【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚 作:冷やかし中華
ゴンとキルアがネテロと行ったボール捕りゲームに疲弊して眠りについた後、私はネテロに促されて試験官専用のスタッフルームに呼び出されていた。
「して、お主は一体何者なんじゃ?」
「え? うーん、まぁ、ネテロさんなら良いですか………」
そう問い質されて私は一瞬言葉に詰まり、けれども、もう長い付き合いなのだからと少し前にマチへしたようにネテロへ私の情報について開示した。
「なるほどの。ようやく合点が行ったわい。
そして、そのナンバー・プレートも正規の受験生を殺害して奪ったわけではなく、一次試験で通ったヌメーレ湿原で "姫さん" が拾ってきたものということじゃな?」
「はい。私も詳しくは聞いてませんけどね」
そういって珈琲を啜りながら聞かれたことには基本的に素直に答えていく。
「ところで、私と姫さんはハンター試験の受験資格が無いという話でしたが?」
「まぁ、そうじゃの。残念じゃが、これは審査委員会としての決定だから覆すことはせん」
そういって先程まで行っていたボール捕りゲームのネテロからボールを捕った時に得られる褒賞の内容を思い出す。まぁ、キルアからの受け売りだけれども。
『お主ら、少し儂とゲームをせんかね?』
『なーに、簡単なことじゃよ。儂から、
そうネテロは、子ども組2人を誘い、あのゲームを楽しんでいたのだ。それに後付かつ当初は辞退していたとはいえ私はネテロから確かに
もちろん、此処には私と姫さんというイレギュラーを除いたら審査委員会の面々と受験生しかいない。とはいえ、何かの拍子に資格を持たない者(例えば、機長や船内にいるスタッフ)がゲームに混じり、万が一、ボールを捕ったならネテロは宣言通りにハンター試験の資格を与えたのだろう……… そんなことは天地がひっくり返っても起こり得ないと思うが、けれども可能性がゼロだと言い切れるものでもない。故の、あの安堵と思えば辻褄が合うのだ。実際、私がやってしまったわけだし………。
そのまま私は、私たちがそれなりに信用し、信頼している、それ以上に長い付き合いでもある人間のアイザック=ネテロを前に淡々と会話を重ねて夜を過ごしていた。
「私ばかりが答えていては割に合わないですね。じゃあ、今後の試験に触れない程度に1つだけ確認させてください」
「うむ。試験の内容に関することでなければ答えるぞよ」
そういったネテロに私は単刀直入に聞いた。「このプレート、この後の試験でも価値がありますか?」と。
ストレートに尋ねたのは、私自身が化かし合いが苦手ということもあるが、質問の内容を曖昧にしたまま尋ねた結果を後々になって、あーでもない、こーでもないと解釈が変わることで揉めたくは無いからだ。私の問いにネテロは僅かばかりの時を沈黙して質問の内容を吟味している。そして、その答えを出した。
「まぁ、
ニヤリと笑いながら質問の答えを述べたネテロの顔を見ながら、私もクツリと笑って、その内容を吟味し、1つの結論を出した――
『このプレートには、試験中に持っているだけで有効になりうる価値がある』
――と。
その答えが聞けたことに私は満足して席を立つ。
「今年は何人くらい残るでしょうか?」
立ち去り際に聞いた私の問いにネテロは笑い。
「さあの。しかし、今年は本当に豊作の年じゃからな。結果は、どうあれ。悪いようにはならんじゃろう」
と答えた。
「そうですね、そうなることを願ってます」
そう伝えて私はキルアとゴンの元へ戻った。途中、ご主人に膝枕されて眠るマチと腕を取って寝息を立てる姫さんを見つけて「両手に華ですね」なんて伝えると、ご主人からは「みんなのお母さんに、そんな風に言われてもな」と切り返され、私は思いっきり噴出したのだった。
「なんで、それをご主人が知ってるんですかぁ!?」
私の叫びにご主人はカラカラと笑いながら答えた「そりゃあ情報収集なんて基本中の基本でしょ」っと。そのご主人の言葉に私が血を吐く勢いで突っ伏したのは言うまでもない。がふぅ。
* * *
――ビュオオオォォォォォ
吹きさらしの一見すると階下に降りる様なものが
「皆さんが降りた場所は、トリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。此処がハンター試験 三次試験の会場となります。
また、三次試験の試験官から伝言を預かっているのでお伝えします。
『トリックタワーの頂上から72時間以内に1階のエントランスに生きて辿り着くこと』
それが、この試験の合格条件となります。なお、当然ですが、それまでに1階へ辿り着くことが出来なかった受験生は今期の試験で失格となりますので、ご注意ください」
