっとぉ! まだ1つも試食できてないわよ!!

 貴方たちやる気あるの? 私を餓死させる!?」

 

 そう勝手なことを宣まうメンチに米神あたりが引きつりそうになるものの、それにはグッと耐えて4人に向かって実演するのは、もう少し後にするべきと判断して、まずは好きなようにやらせてみることにした。

 

 それにしても、たったアレだけのことでヒントを与えたつもりだなんて、本当に、おこがましいにも程があると私は考えてしまい、痛む頭を抑えるような仕草を取る。それを何か勘違いしたのか、キルアに心配させてしまったのは申し訳なかったけれど、それには「大丈夫ですよ、ただ、これは酷いなと思って」と言葉を返した。ここに至るまでに、故意ではなかったにせよ私の伝えたヒントに大きなリアクションを以て応え、盛大に情報を開示したレオリオさんの声がなければ、今よりももっと酷いことになっていたのは想像に難くない。

 

 そうこうしていると会場に新しい動きが出た。忍者風のコスプレ?の様な衣装を身にまとう坊主の青年(294番)が『スシ』を知っていたのだ。お、これは光明かなと考えたものの、そうは問屋がおろさない。なんとメンチは、あろうことか、その青年が持っていった『スシ』を一言で切って捨ててしまったのだ。

 

「ダメね、おいしくないわ」

 

 その言葉が私の耳に届いた瞬間、私は「終わった………」と心中で宙を仰いだ。その傍らでは、ご主人が声を殺して爆笑し、姫さんは私と同じように、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 

 それから、坊主の青年が『スシ』の作り方そのものを大声で解説してしまった挙句、その言葉は『料理』そのものを軽んじる発言が多分に含まれていたことから、唯でさえ苛立ちを隠していなかった(きっと今の試験の内容以前から機嫌が悪かったことも関係がある)メンチの『感性』という導火線に火をつけ、見事、爆発させて見せた。もちろん、私自身としても、その発言は看過できるものではなかったけれど、この報復をする機会は別にやってくるはずと信じて今は手を出さずにグッと耐えることにした。

 

(メンチさんがキレてなければ、私が直々に、あのハゲを億枚に下ろすか、賽の目の切り刻んでいたかもしれません。本当に、余計なことを言いふらしやがって、あのクズが……… 私が反射で手が出なかったことに感謝しろ、ゴミ)

 

 そんな今まで私自身が感じたことも無いほどのドス黒い感情が湧き起こり、私を支配しそうになるけれど、それをキルアに手を握られ、声を掛けられることで霧散させた。

 

「だ、大丈夫かよ? カナタ??」

 

「あ、はい。大丈夫、です。ちょっと気分が……… でも、ありがとうございます、キルアくん。お陰で助かりました」

 

「き、気にするなよ。それにカナタは、その、俺が守るって、約束、したからさ」

 

 そう視線を泳がせながら口にするキルアは、まだ幼いながらも逞しく、凄く格好良く輝いているように私には見えた。そう、いつか、本人が言っていた

 

「絶対、強くなって俺がカナタも………? カナタを八尋に代わりに守ってやるよ!」

 

 そういって私と小指を結んだことを未だに本気で守ろうとして足掻いている年端も行かないキルアの姿に微笑を浮かべて手を握る。怖かっただろうに、よく観れば僅かにキルアの肩や足は震えているのが分かる。それでも、その恐怖(本能)を押し隠して私を気遣ってくれたのだ。感謝してもしたりない、というのは、きっとこういうことを言うのだろう。だから、私は改めて心中でキルアに感謝を念じ、深呼吸を1つして気分を落ち着かせた。それから私は4人へ向き直り言葉を紡ぐ。

 

「状況が変わりましたので、ここからは私が皆さんに『スシ』を実演して見せますので、よく観ていてください」

 

 そう宣言して4人に私が握った『スシ』を食い入るような視線で見つめる4人以外の視線(たぶん視線を感じる方向からしてメンチさんだと思いますけど)は全て無視して、次々に出来上がったものをまな板の上に並べていく。

 

「こんな感じでやってみてください。コツとしては、まずはシャリと呼ばれる、この白米を軽く握って、それが終わったら捌いた魚の切り身を乗せて、また軽く握るという工程です。だいたい2秒が目安でしょうか。握るチカラが強すぎず、けれど弱すぎずという絶妙なバランスが重要で、これが難しいのですが頑張ってください」

 

 と伝える。そして、次にコツを口伝し、最期に実践さ(やらせてみ)せる。覚束ない手つきで上手くできなければ、都度、手取り足取り教えて、何度でもやらせて見せる。まずはカタチになれば良いというところで、1つのステップを超えれば褒めてあげる。

