【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚 作:冷やかし中華
カナタの言った通りハンター試験の本予選(一次)は、キルアにとって本当に退屈極まりないものだった。全然、楽しくなかった。というのも―――
「先に行ってください。あとで必ず追いつきますから………」
―――そばに一緒に試験会場まで来てくれたヒトが隣を走ってくれていなかったから。
走っている最中に見かけた同い年の男の子(ゴン)と、その仲間たち(クラピカとレオリオ)と意気投合し、レオリオの年齢に驚き、そのレオリオが途中へばりかけたのを「遊びじゃないんだから放っておけよ」と突き放してみたものの、気分は全く晴れなかった。理由は明白、レオリオのペースに合わせるようにしてゴンと自分、3人で最後尾を走っていたのに、未だにカナタが追い付いてこないからだ。
(なんで来ないんだよ! カナタ!!)
ゴンに対してレオリオのことは「放っておけ」と言ったのに、それとは相反する思いを抱えてキルアは内心で葛藤する。もしかしたら自分が気づかなかった視線の持ち主と何かあったのかもしれない、そうであれば自分がカナタを心配して迎えに行くことに意味は無い。
―――でも、そうじゃないとしたら?
試験が始まる前に突然様子のおかしくなったカナタの事を考えてしまい、キルアは頭を振る。そうなった切っ掛けを創ったのは、間違いなく自分だったが故に、その思いは猶更強いものだった。その様子を心配したのか、さきほどから隣を走る2人目のトモダチ候補である同い年のゴンから声を掛けられる。
「キルア、どうしたの?」
「何でもねえよ」
ぶっきら棒にゴンの問いに答えを返してみたものの、内心では『嘘だ』と叱責する自分がいるのを無視することが、どうしてもキルアには出来なかった。一度考え出してしまったら止まらなかったからだ。
「おう、キルア。なんで最後尾なんだ?」
そう突然頭を撫でられながら声を掛けられたことで俯き加減だった顔を上げる。そこには先程まで
「誰?」
「八尋!?」
重なる声。それに「おう」と明るく返す先程知り合ったばかりのクラピカ以上に中性的な容貌をした男が返事をした。
「キルア、知り合い?」
「あ、あぁ」
苦虫を噛み潰すようにしてゴンに答え、隣を走り始めた男の事を説明する。その説明とは裏腹に内心では「なんでオマエなんだよ!!」と声を大にして叫びたかったが、それは口が裂けても言えなかった。そんなことを言った日には、どうなるか想像もつかない。いや、想像はつくか。なんたって、それで酷い目に遭わされた身近にいる
「へえ、キミがジンの子どもかぁ。よく似てるなぁ」
そう目を細めて口にした八尋の声に隣を走るゴンが反応する。
「
そう目を輝かせて問うていた。その様子とカラカラ笑う八尋の姿に内心で舌打ちしながらも自分の知らない情報、何よりもカナタに関することが少しでも出てこないかと耳をそばだてる。
「知ってるも何も、今でも
そう笑いながら答える八尋の姿に無茶ぶりに付き合わされることもあるというゴンの親父のことを考え、俺の親父や祖父ちゃん以外にもコイツの所為で苦労してる奴は多いんだな、世界は意外と狭いと何やら達観した感想を懐いてしまったキルアの横で、とんでもない爆弾発言を投下してきた。曰く―――
「というか、俺が今回のハンター試験を受けることになったのもジンの差し金だぜ?」
―――と答えた八尋に今度こそ聞こえるように舌打ちした。
「なんだキルア、随分と機嫌が悪いな?」
誰の所為だ! 俺はカナタと試験を受けに来たのに!!
