捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
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それでは今回もよろしくお願いします。
「比企谷せんぱ~い!」
今日も校門を過ぎ、少し歩いたところで、国木田がトコトコと駆け寄ってきた。栗色の柔らかそうな髪が春風にさらさら揺れ、近くに来ただけで控え目な甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「はあ……はあ……」
「おう……てか前から思ってたんだが、お前体力が……」
「ずらっ!」
国木田はしぃ~っと言いたそうに、人差し指を唇に当てた。
「わかった。悪かったな……」
謝ると、国木田は笑顔に戻り、鞄を漁りだした。
「あ、あのあの、先輩……今日は面白い本を持ってきたんだけど……」
「それより国木田、ちょっといいか?」
「はい?」
俺は国木田を海沿いの道のベンチに誘った。
比較的人通りが少なく、近くに自動販売機もあるので、話し合いにもってこいの場所だ。
すぐそこに見える海は今日も穏やかに揺れ、視界の端を船が進み、やがて米粒くらいの小ささになった。
「あの、先輩……話って何ずら?」
「あー、あれだ……その……」
俺は昨日考えた言葉を頭の奥から引き出す。
「……無理してここには来なくていい」
「え?」
国木田は一瞬、何を言われたのかわからないような表情をしていたが、すぐにはっとして、俯きがちに口を開いた。
「オ、オラは、無理してなんか……」
予想していた言葉が返ってきた。
ここからは、以前と同じ過ちを犯さないように、しっかりと言葉を選んだ言葉を、それでいて噓偽りのない本音を告げる。
「俺は別に一人でいる事を嫌だなんて思っていない。むしろ気が楽なくらいだ。だから、無理に自分の時間を使ってまで来る必要はない」
「…………」
「多分……バスの中での小町との会話を聞いたんだろ?」
「オラ……」
「それと……ありがとな」
「え?」
「まあ、その……俺達は前に言ったようにこの町は初めてで知り合いもいなかったからな。俺は一人は慣れてるが、やっぱり兄としては小町の事が心配だったんだ。だから、小町と仲良くしてくれる奴がいるのは嬉しい。だから……ありがとう」
「そんな……お礼なんて……」
「それと……俺みたいな奴に気を遣ってくれるのも、やっぱり、嬉しい……だから、ありがとう」
「せ、先輩……」
「だからこそ……無理には来なくていい。お前が来たい時だけでいい。そんでたまに……」
俺は国木田が膝に置いた本を手に取る。
「……本、貸してくれると助かる」
「…………はい!」
一気に喋ったせいか、急に気恥ずかしくなった。
「……なんか飲むか?」
「あ、じゃあお汁粉飲みたいずら!」
結局、二人して本の話をしている内に、帰りは今までで一番遅くなった。
翌日。
「せんぱ~い!これ読むずら!」
「……そんなに?」
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