三次試験の説明を行ったのはネテロを通じて旧知の間柄ともなっているマーメン・ビーンズという人間なんだか、魔獣なんだか良くわかない人物だ。ちなみに俺よりも常識人であり、副会長と会長に泣かされている苦労人でもある。今度、労いでもしようか。そんなことを考えているとマーメンは飛行線に乗り込みトリックタワーから離れて行った。
しかし、三次試験の内容が塔の頂上から降りるだけで良いって……… これも随分と雑だなという感想を懐きつつ、例えば二次試験の会場にメンチの起こしたトラブル処理のためとはいえ、中空に浮かぶ飛行船からダイナミック・エントリーしてきた
いや、まぁ、それが出来る人間が、此処にどれくらいいるかという問題は別としてもさ。少なくとも俺やマチ、ヒソカ、それと
「(相変わらず、固ぇ)カナタを出せ!」
それが身長差を無視してキルアから言われた言葉。それを受けて俺は「あー、うん、なるほど」と1人納得し、その文句に対応することにした。
「うん。カナタにベタ惚れのキルアの気持ちはよく分かるが」「惚れてねえよ!」
「そうか、まぁ、別に俺はどちらでも良いが、今の言葉そっくりカナタに伝えると」「伝えなくていい!!」
「まぁ、あれだ。カナタ、今、姫さんと俺の裡側でいろいろやっているみたいで手が離せないらしい。だから『
何かを言えば、それについて高速の切り返しをしてくる打てば響く小気味よさにほのぼのとした気分になりながら、俺はキルアをあまりやり過ぎない程度に弄り、本気で怒るかもしれないギリギリの程度に収めて事情を説明することにした。
「じゃあ、キルアがカナタの代わりに姫さんと遊ぶ?
たぶん、今、姫さんの邪魔をしたら不機嫌が地を割る勢いで天元突破するから、その後のキルアの一生はベッドで寝がら過ごすくらいのことしかできない身体にされるかもだけど、それでも良いか?」
その言葉にキルアは少し尻込みして後ずさり、目敏く耳を傾けていたイルミ@変装中から視線が飛んでくるが、それは無視。大丈夫だって、キルアを巻き込むようなことをしないと後手に合図してやれば弱まる視線。本当にブラコン過ぎて怖い。
ところで、カナタと姫さんが此処にいない理由だが、あの2人はアカウント乗っ取りみたいな途中参加だったのが原因のようだ。それがバレて運営から残念ながら途中リタイアと相成ったわけだが、こればかりは仕方ないと諦めるより他になく、それを戦々恐々としながらも奮い立って伝えてきたメンチ・ブハラ・サトツの3人に称賛の言葉を送っておいた。姫さんの悪い笑みが堪らなかったようだけど、それはカナタによって制されたというのが、この三次試験が始まる前に俺たち3人に説明されたことだった。というわけで、カナタと姫さんは飛行線に残って退場したという扱いに表向きはなっている。
ちなみにカナタ曰く『このプレートは、この後の試験でも有効そうなので捨てずに取っておいてください』と言われたので、記念という意味も込めて76番と88番は俺の "鞄" にしまっておいた。この後、何かに使えるのかね? まぁ、良いか。
だが実態としては、先にキルアへ俺が話した通りだ。2人は今、俺の裡側で過激な運動中である。ある意味でR-18的な内容だが、此処まで移動してくる最中に何があったか、カナタが珍しく自分から姫さんを
『キルアくん、には、申し訳ないと、謝って、おいて、くだ、さい!!』
『何処を見ている?』
『ぎゃー! たいむ、たいむです、姫さん!! それ、洒落に、なって、ない、です!!?』
『ならば、カナタも本気を出せ。此処でなら何も壊れぬし問題なかろう?』
『そう、いう、問題じゃ、ない、です!!』
『ならば一体何が問題だというのだ?』
『地力、です、よ!?』
――という具合である。うん、これは酷い。
神秘の秘匿? 知らない子ですね。だってこれは念能力?じゃないですし、そもそも大まかな事情を察しているキルアが相手なら何も問題ない。細かいことは、気にしたら負け。まぁ、ゴンとクラピカとレオリオには多少配慮しなければいけないのは承知しているが、今は問題ないだろう。
「絶対、あとで会わせろよな?」
「2人が落ち着いてカナタに余裕があるようなら、また出すさ。だから、今は無理だというカナタの意向も組んでやれ。それが
そういうとキルアはムスッとした表情を崩さないまま「仕方ねえな」と踵を返してゴン達の元へ戻っていった。うん、今度から暫くは
「う、うわあああぁぁぁぁぁ」
その叫び声に屋上にいた一部の受験生を除いた集団が騒然となり、何事かと塔の端に寄っていた連中に倣って覗き込んでみれば、壁伝いにトリックタワーを降りようとした受験生に怪鳥が群れを成して襲い掛かるところだった。
「ふむ。なるほどなるほど、壁伝いに降りようとすると、こういう塩梅なのね」
そう独り言を呟きながら空気を指で弾いて集まってくる怪鳥を死なせない程度に次々と落としていくと、その隙に86番のナンバープレートを持つ受験生は必至の思いで壁を這い上がり一息ついていた。
「なんで、あんなのを助けたんだい♦」
「助けた理由?
