【原作沿い】次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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原作成分が強かったため、表から削除した旧サブタイトル『美食ハンターとの馴初め』を修正して再アップ。
当時、リクエスト頂いた方、ありがとうございました。


007:Glimmerdust Nap

 ぐるるるる……

 

  ガオオオオ……

 

   ガグゲゴゴ……

 

「あの人、来るわよね?」

 

 私は、最早、この騒音と言い表しても過言ではない腹の鳴る音(BGM)を無視して、この第287期 ハンター試験の二次試験官を一緒に務めるブハラへ話しかける。

 

「うーん?

 事前に聞いていたサトツさんの試験を考える限り、あの人が落ちるわけないと思うけどなぁ」

 

「いや、そうじゃなくて、私が確認したいのは『あの人が面倒くさがらずに()()()()()()()()()()()』ということよ」

 

 微妙にニュアンスのズレた回答を寄こしたコンビを組むハンターへ問いの内容を正確に伝え直す。それに気づいたブハラは、あー、と間延びした声をさせながら頬をポリポリと欠いて「あの副会長も裏で動いていたらしいから大丈夫だと思うけど」と漏らした。

 

 その答えに私は溜息とともに「あぁ、アイツね……」と相槌を打つ。正直、普段であれば、絶対に頼りたくない人物であるが、こういう時だけは非常に頼りになる人物でもある。味方として信頼は出来ないが、敵として信用しているというやつだろう。

 

 そう、私が今回の試験で「また逢いたい」と思っている人物の名前は「八尋=黒鵺」と名乗る『料理』以外でも多くの分野で、その名を世界中へ轟かせるアマチュア・ハンター(彼自身は自分の事をハンターと名乗ったことは無いはずだが、世間や同業者たちの認識では、そうなっている)、私が気にしている、そんな彼との出会いは、今から数年前にまで遡る。そして、私は、あの時に味わった美食(感動)について生涯忘れることは無いだろう。それは、まるで()()()()()()()()()()()()ほどに丁寧に調理された料理であり、その日の催しのために用意された食材の残りで拵えた『まかない』と言っても過言ではないものであったにも関わらず、それでも彼の料理を食べたことで私の中のナニカが目覚めたのは確かだったのだ。

 

 

 * * *

 

 

 ――1年前、ヨークシンシティ郊外にある()()()()()()()()()()()と呼ばれる店先にて

 

「今日も休みか………」

 

 千年城と銘打つ割には実に分相応にしか見えないこじんまりとした(むしろ店の見た目だけなら、その辺にある定食屋と何も変わらない)店先に立ち、今日も暖簾が掛かっていないことに確認し溜息を吐く。一体、これで何度目だろうか。考えるのもバカらしくなってしまうくらいに何度も何度も繰り返している。あの日の思い出(感動)が、ふとした拍子に脳裏を過り、その度に多少強引にでも仕事の予定を調整して私は、この店の前を訪れるのだ。

 

 それは、私が美食ハンターとしての功績を認められ一ッ星ハンター(シングル)となった1年前にまで遡る。その日、私は星の授与式を恙なく終え、後にコンビを結成することになる巨漢のハンター(ブハラ)や美食ハンターとしては大大大先輩にあたる重鎮中の重鎮であるリンネ=オードブル氏、齢100を超える高齢ながら未だ現役最強と名高いハンター協会の会長を務めるアイザック=ネテロ氏など、その他、会場に集まった各所の重鎮たちに挨拶して周っていたのだ。

 

 その中で本来であれば祝席の主賓(星を得た者)である私が動くべき予定(イベント)など何も組まれていなかったはずなのだが、折角これまで積み重ねてきた食文化への貢献と一料理人としての腕前が認められての星の獲得(シングル)となったのだから、その腕前を集まった者達の前で披露してみては如何かと会場に居合わせた誰かが実行委員に言い含めたのが事の発端だったことを覚えている。

 

