捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
翌日の朝……。
「き、昨日はいきなりごめんなさい、ずら……」
「あ、ああ……」
顔を真っ赤にして謝る花丸に、こちらもただ苦笑で返していた。そりゃあ、いきなりあんな事を言われたら、誰だって驚くだろう。こちとらしばらく胸が高鳴り続け、変な個性が発現したと思ったくらいだ。
「善子ちゃんから、早く既成事実を作るように言われて……」
「…………」
アイツは何を言ってんだ……いや、まあいいんだけどさ……。
「まあ、その……焦るのはよくないずらね。まだオラ達、碌にデートもしてないですし……」
「……ああ。それに、お互いやることあるしな」
「あはは……あっ」
突然、花丸が何かに反応する。
彼女の視線を追うと、ボールがコロコロとこちらに転がって来ていた。
「ごめんなさーい!」
そして、背の高い水着姿の少女がこちらに駆け寄ってくる。いかん。花丸ばかり見て、周りに人がいることに気づかなかったとは、注意せねば。
俺はボールを拾い、彼女にパスした。
「ありがとうございます!」
ハキハキした爽やかな声で礼を言われ、反射的に会釈してしまう。少し離れた場所で、小麦色の小柄な女子が、ペコリとこちらに頭を下げていたので、そちらにも会釈を返す。ちなみにこちらも水着姿だ。
「よしっ!この調子で行くよ、鬼コーチ!」
「鬼コーチは止めてよぉ……」
二人のやりとりに、微笑ましい気分になりながら、再び花丸の隣に腰を下ろすと、いきなり彼女が立ち上がった。
「八幡さん、ちょっと場所を変えるずら」
「どした?」
「変えるずら」
「お、おう……」
有無を言わさぬその態度に、俺は頷くことしかできなかった。
…………ぶっちゃけ、割と怖い。
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あわわ……オラは何をやってるずら!?
あのぐらいで、し、嫉妬したりして……!
いや、でも……八幡さんも思春期特有のいやらしい視線を向けてたかもしれないし……いや、そういうのは全てマルに向けて欲しいずら。いや、まだマルは高校生なのに、何をはしたないことを……。
「うぅ……」
「どした?大丈夫か?」
「気にしないで欲しいずら。マルはちょっとアイデンティティ崩壊してるずら」
「……こ、小町に聞いたのか?そうなのか?」
「何の話ずら?」
「いや、何でもない……」
八幡さんも戸惑っているずらね。このままではいけない気がします……。
マルは一度深呼吸をして、八幡さんに向き直った。
「は、八幡さん、今から……その、お時間ありますか?」
「ああ、あるけど……」
「じゃ、じゃあ、マルとデートしましょう……ずら」
「……わかった」
いつも通りのぶっきらぼうな声。それでも、その頬にほんのりと赤色が差し込むのを見ると、マルの口元は自然と緩んでしまいました。