【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

4 / 23
 一次試験開始~二次試験まで書くといったな? あれはウソだ!

 すみません、本編で書かなかった「もう一人の八尋」について書いていたら思っていたよりも長くなったので途中で切りました。次こそは……


002:Altered Ego

 本試験を開始する会場と思われる地下道に案内されてからあった出来事をキッカケに急降下したキルアの機嫌を取りながら時間を潰していると随分と受験者も増えたようだった。最後にチラッと見えた番号は「388番」だったから既に400人近い人数が、この狭い空間に集まっていることになる。

 

「ゼノさんも仰っていたと思いますけど、基本的にタダ働きは良くないと思うんですよ。意味合いは少し違いますが本体(主人)も同じようなことを言っていた覚えがありますし、キルア君は()()()1()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さっきみたいな事があって多少イラッとすることがあっても無闇な殺生は控えるべきだと思いますよ」

 

「はいはい、わーったよ。俺が悪かったって」

 

「まぁ、キルア君がトンパ(あのおっさん)を食べたくて、ぶっ殺すというのなら、あまり気は進みませんが()も1人の料理人として協「それ以上、言うなぁぁぁ」………はい、すみません」

 

 私の小言に不満気な顔をしたままムスッとしていたキルアは空返事を繰り返していたが、いざ人間(トンパ)をどうしても食べたいなら協力を惜しまないことを申し出ようとすると、何かを思い出したのか、地下道を転げまわるように私の言葉を遮る。近くにいた他の受験者が何事かと一瞬こちらを見るが、すぐに何事も無かったかのように意識を逸らしていく。その様子から多少の心得くらいは持っているのだろうということは用意に察することが出来た。ただ、それはプロというには、あまりにもお粗末なモノであるということは否めないが、それを言うのは酷なのかもしれない。

 

「それにしても………」

 

「なんだよ?」

 

「見られてますね?」

 

「は?」

 

 私の呟きを拾って真面目モードになったキルアが尋ねてくるものの、次いだ言葉に驚きの表情を隠せないでいる。そのまま私の首に若干の戸惑いを見せてから腕を回して屈む様な姿勢にして聞いてくる。

 

「見られてる? いつからだ?」

 

「え? ()たちが此処に降りてきてから、ずっとですよ?」

 

「マジかよ……」

 

「マジです」

 

 私の答えが意外だったのか、それとも全く気づけなかった自分を恥じているのか、キルアは表情をコロコロ変えながらうろたえる。その様子に私はクスリを笑みを零しながら才能豊かな暗殺一家の跡取りを慰めるように声を掛けた。

 

「安心してください。敵意はありません、今のところは、ですけど」

 

「様子見ってことか? なんの為だ? 心当たりは?」

 

()にはありませんが、きっと本体(主人)にはあるでしょうけどね。あの方は動くと大概碌なことが無いですから……」

 

 キルアの質問に対して私自身が裡側から見てきた八尋(本体)の無茶苦茶ぶりを思い出して苦笑いを浮かべながら答える。その様子と答えに「あぁ…… そうかもな、そういや八尋(アイツ)に贈りつけられたモノを見て親父や祖父ちゃんが溜息を吐いてたの見たことあるわ」と、たぶん今の私と似たような表情を浮かべるキルアとお互いに傷を舐めあうことになった。

 

「どちらにしても、何処から視られているのか分からない以上、こちらから動くわけにはいきません。狙いは、きっと()。というよりは本体(主人)の方でしょうからキルア君は、そんなに力まなくても良いと思いますよ。それに視ている相手が分かったとしても不用意に近づいちゃダメです。いいですね?」

 

「………」

 