 その話を実際に吟味し、私の都合なども考えずに実行に移してきたのが、他でもないハンター協会の副会長のパリストン=ヒルだ。今思い出しても何なんだと苛立ちを隠せなくもなるが、まぁ、そのお蔭で私は美食ハンターとしても、料理人としても、更にステップアップできる切っ掛けを得ることが出来たのだから結果だけ見れば、そのまま天狗になって周りが観えなくなってしまうよりは遥かに良かったのかもしれない。良かったのかもしれないが、やっぱり、それでも納得できない事というのは誰しもあるのだ。

 

「あーっ 肚たつー!!」

 

 私は、思い出すつもりもなかったあの日の出来事(羞恥)まで鮮明に思い出してしまい、私は周りを気にすることなく思いっきり叫び、近くに転がっていた空缶を思いっきり蹴っ飛ばしてしまった。そう()()()()()()()()()()()しまったのだ。つまり、ご丁寧にも漸くサマになってきた念と呼ばれるオーラ操作術を駆使した「流」、そして「凝」と「周」を用いて()()した空缶を周りも観ずに蹴っ飛ばしたのだ。

 

 その結果――

 

「いっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」

 

 ――周囲に響く()()を聞いて私は目の前が真っ暗になった………

 

 

 * * *

 

 

 あの日の思い出したくもない記憶が蘇る。

 

 嗚呼、止めて……

 

  これは悪夢(ユメ)だ……

 

   視たくない記憶(ユメ)だ……

 

 そうだと判っているのに醒めない悪夢(ユメ)は次第に更なる鮮明さを帯びて再生されていく。その様子を他人行儀に眺め、遂に私は観念して独り観客席に着くように過去の思い出(羞恥)に身を沈めた。

 

「赤コーナーに当たる用意されたキッチンには、この度、めでたく一ッ星を獲得した新進気鋭の美食ハンター、メンチさんに立っていただきましょう!

 それでは、メンチさんどうぞ!!」

 

「ちょっ 私は、まだ何も………

 

「はい!

 どうやらメンチさんもやる気満々の様です。会場にお集まりのお歴々もメンチさんの手料理食べてみたいですよね?

 そうです、そうです。私も、是非、一ッ星を獲得するほどに研ぎ澄まされた料理の腕、この美食ハンターという分野(ジャンル)で積み重ねてきた経験、果たしてきた貢献の一部始終を、この目で、この鼻で、この舌で存分に味わってみたいと、今日以前からも、ずーっと思っておりました!!」

 

 ………くっ」

 

 私の発する抗議の声など何処吹く風と言わんばかりにマイク越しに周囲の観客を煽って、その気にさせていく副会長(パリストン)の姿に舌打ちをし、睨みつける。

 

 が、そんな私の悪態(抗議)を気にもかけずに更に周りを『その気』にさせていく手腕は素直に凄まじいの一言だった。そして近くにいた珍しいスーツ姿に身を包むブハラに「ポンッ」と肩を叩かれ、最期の砦とばかりに会長(ネテロ)を見るが、どうやらそちらも完全に他人事と決め込み、むしろ副会長(パリストン)の煽りを面白がっている空気が見て取れて完全に四面楚歌だということを悟る。

 

 内心で我を忘れんほどに腸が煮えくりそうになりながら、当時の私は覚悟を決めて、外面よく周りにも聞こえるほどの深い深い溜息とともに了承の意示す。

 

 いや、ちょっとマテ……… 今、パリストン(コイツ)は何と言った?

 なんだ、赤コーナーって………

 

 それが周囲の人間を玩具にして弄るのが趣味にしているとしか思えないことで定評があり、何よりも、その性格を十全に活かす天性の才能と念能力を持つと噂される副会長(パリストン)が用意した私宛の即席シナリオの中で最も強烈な悪夢の本当の始まりだった。

 

「それでは、青コーナーにはヨークシンシティの一角に城を構え、年に数回しか開店しない美食名店を営むオーナーシェフ、■■氏にお出に戴きましょう!」

 

 途端に広がる歓声。

 

 なんだ、これ?

 

 なんだか完全に敵地(アウェー)の様相ではないか。本来なら、この場は私が祝される場所の筈なのに……… どうして!?

 

「双方とも準備は良いですか?

 制限時間は会場の都合で30分と()()ですが、さくっと初めて頂きましょう!