 繰り返す度、それとなく上達してくれば、また褒める。そのことにキルアは自分以外の人間に私が同じように接しているのを見て、なんでかプンスカしていたけれど、それが妙に年齢に合っているようにみえて可笑しかった。

 

『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』

 

 ふと、そんな言葉が私の脳裏を過ぎった。それは、いつだったか、おそらく私が『(カナタ)』になる以前に、ご主人が目を通していたジャポン出身の軍人が残した言葉だと本に書いてあったものだ。本当に、その通りだと思う。けれど、現実は非情であった。

 

「不味いわ」

 

「シャリの握りが固い」

 

「今度は(シャリの)握りが緩いわ」

 

「メンチ、それは………」

 

「あん!?」

 

「なんでもないよ………」

 

 これは酷い。もう何処からツッコミを入れて良いのか分からないほど、酷い。今度こそ、私は、心の中ではなく、現実に天を仰いで額を押さえるのだった。

 

「え、食べ物なの? これ?? ふざけないでよ!?

 ちょっと、そこまで言うなら貴女(アンタ)自身に食べさせるわよ!?」

 

「いや、これは止めておくべきだろう。済まないな試験官殿」

 

「え……… あ、いえ。分かれば良いのよ、分かれば」

 

 なにやら此処にきて、まだ不穏な会話が聞こえたのを私の耳は拾ったが、それは流して次々に自分たちの作った『スシ』を提出しては、滅多切りにされていく受験生たちの哀れな姿を見て私の抱いた感想と言えば「ですよねー………」の一言に尽きた。本当に、これは酷い。

 

 この間、私は自分の握った『スシ』を提出していない。それをしないのは、私が提出したが最後、メンチの受験生に対する合格の基準が本当に『()()()()()()()()()()』になりかねないからだ。

 

 おそらく、ご主人たちがやる気を欠片も見せていないのも、きっと同じような理由だろう。それもあってか、ご主人は先程から料理が未だに不得手とみられるマチへ自ら『ニギリズシ』とは何かを実演してみせてはいる(まな板の上にはご主人が握った私のものと遜色のないほど美しく仕立てられた、煌びやかな様々なスシが幾つも並んでいる)が、どうしてもマチが握ろうとすると、こう、なんとも言えない "星界からの恐怖(Cosmic Horror)" というフインキ(何故か変換できない)といった表現がしっくりくる、ある意味で凄く独創的かつ芸術的な代物しか出来上がっていないようだった。しかも性質の悪いことに、それを試験官へ提出しようとし、それをご主人が止める。その後、ならばと女性にのみ許された()()()()()()()とでも言うべき『上目遣い』の視線で見つめるマチに撃沈されているらしいご主人の何と哀れなことか。

 

 あれ? もしかして、先ほど聞こえてきた不穏な会話の主って、まさか!?

 

 私は、視線を横へ向け、その様子をすぐ傍で無言で見ている姫さんが口角をヒクつかせているのを目敏く見つけ、それで全てを知る。その姫さんの表情を要約するなら『裡側に居なくて良かった』といったところだろうか。姫さんに、あんな表情(カオ)をさせるなんて、この世界広しといえども、そう、多くは無いに違いない。1つの偉業とも言っても良い。もちろん、それはこの世界だけではなく、他の次元(せかい)単位で見た場合でも、だ。かくいう私も「今、裡側に居なくて良かった」、そう思うと同時に心の底からご主人に同情した。いや、この場合、戻ってからが悲惨なのかもしれないが……… それは考えたら負けだ。って、本当に食べるんですか、それ!? ちょ、だ、ダメです。そ、それは………

 

「ぐふ……… こ、これなら、果肉たっぷり梅ジャムサンドの方が、いくぶん、マシ……… ご、ごふ」

 

 そんなご主人の声が耳に届き、私はほろりと頬を伝う何かを隠れて拭ってから4人へ向けて言った。その後、その2人の様子を茶化したかったのか、単に興味を示しただけなのか、ウッカリ近寄ったが故に巻き込まれてしまった奇術師風のヒトも酷いことになったいた。その、ご愁傷様です。

 

「諦めましょう。この調子なら、この二次試験で合格者は出ません」

 

 その言葉に驚きを見せる4人だったが、直後にメンチの「わりぃ、お腹いっぱいになっちゃった」という一言で二次試験は終了してしまった。

 

 ―――第287期ハンター試験 第二次試験(二次審査:ニギリズシ)通過者:0名

 

 

 * * *

 

 

「はぁ? 報告してた審査既定と違うって? なんで!?

