武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

1 / 109
01 虎煌拳

俺の名は坂崎良。

覇王翔吼拳を使うことが夢で、極限流空手を極めたかった男だ。

 

残念ながらこの世に極限流などなかったし、気を練るのも難しい。

いわんや、気弾を発射するなど夢のまた夢だった。

 

そもそも極限流空手とは何か。

それは、「龍虎の拳」という往年の名作、格闘ゲームに出てくる架空の格闘術のことだ。

 

「龍虎の拳」シリーズの主役はリョウ。

無敵の龍と称されるリョウ・サカザキである。

 

漢字で書くと坂崎亮となるらしい。

本名としては坂崎リョウが正解らしいが、それはともかく。

 

俺の名前と一字違い。

もちろん、ただの偶然なのだが。

しかし、何とも言い難い親近感を覚えてならない。

 

当然ゲームはやり込んだ。

彼が出てる作品は基本、どんなものでもやったものだ。

 

そして俺は、夢を拗らせリアル空手家となった。

各地に武者修行の旅に出かけたし、とある秘境にて奥義とも言える技を会得したりもした。

 

だが、それでも極限流空手を再現することは出来なかった。

 

まあ当たり前だよな。

リアルとゲームは違う。

分り切ったことだ。

 

それでも諦めず夢を追い続け、俺は今ここに居る。

 

──見渡す限りの大平原。

 

いや、ふと気付いたらそこにいたんだ。

確か昨夜は、山籠もりの修行中にふと眩暈を覚えて岩陰に身を伏せたハズ。

周囲を見回しても記憶に近い景色は存在しない。

 

記憶の混濁か、何か良く判らない事態に陥っているのか……。

 

ところで話は変わるが、夢追い人と言うのはある種のオタクだと思うのだ。

 

夢は所詮夢だと、どこかで分っていながら諦めきれず、ひたすら求め続ける。

見る人により、情熱的だとか哀れだとか感想は別れるだろう。

 

そして夢を追い続けていた俺だが、空手道にただ只管一途であったわけじゃない。

発端がゲームであるせいか、色んなジャンルのゲームや小説と言ったサブカルチャーが大好きだった。

近頃はポータブル機器も発達し、いつでもどこでも出来るせいもある。

 

元々「龍虎の拳」と言うゲームに魅せられたところから始まった訳だし。

夢を追い続けてきた俺は、常に夢見るバカでもあるのだ。

 

そんな感じなので、一般常識的に考えて理解出来ない場面に出くわしたとき、俺の思考は馬鹿げた方向へ向かう。

 

つまり、俺は異世界転移してしまったんだよ!

な、なんだってー!?(一人芝居)

 

現実逃避とも楽観的とも言えるが、なに然したる問題じゃない。

現に今、自分が見て感じていることだけが真実だ。

 

そんな中で問題なのは、ここがどういった世界であるかだ。

 

一言で異世界と言っても様々だ。

単純に空間転移しただけで、現代の別の場所かも知れない。

過去の時代かも知れないし、地球外のどこかかも知れない。

国、地域、その他諸々。

 

まあ今のところ見渡す限りただの平原だし、考えても仕方ないな。

それよりも、異世界に来たとすると、何か自分の中でも変わっているかも知れない。

 

具体的に言うと、極限流空手が使えるかも知れない。

気弾がうてるかもしれない!

 

よし、早速だが気を練ろう。

ぬぅぅーーー……っ

 

右腕を引いて握り込んだ手の中に気を集中させる。

そして思い切り突き出しながら解放。

 

「虎煌拳!」

 

ズバァッン!

 

意識したのはスタンダードな一撃。

何度やっても成功したことがない、リョウの基本的な気弾発射である。

 

それが今、確かに出た。

すぐに消失したが、オレンジ色っぽい気弾が、確かに俺の右手から発射されたのだ!

 

思わず呆然としてしまったが、自前の感触は忘れようもない。

 

間違いない。

遂に出来たのだ。

 

俺は俯き、心の裡より湧いて出る何かを溜めに溜めて遂に爆発させる。

 

「ぅぅぅ、ぃよっしゃぁぁぁーーーっっ!!」

 

俺の叫びが大平原にこだました。

 

 

 

さて、虎煌拳が成功したとなれば次は何を試す?

もち、覇王翔吼拳だ!

 

と、言いたいところだが。

焦ってはならない。

 

覇王翔吼拳は超必殺技。

極限流の技を、全て試してからでも遅くはないだろう。

気力を充実させると、技の切れが格段によく成るのが極限流の神髄。

 

焦ってはならない、まずは落ち着こう。

そんなことを考えた俺だが、この世界がどうとか考えることは打棄り、技の再現作業に没頭するのだった。

やはり浮かれてたんだな。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。