捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 #60

「それで……俺達に今からデートをしろと?」

「そうですわ!やはり近くで恋人同士が愛し合うところを見ることにより、インスピレーションを得られるはずですわ!」

「やっぱりアイドルといえばラブソングですから」

「はあ……」

 

 俺は現在、黒澤姉の部屋で花丸と並べて座らされている。

 そして、その正面にはAqoursの三年と一年が正座している。女子比率高すぎて、はっきり言って居心地悪い。

 自分に視線が集中しているのが落ち着かないのか、花丸は隣でもじもじしながら俯いている。

 誰かに見られながらのデート……さて、どうしたものか。

 こちらが逡巡していると、花丸はばっと顔を上げ、はっきり告げた。

 

「オ、オラ、やります!やりたいずら!」

「花丸ちゃん……」

「八幡さん、大丈夫ずらか?」

「……まあ、お前がいいなら別に構わん」

 

 実際のところ、俺達はただデートすればいいだけみたいだし、それでAqoursの、 花丸の役に立つのなら俺としても嬉しくはある。ただ……

 

「どこに行けばいいんだ?」

「…………」

 

 皆の視線がこちらに集まる。え、何?何なの?

 

「八幡さん……いつも、あなた達二人が行くところでいいですわ」

「……いつも、ねぇ」

「ずら……」

 

 *******

 

「「…………」」

 

 正直困った展開になった。

 俺も花丸も、はっきり言ってインドア派だ。それに、こんな平日の放課後からのデートだと行ける場所も限られてくる。

 というわけで、ひとまず俺と花丸は手を繋ぎ、ただただのんびり歩いていた。

 

「……これでいいんでしょうか?」

「さすがにあれだから、今から甘いもんでも食いに行くか」

「ずらっ、本当ですか!?」

 

 花丸がやたら目をキラキラさせ、顔を寄せてくる。あっ、これもう本来の目的忘れちゃってますね、間違いない。

 

「……ど、どうせ俺も甘いもん食って、受験勉強に集中したかったからな」

 

 恋人同士とはいえ、清く正しい男女交際を心がけている俺としては、この顔の近さはかなり緊張する。何ならさっきからずっと緊張気味だった。

 

 *******

 

「まだどちらも照れが残ってますわね」

「う~ん、これって……ときめくものなのかなぁ?」

「果南はこういうの疎いから。どちらもシャイなのよ」

「ぐぬぬ……や、やっぱりまだ複雑な気分だわ……!」

「よ、善子ちゃん……」

 

 *******

 

 背後からすごく視線を感じる。こう、何かを期待されているような……。

 しかし、期待を裏切るどころか、期待されないことに定評のある俺としては、その視線は重たく感じるんですが。

 

「オラは宇治金時が食べたいずら♪」

「…………」

 

 ……こっちはこっちで緊張感なさすぎな件。

 

 *******

 

 とりあえずAqoursのメンバーもよく立ち寄る喫茶店に入り、甘い物を頼む。

 落ち着いたところで、店の奥から小さな犬が、たったかと駆け寄ってくる。

 愛くるしい瞳がこちらを見上げてきて、つい頬が緩む。

 

「マル、好きずらよ」

「ん?お前も犬、好きなのか?」

「違うずら。犬も好きですけど、八幡さんのさっきの表情ずらよ。こう……ぶっきらぼうだけど優しくて……でも、そこが……あうぅ……」

 

 花丸は湯気が出そうなくらい顔を赤くしている。それに応じるように、こちらの頬も火照っていた。

 それを誤魔化すように水を口に含むと、見計らったかのようなタイミングでケーキとどら焼きが運ばれてきた。

 

「お待たせしました~。ふふっ、ごゆっくり♪」

 

 店員さんは、意味ありげな笑みを俺達に向け、奥へと戻っていく。

 多分、その視線は誤解とかではないのだろうが、色々気恥ずかしい。

 しかし、目の前にいる彼女は、既にそれどころではないようだ。

 

「わぁ♪いただきま~す」

「お、おう……」

 

 花丸は幸せそうにどら焼きにぱくつき始める。何だかこう、小動物感満載で可愛い。まあ、いつもの事なんだが……。

 

「は、八幡さん……そんなに見られたら恥ずかしいずら」

「わ、悪い……なんか、あれだ……ケーキ少し食うか?」

「えっ?いいんですか!?えっと……じゃあ……」

 

 花丸は小さな口を可愛らしく開ける。

 ……別にカービィみたいに吸い込もうとしているわけじゃないようだ。いや、わかってるんだけどね?

 

「…………」

 

 俺はフォークでイチゴを刺し、生クリームをたっぷりつけ、彼女の口の中に押し込んだ。

 まさかイチゴを貰えるとは思ったのか、花丸は驚きながら、口をもごもご動かす。

 

「ふぉいふぃぃふあ~」

「おーい、食ってから喋ろうな」

 

 彼女はんぐっと飲み込んでから、ほわぁっと幸せそうな笑顔を浮かべた。

 

「おいしいずら~」

「……ならよかった」

「じゃ、じゃあ、オラからも……」

 

 花丸は、どら焼きを大きめに千切り、こちらに身を乗り出してきた。

 

「は、はい、あ~ん……」

「……花丸さん?お行儀が悪いですよ?」

「うぅ……恥ずかしいから早く食べるずら~!」

「…………」

 

 そう言われては仕方ないので、どら焼きを口に含む。

 微かに彼女のひんやりした細い指先が唇に触れ、どきりと胸が高鳴った。

 そして、同じタイミングで控えめな甘さが口の中に広がっていく。

 花丸は人差し指を胸の辺りで包み込み、こちらをじっと見ている。

 

「……どうですか?」

「……美味い」

「よかったずらぁ♪」

 

 ……まあ、あれだ。

 たまにはこういうのも……悪くない。

 

「よ、善子ちゃん!ダメだよ、邪魔しちゃ!」

「離して!や、やっぱり私も!」

「あ~ん、て食べさせるだなんて……ハ、ハレンチですわ……」

「ちょっ、ダイヤ!?しっかり!」

 

 まあ、できれば二人きりだけの時がいいが……思いきり声聞こえてるんだけど……。

 

 *******

 

「まだまだシャイニーしきってないデスネェ。となると、これはマリーが一肌脱ぐしかアリマセンネ!フフッ♪」

 

 


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