捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
大学に入学してから約一ヶ月後のゴールデンウィーク。快晴の空の下を俺はゆっくりと歩いている。
キャリーケースには着替えやお土産以外に大した荷物は入っておらず、からからと軽めの音をたてている。
彼女の家へ続く道を足元に確かめていると、やがて彼女の家が見えてきた。
⋯⋯柄にもなくサプライズをしようと連絡もなしに来たから、はたしているだろうか?
すると、運よく彼女の姿が見えた。浦の星女学院のジャージ姿で門の前の掃き掃除をしている。
するとこちらに気づき、箒が手から離れた。かたんと乾いた音をたてた事にも気づかず、放心したようにこちらを見つめている。
「⋯⋯おう、おはよう」
「は、八幡さん、ずらか?」
「ああ、ゴールデンウィークだから帰ってきた」
「うぅぅ⋯⋯会いたかったずらぁぁぁぁぁあああああ!!!」
「お、おお、つーかまだ実質一ヶ月も経ってないんだが⋯⋯」
「八幡さんは寂しくなかったずらか?」
「いや、めちゃくちゃ会いたかったんだが」
「じゃあマルとお揃いずら♪」
思いきり抱きついてくる花丸から甘い香りが弾け、鼻腔をくすぐってくる。ふわふわした温もりをお返しとばかりに抱きしめると、向こうはさらに力を込めてきた。
「でも、八幡さんが帰ってくるって知ってたらもっと可愛い格好してたずら」
「いや、大丈夫だ⋯⋯その⋯⋯今も可愛いから」
「っ〜〜〜〜〜〜!⋯⋯八幡さん、照れるずらぁ」
花丸はふにゃあっとした笑みで見上げてくる。
ちょっと前まで毎日会ってたのに、少し間が空いたからか、何というかこう⋯⋯愛情表現が糖分過多になっている気がする。やばい、何がやばいってお寺の前だということを忘れてしまいそうになる。
俺は周囲を確認し、誰もいないのを確認してから、花丸の唇に自分の唇を重ねた。
一ヶ月も経ってないというのに、すごく待ちわびた感触に、胸が高鳴り、好きという気持ちが胸の奥を飛び出してきそうになる。
「⋯⋯⋯⋯」
「ん⋯⋯⋯⋯」
ほんの三秒くらいだろうか。
名残惜しさと共に唇を離すと、彼女は頬を赤く染めていた。
「おかえりなさい、ずら」
「ただいま」
まるで一年以上離ればなれになっていたかのような大袈裟なやりとりに、二人して吹き出してしまう。
すると、強い風が海の方から吹きつけてきた。
それに目を細め、風の吹いた方向を見ると、沼津の海がいつもより輝いて見える。
一年で見慣れたはずなのに、どこか新しく見える。
そのたゆたう青を彼女とずっと見守り、見守られていくのだろう。これからもずっと。