捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
ライブ当日の朝、電話で何か励ましの言葉をと思ったのだが、花丸達は準備の為、かなり早い時間に集合らしいのでメールを送っておいた。
『応援してる。』
……我ながら気の利かない文章に呆れてしまう。おい、総武高校学年三位の文系脳はどうした?故障中か?
まあ、その、あれだ。ただの知り合いとかなら、それらしい定型文を脳内から引っ張ってくるのだが、彼女に対してはそんな事ができない。
それで、あれこれ考えてたら、何を書けばいいのかわからなくなり、こんなあっさりしすぎな文章になってしまった。
頭を抱え、もし小町が読んだらポイント全部引かれるだろうなとか考えていると、すぐに彼女から返信がきた。
『ありがとうございます。ライブ会場で待ってます。きっと観に来てくださいね』
……危うくひだまり荘に向かうとこだったじゃねえか。
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会場内は開演前から既に熱気に満ちていた。おそらくライブが始まったら、さらにすごい事になるのだろう。
すると、小町が肩をとんとん叩いてきた。
「ねえ、お兄ちゃん!今のうちに思いきり叫ばなくていいの?」
「何をだよ」
「愛をだよ!」
うわぁ……ウチの妹が、なんかアホな事言ってる。
「叫ばねえよ。ここ千葉じゃないし」
「千葉だったら叫ぶの?」
「叫ばんな。きっと」
いくら世界の中心・千葉にいたとしても、人前で愛を叫んだりしない。その辺の大和撫子より慎ましい俺がそんな事をするはずがない。
「大体今叫んだら、本番始まった時に本気で盛り上がれないだろうが」
「お、お兄ちゃんが本気で盛り上がるってプリキュア以外で初めて見るかも……」
小町の発言に否定できずに苦笑していると、まだ空いていた隣の席に誰かが座った。
「あら、偶然ね」
「……どうも」
金髪のポニーテールが特徴的なその女性は、この前道を尋ねてきた人だった。まさか、スクールアイドルのライブ会場で会うとは……身内でも出場しているのだろうか?
「…………」
「…………」
……何かめっちゃ見られてるんですけど!確かに会場内は女子の割合が高いが、そんなに浮いているだろうか。
すると、金髪美人は首をぶんぶん振って、気合いを入れるように両頬を叩いた。えっ、何?怖いんだけど……。
「いけないわ、絵里。あなたは今回はモブなのよ。自重しなさい。しばらくしたらアフターストーリーが更新されるから」
「…………」
何を言っているのだろう……俺にはさっぱりわからないが、あまり気にしないほうがいいと直感が告げている。
「ほら、お兄ちゃん。そろそろ始まるよ」
「あ、ああ……」
小町がそう言うと同時に会場内が暗転し、スポットライトに照らされながら、司会者がステージに登場した。
俺は自分の事のように緊張しながら、少しだけ背筋を伸ばした。
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ライブが始まろうとしています。
マル達の出番は先だけど、それでも緊張せずにはいれません。
でも大丈夫。皆が見守ってくれているから。
八幡さんが見てくれてるから。
マルは目を瞑り、皆で育てた大事な曲を、絶対に届けると誓いました。