 初めからあたしが "おいしい" って言ったら合格にするって話になっていたでしょ!?」

 

「メンチ、それは建前で、必要なのはヒントを見逃さない注意力と――「あんただまってなーーー!!!」………」

 

 ブハラとメンチのやりとりを遠目に眺めながら、私は、私が4人に向かって実演してみせた『スシ』をリアクションを取っても良いが、声は抑えること念を押して振る舞った。もう、ここに残しておいても仕方がないですしね。お昼も過ぎているわけですし、ちょうど良いかもしれません。

 

(美味い……… これが、スシか)

 

(俺、一瞬、はだけたかと思った。漸くエレベーターでカナタが言っていた意味が分かったぜ)

 

(お、俺も……… びっくりしたー)

 

(な、なんだこれ! 滅茶苦茶うめえじゃねえか!!)

 

「満足いただけたようで何よりです」

 

 そう微笑むとキルアは何故か耳まで赤くしてそっぽを向き、その様子に茶々を入れたレオリオを蹴っ飛ばしていた。

 

 ――ばんっ がしゃん

 

 もう済んだことなので、あとは帰宅だけか―っと思っていましたけど、やはり、この結果に納得できない受験生はいるようで(当然だが)、食って掛かったのだろうが、見事に一蹴されて宙を舞い、ガラスを割って屋外へ飛んで行った。

 

「何が起こったんだ?」

 

「さぁ? 大方、彼我の実力差も知らない受験生の誰かが、結果に納得いかず試験官へ食って掛かったんだと思いますよ。とりあえず、此処に居ても仕方ありませんし、帰りましょうか………」

 

 そう、4人へ促し、おそらく帰りの飛行船が近づいてきているのだろうということを伝えて屋外へ出るように促す。他にも、もう此処には用は無いとばかりに受験生の多くが不満抑えながらも、ぞろぞろと外へ出はじめた。

 

「なぁ、ゴン。こっから、どうするつもりだ?」

 

「うーん。本当なら、今回の試験で合格して、ハンターになったら親父(ジン)を探す旅に出かけたかったけど……… とりあえず、クジラ島に戻るしかないよね」

 

 そう、若干、しょんぼりした声を滲ませながらゴンは口を開き、次いでレオリオも「あれだけやって、このオチはひでぇが、出ちまったもんは仕方がねえな」と漏らし、そして「俺も諦めて医者になるための勉強と来年に向けて体力づくりだな。次も、またマラソンとか嫌だぜ」と答える。

 

「私は…………… 私も、暫くは修行に励むしかないな。今回、たったこれだけの内容でも自分の至らなさを痛感した」

 

 そう何かを思いつめた表情で、ご主人と姫さんを見たのはクラピカ。そういえば、このヒトは何故かご主人たちと一緒に居ましたね。どういう繋がりなのでしょう? そこはかとなく興味がありますが、それよりも私は、どうしましょうか。キルアが、ゴンと一緒に居たいと願うのであれば、それ一緒にみているのも有りですが、そうなると問題なのは、イルミ(391番)の存在ですね。あそこまで大胆な変装をされているのは驚愕の一言に尽きますが、きっとキルアの目を欺くためでしょうし、それならば意は汲んで置くべきでしょうか。何より、本人が気づいていない以上、厳密には部外者である私が首を突っ込むのも変な話ですし、しばらくは様子見と行くしかないですね。

 

 そう今後のプランを練っていると試験場の真上に到着したらしい飛行船からアナウンスが流れ、ヒトが1人降ってきた。

 

『親方、空から爺さんが!』

 

『放っておきなぁ!!』

 

『『ひでぇ……』』

 

 最近、キルアと一緒に観ることのあったジャポン発祥のアニメ作品、そのパロディが脳内をリフレインする。それに吹き出しそうになるを堪えながら目を凝らすと、それは凄く、凄く見覚えのあるヒトだった。

 

 ――どーん

 

 どよめく周りの空気を無視して、およそ数百メートルの上空から飛び降りてきた爺さん、もといハンター協会のネテロ会長に視線が集る。

 

(本当に、元気なおじい様ですこと)

 

 そこでふと、思い出したのがネテロ会長といえば、もう何度もご主人や姫さんにフルボッコにされたことで、『噂』ではムキになって遂にニトロ米にまで手を出し始めたと聞いたことがあったということだ……… でも、その見た目には変化が乏しい、どころか殆ど変化が無く、熟練の老爺という雰囲気を身に纏っている。その気配は、まるで老成した大樹のそれだ。やはり、あの『噂』は、所詮、巷に溢れるラクガキの様なもので、口だけで冗談めかして言うことはあっても自重している、ということでしょうか?

