捻くれた少年と海色に輝く少女達 AZALEA 編 作:ローリング・ビートル
「松浦」
「はー……」
「……松浦」
「えっ!?あ、なんだ、比企谷君かぁ」
「これ、どこに仕舞えばいい?」
「あ、ああ、それね。たしか……きゃっ!」
松浦が足元にあった荷物に躓いた。
だが、倒れた先は偶然にも俺の胸元だった。
ポニーテールが跳ねるのに合わせたように、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。
普段のエネルギッシュな姿からは想像もつかない華奢さに、何故か胸が高鳴るが、何とかそれを悟られぬように、目を窓の外に向けながら、小さく声をかけた。
「……何かあったのか?」
「え?」
驚いた顔を見せた松浦を見て「しまった」と思った。
本来なら「大丈夫か?」と聞く予定だったのだが、彼女の沈んだ顔を見たからか、つい踏み込んでしまった。
もう一度目を向けると、松浦は顔をぱたぱたと手であおぎながら、俺から少し離れ、一息ついてから口を開いた。
「ちょっとね……色々思い出しちゃって」
「……そっか」
松浦の目線はこちらに向いているが、その目に映っているのは俺ではない気がした。
大した返しもできずに、そのまま突っ立っていると、松浦が「そうだ!」と手を叩いた。
「ねえ、比企谷君。今日空いてる?」
「……は?あ、ああ、まあ、別に空いてるけど」
いきなりな質問に、少々たじろぎながら答えると、松浦はやたらとにっこり笑った。
「じゃ、決まりね。じゃあこの後12時にバス停に来て」
「いや、今から行くんじゃないのかよ」
「用意があるの。もう、デリカシーないなー」
「わ、悪い。じゃあ……また後で」
トントン拍子に話が進み、ようやく実感がわいた。
……マジか。今日一緒に出かけるのか。ゆっくり読書でもしようかと思ったんだが。
こうして、午後からの予定が決まってしまった。
*******
待ち合わせ時間の15分前に到着し、ぼんやりと松浦を待っていると、改めてこの町の穏やかさに気づく。
もうこのまま一人で日向ぼっこするだけでもいいんじゃなかろうか。いや、誰かから日向ボッチと言われるだけか。
そんなくだらないことを考えていると、前の方から白いワンピースを着た髪の長い女性がこちらに歩いてくるのが見えた。
その女性はまるで俺に用があるかのように目の前で立ち止まり、笑みを見せる。
「あ、いたいた。ごめんね、待った?」
「……え?あ、いや、人違いじゃないれすか?」
いきなり美人に声をかけられ、ついつい噛んでしまう。うわ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!
すると、目の前の美女は呆れたような笑みを見せた。
「ちょっと~、髪型変えただけで忘れるなんてひどいんじゃない?」
「は?…………ああ、なんだ松浦か」
「なんだとは何よ。ていうか、そんなに違うかなぁ?髪下ろしただけなんだけど」
「…………」
よく見ると、顔は当たり前に松浦なんだが、やはり雰囲気がだいぶ違う。女子ってこわい!
目を慣れさせるために何度か瞬きしていると、松浦はクスッと笑みを見せた。
「ふふっ、じゃあ行こっか。今日は色々と付き合ってもらうからね」
「……おう」
今日はもうなんだか、ひたすら慌ただしくなりそうな気がしていた。