捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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  何でユーフォニアムの三年生トリオはあんなに可愛いのでしょうか!

  それでは今回もよろしくお願いします。


プロローグ4

「え、いや、その…………」

 上手い言い訳を考えながら振り向くと、思わず息を飲んだ。

 まず印象的だったのは、その長い黒髪。腰まで届く長さのそれは、純和風の淑やかな色気があり、ある人物を連想させる。次に目に入った真っ白な肌は、季節はずれの雪のように儚げな美しさを放ち、俺を睨みつける勝ち気な瞳は、揺らぐ事なく俺を捉えていた。

「もう一度聞きますわよ、そこの貴方。私の妹に何をしているのかしら?」

「…………」

 こちらに距離を詰めてくるその凛とした姿に、危うく目を奪われかけるが、我に返り反論する。

「いや、何もしてないじょ…………」

 こんな時に噛むんじゃねえよ、俺。

 案の定、顔を顰められる。

「やっぱり怪しいわね」

 黒髪の美人は俺のパーソナルスペースに入るか入らないかの距離まで接近していた。妹と同系統ながらも、少し甘さ控え目な香りが漂ってくる。ピンチなはずなのにいらん思考が脳内を飛び交っていた。

「その腐った目…………どう考えても怪しいですわ!」

 こちらが対応できていないせいか、少しずつ黒髪がヒートアップしてきている。

 しかし、初対面の人間に腐った目と言われる筋合いはない。そういう人間に対して言う事は決まっている。

「…………この清楚系ビッチめ」

「なっ…………!」

 俺の言葉に反応して、黒髪は顔を真っ赤にした。

「だ、だ、誰がビッチですってーーーー!!!」

 ビッチという言葉が辺りにこだまする。しかし黒髪はそんな事はお構いなしで俺に詰め寄ってきた。

「その腐りきった目には、わたくしがちゃんと見えていないようですわね!」

「初対面の相手の目を腐ってるなんて言う奴にはビッチで十分だろ」

「何ですって~~~!」

 お互いにまた言い合おうとすると、二つの小さな影が乱入した。

「お、お姉ちゃん、違うの!この人は」

「お兄ちゃん、何やってんの?」

「…………」

「…………」

 そう。二人の妹が間に入る事で、その場は収まった。

 何の気なしに空を見上げると、この馬鹿騒ぎを眺めるように鳥が旋回しながら青空を漂っていた。

 

「「ごめんなさい…………」」

 とりあえず入った喫茶店にて、二人して頭をテーブルに付きそうなくらい下げる。店内にかかっているジャズがやけに物哀しく聞こえてくる。

 裁判長である小町に、ひとまずYOU達両方謝っちゃいなよ!との判決が下された。

「お兄ちゃん。女の子にビッチなんて言っちゃダメじゃん。しかもこんな綺麗な人に…………」

「いえ、そんな、わたくしなど…………」

 小町の言葉に黒髪は頬を染めながら俯く。

 …………しかし、どこかあざとい。一瞬ニヤッとしましたよね?

「あの…………」

「ん?」

「ぴぎぃっ!」

 声のした方を振り向くと、さっきまでいたはずのツインテールがいない。

「こらルビィ。そんなところに隠れてないで、あなたも謝りなさい」

「うぅ…………」

 ひょっこりとテーブルの下からツインテールが顔を出し、こちらを潤んだ目で窺ってくる。な、何だ…………この可愛い生き物は…………。

 しかし警戒されているのか、目を合わせようともしない。

「ごめんなさい。この子ったら、お父様以外の殿方と話した事がないもので…………」

「ああ、なるほどね…………」

 話した事がない理由などはともかく、男に慣れていない状態で、目つきの悪い男に話しかけられたら、そりゃあ怖がるだろう。俺も苦手なタイプの人間ならいる。リア充とかリア充とかリア充とか。

「まあ、その、やっぱり俺も悪かった…………」

「何がですの?」

 黒髪はキョトンとした顔になる。

「さっきの…………」

「ああ、もう気にしてませんわ。そもそも私が言いがかりをつけたのですし。それに、さっきお互いに謝ったじゃありませんか」

 口元に優雅な微笑みを浮かべる。感情的になりやすいかもしれないが、決して引きずるタイプではないらしい。

「そういえばさっきルビィって言ってましたけど、名前なんですか?」

 小町が興味津々な様子で黒髪に聞く。

「あ、自己紹介がまだでしたわね。私は黒澤ダイヤ。こちらが妹のルビィですわ」

「ル、ルビィです…………」

「私は比企谷小町です!これが兄の…………」

「比企谷八幡だ」

「小町さんと八幡さんね」

 自然な流れでファーストネームを呼ばれた事に動揺しかけるが、何とか持ちこたえる。戸塚戸塚戸塚戸塚戸塚…………。

「小町さんが浦の星に入学、ということはルビィと同じクラスですわね」

「え!?クラスまでわかるんですか?」

 驚いた小町に、黒澤姉は少し物憂げに目を伏せながら言った。

「浦の星は年々入学者が減って、今年の1年生はクラスが一つしかありません」






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