特にないが……… そうだな強いて挙げるとするなら、何処かで聞き覚えのあるような、ないような。なんとも言えない創造神的な声だったから、というのが理由かな」
「それは面白い言い回しだね♠」
「まぁ、実際のところ、俺もよく分かってないというのが真実だけどね。動機の言語化なんて得てして難しいもんだろ、ヒソカじゃないんだし」
「その言い方は酷いなぁ。まるでボクが単純みたいじゃないか。ボクだって何かするときは理由づけくらいするさ♥」
「ダウト。それ大嘘だよな?」
「そんなことないさ♣」
俺が助けた
「降りないのかい?」
「うーん、飛び降りの方が手間取らなくて楽そうな気もするけど……… そういう訳にもいかないのかなぁ?」
端を一周しながら景色を眺めているとマチから声が掛かる。それを受けて「あ、そういう手もあるか」と何か納得したような表情を浮かべてはいたものの、ただ、途中で例の怪鳥とは違うものが飛んできても厄介なだけだしと考えて実行に移すことはなかった。つまり正攻法で正面から突破していくしかないということであるが………
「隠し扉から下に降りて、そこから床を砕きながら下に降りるっていう方法もありなのかな?」
「72時間以内に生きて下に降りてこいとしか言われてないのだから、それもありなんじゃないの?」
「まぁ、面倒だからやらないけど(俺がやると塔の方が先に倒壊しかねないし)」
「そうね」
そして、それからマチと一緒に十数分かけてゆるりと周りきるころには受験生の数は半分近くまで減っていた。
「どうする?」
「まぁ、アタシは此処から降りるよ(本当はペアの隠し通路があるなら、それに越したことはないけど)」
俺の質問に他にも何か言いたげな表情をしながらマチはしゃがみ込むと、足元にある隠し扉を指差して答えたので、それに笑顔で「これ暇な時に食べてね」と保存のきく食糧の入った布袋を "鞄" から取り出して手渡す。
「だって、試験に掛かる時間は、どう足掻いても72時間だよ?
その最中に試験官がわざわざ食糧を用意してくれているとは思えないし、その程度の期間を耐えるくらいマチなら平気かもしれないけど、これは『念のため』ってやつだね」
それに疑問符を浮かべているマチに答えて笑顔で送り出した。
「ありがと。それじゃ、先に行くよ」
「うん。行ってらっしゃい。たぶんマチなら何も心配いらないとは思うけど、ご武運を」
「なんだい、それ?」
「形式的な挨拶、かなぁ?
ま、それはともかく、また1階でね?」
「そうね。途中で脱落なんてだらしのない真似をしたら許さないよ」
「善処します」
そう挨拶を交わすとカコンと音を立てて、マチも階下へ姿を消した。そして、それとは別の場所にあった隠し扉に俺も身を落とす。そこには『多数決の道』と書かれていた。うわ、すっげー面倒くさそうなの引いた。俺が本当に床をぶち破って階下に降りようかと思い拳を構えたところで室内にアナウンスが流れた――
< 洒落にならないから止めろ! >
――と。
「なんだ観てるのかよ。悪趣味だなーって良いのか? 試験官が受験生に不用意に話しかけて」
突然、俺だけしかいなかった密室空間(厳密には人数が揃うと開く隠し扉があるようだが)に機械的な音声が響いた。
< 必要な措置だ。それに受験生を観察するのも瀕死を負った者を不合格と引き換えに救助するためでもある。貴方と世間話をするためにアナウンスしているわけではない >
「あ、そう。まぁ、止めろっていうなら止めるよ。でも我慢するのは10分だけな?」
< それ以降は? >
「有料。待った時間の1分ごとに1億
< え……… 高くないですか? >
「なら、壊す? 塔??」
< それはやめてください。おねがいします。 >
あくまで試験官の立場もあるのだろう。上から目線で俺の質問に律儀に答えたところで、そのまま承諾するのも面白みがないと判断した俺は意地の悪い提案を出した。待つのは10分、それを超えて受験者が揃わなかった場合は有料にて対応しようというものだ。正直、お金なんて要らないのだが、今できることと言えばそれくらいしかない。それに対して相手が『俺』ということもあったのか、真面目に対応してしまった試験官の出す音声に内心で笑みを零しながら逆に強迫する。うん、これは楽しい。そして極め付けの文句を言葉にして突きつけたのだった。
「じゃあ交渉成立ね。文書に記録しておきたいから文面だけ、そっちで用意して後は俺がサインするだけの状態にしておいて。もし『契約』を途中で破棄するようなことをしたら、後日、ハンター協会所有の刑務所全部潰して周るからよろしくね?」
