捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
賽銭箱の前に行き着く頃には寒さすら体に馴染んできた気がしてくる。花丸も寒いと口にする事はなくなった。
事前に準備しておいたお賽銭を賽銭箱に入れて、手を合わせると、自然と願いたいことは頭の中に浮かび上がってきた。
全て唱えてから目を開け、隣を見ると、偶然にも同じタイミングで花丸がこっちを向いた。
その事がおかしくて、つい二人して口元が緩んでしまう。
「じゃあ、行くか」
「ずら」
他のAqoursのメンバーに目を向けると、いつの間にかいなくなっていた。まあ、さすがに二度目の尾行はないだろう。
「八幡さん」
花丸が手を差し出してくる。
俺はその手を握りしめ、互いの手袋越しにその温もりを確かめ合った。
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冬休みが終わり、大学入学共通テスト前日になると、特に意識しなくても、家の中には緊張感が立ち込める。なんかこう⋯⋯気遣いの言葉ををかけようかとか、静かにしておいた方がいいのか、とか。まったくそんな気を遣う必要はないのだが⋯⋯ありがたいのはありがたいが。
すると、そんな重たい空気に穴を開けるようにチャイムの音が鳴る。
母ちゃんが玄関に向かうとすぐに声が聞こえてきた。
「八幡!花丸ちゃんが来てるわよー!!」
「⋯⋯は?」
「は?じゃないよ。お兄ちゃん、はやく行かなきゃ」
「お、おう⋯⋯」
見送りに来るとは言っていたし、今日は練習があるから、家に来るなんて考えてもみなかった。
早足で玄関に行くと、花丸がもじもじしながら立っていた。
「あ、八幡さん!突然お邪魔してごめんなさいずら!」
「おう、お疲れ⋯⋯どした?」
「はい、今日はその⋯⋯渡したいものがあったから来たずら」
花丸はいそいそと鞄の中をまさぐると、小さな白い封筒のようなものを取り出した。
「あの⋯⋯これ、お守りずら」
「⋯⋯⋯⋯」
「は、八幡さん?な、な、何で泣いてるずらか!?どこか具合悪いずらか!?」
「え?あ、あれ⋯⋯?」
花丸に指摘されて気づいた。
頬を温かいものが伝っている。
わざわざお守りを買ってきてくれたことに感極まったのは事実だが、まさか涙まで流すとは思わなかった。
そこでお礼を言い忘れていたことに気づいた
「⋯⋯あ、ありがとな。まあ、その⋯⋯最善は尽くす」
「その言い方、八幡さんらしいずらね。あ、涙ふいてあげるからかがんで欲しいずら」
「ああ、悪い⋯⋯っ!?」
突然唇が塞がれ、体が跳ねそうになる。
花丸からキスされているのだと気づいた頃に唇は離れていった。
「もう、泣き止んだずらか?」
「あ、ああ、ていうか、その言い方やめてくんない?すごい恥ずかしいんだけど⋯⋯」
「ふふっ、たまにはこういうのもいいずら。じゃあ八幡さん、また明日」
「いや、待て。送る」
俺は慌てて靴を履き、花丸と玄関を出た。
外の風は当たり前に冷たいが、あまり気にならなかった。