そんな自分でも子供らしいと考えてしまう八つ当たりに近い言葉を寸でのところで呑みこんだ。苛立った理由は簡単、1ヵ月前の今日。俺が家出してから当てもなく街を歩いては野宿を繰り返していたところに、
カナタが当てもなくフラフラしていた俺を誘い、一緒になって受けることになったハンター試験に臨む本当の理由が、その実、八尋が今言ったとおりにゴンの親父を発端とするものだったとすれば、俺が八尋に八つ当たりをする筋合いはないのだ。だけど、カナタから誘われたから
「一体どうしたのさ?」
そう聞いてきてゴンに対し、
「なんでもねえよ。
それよりもゴンの親父は何をやってる人なんだ? ゴンは何で試験を受けてるんだ?」
と抱えたモヤモヤを打ち消すように答えつつ、さきほどまで抱えていた理由も分からない苛立ちにも似た気持ちを切り替えて俺は新しく出来た同い年という意味では初めてのトモダチ候補であるゴンへ質問を投げかけることにのだった。
* * *
『また、随分と嫌われたものだな』
そう己の裡側でクックッと笑うのは嘗て独りで戦い続けるにも、生き続けるのにも疲れ果て、磨耗しきっていた俺を救い、そして今も変わらずに供に道を歩むことを選んでくれた元どこかの王族らしきヒト?こと姫さん。そのからかう様な声に『うるさいよ!』と返しながら未だにフリーズしたままの
カナタに名前を付けなかったのには理由がある。『カナタ』という存在は、俺が望み、俺が生んだ存在ではあったが、俺がカナタがカナタである理由を見出すのは、俺が俺に名前を付けているような感じがして嫌だったからだ。それを無責任だと罵る声も聞こえてきそうなものだが、自分の子とは違う、自分の中に生まれた存在に俺が『名前』を付けてしまっては、そいつを固定してしまわないかという思いの方が勝った結果だった。
カナタはヒトでもなければ、本来、俺の
『でもカナタが自分の名前を見つけてくれた時は本当に嬉しかったなぁ』
『そうだな………』
そう未だにフリーズしていかと思いきや、とたんに顔を赤らめてあわあわしている
『これで、
というか姫さんには既に
そう聞くとあからさまに不機嫌さを滲みだして姫さんは答えた。
『何度も言わすな。あれは、とうの昔に捨てたものだ。今更、名乗るつもりなどない』
『そ。まぁ、別に姫さんがそれで良いなら俺は別に構わないさ』
『うむ。それよりも八尋は早く "視線" を向けてくる主へ逢いに行ってやれ。もう
その姫さんからの言葉に「そうだね、まさかタイミングを合わせて試験を受けにくるなんて随分と殊勝な真似をするじゃないか」そう声ながら考えをめぐらせるとともに、久しく逢うことの無かった愛し子のことに募る思いを巡らせながら意識を切り替えた。その前に―――
「随分と辛そうだね。これ相棒が持っていたものだけど良かったら飲んで落ち着きなよ。体力が回復して、まだ追いつけそうだったら追ってきな」
―――そういって肉体的にも精神的にも、この試験中にボロボロにされた出来の良いお坊ちゃん風の男がヘタレる少し先の道に
その一部始終を見ていたらしい主犯格の男と雇われた常連が「う、うわぁぁ」と全力で引いていたらしいこと
俺の置いた缶ジュースを疑いもせずに飲み干したお坊ちゃん風の男に消えることの無いトラウマが刻まれたこと
また、この時の話を続く試験の中で珍しくカナタに半ギレ状態で指摘され「えっ それは俺が悪かったの?!」と反応した俺がいたのは、また別な話。
* * *
「やっと追いついた。久しぶりだねマチ! 元気にしてた?」
「なぁ!?」
「おや、やっぱり2人は知り合いなんじゃないか♠」
「ヒソカは少し黙れ」
そういうと試験会場に着いてからというものチラチラとこちらに視線を向けていたモノを相手に声を掛ける。最後に逢ったのが、もう10年近く前のことだったから俺のことを覚えているか微妙だったけど、うん、覚えていてくれた様で何より。善哉善哉と俺はホッと息を吐いた。
(なんたって他ならぬ俺自身が一緒にいながら一度は忘れてしまって悲しませちゃったからね。あの時は、本当に申し訳なかったなぁ)
そういう思いを頂きながら一緒になって走る、これまた奇抜な格好をした
「それで、そこにいる
「全然知り合いじゃない。コイツのことは気にしなくていいよ」
マチの反応は酷く冷淡なもので、なんか少しだけヒソカと呼ばれた人物に同情してしまった。というか基本的に誰に対しても、こういうぶっきら棒な振る舞いをする気のあった彼女ではあるが、それにしても心底嫌うようにして言い切るのも珍しいだけに俺は思う―――
『お前は一体マチに何をしたんだ?』
―――と
だが、俺の思いとは裏腹に意外と気が合うんじゃないかと思えるほど2人コント染みた会話は止まる様子がない。
どうやら先程からマチが何かを言ってはヒソカがソレに答えることを繰り返し、次第にマチを追い詰めている。うん、口の上手さはヒソカと呼ばれる
「マチは酷いなぁ。ここまで一緒に来た仲じゃな「うるさい黙れ。その口を縫うよ」………♣」
―――それは口上の上では完全にキレたマチによって強制的に終了させられることになった。
凄い。あのマチが割りと本気で嫌がっている!!
