捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
日曜日、いつものように店に行くと、その日は珍しく開店前から客が待っていた。
そして、それは見覚えのある人物だった。
彼女は親しげな笑みをこちらに向けた。
「あっ、この前の……」
「……おう」
少し茶色がかった髪を揺らしながら……確か高海だったか……彼女もこちらの名前を思い出したようで、「あっ」と声を漏らした。
「えっと……ヒキタニさん、ですよねっ!」
「…………」
あれー?おかしいなー?名前の漢字は知らないはずなのに、ヒキタニ君とか呼んでるよー?もしかしてこの子、戸部ってんのかなー?テンション高めだし……。
とはいえ面倒なので、そのままにそのままにしておこうかと考えていると、建物の陰から、もう一人の女子が姿を現した。
「えっと、ヒキタニさんじゃなくて、たしかヒキガヤさんだよ、千歌ちゃん」
「あっ、すいません!ヒキガヤさん!」
「……まあ、気にすんな」
この暗めの茶髪の女子も以前見たはずだ。名前は……渡辺だったか。訂正ご苦労。あとで八万ポイント進呈しよう。
なんて考えていると、その背後から、さらにもう一人顔を出した。
「あの、二人の……知り合い?」
「うん。この前ここで初めて会ったんだぁ。あっ、そういえば比企谷さんも最近千葉から引っ越してきたんだよ!」
「へえ、そうなんですか。あっ、初めまして。私、桜内梨子っていいます。この前、東京から引っ越してきました」
「……あ、ああ、どうも」
腰くらいまでの長い髪を、朝の爽やかな風に揺らしながら、桜内はぺこりとお辞儀した。その立ち振舞いからは、どことなく気品が感じられ、彼女の育ちの良さが窺えた。
……ていうさ、朝から美少女3人とか、割と心臓に悪いんだが……よし、さっさと仕事するか。
しかし、そうはさせないと言わんばかりに……思ってもないだろうが……高海は話を続けた。
「比企谷さんもダイビングしに来たんですか?」
「……いや、ここの仕事を手伝いにきただけだ」
「手伝い、ですか?」
高海が俺の言葉に首をかしげたところで、松浦が店内からひょっこり顔を出した。
「おはよう~。あれ?千歌達も来てたんだ」
「うんっ、それよりびっくりだよ~。まさか比企谷さんがここで働いてるなんて」
「うん、私もびっくりだよ。まさか手伝ってくれるなんて思わなかったもん」
いかん、俺の話題になりそうだ。さっきから、渡辺もこっち見てるし……。
とりあえずこの場から離脱しよう。
「……じゃあ、俺はその辺片付けてくるわ」
「あ、うんっ。今日もよろしくね。」
俺は女子4人に背を向け、事務室へと向かった。
*******
やる事を終え、外に出ると、女子4人はいつの間にかウェットスーツに着替えていた。ラッキースケベを期待していた読者の皆さん、すまんな。
……だが、これはこれでいいものだ。
そんな思春期なら当たり前の感情を押し殺し、俺は至って冷静に、松浦に声をかけた。
「……片付け終わったぞ」
「あ、うん。ありがと。私、今から千歌達についてあげるから」
「そっか。まあ、雨は降らないらしいけど、曇ってるから、一応……気をつけてな」
「…………」
「……何だよ」
本当になんだよ。ツチノコでも発見したかのような驚き顔見せやがって。
すると、彼女はクスリと笑みを雫した。
「ふふっ、何でもない。じゃ、行ってくるね」
「……おう」
何だったんだ、一体……。
*******
しばらくしてから、彼女達は戻ってきた。そして、その間は予定調和のように誰も来なかった。おかげで受験勉強がはかどったぜ……。
ボートからぞろぞろと降りてくる彼女達を出迎えると、その表情は満ち足りて見えた。
「ただいま~」
「……おかえり」
「あははっ、何だか新婚さんみたいだね」
「はっ?」
「……千歌、いきなり何言ってんの?」
「か、果南ちゃん?」
こちらからはよく見えないが、松浦の顔を見た高海がビクッと肩を跳ねさせた。えっ、そんなに嫌だった?
「それにしても、途中から晴れてきてよかったね」
「うんっ、きっと普段の行いがいいからだよ!」
「高海さんが?いい行い?」
「え~っ、どういう意味~!?」
「ふぅ……まったく千歌は」
ブツブツ呟きながら、松浦がウェットスーツをはだけさせ、水着だけを着用した上半身を露にする。
程よく鍛えられながらも、柔らかな曲線を残したそのスタイルは、思わず目を吸い寄せられてしまう。ていうかこいつ意外と……
「はぁ~楽しかった」
「できれば毎日来たいよね!」
「ふふっ、今日はありがとう。二人のおかげで、しっかり海の音が聴けたよ」
松浦に倣い、他の3人も同じように上半身を露にする。
……あの、男子がここにいる事を忘れないでね。
俺は建前のように、心の中で呟いた。
ちなみに順番は……松浦、渡辺、高海、桜内といったところだろうか。何がとは言わないけど。
*******
「…………」
……比企谷君、いやらしい目をしてる。
これだから男子は……まあ、仕方ないかもしれないけど、なんかこう……うん。
私は立ち上がり、比企谷君の手首を掴んだ。
「さ、そろそろ仕事に戻ろっか」
「おう……てか、その、手……」
「いいの。さ、仕事仕事」
ふと視線を感じ、振り向くと、千歌達がポカンとこっちを見ていた。