 キルアは答えない。けど気持ちは分からないでもない。長いゾルディック家の歴史の中でも才能はピカイチだと、跡継ぎはキルアだと、実の家族も含めて周りからは散々にちやほやされて育ってきた少年の万能感が崩れ去ろうとしているのだ。でも、それは成長には必要なこと、今出来ることと出来ないことを割り切って、今は無理でもいつかは越えると足掻いて、足掻いて、足掻ききった先に新しい未来の選択肢を得るのが人間だ。それにこうなる直前に私はキルアの事を家族の方へ相談してしまい、キルアのことを一緒にいる間は任されてしまった以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()守らなければならないのだ。キルア本人には内緒だけれども…… 言ったら、今度こそスネて私たちから逃げ出すかもしれない、まぁ、まだまだ未熟な跡取りに撒かれるほど耄碌などしていないけれども友好的な関係に皹が入ることは避けるに越したことは無いのだ。

 

「別に気づけなかったことに恥じることは無いですよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから。キルア君は、きっと強くなる。さすがに本体(主人)よりも、とはさすがに断言できませんけど」

 

「俺だって人間やめたくはねえよ」

 

「えぇ。なので今は堪えてください。今は無理でも、きっと視線の相手も、家族の方々も見返せる日は来ますから」

 

 そういって首に回っていた腕を解き立ち上がると、私はキルアの頭を撫でた。そうすると、また少し顔を赤らめた少年は「うるせえ」と呟きプイッとそっぽを向いた。

 

 そのキルアの様子にクスっと笑みを讃えながらも私は時折感じる視線に対して黙考する。一体何者だろうか?

 

 向けられている視線は間違いなくプロの行う視線(それ)、この試験会場(地下道)に集っている凡百(アマチュアたち)の向けてきた視線(それ)ではない。だが、それにしては感じる視線に敵意は無く、むしろ何故か凄く既視感があるような気もするんだけど………

 

 だが、本当に敵意がないのだとすれば、私もしく本体(主人)と多少なりとも関わりがある人物が視線を向けてくるものの正体に直結することになるのだが、そうだとすれば何故直接声を掛けてこないのだろうかという疑問もある………

 

「うーん………」

 

「まだ悩んでるのかよ。ってか、本当に視線なんか感じるのか?

 俺だって言われてから探ろうとしてるんだけど全然わからねえよ。気のせいじゃねえの?」

 

「キルア君のは分かり易過ぎるから相手のほうが警戒して視線を解いてるからですよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 私の指摘に、その発想は無かったとばかりに驚きの表情を浮かべ、直後に悔しそうな表情へと変わる少年の感情豊かな変化に苦笑いをしつつも、まぁ、幾ら才能豊かで将来は明るい若者とはいえ、やはりこの年齢の子供にそこまで求めるのは酷というものかと改めてキルアのことを思う。まだ12歳なのだ幾ら暗殺業における英才教育を受けて育ってきたとはいえ、そこはそれ、まだまだ経験不足という面が大きいのだろう。だが、こういう指摘はキルアにとって滲み出ている悔しさ以上にバネとなって成長へと転じてくれるはずだと信じて私は断言する。

 

「まぁ、そこまで落ち込まなくても良いですよ。先程も言いましたけど、キルア君はまだ若い。今は大人への階段を上がり始めた段階ですが、それでも()たちや周りの大人たちから見ればまだ子供な部分もある。だからこそ今までがそうだった様に、これからも弛まぬ訓練を行い続けていけば、これまで以上のスピードでガンガン伸びていくでしょうから今は相手の方が上手だったという現実を甘んじて受け入れて、代わりに()()()()()()()()()()()()()()()()だけを考える時期ですよ」

 

 そう言葉を添えながら私は、またキルアの頭を撫でる。今度は手を払いのけられることも無く、かといって何かを言い返されるわけでもなくキルアはただただ黙って俯いていた。最後に聞こえたのは静かな、それでも力強い呟き。

 

「負けねえからな」

 

「はい。期待して待ってますね」

 

 返答は無い。ただ裾をギュッと握られ何かに耐える姿は子供ではあるが立派な大人のソレだと私は思った。

 

(その悔しさをバネにして、それに折れず、立ち向かっていくことでヒトは成長するものです)

 

 それが私の今のキルアに抱いた確かな想いだった。

 

 

 * * *

 

 

