【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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『大魔術師には群集の叫び声が今でも聞こえている。それは既に無いが、戦いの意志はいまだここにある。』

とりあえず書きたい部分は書けた。
あとはヒソカ戦も少し書きたいところだが…… はて。

活動報告にアンケートを記載しました。これを見てくれている誰かが回答してくれることに期待…… したいかなぁ(チラッ


XXX②:Magus of the Arena

「10秒?」

 

 俺の言葉に切れ長の綺麗な瞳で言外に「どういう意味だ」という意図を乗せつつ聞いてくるマチ。うん、そういう凛々しい感じも可愛いね。

 

「そ。俺がマチに付き合って手合せするのは10秒だけ。この最終試験は、どちらかが『まいった』というまで試合は終わらない。つまり、どちらかが負けを宣言した時点で試合が終わるという事。俺はマチとは争いたくないからね、さっさと次にコマを進めておきたいと考えているけど、それをマチが止めるというなら、俺がその我儘に付き合ってあげるのは10秒だけってことだよ」

 

 その俺の言葉に拳をつくり、唇を噛んで何かに耐えるようにして俯く姿のマチの頭をそっと撫でて「でも、たったの10秒といっても大変だよ?」そう声を掛ける。マチは何故か僅かに潤んだ瞳で顔を上げてきたので不覚にもドキッとしたのは内緒だ。裡側で茶々を入れ始めた姫さんは、少し黙ろうか? いや、黙ってよ、マジで。

 

「そうだね、ただ10秒というだけじゃ些か説明に欠けるか。だから俺がマチと試合を行う上での追加ルールでも説明をしよう。俺とマチが、これから行うのは "號奪戦(ごうだつせん)" の模擬だよ」

 

「號奪戦?」

 

「そう。號奪戦」

 

 ――號奪戦――

 

 俺の属する組織『倶楽部賭朗』において立会人に名を連ねる者たちが持つ "號" を賭けた死合。"號" とは、賭郎立会人全員に与えられる番号にして称号。"號"が示す番号は、零號から百號まであり、「號」という字には優れているという「豪」、強いという「剛」「強」、極めて希少な務めを成す「毫」「業」などの意味が込められている。

 

 "號" そのものは賭朗立会人になった段階で、その時点で空席となっている数字に見合ったものが与えられる。その任命式に居合わせた立会人の中で、新参の立会人が(或いは "號" を受け取った本人が)得る "號" の番号に不服があるものが在れば、立会人たちは自らが持つ "號" を賭けて、その場で上位の "號" を持つ立会人に死合を申し込むことが出来る。

 

 號奪戦を行う理由1つ。自らの持つ "號" が低い立会人が自分の號を上げる為。それにより己より上位の立会人に挑戦する立会人同士の決闘である。"號"を上げることによって組織内で立ち位置が良くなるということは……特になかった気がする。組織内で尊敬くらいはされるだろうけど。"號"を上げたことによる見返り(特典)など無いしね。しかし、それでも立会人たちは己の矜持に則り、號奪戦に臨むことは儘あるのだ。

 

 そんな感じの説明を少し端折った内容でマチへ、マチ以外の周りの全員にも耳を澄ませれば聞こえる程度の声量で『號奪戦』についての何たるかを説明した。

 

「こんな感じで立会人同士の矜持を賭けて行われる戦いが號奪戦と呼ばれるものだね」

 

「それがアタシと八尋が試合するのに、どういう関係があるんだい?」

 

「うん。つまり、この勝負の要諦は10秒以内に、このハンカチを俺から奪えればマチの勝ち。奪えなければ、俺の勝ち。勝負の間合いは、この距離だ」

 

 そう言って俺はマチから一歩分だけ距離を取る。それは互いに一呼吸の間すらなく相手へ攻撃が到達する距離。手を伸ばせば互いが互いの相手の命を奪える間合いだった。

 

「立会人の……「パクノダよ」うん、パクノダ()()は、これでしっかり10秒測ってね?」

 

「わかったわ」

 

 パクが答えを返したのを確認してアンティーク調に設えた10秒を測る砂時計を手渡した。ストッパーを外せば『コーン』という小気味よい音が広がっていく。

 

「さて、とりあえず正装でもしようかな……」

 

「正装?」

 

