捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
花丸らしからぬ勢いによろめきそうになりながらも、何とか受け止めた。
春の風の匂いと混じる甘い香りが鼻腔をくすぐり、それに誘われるように彼女を抱きしめると、ふわふわした感触に疲れが吹き飛んでいくのを感じた。
自分から行くと言っといてあれだが、こんな不意打ちを喰らうとは思っていなかったので、まず何を言おうとしていたかを忘れてしまった。
「⋯⋯どした?」
「⋯⋯何だかほっとしたずら」
「そっか⋯⋯じゃあよかった」
そっと髪を撫でてやると、さらに力強くしがみつかれる。
「まあ、色々と大変だったな」
「八幡さん、マルはもっと頑張るずら」
「⋯⋯今も充分頑張ってるだろ」
「それでも、もっと頑張るずら」
「じゃあ、応援してる」
花丸は既に前を向いていた。
俺が何か言葉をかける必要もなかった。
ただ、会えて良かった。
月明かりに優しく照らされた彼女の瞳を見つめて、心からそう思った。
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翌朝、俺はスーパーの袋を片手に海岸沿いの道路を歩いていた。潮の香りと春の陽気が心地よく、そろそろここを離れて生活しなければならないことが少し寂しく感じてしまうくらいには、この町にもしっかり愛着が湧いてきたようだ。
Aqoursは現在練習場所がないため、近所の砂浜で練習をしているらしい。
そこに俺は近くのスーパーで買ったスポーツドリンクを差し入れすべく、とはいえ急ぎではないのでのんびりと向かっていた。
「あら、あなたは」
「?」
唐突に声をかけられ、その方向に目をやると、なんと北海道で出会った鹿角姉妹⋯⋯つまりSaint Snowの二人がそこにいた。
一瞬幻でも見てるのかと思い、三回まばたきしてみたら、どうやら本物のようである。ちなみに鹿角妹はさっと姉の背後に隠れて、こちらに警戒するような視線を向けた。何でだよ。
「⋯⋯おう」
とはいえ、こちらも顔見知り程度の仲なので、何を言うでもなく会釈すると、ふとある事に思い至る。
「もしかして、Aqoursに会いに来たとか」
「鋭いですね。実は千歌さんに頼まれまして、旅行の途中ですが立ち寄らせていただきました」
「⋯⋯すげえな」
「あなたはもしかしてAqoursに差し入れですか?」
「ああ、鋭いな。あと余ってるからいる?」
「いいんですか?」
「ほら」
「ありがとうございます」
「⋯⋯ありがとう」
「いや、このまま持って帰らなくてすんで助かった」
まあ、どんな用事かはタイミング的に想像つく。おそらくAqoursの現在のパフォーマンスに対する評価だろう。この二人なら経験者だし変な遠慮もしないだろう。
俺と鹿角姉妹、主に姉はぽつぽつと会話しながら砂浜へと向かった。