 それでは、調理スタートです!」

 

 ちょっと待て、30分だって!?

 料理には幾つかの工程が必要不可欠であるにも関わらず、それを無視するかのような無理難題を平然と振ってきたパリストン(クソ野郎)を一瞥し、私はドレス姿のままキッチンへ上がる。

 

 この衆目の面前ではレンタル品で無かったとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも憚れる。この動きにくい服装、そして限られた時間、何よりも各界の重鎮が集うという重圧。それらが合わさり、改めてそれを認識してしまったことが相乗効果の様に合わさって私の中の混乱に更に拍車を掛けて半ばパニック状態になる。

 

(どうしよう………

 どうすれば………

 どうしたら………)

 

 頭が真っ白になって自分が何をやっているのかも分からなくなる。

 

 包丁は、きちんと握れているか?

 

 食材は、何が用意されていた?

 

 食材の状態は?

 

 鍋は何が用意されていた?

 

 盛り付ける皿は………

 

 一旦陥ったパニック状態が更なるパニックを引き起こし、それが負の連鎖となって私を苛む。しかも、この即席のパフォーマンスに審査として立ち会うことになったは、こんな状態でもハッキリと認識できる重鎮が5人。

 

(な、なんでV5の面々が、こんなところにいるのよ!?)

 

 後に聞いた話では正確には、V5の中でもトップクラスに位置する人物ではなく、あくまでもハンター協会へ仕事を照会する窓口役の元代表たちで、それも少し前に引退して代替わりしているので影響力で見れば現役に比較しても、それほど大したものではない。とはいえ、それでも一ッ星になったばかりに私と比較しても天と地ほども扱える権力(チカラ)を有しているのは間違いないのだが。

 

 そんな強面たちに観られるという状態に私の精神状態はピークに達し、後ろに後ずさりしかけた、その瞬間、声が聞こえたのだ。

 

「落ち着いて・・・ パリストン(あのバカ)の事も、調理に掛ける時間も、審査員の面々についても、今は気にしないで。

 今、メンチ(貴女)が、此処でするべきことは何?」

 

「私が、今、此処で、するべき、こと?」

 

 頭の中にだけ聴こえた優しい声に顔を上げて思わず周りを見渡す。

 先程までの喧騒が嘘の様に会場は静まり返り、誰しも固唾を呑んで、この唐突に設えられたパフォーマンスを見守っていた。

 

 ふと隣の調理台(相手方)を見る。

 

 そこには見慣れない、今まで名前も聞いたことが無かった男性がスーツにエプロンという何とも珍妙な格好をして立っており、2台の調理台を挟むようにして此方を見ていた。

 

 その様子を見て、私の手は、自分がやらなければいけないことを思い出す。

 

 包丁を握る手は、まだ微かに震えている。けれど――

 

【あなた」「には」「できる】

 

 ――脳裏に響いた()

 

 他の誰にも、私の側で、これから私が行う調理アシスタントを務めることになっていた巨漢の男性(ブハラ)にも聞き取れなかった、けれど私だけには確かに聞こえた()で意識が一気にクリアになる。

 

 そうだ、こんな修羅場など、今までにも何度も何度も経験してきたはずだ。なのに今更何を混乱していたのか。私は、それが恥ずかしかった。30分という()()調理時間。否、30分は()()()()

 

 よく見れば、置いてある食材には丁寧な仕込みが施されているのが見て取れた。これなら何も問題は無い。

 

(『わたし』『には』『できる』)

 

 音にすらならなかった音声を真似て頭の中で反復し、私は一気に調理へ取り掛かった。

 

 

 * * *

 

 

 審査の結果だけをみれば、それは残念なものだった。大敗、完膚なきまでに叩きのめされたと言っても過言ではない。けれども、それでも審査を担当してくれた重鎮たちに礼を取り、その重鎮たちが持つ本当の意味での私に対する印象は十分すぎる程良い結果に落ち着き、今度こそ、この祝典は本当に恙なく終了したのだった。

 