「そう。一応、仮初であろうと "號奪戦" を言い出したのは俺だし、"號奪戦" を行う以上、正装するのが俺たちの流儀(マナー)みたいなものだよ。あ、そうだ。せっかくだからマチに俺の使える魔法(手品)を見せてあげよう」

 

 最後に「瞬きしてごらん」と付け加え、その言葉を訝しみながらも、言われた通りにマチが瞬き(0.1秒)をし終えた瞬間には、俺は『倶楽部賭朗』の正装を身に纏っていた。う、ネクタイとか久々に占めたけど、ちょっと苦しいかもだ…… という思いを抱きながら。

 

「え?」

 

「「な!?」」

 

「「「はぁぁぁ!!?」」」

 

 何故か会場にいた全員が驚愕の声を上げた。あ、そうか。周りの連中の殆どは俺が使えるチカラ(裏のチャンネル)のことは何も知らないものな。そう内心で独りごちて納得し、何故か周りの視線が(特に試験管サイドから)妙に集中されているのを無視して俺は一際大きく響く声を発したレオリオの方へ向き直った。

 

「どうかしたか?」

 

「ど、どうしたじゃねえ! お、おま……八尋は何で気づいたらスーツ姿になってんだよ!?」

 

 俺の小首を傾げた返事に勢いよく反応したのはレオリオ。その疑問には「見たか、これが俺の十八番(おはこ)『早着替え』だ!!」とドヤ顔で返したのだが「んなわけあるかぁ!」と被せられる。あ、はい。実際、そんなに得意じゃないです、早着替え。山の貴婦人によって着せ替え人形にされるのは、もう随分と得意になってしまったけど。

 

「ま、さっきも言った通り何かの手品だと思ってもらえたら良いさ。さて、それじゃあ始めようか。10秒以内に俺の胸ポケットにあるハンカチ(これ)を取れたらマチの勝ち。俺に出来る範囲で叶えられる『お願い』を()()()1つ叶えてあげる。10秒以内にハンカチ(これ)を取れなかったら、そうだなぁ、俺が負け上がりするのことに納得してもらおうかな?」

 

 そういって俺は意地悪い笑みを浮かべるのだった。

 

 

 * * *

 

 

「10秒だけね?」

 

 そう八尋から言われて正直に言えばムッとした。でも、それが私自身の我儘だということも解っていた。それが解っていても、判っていても、どうしようもなく悔しかったのが込み上げてきた思いだった。景色が僅かに滲んだ。

 

 圧倒的な実力不足。

 

 いくら努力を積み重ねようとしても、私にはクロロの様な才能は無い。

 ウヴォーギンの様な膂力やオーラの総量もない。

 フェイタンの様な速さもない。

 シャルナークの様に団長(クロロ)の不在を代替できるような頭脳もない。

 フランクリンの様な制圧能力も無い。

 パクノダのような拷問を必要としない調査能力も無い。

 コルトピのような本物と偽物をすり替えるような偽装能力も無い。

 ノブナガは、私よりも膂力は無いし、遅いし、オーラの総量だってないが、それでも1対1(タイマン)となればば、その強さは旅団の中でも飛びぬけている方だろう。私だって、その条件下で勝てるとは万に一つも思えない。ま、団員同士のマジ切れ禁止だから、その真価が発揮されることは無いだろうが。

 フィンクスは、膂力やオーラの総量という意味ではウヴォーギンがいるから霞んでしまうところがあるのは事実だし、速さだってフィタンには僅かに劣る。それに、なんだって、あんな扱い辛い能力に?という疑問は尽きないが、それでも戦闘面においては基本に忠実なスタイルが抜群の安定感を見せるという意味では私なんか足元にも及ばない。

 ボノレノフも、それは同じだ。どちらかといえば、制圧能力という意味でフランクリンよりだが。

 

 また、ここ何年かの間に新メンバーとして入ったシズクの様な抱えきれないほどの荷物を収納しておくような能力も無い。

 気に入らないが、その戦闘能力は団内においてもクロロに匹敵しうる異能者であるヒソカの様な運動能力とトリッキーな戦術、扱いやすい能力があるというわけでもない。

 

 他にも能力などは一切不明だが、この場に集う能力者の中でも、明らかに私より数段上の高みにいることを肌で感じ取れる人間は他にも何人かいるのだ。

 

