【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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 番外編で上げた5年以上前のネタから使えそうなところを引用して作成。でも、こんなので良いのだろうかという不安。。


004:Extricator of Flesh  

 ハンター試験の一次試験は、試験担当官(サトツ)の後を追って二次試験の会場まで向かうという一定のレベルに達しているものであれば唯々退屈なだけの試験だった。今は、その折り返し地点らしいヌメーレ湿原(詐欺師の塒)のド真ん中に構えられた地下道の出口で湿原の危険性を説明中。

 

「というか、あの地下道をハンター試験の為だけに造ったのか?」

 

「ホント、無駄遣いもいいところだね」

 

 俺の疑問にマチが相槌を打ってくれたことに嬉しくなりながら「ホントだよねー。もっと有意義なカネの使い方は幾らでもあるだろうに……」と返したところで何やら周りがざわついた。

 

「ウソだ!! そいつはウソをついている!!」

 

 建物の影から現れたのは病床人を装った猿だった。一見すると霊長(ヒト)に見えなくも無い見事な変装、そして巧みな言葉遣いではあるが、その獣にある特有の臭さを何とかしない限りは意味が無いだろう。

 と俺は思っていたのだが、どうやら周りは随分と乗せられ易い受験者が多いようだった。その空気を敏感に感じ取ったのか、自らを試験担当官だと名乗る猿は本物の試験担当官(サトツ)を指差して、あろうことかニセ者呼ばわりし始めた。あー…… これアカンやつだ。現にサトツの眼が据わってる。うん、お猿さん、アウト!

 

 ―――さく…

 

 見事に試験担当官というより、受験生に扮した人面猿の顔に3枚、サトツに4枚、そして何故か俺にも飛んできたトランプを俺は避けることも無く俯瞰していたが、それはマチによって弾かれる結果となった。

 

「ありがと。マチ」

 

 そういって御礼の言葉を告げる。マチは少し頬を紅潮させながらも、すぐに気を取り直して「次に八尋に手を出したら、アタシがアンタを殺してやる!」と念で空中に文字を起こしてヒソカへ警告する。その様子の何がヒソカにとって面白かったのか分からなかったが「クックッ♠」と笑っていながらマチからの警告を無視しながら、仲間が死んだことを悟った人面猿が逃げ出したところを仕留めヒソカ話し始める。

 

「なるほどなるほど♣

 これで決定♦

 そっちが本物だね♥」

 

 あ、うん。そうだね…… 知ってた。と俺は思うが他の受験生のざわつきは収まらない。おい、大丈夫かお前等………。俺は内心でツッコミを入れずにはいられなかったが、ヒソカの話は続く。それに対しサトツが返した言葉は実にシンプルだった。

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう。

 ですが、先程、そこの彼にも申し上げましたが、今後はいかなる理由でも()()()()()()()()()()()()は、試験官への反逆行為とみなし即失格とさせて頂きます。よろしいですね」

 

 それは確認ではなく、決定事項。今後、この試験中に受験者がサトツに対する威力妨害は全て失格にされるらしい。

 それに内心で舌打ちした。さっきまでは「失格になる恐れがある」だったのに、ヒソカが余計なことするから等級が上がってしまったからだ。もっと試験に影響が出ない程度に地味に遊んでいくつもりだったのに、それが出来なくなったことでガッカリした気持ちになったが、これはサトツに対してであって他の試験担当官に対してじゃないのだから、別にいいかと俺は開き直ることにした。

 そのニコニコした俺の笑顔にサトツは何かを感じとったのか「先程は私へと申し上げましたが、場合によっては、今後試験を担当する者への妨害行為は即失格になる場合があるので、ご注意ください」と念押しされた。なんでさ!?

 

 そうしている間にもヒソカによって仕留められた人間に化けた猿の遺骸に他の獣が群がり、食していく。その様子を見て俺は呟いた。

 

「なんかお腹減ってきたな………」

 

「あとで何か作るわね!」

 

 そう言ってやる気を出すマチの様子に俺は微笑みながら「うん。手伝うだけね?」と返す。なにやら不満気な表情を見せたマチだったが、そんな表情をされてもダメなものはダメです。なんたって料理を始めたばかりのころのマチたちが用意してくれた最早原型を留めていない劇薬と化した食材に軽く意識を飛ばしたことがあったからだ。

 

「やひろのために、いっしょうけんめいつくったから、これたべて!」

 