 

 まぁ、人間界(こちら側)で、暗黒大陸(向こう側)の品物を手に入れる流通経路は制限されてますからね。なので()()()()()、あのヒトを知っている人間が接触を図って便宜を取り付けないかぎり、外と内を自由に行き来できるのは、現状、ご主人のみ。そして、ご主人が持ち帰ってきたものを一元管理しているのが、ご主人自身が所属している組織(倶楽部賭朗)にしかないわけで。また組織がそういった暗黒大陸(向こう側)の物品を譲るのも、組織自身の意向と噛み合っている、ごく限られた会員にしか権利が無かったはずだ。そう考えるとネテロが、ニトロ米に手を出したというのは、やはり、あくまで『噂』レベルの話でしかない、というのが実態なんだろう。

 

 そう私が物思いに耽っていると、ネテロがメンチと何やら会話し、二次審査のやり直しが決まったのだった。審査受講資格を持つ91名が飛行船に乗り込む。『スシ』の代わりに提示されたのは、マフタツ山に生息するクモワシの『ゆでたまご』、試験官であるメンチが実演することが条件となっての再審査だった。まぁ、これなら楽勝ですね。その思いは現実となり、見事に私が目を掛けていた子どもたちは全員合格するに至ったのだった。終わりよければ、なんとやら、ですね?

 

 

 ―――第287期ハンター試験 第二次試験(二次審査(再):クモワシのタマゴ獲り)通過者:52名

 

 

「ひ、姫さん。こ、これ………」

 

「ならん。ならんぞ、八尋。そ、それを私に近づけるな。やめよ……… やめ……… や……… げふ」

 

 まだ、マチによって量産された大量の『スシ(ナニカ)』を涙を堪えて消化するご主人。そして無理やり巻き込まれている姫さんと奇術師風の男性が哀れで仕方が無かった。マチは自分が作り出したもの(ナニカ)を消化されていることに笑顔を作って眺めている。逃げ場はない。そして、また1つ消化し終えたご主人の顔が上がり、こちらを見た。見た!?

 

(あ、目が合った。ちょ、やめ……… なんで笑顔なんですか。眼が笑ってませんよ! いや、こっちを見ないで。こっちに来ないで………)

 

「カナタ? 楽しそうだね?」

 

 私でも捉えられないほどの速さと、幽鬼のような静けさを伴って背後を取られ、気づいた時には肩を抑え耳元で囁いてくるご主人(あくま)が、そこにいた。

 

「これ、お1つ、どうぞ。なに、遠慮は、要らない、よ?」

 

 普段の飄々とした態度とも口調とも違う、たどたどしい覚束ない声で発しながら、私が拒絶しようとしたところを無理やり、得体のしれないスシだったらしいナニカを3つほど口に放りこまれる。

 

(う、な、なにこれぇぇ……… うぇ)

 

 吐きそうになる生理現象に耐え、同時にブラックアウトしそうに視界を必死で見開いて堪える。堪えるが、ご主人の温度を感じさせない言葉によって完全に完璧に心を挫かれていく。

 

「恐怖というものには鮮度があるそうだよ。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなんだって。たしかに、そうかもしれないね。長生きをすると驚きのコンセントが抜け落ちるなんていう表現もあるくらいだ。だから真の意味での恐怖というのは、静的な状態ではなく変化の動態のこと――

 

 つまり、希望に満ち溢れていた時から絶望の蓋が開かれた、その瞬間のことを指すのだと誰かが言っていたよ。

 

 カナタは、時折、ずっとこっちを見ていたもんね。なのに、見ているだけで助けてくれなかった。俺たちは本当の意味で三位一体なのに、ね?

 

 だから、是非、コレを食べた感想を聞かせてほしいな。如何だった? こんなにも舌の腐るような(おいしさにあふれた)新鮮な生き地獄(ヒトの愛)を体現させる味の感想をさ、聞かせてよ、ね?」

 

 完全に目のハイライトの消えているご主人が私の耳元で囁くのが聞こえる。嘘、偽りは許されない。だから、私は答えた。

 

「と、とても、お、おい、クソ不味い(おいしい)、です……… げふ」

 

「そう。よかった。それなら、まだまだ1人でイケる、ね?」

 

「え゛!!?」

 

 そのご主人の言葉によって完全に意識を断たれていくのが分かる。ご主人の裡へ戻ることも許されない。誰ですか、グルメ細胞の悪魔(厳密には、もう完全に別モノといえば、その通りですが)に食べれないものは何もないだなんて言ったのは! 大嘘じゃないですか!!

 

 次第に薄れていく意識の中で、私は、そんな言葉を声を大にして叫ぶのだった。




マチは、月姫に登場する後略対象キャラクター(女の子)である翡翠と同じか、下手をすると、それ以上に『料理』の腕は壊滅的で行くことにしようと決めました。
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