捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
それでは今回もよろしくお願いします。
「そっかぁ~。入学者そんなに少ないんだ~」
黒澤姉妹と別れた帰り道、隣りをとぼとぼ歩く小町がぼそっと呟く。
「俺なら喜んでるな」
「はいはい。ゴミぃちゃんゴミぃちゃん」
人が少ない方が、その分トラブルも少ないと思うの。To LOVEるは一男子としては大歓迎だが。
「まあ、東京の学校でも廃校になる事があるんだ。人の少ない地域ならなおさらだろ」
「そりゃそうなんだけど、やっぱり寂しいよね」
「そういうもんか」
「そういうもんなの!さ、商店街でお買い物して帰ろっか」
学生は春休みだが世間は平日。そんなわけで商店街の人通りは寂しいものがある。そう思いながらも決して嫌いではないのだが。人ごみ嫌いだし。
そして、こんな場所に来ると何となく本屋を探してしまう自分がいる。お、さっそく発見。
「お兄ちゃん、スーパーはあっちだよ」
「ああ、少しだけ」
「もう、しょうがないなぁ。十分だけだかんね!」
「へいへい」
小町のお許しをいただき、本屋の前まで行くと、俺に反応するより先に開いた自動ドアから、何かがそこそこの勢いで飛び出してきた。
「うおっ!」
その小さな何かは、どすっと腹の辺りに突っ込んでくる。
「きゃっ!」
突然の衝撃に耐えられず、背中から転んでしまう。咄嗟にその何かを庇うような形になった。
「つつ…………」
「うぅ…………」
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
小町が駆け寄ってくる。
「ああ、何とか」
頭は打っていないようだ。むしろ腹の方が痛い。
「ご、ごめんなさい」
謝る声が聞こえてくる。
その声でようやく、ぶつかってきたのが女だと理解した。そして、その響きは幼い。
上半身だけよろよろと起こし、確認しようと顔を声の方へ向けると、驚きで変な声が出そうになった。
「…………」
その少女(?)はマスクとサングラスで顔を完全武装していた。はっきり言って間近で見ると怖い…………。
とりあえず人目気になるので、そろそろどいていただきたいところだ。
「あの…………」
「…………」
声をかけても少女の方はピクリともせず、そのままの姿勢を保っている。サングラスの下の目がこちらに向けられているように思えるのは、気のせいではないだろう。
「……………………い」
「?」
何か言ったようだが、マスクに閉じこめられた声はこちらまで届かない。
ひとまず様子を窺っていると、サングラスがストンとずれて、ぱっちりとしたきれいな眼が露わになる。サングラスとマスクに気を取られ、気づかずにいたのだが、長い黒髪も先程の黒澤姉に引けをとらないくらい綺麗だし、お団子の部分もなんか懐かしい。お団子で由比ヶ浜を思い出してしまうからか。まだ引っ越して間もないけど。
その二つの瞳は俺と目を合わせたまま固まっている。
やがて俺の方が堪えきれずに目を逸らすと、少女が持っていたらしい紙袋から、ハードカバーの本が飛び出している。
「…………黒魔術?」
「え?あっ!」
俺の上からどいた少女は慌てて本を拾い上げ、その場から逃げるように走り去っていった。
「「…………」」
俺と小町はその背中を唖然として見送る事しかできなかった。
「ハァ……ハァ……」
あの眼…………。
「ハァ……ハァ……」
…………滅茶苦茶カッコイイ!!
「我が主…………いえ、あの人どこの学校なのかしら?」
いや、それよりも先に自分の堕天使を捨てるのが先だ。こんな自分では絶対に引かれてしまう。一刻も早く変わらねば…………そして…………
「リア充に…………私はなる!」
そう。浦の星女学院で私は生まれ変わる!
「…………この本、どうしよう」
ま、まあ、持っててもいいわよね!
読んでくれた方々、ありがとうございます!