 それを考えれば、一度でも思ってしまえば、八尋が行った「10秒」という制限は、私なんか、その程度で十分と言われているような気がしてならなかった。私が私が思う他の誰かの様に強くあれたなら、そんな制限などなかったのだろうか、と。

 

 ――ぽふ

 

 俯いて塞ぎこみそうになっていた気持ちが頭に載せられた手の感覚で一気に覚醒し、びくっと肩が振るえた。見上げると、そこには何か困ったような表情を浮かべる八尋がいた。聞き分けの悪い幼子をあやすような、そんな手つきというか、表情というか、それをみて顔が一気に熱を帯びた。し、死ぬほど、恥ずかしい。

 

 ………でも、少しだけ、それが心地よかったのは内緒。それと、その様子を見ていた()()()ハンター試験の会場でクロロとシャルと同様に立会人を務めているパクの視線が少しだけ痛かったけど、それは私の所為じゃないから!

 

 そして最初に告げられた10秒であることの意味、唐突に説明されて少しだけ驚いたが行われる試合形式(號奪戦)というものの内容、あと手品じゃなくて念能力? 着替えるだけの? 何で? というか、この場で見せても良いものなのだろうか、それ? と思えるような私の瞬きの間に行われた着替え。元々着ていた服を何処へやったとか、今着ている服は何処から持ってきたと考えるのは無粋なのだろうか……

 

 うん言わぬが花のような気もしてきた。気にしたら、負けだ。

 

 というか、なんというか、孫にも衣装というと失礼かもしれないけど。なんかカッコイイと思ったのも秘密。パクも見惚れてないで、しっかり審判努めてよね!?

 

 私の視線に気づいたのか、パクが咳払いを1つして試合の段取りを進める。

 

「それじゃ、次の10秒を測る開始音を合図に試合を始めます。両者、位置について」

 

 次に鳴り響く音が開始の合図の様だ。そして――

 

 コォン

 

 ――開始音が鳴り響き、それを契機に私にとって()()を感じるほどに長い10秒間が始まった。

 

 

 鳴り響いた音と同時に私は八尋との距離を詰め、決着となる一歩を踏み出そうとして、しかし、その一歩は全く踏みだせなかった。腕も伸ばせない。たった一歩分の距離が、腕を伸ばせば届くはずの距離が何と遠いことか。まるで大海を挟んだ彼岸の様だとさえも思った。もちろん、その彼我を隔てる大海(距離)を表すイメージは、荒れ狂いうねる海、或いは、ボコボコと気泡を吐きだし今にも爆発せんとする溶岩溜まり、そんなものさえ生ぬるいと感じるような鋭く尖った踏み入れる者を八つ裂きにせんとする剣山か。

 

 怖い…… 寒い……

 

 身動き一つとれぬ荒波に揉まれ、呼吸が止まる。

 

 苦しい…… 熱い……

 

 肌が、身体の至るところが焼かれ、焦がされる。

 

 辛い…… 痛い……

 

 刺される、刻まれる、叩かれる、磨り潰される、そんな苦痛が私を襲う。

 

 その間も目の前に、ただ後手に手を組んで立っているだけの八尋の姿が視界に映る。私に対して何もしていない、何一つ行動を起こしていない静かに、優しい瞳して笑顔を湛えた八尋の姿が、そこにある。八尋は()()()()()()()

 

 それが何よりも恐ろしく、私の中の不安を増長させていく。

 

「ハァァァァァ!!」

 

 周りから向けられる目など気にしない、幼きあの日に八尋に拾われ、仲間たちと共に八尋より習った念能力(チカラ)を使う事など何の躊躇もなく、渾身の力を込めて "堅" を行い前に進もうと全力で抗う。

 

 ――タンッ

 

 一歩、たった一歩の距離を私は幾度も幾度も殺されながらも、今、踏み出した。その瞬間――

 

「えっ…… うそ……」

 

 ――月が私を目掛けて降ってきた。

 

 その呟きが声になっていたのかは分からない。分からないが、私を目掛けて降ってくる超巨大質量が大気の摩擦によって、灼熱を帯びながら向かってくる様子を目を逸らすことなく見上げ、そして、私は押し潰された。されど渾身の力を込めて腕を伸ばす。何かが伸ばした先の手に引っかかるのを感じる。それが何かは分からない。分からないけれど――

 

 コォン

 

 ――終了の音を報せる心地よい音が鳴り響き、それを契機に私にとって()()を感じるほどに長かった10秒間が終わった。

 

「お見事!