 あの何の悪意もない純粋な笑顔と、たどたどしい口調が忘れられない。

 出された料理の臭いを敏感に嗅ぎ取ってしまったが故に、嗅ぎ取ってしまったからこそ、それは俺でも受け付けるには強い意志力を求められる料理(ナニカ)だったことを今でも覚えている。

 砂糖と塩を間違えるくらいは良い、チョコレートとカレーのルー(固形)を間違えるのも許そう。だけどオリーブオイルと洗浄剤、チーズと石鹸を間違えるのはアカン。今は、あれから十年近く経っているし、もうそんなことは起こりえないと思っていても、それでも俺にしかと刻まれた記憶(痛み)にも似た光景を思い出し軽く眩暈にも似た錯覚を覚える。

 

 その時の俺の裡側では、姫さんが泣きながら「これを食べるのか? これを食べなければならないのか!?」と訴えていたのを忘れらない。それでも一生懸命に作ってくれたマチたちの手料理を無駄には出来ない。そう気力を振り絞り、笑顔で出された料理を完食しきった翌日だった。悲劇が起こったのは。

 

 翌日、俺は理由は分からなかったが一時的に記憶の大部分を喪失していた。それでマチを泣かせてしまったのには本当に心が痛んだ。死にたいくらいに。死ねないけど。

 

 そのことをマチは覚えていないだろう。覚えていないだろうが、これだけは言わせてもらう(言わないけど)

 

マチに1人で料理はさせないからね(一緒に料理をしよう)

 

「え? あ、う…… うん!!」

 

 俺の言葉にマチが何を思ったのかは知らない。だけど戸惑い、間を空けてから返事をした様子は次第に変化し、最後は耳まで赤くして俯いてしまった。

 

「おやおや、熱々だね♥」

 

 いつの間にか近づいてきたヒソカにマチの流れるような動作から放たれた見事なボディブローが決まったのは、そのあと直ぐのこと。ヒソカが打たれた場所に手を当てながら両膝をつく。その様子に気づいた周りが一際どよめいた。

 でもね、マチ。不意打ちでの "硬" はマズいって……。相手が俺やネテロ(狸爺)とかなら凡そ問題は無いから良いけど、普通のヤツ相手には………

 

「だ、大丈夫か?」

 

 そう声を掛けた俺にヒソカは「グッ」親指を立てて答えた様子を見て俺はホッと息を吐いた。とりあえず生きているようで良かった。

 

『それにしても、先の躊躇の無いトランプ(投擲)に加え、今のアレを諸にくらって吹き飛ばないなんて、このヒソカ(青年)相当だ(強い)ね?』

 

『うむ。間違いなく我を退屈させん程度には良き遊び相手にはなるであろうな。というわけでだ、私が何を望むか分かっておるな、八尋?』

 

『あ……… はい。

 姫さんが言わんとしている事は伝わってきたよ……… でも、あまり無茶苦茶はやらないようにね?』

 

『わかっておる。ほどほどにしておこう。

 だが、カナタは未だあんな調子のまま故、料理は八尋が責任をもって準備せよ。絶対にマチ(あの娘)1人には任せるでないぞ。絶対だぞ?』

 

 姫さん、それフラグ。という言葉を何とか飲み込んで俺は頷いた。そんな俺の裡側での一幕。

 

 それから暫くして、ようやく試験担当官(サトツ)の説明が終わり、サトツに続いて受験生の多くが試験を再開する。にも関わらず、この "詐欺師の塒(ヌメーレ湿原)" と地下道の出入り口のある場所から一歩も動いていなかった影があった。この場に残ったのは、俺ともう一人。

 

「進まないの?」

 

 俺と共に、この場所に残ることを選択していたマチが、そう俺の顔を見上げるように訪ねてきた。うん、相変わらず可愛いというか、綺麗だなと思う。その問いに俺は答えることにした。

 

「少しね、用事があるんだ……」

 

 そういって何処からともなく取り出した一振りの()()()()()()()()。それに目をやりマチが一歩後ずさり、構えを取るのが見えた。

 

「大丈夫だよ、マチ。この()()は、怖くない。だから安心して?」

 

 そう笑顔で答える。それでもマチの緊張が緩む様子は無かったが俺は構わずに続ける。手に持ったカナタに似た何か(ソレ)を宙へ向けて掲げ、己の裡側にいる存在の機嫌を損ねることを承知で俺はチカラの解き放つ解号を口にした。

 

「顕現せよ『朱い月』」

 