 まぁ、私に対する評価が知らないところで大きく上がっていたことを認識したのは、この時の超突発的な企画を無事にやり遂げられたこともあるが、あのパリストン(クソッタレ)のマイク・パフォーマンスが会場に足を運んでいたをV5の面々意外にも多くいた重鎮たちの気分を大いに盛り上げたことにもよるのだとか。なにか釈然としない気持ちに苛まれながらも、それでも私自身のことは勿論、ハンター協会としてもV5に対する印象にプラスを齎すことが出来たというのは大きいのだと、後日、ハンター協会の会長(アイザック=ネテロ)から労いの言葉を貰ったことでハッキリした。本当に、あの時の様々な感情が渦巻いて思わず会長室でへたり込んでしまったこと恥ずかしい記憶も覚えている。

 

 そして、あの時に会場で食べた相手の男性が作ったデザートの味が今でも忘れられない最高の一品だったことも。

 

 ただ、全てが終わった後に何食わぬ顔で「さすがですね! メンチさん!!」と声を掛けてきたパリストン(クソッタレ)に思いっきり殴りかかった私は絶対に悪くない。なんで止めるのよブハラ!!

 

 うん、改めて思い返してみても、この怒涛の出来事があったから今の私が居るということを考えれば、まぁ、悪いことばかりではないのかな……………………… という気もするが、それでもパリストン=ヒル、アンタのことは絶対に、絶対に、何があっても、ぜーったいに許さん。

 

 そう誓いを新たにしたときに唐突に意識が浮上していくのを感じ、私は目を閉じた。

 

 

 * * *

 

 

「うっ………」

 

「ん? おい、あの不埒ものが目を覚ましたようだぞ」

 

 私の呻きに反応して耳に届く言葉。その棘のある内容にムッとするも、次第に、直前に自分が仕出かしたことが鮮明に蘇ってきたことで血の気が引いていくのが分かる。そう、私は人を、通りがかりの一般人を殺傷したのだ。『念』を知らないものが、『周』を掛けられた空缶を叩きつけられて無事なわけがない。

 

 だが――

 

「本当? いきなり気絶するから吃驚したけど、それは良かった。

 でも、姫さん、不埒者は少し言い過ぎじゃないかな?」

 

「なら不心得者か?」

 

 ――妙なやり取りをする声が聞こえて何故か安堵する。

 

 その最中にもトントントンという何か刻む小気味よい音に惹かれるようにして、私は意識をしっかりと戻し、寝かされていた客間の障子を横へ静かに、少しだけスライドさせる。

 

 視線の先には長い黒髪を見事に纏め上げて結った後姿の男性が台所にたって何かを作っているところだった。

 

「わ、わわわ………」

 

「煩いぞ、女。少し黙れ」

 

 次いで声のした方向へ視線を向ければ、そこにいるのは後姿を見ただけで分かる。否、判らされてしまう程、()()()()()()()()()()と言っても過言ではない美しいヒトの姿。それを見た私が刹那の内に心の奥で『Orz』となったが、それは今は置いておこう。改めて見てみると、この店内(千年城?)にいる客はカウンター席のこじんまりとした椅子に腰かける、たった1人のみの様だった。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「分かれば良い」

 

 こちらを振り向きもせず、そう答える。

 その声に合わせるように店主である男性の声が聞こえた。

 

「もう、姫さんってば、怖すぎ」

 

「な、何を言うか。これでも我慢しておる方ではないか」

 

「うんうん。そうだね、そうだね。でも、それなら、もう少し言い方があるんじゃないかな?」

 

「何を!?

 先に仕掛けてきたのは、そこで寝ていた女だったであろう。むしろ、ここは良く我慢したと私を褒めるべきところではないのか?」

 

「あー、はいはい。そうだねー。たしかにねー。

 ま、それはそれとして本日のデザートは "黄金桃" から作ったプリン、天音葱(あなねぎ)の刻み添えだよ」

 

「むぅ………。どうも釈然とせんが……… まぁ、よいか。まずは、この一品を楽しむとしよう。イタダキマス」

 

「はい。どうぞ、召し上がれ」

 