俺は何処かズレた感想を持ちながら2人とペースを合わせて走り簡単な自己紹介をした。それについてマチがヒソカには余計なことは言わなくて良いと口を挟んできたけれども、うん、そういう訳には行かないよ?
だってヒトとヒトとの関わりは挨拶からだろう? 昔、そう教えたじゃないか。
そう言葉にはせず、唇を動かしてマチへ伝えると「勝手にしろ」とプイっと横を向いてしまった。うん、こういうところも昔と何も変わらないなぁと俺は微笑んだ。
「俺の名前は八尋。八尋=黒鵺だ。呼称をするときは、そうだな。八尋とでも言ってくれたら良い。ただし注意事項としては、本当に已むに已まれない理由でもない限り、俺のことは名前で呼ぶようにしてくれ。『お前』とか『アンタ』とかって呼称は、なるべく無しな?」
「OK、分かったよ。
ボクの名前はヒソカ。ヒソカ=モロウだよ。ボクのこともヒソカと呼んでくれたら良いかな、これからもヨロシク八尋♥」
なんだ別に格好は奇抜だが、普通に話せる感じの良い青年じゃないか。俺のヒソカに対する第一印象は、そんなモノだった。
―――ガシャン
その音に反応して振り返ると登ってきた地下道の階段へ通じるシャッターが閉まった音だった。
「んん~? っていうか、ここ "詐欺師(笑)の塒" じゃないか?」
「何か知ってるの?」
俺の半ば驚いたような、呆れたような声に反応したマチへ「まあね」と答えると試験官を務めているらしいサトツからタイミングよく説明を開始するのだった。
「ヌメーレ湿原、通称 "詐欺師の塒"
二次試験の会場に向かうには、ここを通って行かねばなりません。この湿原にしかいない珍奇な動物たち。その多くが「はーい、はいはいはい!
あまりにも退屈な説明を聞くことに飽きて俺は全く空気を読まない質問をぶつけてみたが、当然のように返ってきたのは「叱責と何を言っているんだオマエは?」という視線。
「わかりました。説明の続きをどうぞ。いないなら仕方が無いので諦めます」
「はい。今後、何があっても試験官の話を途中でぶった切るようなことはしませんように。最悪の場合、失格という判断をせざる得なくなりますので、ご注意ください」
「はーい」
俺は間延びした声でサトツへ返事を返し、マチの「ヘルベルって?」という質問に対し、サトツたちへ聞こえないように唇を動かして答えるのだった。
「ちょっとクセのある単なる毒蛇? だよ??
こういう似たような湿原に棲んでいる珍味といえば、珍味だね。機会があれば今度マチたちにもご馳走してあげる」
それに花の様な笑顔を乗せてマチは「楽しみにしているわ」と答えた。それに俺は1つ頷き試験後の遠征日程を組もうと心に決めるのだった。
一次試験の折り返しまでしか進まなかった。。
キルアとカナタ(八尋)が試験会場へ到着してから『視線』を向けていたヒトの正体は、マチでした。原作には無い展開なので、上手く、動かせるようにガンバリマス。
そしてニコルは二度死ぬ。慈悲は無い。