 しばらくしてキルアが落ち着いてきたところで本予選の締め切りを報せるけたたましいベルの音が鳴り響く。その音に誘われるように視線を上げると、これまた見知った顔の試験官が壁沿いに長く引かれたパイプの上に乗っていた。

 

「サトツさん何やってるんですか………」

 

「アレも知り合いか?」

 

「えぇ、昔少しだけ関わりがありまして。数年前でしょうか、密林の中に見つかった遺跡関係の調査に同行したことがあるんですよ。私は衛生士兼調理師みたいな役割で暇つぶしも兼ねて足を運んだんですけどね。なかなか面白くて大変だったのを憶えてます」

 

 キルアの質問に答えながら予想通り今年度のハンター試験の受付が終了した旨と同時に試験開始の合図が告げられる。どうやら最初の試験は持久走のようだ。嫌な予感が当たりましたね。

 

「キルア君、この試験は退屈で、とてもつまらないものになるでしょうけど無茶はしないように」

 

「どういう意味だよ?」

 

「きっと、ただ走るだけです。たぶん二次試験の会場とかまで」

 

「はぁ? 試験って、それだけかよ??」

 

 私の言葉を訝しむ様にキルアは首を傾ける。だが実際「あの」サトツさんならやりかねない。のほほんとした性格なのに、やることは非常にマイペースな、それでも基本を大事にする律儀なメニューを作り上げることで、その界隈では有名なヒトなのだ。だからこそ遺跡調査という彼の本職においても、その仕事ぶりはプロアマを問わずに伝わっているものだけで高い評価ばかりなのだろうけど。

 

 なので最後は殆ど感じなくなった視線の正体も割り出せていない中で『退屈だから』という理由で独断専攻をされては困るのだ。いや、たぶん試験中にキルア君に目をつけるような連中は殆どいないし、子供である理由に目を付けられたとしても危機に陥るようなことは無いとは思うけれども。念には念を入れて軽く注意だけでもしておいた方が、何かあったときに咄嗟の判断もし易いだろうという意味も込めて改めて言葉を紡いだ。

 

「はい。先程の視線の正体は割り出せてません。おそらく敵対行動を取ってくるような方ではないと判断できますが、それでも何があるか分からないのが世界の理(常識)でしょう。ジャポンという国には『一寸先は闇』という諺もあります。なので周囲の状況だけは怠ることの無いように」

 

「なんか前から思ってたけどさ、彼方(カナタ)って偶に母親(おかん)みたいなこと言うよな?」

 

「うっ……… だ、誰が母親(おかん)ですか、誰が………」

 

 想像もしたことが無かったとは言わない。それは此処ではない何処かの世界を旅したときに本体(主人)が必要としながらもマスターすることのできなかった調理技術と食運操作(チカラの数々)を自在に扱うために生み出された存在が私なのだ。圧倒的な権能(チカラ)の象徴でもある本体(主人)とは違い、その技術は、もの凄い繊細さを要求される。もちろん本体(主人)にだって繊細さや精密は当然のようにあるし、そういう技は幾つでも身につけてきた。しかし、その世界にある特有のチカラ(特に食運の操作)それだけは()()()()()()()()()マスターすることができなかったが故に『反転』に近い技法を用いて、その為だけに私という存在は産声を上げたのだ。

 

 表裏一体の雫、食寳『ペア』(アカシアのスープ)

 

 それを飲むことで得られる莫大な情報を参考に生み出された私は本体(主人)の付属品でしかない。けれど、それでも私は『私』という存在に後悔の念を抱いたことは唯の一度もない。だから、記憶にある限り一度だって『私』は、()()()()()()()なんてことを意識したことは無かったのだけれども―――

 

 彼方(カナタ)って偶に母親(おかん)みたいなこと言うよな?