 その瞬間、爆ぜるような衝撃に身構えていたままのマチが吹き飛ばされそうになっていたのを目の端で捉え、その細い腰を抱くようにして支える。その触れ合いを通して、動揺、羞恥などの感覚が伝わってきたが、それでもマチが嫌がっている様子がなく、むしろすぐに身を任せるように身体を預けてきたことに驚きつつも安堵に息を漏らすのだった。

 

 

 * * *

 

 

 試験が再開されても八尋が動く様子が無いことにアタシは疑問を覚える。とりあえずヒソカが近くからいなくなったことに安堵の息を漏らしながら未だに動く様子の無い瞳を閉じたままの男に近づき見上げるようにして声を掛けた。

 

 ―――どくん

 

 閉じていた瞳が開かれる。どこまでも深い漆黒を連想させる茶の瞳に引き込まれそうになるのを耐えてアタシは八尋に向けて問いかける。

 

「進まないの?」

 

 それに対して八尋の示した答えは「否」。なんでも、此処でやるべきことがあるらしい。なんだろう? アタシは、アタシたちが八尋と出逢った頃に懐いていた童心にも近い面持ちでいたのだが、直後に背筋を走る悪寒に身を強張らせ後ずさった。此処に居てはいけない、此処に居たら確実に死ぬ、そんな最早「勘」などに頼る必要もない確かな予感。その原因はいつの間にか八尋の手に握られていた一振りのカタナ。

 

 アタシの緊張を見抜いたのだろう、八尋によって優しい声が掛けられる。けれど、それによってアタシの緊張が解けることは無い。八尋は、そんな様子にクツリと笑みを零したままカタナにも似た何かを空へ掲げ、何かの言葉を口にした。

 

■■■■『■■■』(聞き取れない言葉)

 

 直後、辺り一帯の大気が弾けバランスを崩しかけたところで腰に手を回され八尋に抱きかかえられる姿勢になった。

 

 ―――どくん、どくん

 

 やけに心臓が煩い。五月蠅い。うるさい。同時に体温が上昇し顔が熱くなるのが分かった。今のアタシは、きっと耳まで赤いだろう。普段ならば、こんな姿は誰にも見せられないけれど、それでも、これが役得というやつなのか、などと考えてしまった自分に途端に先程の比では無い羞恥心を覚えて俯いてしまう。八尋の顔が見れない。けれど身体の方は自分の心とは裏腹に大分正直だったようで、気づけば抱きかかえてくれている八尋に体重(身体)を預けてしまっていたことに気づいて訳も分からずに泣きそうになった。

 

 吹き荒れていた風が収まり、視界が開けていく。自分でも意識しないまま八尋の衣類に手を伸ばして掴んでいたことに気付くと、先ほど懐いたもの以上の羞恥が襲ってきて死にそうだった。

 

 ―――こんな弱い姿を見せてしまって嫌われはしないだろうか

 

 それが今のアタシの最も恐れることだったけど、どうやら、そんなことも考えている暇も無いらしい。再びアタシを襲ったのは、先ほどの比では無い殺気。呼吸が出来ない。息が苦しい。喘ぐようにして見上げた先には困ったような八尋の顔があった。

 

「ちょっと、やりすぎだよ姫さん。マチが怯えてるじゃないか………」

 

 その言葉に辺りを包んでいた殺気が霧散する。同時に―――

 

「あの名で我を呼ぶなと、つい先ほど会話したばかりだと思っていたが、それは私の気の所為だったか?

 何か、釈明があるなら今の内に済ませておけ。楽に死ねると思うなよ、八尋?」

 

 ―――どこまでも冷たく底冷えする、けれどもとても美しい声が響き渡った。

 

「でも姫さんの場合は、少し機嫌を損ねるくらいの解号(呼びかけ)で出力を抑えておかないと遊ぶのに夢中で我を忘れかねないでしょ?

 今は身体を貸すわけにもいかないんだし。それとも全力解放しておいて姫さんが我を忘れた時に抑止力(アラヤ)抑止力(ガイア)から目を付けられたいの?」

 

「む……… それは、まぁ、確かに面倒くさいが………」

 

 私にとっては意味の解らない会話。呼びかけ? 身体を貸す? アラヤ? ガイア? 何??

 

「マチもごめんね? 怖かったよね?

 でも心配しなくていいよ、こんなものは慣れれば、どうってことないから」

 

 笑顔で何の悪気も無く告げてくる八尋に心中で叫んだ。

 

(慣れるか!!)