 そんな和気藹々とした男女の会話が聞こえてきたのと同時に漂ってきた芳醇な甘い香りに釣られて、そういえば朝から何も食べてなかったことを思い出し、お腹が鳴った………

 

「はい、そちらのお嬢さんも……… って、よく見たら、あの時にパリスの起こしたお遊び(ドタバタ)に巻き込まれた一ッ星ハンターの娘じゃないか」

 

「え!?」

 

 そう言って私が寝ていた奥の客間との間にあった仕切りを開ききってこちらに視線を落としてきた男性の姿に目を剥いて声を上げてしまう。

 私が逢って一度正面からお礼と、そして叶うなら、もう一度、しっかりと仕込みの段階から腕を競い合いあってみたいと願ってやまなかったヒトが其処に居た。

 

「えーっと、そうだな。まずは自己紹介から、か?」

 

 少し考え込むような仕草をしたオトナの色香を纏いつつも、浮かべる表情や1つ1つの仕草が何処か子供っぽい男性が口を開く。

 

「初めまして、()の名前は八尋。八尋=黒鵺だ。

 ようこそ、我が居城(店舗)、千年城へ。歓迎するよ、期待の美食ハンターさん?」

 

「は、はい。わ、私の名前はメンチ、です。

 こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします!」

 

 らしくもなく噛みまくりの挨拶を経て、その後に用意してもらった、あの時に食べたモノとは更に一線を画す本当の意味で()()()()食材(モノ)とは思えない素材から成された『究極の一』とも言える逸品に舌鼓を打つのだった。

 

 

 * * *

 

 

 ゆさゆさとコンビの巨漢に肩を擦られ、ハッと目を開ける。どうやら転寝していたらしい、時刻は11時58分、外には多くの気配があり、その中に忘れられないものが混じっていることを受けて安堵の息を漏らす。

 

「もう。転寝は構わないけど、そろそろ試験が始まるよ。準備はどう?」

 

「悪かったわね、おかげで気合十分よ。あの人も無事に試験に参加している様だし、これは()()()()()()試験を実施するに申し分ないわね!」

 

 私の意気揚々とした声にブハラは「えっ!?」と何かに驚くような声を漏らし、それを睨むと「何でもないよ」と頬を掻く。なによ、失礼なやつね。そう考えた私は絶対に悪くないはずだ。さぁ、どれくらいの志望者が生き残るかしらね?

 

 私は笑い、12時を報せる時報を以て扉を開けた。

 

「ハンター試験、二次試験の課題は料理よ!」

 

「まず、俺の()()()()()()を作ってもらい」

 

ブハラ(この男)の出した課題をパスした受験者だけが、アタシの課題に挑戦できる二段階方式の審査になるってわけ」

 

 その説明に絶句する受験者。なるほど悪い笑みというのはこういう時に出るのかと自覚しながら、二次試験の第一審査を務めるブハラが自ら指定する料理を受験者へ伝えようとしたとき、それは凛と鈴の鳴るような声で遮られた。

 

「待ってください!

 もしかして、此処の居る『料理』なんかやったこともなさそうな連中に作らせるのですか!?」

 

 その声がする先に目を向ければ、どこか見覚えのある、けれど今まで一度もあったことがないであろう薄い紫色の絹で設えた衣をまとう少女がいた。そして、その言葉を脳裏で反芻し、改めて集まった受験生を見回す。

 

 …………………拙いかしらね?

 

 そう思ったが、ふと目に留まった44番の番号札を持つ受験生、今期の試験で最も警戒しなければならないヒソカ=モロウ(要注意人物)からネットリとした殺気に中てられて沸騰しそうになった脳裏は数瞬前に懐いた感想を無視して私に告げさせた。

 

「あったりまえよ。料理を舐めるな!」

 

 冷静な時であれば、私は自分自身が言い切った言葉に「料理を舐めているのはどっちだ」とツッコミを入れそうなものだが、そんなものに気を割けないくらい、この時の私はピリピリしていた。

 

 あー、もう冷静じゃないって本当に損よね。あんな安いミエミエの挑発に乗って我を失った私のバカバカ!

 それを実感し、この時の判断を猛烈に後悔することになるのは、まだ少し先の話。





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