捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
夏休みも終盤に差し掛かり、早朝や夕暮れにふと涼しさを感じるようになり、過ごしやすい秋が待ち遠しくなる頃。
そんな夏の終わりのある一日に、俺は小町セレクトの服を着て、沼津駅の前に佇んでいた。
時刻は十一時。さすがに沼津となると、人通りを多く、普段の俺なら上昇する気温と人の多さで心が折れ、帰宅しているところだ。
しかし、今日は……
「は、八幡さん!」
やわらかな声が真っ直ぐにこちらに飛んでくる。
心なしか、その声はいつもより弾んで聞こえた。
目を向けると、花丸がこちらへとたったか駆け寄ってくるのが見えた。
息と声以外に体の一部分が弾んでるのは気のせいじゃないよね!
花丸はピンクのリボンを揺らしながら俺の前でピタリと立ち止まり、汗で額に貼りついた前髪を気にしながら、控え目な笑顔を向けてくる。
「お、お待たせしました……ずら」
「……あ、ああ。いや、今来たところだから」
つい定番の台詞を口にしながら、視線を彼女の瞳に合わせる。緊張しているだけだ。決して胸を見ていたわけじゃない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「えっと……きょ、今日はよろしくお願いします、ずら」
「……こっちこそ。まあ、あれだ……お互いあまり気張らないほうが良くないか?」
「あはは……そ、それもそうずらね」
「…………」
「…………」
周りの音がやけに強調されるような沈黙が訪れる。いかん。自分で思ったよりもずっと緊張している。多分、彼女もそんな感じなんだと、不思議な確信があった。
とはいえ、このまま日に焼かれていても仕方ないので、俺は覚悟を決める。
「……行こう」
そっと手を差し出す。
すると花丸は目をぱちくりさせ、不思議そうにその手を見つめる。あれ、意味わかってない?
一瞬焦ったが、その心配は杞憂だったようで、彼女は優しく俺の手を握ってきた。
「ずらっ♪じゃ、じゃあ、今日はよろしくお願いするずらっ」
「……こちらこそ」
*******
ぎこちなく手を繋いだまま、のんびりと沼津の商店街を歩く。
普段よりもさらに言葉は少なめだが、いざこうしてみると、何だか居心地がいい。
「は、八幡さん」
「……どした?」
「マ、マル達……周りから見て……恋人同士に見えるずらか?」
「あー、どうだろうな……まぁ、その……………………か」
「え?き、聞こえなかったずらよ」
「……じゃあ、飯でも食いに行くか」
「むぅ、誤魔化したずら……」
照れくさい話題を華麗に躱し、もうお昼時ということもあり、どこかで飯を食おうという話になったのだが……
「そちらのカップルさん!よろしければどうぞ~!」
「「……ん?」」
いきなりの呼びかけに、ついつい二人して疑問符を浮かべてしまった。
目を向けると、西欧風のオシャレな外観のカフェがあり、その入り口の前にいる店員さんは、明らかにこちらを見ている。しかし、どちらもカップルと言われることに慣れてなさすぎて、どう反応すればいいか迷ってしまった。
そんな俺達の様子などお構いなしに、店員さんはぐいぐい接近してくる。
「今、カップル限定のキャンペーンをやってるので、お時間あるならぜひ!」
「カ、カップル……」
「限定、ずらか?」
「はい!くじ引きで選んだゲームに挑戦していただき、それをクリアすれば、お食事代が半分になります!」
「……あー、俺らそういうのは「やってみたいずら!」……お、おう」
花丸は、子供のような笑みを浮かべ、店員さんが差し出した箱の中に手を突っ込む。多分、くじ引きがしたかっただけじゃないのか……いや、いいんだけどさ……。
花丸は手探りで箱の中身を吟味してから、ゆっくりと一枚の折れ曲がった紙切れを取り出す。
そして、店員さんがそれを受け取り、中を確認すると、何故かやたら笑顔になった。
「お~!これは……確実にクリアできるやつですね!」
えっ、本当に?
店員さんの言葉に、花丸は得意げな笑みを向けてくる。うん、よくやった。
「それでは、お二人に挑戦していただくのはポッキーゲームで~す!」
店員さんがにぱっと爽やかな笑顔を向けてきた。
あー、何だ。確かに勝ち負けとかじゃねえな。ポッキーゲームって……ん?ポッキーゲーム?
「「……え?」」