 

 そうしなかったのはアタシの「勘」が発する強い警鐘が聴こえたおかげ。寸でのところで言葉を呑みこんだが、おそらく言葉にしてしまっても八尋がいる以上、死にはしないだろう。だけど、それ以上に酷い目に遭いそうな予感だけはヒシヒシとした。

 

「まぁ、良い……… 先の件はトクベツに不問にしておくとしよう………」

 

「ありがとう! さすが姫さん! でも、なしてジャージ姿?」

 

 その八尋の声にハッとなり、アタシは改めて目の前に立つ人間離れした容姿を持つ長い金髪を結った人物の姿に目をやった。姫さんと呼ばれたその人物は八尋の掛けた声に、それこそ値が付けられないと評しても過言ではない笑みを湛えると「どうじゃ、凄いだろう!」と言ってくるりと身を翻していた。

 

 ―――別に今のは褒め言葉では無かったんじゃ?

 

 そう思ったけれど、それも命は惜しいので口を噤むことを選択した。

 

(それにしても背中にデカデカと「お月様」と書かれたゼッケン、前面は観音開きに出来るチャックが付けられ、その裾部分に月と兎のロゴがあしらわれた白と蒼を基調としたデザインのジャージ………

 前は良いけど後ろのデザインは確かに意味不明ね。ジャージそのものはアタシも嫌いじゃないけど。動きやすいし………)

 

 そう内心で考えながら思わずじろじろと見るかたちになってしまったのが良くなかったのか、姫さんと目が合った。合ってしまった。

 

 ―――ぞくり

 

 特に何かされたわけではない。姫さんとやらからアタシを威圧する気配が滲み出たわけでもない。それでも背筋の震えが止められずにはいられなかった。

 

「そこな娘。いつまでも八尋の腕に収まってないで、さっさと離れよ。それと幾ら羨ましそうに見たところで、このジャージはやらんぞ?」

 

 そういうや否や姫さんと呼ばれる何処からともなく現れたヒト?(念獣?)はアタシを半強制的に八尋から引き離し、その代わりに自らが八尋の腕に収まるその姿が何か勝ち誇ったような笑みを浮かべているように見えて何故かアタシは無性にイラッとした。イラッとしたけれども、その様子にアタシは何も言えなかった。言い返えすことができなかった。そんなことを口にする権利が何処にもないと、こんな言い訳の仕様も無いほど両腕を数えきれないほどの血で汚してしまったアタシたちには、あの時のように八尋の庇護を得るなどと甘い幻想を懐いてはいけないのだ。そう考えてしまったから。

 

 ギュッと唇を噛んでアタシは身を翻す。悔しくて、悔しくて、悔しいけど何も言い返せなかった自分が、無力な自分が無性に腹立たしかった。

 

「マチ、待って」

 

 そう呼ばれたことで足が止まる。でも振りかえらない。振りかえれない。

 

「姫さんもマチを苛めないで上げてよ。それよりも()()()()()()()()()()()()()

 

「む。しまった……… そうだな、そこな娘の余りにもいじらしい姿に本来の目的を忘れていた」

 

 そういって、やけにあっさりと八尋から離れたらしい謎だらけの人物はアタシの肩に手をやると「またな」と言い残して湿原の霧の中へ消えた。

 

「ごめんね、マチ。驚かせたよね?」

 

 そういって後ろから抱きすくめられたことに身体が跳ねる。忘れていた鼓動の熱さが戻ってくる。

 

姫さん(あのヒト)のことは許してあげて。

 俺と一緒で単に自分が興味が湧いたことに正直なだけで悪気はこれっぽっちも無いんだ」

 

 そう言って目の前で豆粒を摘まむ様な仕草を取る八尋。アタシは声が出せなかった。

 

「それじゃ2次試験会場に向かおうか、まだ余裕で間に合うはず」

 

「きゃっ」

 

 そういうや否や八尋はアタシを抱きかかえる。所為、お姫様抱っこというヤツだ。恥ずかしくて死にそうになるけど、それを仕出かした八尋(張本人)は、きっと何も考えてないんだろうなと諦観した思いで私は二次試験会場の手前で降ろされるまでされるがままになったのだった。

 

 

 ―――第287期ハンター試験 第一次試験(地獄のフルマラソン)通過者:155名




Q.マチは料理が下手?
A.二次ssでは良くあること。今は大丈夫。たぶん、きっと。

Q.作者は何か喰らったことあるの?
A.少なくともチョコレートとカレーのルー(固形)はあるよね。

Q.姫さんどこいった?
A.そりゃあ興味を引いた相手のところに遊びに行きました。

Q.一次試験の通過者が原作より増えているのは?
A.一応、理由があります。次話で補完する予定。補完できなければ、ご都合主義と思っていただければ。


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