捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編   作:ローリング・ビートル

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青春の影 国木田花丸編
青春の影


「…………比企谷八幡です。よろしくお願いします」

 新天地での初日は、予想していたより何もなかった。別に女子に囲まれ、質問攻めにされるのを想像していた訳ではない。ただ、教室の前に立った時に『この時期に転校生?』みたいな事を言っているのが聞こえたから、うわ~、面倒くさい事聞かれちゃったらどうしよう♪なんて思っていたくらいだ。しかしありがたい事にこちらに興味を示す者は全くいない。…………まあ、そりゃそうか。転校のドタバタですっかり忘れていたが、今年は長く苦しい受験勉強の年だった。転校生の一人や二人、別にどうでもいいか。

「受験……か……」

 時期的に、あまり先延ばしにはできない問題ではある。が、しかしまだ何も考えたくはない。

 小町は…………おそらく大丈夫だろう。黒澤姉妹と知り合いになっていたし、対人スキルは俺より遙かに高い。

 …………違う事を考えても、結局は同じ場所に戻ってきそうだ。

 自然と足が、時間を潰せそうな場所へと向かう。

 

「ぴぎゃっ…………」

「?」

 何やら小動物の鳴き声のようなものが聞こえてきたので、音のする方へ目を向けた。

「ぴぎっ」

「…………」

 黒澤妹があらわれた!

 仲間になりたくなさそうな目でこちらを見ている。

 …………一応自己紹介はしたし、顔見知りくらいにはなっているのだが、人通りの多い場所でハットリシンゾウ君ばりに泣き叫ばれては、入学早々大ダメージを受けてしまう。社会的に。

 ここは軽く挨拶してさっさとどっか行こう。

「…………うす」

「ルビィちゃん!どうかしたの?」

 会釈しながら立ち去ろうとすると、もう一人小動物チックな女子があらわれた!

「知り合い?…………あ」

 その女子はこちらを見て、口をもごもごさせ、何か言おうとしている。…………誰だったっけ?申し訳ないが、黒レースのパンツを見せるくらいのインパクトがないとね!

 ひとまず、気持ち悪いと言われるのを承知で、その女子の顔をしっかりと見てみる。顔は…………間違いなく美少女に分類されるだろう。だがクラスのトップカーストといった派手なタイプではなく、陰でこっそりと『あの子可愛い』と妄想に耽るタイプの可愛さだ。くりくりした目も、形が非常に良く整った鼻も、ぷるんとした唇も、バランスのいい美しさを保っていた。

 春風にそよぐ柔らかそうな栗色の髪は、優しく甘い香りを静かにまき散らしている。…………さすがに観察しすぎだろう。

「あ、あの……」

 案の定、引かれてしまった。君の瞳に困憊!である。

「二人共~!どしたの?あ、お兄ちゃん!」

 さらにもう一人、小動物チックな天使があらわれた!…………と思ったら小町だった。

「お兄ちゃん、学校どうだった?」

「まあ、いつも通りだよ」

「うわ、転校早々ぼっちなの?さすがに引いちゃうんだけど…………」

「ほっとけ」

「小町ちゃんのお兄さんですか?」

「ああ」

「あれ?二人はもう知り合いなの?」

「いや、今会ったばかりだが…………」

「あはは……や、やっぱり覚えてないずらね」

「?」

「花丸ちゃん?」

「…………むむむ!」

 小町は俺とクラスメイトらしき女子を見比べ、ピコーン!と何か閃いたような顔をする。

「どした?」

「お兄ちゃん!紹介するね。この子は国木田花丸ちゃん!ルビィちゃんとは中学時代からの友達だよ!」

 突然の紹介に面食らう。ていうか小町ちゃん。お友達もキョトンとしてますよ?

「く、国木田花丸です…………よろしくお願いします」

「あ、ああ…………」

 小町はお前も自己紹介しろ!とばかりに俺を睨みつけて、顎をしゃくって促してくる。

「こ、小町の兄の、比企谷八幡だ」

 何故かさっきの自己紹介よりどもってしまう。

「よろしくずら……お願いします」

 国木田が小さい体をさらに縮こまらせて、頭を下げてくる。

 この気まずい空気の出会いが俺の人生において、家族と同じくらい大事な出会いになるとは思いもしなかった。

 多分、そんな未来の事なんて神さましか知らない。

 




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