捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
何でユーフォニアムの三年生トリオはあんなに可愛いのでしょうか!
それでは今回もよろしくお願いします。
「え、いや、その…………」
上手い言い訳を考えながら振り向くと、思わず息を飲んだ。
まず印象的だったのは、その長い黒髪。腰まで届く長さのそれは、純和風の淑やかな色気があり、ある人物を連想させる。次に目に入った真っ白な肌は、季節はずれの雪のように儚げな美しさを放ち、俺を睨みつける勝ち気な瞳は、揺らぐ事なく俺を捉えていた。
「もう一度聞きますわよ、そこの貴方。私の妹に何をしているのかしら?」
「…………」
こちらに距離を詰めてくるその凛とした姿に、危うく目を奪われかけるが、我に返り反論する。
「いや、何もしてないじょ…………」
こんな時に噛むんじゃねえよ、俺。
案の定、顔を顰められる。
「やっぱり怪しいわね」
黒髪の美人は俺のパーソナルスペースに入るか入らないかの距離まで接近していた。妹と同系統ながらも、少し甘さ控え目な香りが漂ってくる。ピンチなはずなのにいらん思考が脳内を飛び交っていた。
「その腐った目…………どう考えても怪しいですわ!」
こちらが対応できていないせいか、少しずつ黒髪がヒートアップしてきている。
しかし、初対面の人間に腐った目と言われる筋合いはない。そういう人間に対して言う事は決まっている。
「…………この清楚系ビッチめ」
「なっ…………!」
俺の言葉に反応して、黒髪は顔を真っ赤にした。
「だ、だ、誰がビッチですってーーーー!!!」
ビッチという言葉が辺りにこだまする。しかし黒髪はそんな事はお構いなしで俺に詰め寄ってきた。
「その腐りきった目には、わたくしがちゃんと見えていないようですわね!」
「初対面の相手の目を腐ってるなんて言う奴にはビッチで十分だろ」
「何ですって~~~!」
お互いにまた言い合おうとすると、二つの小さな影が乱入した。
「お、お姉ちゃん、違うの!この人は」
「お兄ちゃん、何やってんの?」
「…………」
「…………」
そう。二人の妹が間に入る事で、その場は収まった。
何の気なしに空を見上げると、この馬鹿騒ぎを眺めるように鳥が旋回しながら青空を漂っていた。
「「ごめんなさい…………」」
とりあえず入った喫茶店にて、二人して頭をテーブルに付きそうなくらい下げる。店内にかかっているジャズがやけに物哀しく聞こえてくる。
裁判長である小町に、ひとまずYOU達両方謝っちゃいなよ!との判決が下された。
「お兄ちゃん。女の子にビッチなんて言っちゃダメじゃん。しかもこんな綺麗な人に…………」
「いえ、そんな、わたくしなど…………」
小町の言葉に黒髪は頬を染めながら俯く。
…………しかし、どこかあざとい。一瞬ニヤッとしましたよね?
「あの…………」
「ん?」
「ぴぎぃっ!」
声のした方を振り向くと、さっきまでいたはずのツインテールがいない。
「こらルビィ。そんなところに隠れてないで、あなたも謝りなさい」
「うぅ…………」
ひょっこりとテーブルの下からツインテールが顔を出し、こちらを潤んだ目で窺ってくる。な、何だ…………この可愛い生き物は…………。
しかし警戒されているのか、目を合わせようともしない。
「ごめんなさい。この子ったら、お父様以外の殿方と話した事がないもので…………」
「ああ、なるほどね…………」
話した事がない理由などはともかく、男に慣れていない状態で、目つきの悪い男に話しかけられたら、そりゃあ怖がるだろう。俺も苦手なタイプの人間ならいる。リア充とかリア充とかリア充とか。
「まあ、その、やっぱり俺も悪かった…………」
「何がですの?」
黒髪はキョトンとした顔になる。
「さっきの…………」
「ああ、もう気にしてませんわ。そもそも私が言いがかりをつけたのですし。それに、さっきお互いに謝ったじゃありませんか」
口元に優雅な微笑みを浮かべる。感情的になりやすいかもしれないが、決して引きずるタイプではないらしい。
「そういえばさっきルビィって言ってましたけど、名前なんですか?」
小町が興味津々な様子で黒髪に聞く。
「あ、自己紹介がまだでしたわね。私は黒澤ダイヤ。こちらが妹のルビィですわ」
「ル、ルビィです…………」
「私は比企谷小町です!これが兄の…………」
「比企谷八幡だ」
「小町さんと八幡さんね」
自然な流れでファーストネームを呼ばれた事に動揺しかけるが、何とか持ちこたえる。戸塚戸塚戸塚戸塚戸塚…………。
「小町さんが浦の星に入学、ということはルビィと同じクラスですわね」
「え!?クラスまでわかるんですか?」
驚いた小町に、黒澤姉は少し物憂げに目を伏せながら言った。
「浦の星は年々入学者が減って、今年の1年生はクラスが一つしかありません」
読んでくれた方々、ありがとうございます!