< …………………………………。 >
「どうした?」
< いえ、仮に此処で貴方を失格にした場合の事も尋ねておきたい「壊す? 塔??」いえ、なんでもありません。 >
「分かればよろしい。それじゃ、スタートね?」
かなり熟考したのだろう、試験官は少しの時間黙り、その様子に俺が問い返すと黙って無視を決め込めば、それはそれでよかったのに、俺をこの場で失格にしたらどうなるかの確認をしてきた。うーん、模範解答過ぎて面白くない。別に
――待つこと13分22秒後
たったそれだけの時間でも俺にとっては無限に等しい体感時間を作り出すことができるのだから、それにカマかけて姫さんとカナタの遊びに混じって大いに楽しんでいたところに、他のヒトが降りてきたことを確認して意識を戻したのだった。
「なんで
「それは、むしろ先に着いていた俺の台詞だと思うけど?」
居たのは凄く見覚えのある顔をした4人。声を掛けてきたのも知り合いの息子。
つまり、ゴン・キルア・クラピカ・レオリオだった。俺の答えにキルアは舌打ちしたので、イルミが見ていないことを良いことに拳骨1つ落として悶えるキルアにそっと耳打ちした。「あまり調子に乗ってると丸坊主にしてから自宅に送り返すぞ?」と。
「わ、悪かったよ………」
見るからに涙目になりながら怯えた表情をしているキルアに対して追い打ちの様に「躾って大事だよね?」と笑みを深めて言うと、またビクッと肩を震わせるのが面白かった。だが、あまりやり過ぎるのも良くないのでキルア弄りは、この辺りにしておくことにして、俺は試験官が見ているだろうカメラに向きなおって口だけを動かして宣言する。
「13億3666万J。端数の3666万の部分は振込手数料ってことで目を瞑ってやるから、残りの13億Jを三次試験が終わる前までに口座に振り込んでおけ」
< …………………!? >
カメラの向こうにいるであろう試験官が椅子から転げ落ちる姿を幻視したが、俺は何も間違ったことは言っていない。
「タダで待つのは10分とは言ったが、同時に待った時間
ならば、俺が待ったのは13分なのだから試験官に13億を請求するのは正当な権利だろう? それとも、壊す? 塔?」
そうカメラ越しにニタリとした笑みを浮かべながら口だけを動かして答えると暫くの沈黙を経て試験官は大きな、とても大きなため息とともに了解の意を返してきた。実際は、音声は無く無言のままだったが。だが『無言』ということは、それ即ち『肯定』と捉えられても文句など言えない訳で、故に、それに倣って『了』と判断しただけである。俺の持っている幾つかの口座の1つ(うろ覚え)をカメラに貼り付けてから、俺はゴン達へ向き直り、残時間と「○」「×」のボタンが仕掛けられたブレスレットの様なものを全員に着けたことを確認し、隠し扉が開く音が室内に響く。こうして俺たちの三次試験が始まることになった。
『扉を――
○:開ける
×:開けない』
その問いに、それぞれがブレスレット上の端末を操作して各々がボタンを押すと扉が開いて結果が表示された。
『多数決の結果
○4:×1』
その表示内容にギョッとしたらしい面々で、特にカッとなったらしいレオリオが大声を上げる。
「誰だ、いきなり『×』なんか押したのは!?」
「はーい!」
俺は元気よく手を挙げてレオリオに答えると、ゴンを除いた3人から電光石火のツッコミが炸裂したのだった。
「「「なんでだよ!!」」」
「いや、だって、こういうのって、どうなるのか試してみたくなるのがヒトの性じゃない、違う?」
そういうと今度は全員から無言で抗議を受けたので「悪かった」と謝罪して先に進むことにした。心に遊びがないなんて、いざという時に辛いだけなのにななどと余計なことを考えながら。
* * *
――その頃、多数のカメラ映像が流れる控室にて
トリックタワー刑務所長 兼 三次試験官の担当者を務めるリッポーは頭を抱えていた。
「じゅ、13億J……… だと………!?」
その後、あまりの出来事に放心から復帰した後、何度もビデオを再生してやり取りを確認するが、確かに
「頑張ってください。それは経費に織り込まれていません」
――というマニュアル通りの回答だった。
まぁ、是非もなし。その後、自身の持っている残預金残高などをチェックする姿が非常に痛々しいものだったことはいうまでもないが、ただし――
「ご指定の口座は存在しません」
――振込先間違ってるじゃねえかよ!!
そんな慟哭にも似た叫びが監視室に木霊したとか何とか。
冨樫先生、アニメ第一作では