 うーん『まいった』ね……………………」

 

 そんな()を何処か遠くに聞きながら私は意識を手放した。

 

 

 * * *

 

 

 試合開始の合図を報せる『コォン』という音とともにマチが構え、その大きな一歩を踏み出そうとして、立ち止まる。マチの目に映るのは怯えの色、苦悶の色、絶望の色。様々な色が映り替わりながらマチの瞳に反映されているのが見て取れた。今、一体、彼女にどんな情景が映し出されているのか、それは俺には分からない。けれど、それが試練としては十分なものであることは焦点の合っていない瞳を見ればわかる。

 

「ハァァァァァ!!」

 

 気合一閃、突如、マチから発せられた声とともに身に纏う濃厚な気配。おそらく念能力の "堅" という技法だったかと思うそれを人目を憚らずに行ったことで審査委員会の面々(正確にはネテロを筆頭にした、その一部)が僅かに眉を顰める気配を感じながらも試合を途中で止める気が無さそうなことに安堵する。

 

 そういえば、これらの念能力(チカラ)を大っぴらにしてはいけない事だったかと今更ながらに思い出したからだ。早着替え? それは良いんだよ、だって、念能力じゃないし(すっとぼけ)

 

 残り時間は、2秒を切ったところだった。俺は、挑戦を受ける立場、()()()()()()()()()()()()()()()、その場から一歩たりとも動かずに事の推移を見守り続ける。そして、残り1秒を切った、その時。奇跡を目の当たりにした。

 

 マチの腕が伸びる。手が俺の胸を突く、指先がハンカチに掛かった――

 

 コォン

 

 ――同時に試合の終了を知らせる音が試験場に鳴り響いた。

 

 同時に崩れ落ちるマチ。俺のハンカチが床に落ちた。マチの手は()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その白魚を思わせる指先は確かに俺のハンカチに手を重ねていた。

 

「お見事!

 うーん『まいった』ね、まさか本当に獲られるとは思わなかった。ん? 取られてるのか、これ??

 まぁ、いいか。これで取られた内には入らないっていうのは、なんというか締りが悪いし、かっこ悪いからね。うん。この勝負はマチの勝ちだ。その覚悟、確かに受け取ったよ。さぁ、その内に秘めたる大望を叶えよう」

 

 仰々しく口にしながら床に落ちたハンカチを広い、意識を手放したマチを抱える。そしてパクノダに目配せし、試合の終了を告げさせた。

 

「勝負あり。勝者、45番マチ」

 

 その声が響き、やがてパチ…… パチパチ…… パチパチパチ…… と拍手を打つ手が聞こえた。それをしたのはソウイチとミズエだ。ま、この2人は何度か俺に "號奪戦" 挑んできたこともあったから(2人とも立会人じゃないのにね)、マチの成した偉業?が、どれほど凄い事なのか身を以て理解しているのだろう。2人とも戦績は散々だしね……

 

 それに合わせるように他の立会人たちも理解は及ばずとも、勝者であるマチを讃えるため気づけば全員が手を打っていた。

 

(うん。本当に、お疲れ様、マチ。よく頑張ったね)

 

 そう抱き寄せ抱えたマチに内心で称賛の声を掛けながら俺は立会人を務めたパクノダにマチを預け医務室へ消える背中を見つめるのだった。




Q.八尋がマチに対して行ったのって、何?
A.何もやってません。強いて言えば戦闘用のモードにスイッチを入れ方程度のもの。
 その結果、マチの持っている生存本能が、全力で警鐘を鳴らし八尋には近づくなと抗ったような感じ。武術の極みには達していなくとも、そういうイメージが見えた的な。
 ほら、某筋肉隆々漫画でも『真に護身を身に付けた者であれば、もはや技術は無用であり、そもそも危機に近付くことすらできない』っていうしね。
 なお、近づけば近づくほど超抜級の災害がイメージされる部分は、ゴゴとの戦闘をモチーフにしました。心を無にして身構えず、全てを受け流せれば、実はあっさりとハンカチは取れるんだぜ、的な?
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