捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「それで……俺達に今からデートをしろと?」
「そうですわ!やはり近くで恋人同士が愛し合うところを見ることにより、インスピレーションを得られるはずですわ!」
「やっぱりアイドルといえばラブソングですから」
「はあ……」
俺は現在、黒澤姉の部屋で花丸と並べて座らされている。
そして、その正面にはAqoursの三年と一年が正座している。女子比率高すぎて、はっきり言って居心地悪い。
自分に視線が集中しているのが落ち着かないのか、花丸は隣でもじもじしながら俯いている。
誰かに見られながらのデート……さて、どうしたものか。
こちらが逡巡していると、花丸はばっと顔を上げ、はっきり告げた。
「オ、オラ、やります!やりたいずら!」
「花丸ちゃん……」
「八幡さん、大丈夫ずらか?」
「……まあ、お前がいいなら別に構わん」
実際のところ、俺達はただデートすればいいだけみたいだし、それでAqoursの、 花丸の役に立つのなら俺としても嬉しくはある。ただ……
「どこに行けばいいんだ?」
「…………」
皆の視線がこちらに集まる。え、何?何なの?
「八幡さん……いつも、あなた達二人が行くところでいいですわ」
「……いつも、ねぇ」
「ずら……」
*******
「「…………」」
正直困った展開になった。
俺も花丸も、はっきり言ってインドア派だ。それに、こんな平日の放課後からのデートだと行ける場所も限られてくる。
というわけで、ひとまず俺と花丸は手を繋ぎ、ただただのんびり歩いていた。
「……これでいいんでしょうか?」
「さすがにあれだから、今から甘いもんでも食いに行くか」
「ずらっ、本当ですか!?」
花丸がやたら目をキラキラさせ、顔を寄せてくる。あっ、これもう本来の目的忘れちゃってますね、間違いない。
「……ど、どうせ俺も甘いもん食って、受験勉強に集中したかったからな」
恋人同士とはいえ、清く正しい男女交際を心がけている俺としては、この顔の近さはかなり緊張する。何ならさっきからずっと緊張気味だった。
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「まだどちらも照れが残ってますわね」
「う~ん、これって……ときめくものなのかなぁ?」
「果南はこういうの疎いから。どちらもシャイなのよ」
「ぐぬぬ……や、やっぱりまだ複雑な気分だわ……!」
「よ、善子ちゃん……」
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背後からすごく視線を感じる。こう、何かを期待されているような……。
しかし、期待を裏切るどころか、期待されないことに定評のある俺としては、その視線は重たく感じるんですが。
「オラは宇治金時が食べたいずら♪」
「…………」
……こっちはこっちで緊張感なさすぎな件。
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とりあえずAqoursのメンバーもよく立ち寄る喫茶店に入り、甘い物を頼む。
落ち着いたところで、店の奥から小さな犬が、たったかと駆け寄ってくる。
愛くるしい瞳がこちらを見上げてきて、つい頬が緩む。
「マル、好きずらよ」
「ん?お前も犬、好きなのか?」
「違うずら。犬も好きですけど、八幡さんのさっきの表情ずらよ。こう……ぶっきらぼうだけど優しくて……でも、そこが……あうぅ……」
花丸は湯気が出そうなくらい顔を赤くしている。それに応じるように、こちらの頬も火照っていた。
それを誤魔化すように水を口に含むと、見計らったかのようなタイミングでケーキとどら焼きが運ばれてきた。
「お待たせしました~。ふふっ、ごゆっくり♪」
店員さんは、意味ありげな笑みを俺達に向け、奥へと戻っていく。
多分、その視線は誤解とかではないのだろうが、色々気恥ずかしい。
しかし、目の前にいる彼女は、既にそれどころではないようだ。
「わぁ♪いただきま~す」
「お、おう……」
花丸は幸せそうにどら焼きにぱくつき始める。何だかこう、小動物感満載で可愛い。まあ、いつもの事なんだが……。
「は、八幡さん……そんなに見られたら恥ずかしいずら」
「わ、悪い……なんか、あれだ……ケーキ少し食うか?」
「えっ?いいんですか!?えっと……じゃあ……」
花丸は小さな口を可愛らしく開ける。
……別にカービィみたいに吸い込もうとしているわけじゃないようだ。いや、わかってるんだけどね?
「…………」
俺はフォークでイチゴを刺し、生クリームをたっぷりつけ、彼女の口の中に押し込んだ。
まさかイチゴを貰えるとは思ったのか、花丸は驚きながら、口をもごもご動かす。
「ふぉいふぃぃふあ~」
「おーい、食ってから喋ろうな」
彼女はんぐっと飲み込んでから、ほわぁっと幸せそうな笑顔を浮かべた。
「おいしいずら~」
「……ならよかった」
「じゃ、じゃあ、オラからも……」
花丸は、どら焼きを大きめに千切り、こちらに身を乗り出してきた。
「は、はい、あ~ん……」
「……花丸さん?お行儀が悪いですよ?」
「うぅ……恥ずかしいから早く食べるずら~!」
「…………」
そう言われては仕方ないので、どら焼きを口に含む。
微かに彼女のひんやりした細い指先が唇に触れ、どきりと胸が高鳴った。
そして、同じタイミングで控えめな甘さが口の中に広がっていく。
花丸は人差し指を胸の辺りで包み込み、こちらをじっと見ている。
「……どうですか?」
「……美味い」
「よかったずらぁ♪」
……まあ、あれだ。
たまにはこういうのも……悪くない。
「よ、善子ちゃん!ダメだよ、邪魔しちゃ!」
「離して!や、やっぱり私も!」
「あ~ん、て食べさせるだなんて……ハ、ハレンチですわ……」
「ちょっ、ダイヤ!?しっかり!」
まあ、できれば二人きりだけの時がいいが……思いきり声聞こえてるんだけど……。
*******
「まだまだシャイニーしきってないデスネェ。となると、これはマリーが一肌脱ぐしかアリマセンネ!フフッ♪」