 

 ―――否が応にも「そうである」と意識させられてしまったが故に私は………。

 

 ボンッ

 

 幾ら私の中で否定の言葉を紡いでも性別(それ)()()()()()()()というだけで顔だけじゃなく、耳まで熱くなっていくのが分かる。きっと今の私は茹蛸の様な表情をしているに違いない。他の誰かに同じことを言われても、私はきっと動じなかっただろう。だけどキルアからだけはダメだったのだ。何故ならそれは―――

 

「名前、なんて言うんだよ? あの兄さんが八尋だろ? 俺はアンタの名前を聞いてるの!」

 

 初めて遭った時の記憶

 

「私に名前なんてないよ? 強いて言うなら本体(主人)と同じ『八尋』って呼んでもらえたら、それで私は満足だけど………」

 

「だーかーらー そうじゃねえって! 大体、なんだよ名前が無いって!!」

 

「だって事実なので。呼びやすいように呼んでもらえたら私は答えますよ?

 そりゃあ『う●こ』とかは嫌ですけど。ま、そんな呼び方された日には言った方は私じゃない姫さん(ワタシ)にミンチにされるでしょうけどね」

 

 そういって茶化して答えたあの日

 

「じゃあ、俺が付けてやるよ!」

 

「え?」

 

 それは驚きだった。自分の名前など考えたこともなかったから………

 

「んーと。それじゃあ彼方(カナタ)彼方(カナタ)なんてどうだ? 前に言ってただろう? 八尋もアンタも凄く遠いところから来たって。ちょっとだけ、それを意識してみたんだけど、ダメか?」

 

「あ、いえ……… その、なんて言うんでしょう。あ、やだ目からヨダレが………」

 

 その私の反応にキルアが噴出して笑ったのが分かった。

 

「なんだよ目からヨダレって。すっげーウケる。やべぇ……… 笑い殺す気かよ……… くくっ」

 

「もう、ふざけてる訳じゃないのに!!」

 

「あー、わりぃわりぃ。でも、それは『涙』だろ。だからカナタ。今日から俺とトモダチになってくれよ!」

 

 一頻り笑って、乗っていた木の枝から抱えていたボードごと落ちても笑い転げて、それでも必死に笑いを収めながらキルアは言った。

 

『俺とトモダチになってよ!』

 

「はい。それがキルア(貴方)の願いなら『ワタシ』はそれに応えましょう」

 

 それが八尋()でも、姫さん(ワタシ)でもない、カナタ=クロヌエ(ワタシ)だけに与えられた初めての名前。固有の名称。それがどれだけ私の中に()()()()()()()()()()()()()、きっとキルアは生涯気づかないだろう。それでも……

 

「うしっ じゃあカナタは今日から俺のトモダチな!」

 

「はい。私は今日からキルア(貴方)のトモダチです」

 

「ダチ相手に『貴方』なんていうなよ余所余所しい。キルアって名前で呼んで!」

 

「『キルア』ですか? はい、わかりました。じゃあ次から、その様に呼びますね? キルア」

 

「おう!」

 

 その笑顔を私は生涯忘れることは無いだろう。

 

 私はキルア=ゾルディックという少年にとって初めてのトモダチであり、私にとってキルア=ゾルディックは初めてのトモダチなのだから。

 

 ―――私が他の誰でもない『ワタシ』であると自覚できる初めての相手(トモダチ)からの言葉だったから。

 

 そんなキルアに私は私の性別を()()()()()()()()()()()が故に、この様な反応をせざる得ないのだろう。そんな私の様子を見てキルアは気まずそうに呟くのだった。

 

「あー… なんかゴメン」

 

「あ、謝るなら最初から言うなー! キルア君のバカー!!」

 

 叫ぶほどではないが私は自分の中にあった感情(それ)を抑え込むように抗議の声を漏らしたのだった。




 というわけで八尋さんの裡に潜む存在Aさんこと名無しの八尋さんへの名付け回。

 元ネタがアカシアのコンビである神の料理人フローゼ(性別は女性)であり、それが蘇生後にアカシアのスープ料理『食寳:ペア』を飲んだことで生まれた存在がジョア(性別が男性)ということに着想を得たというのは、そういうことでした。

 次こそは二次試験前まで進めたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。