武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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第十話記念作品。


10 猛虎雷神剛

組手と呼ぶには些か激し過ぎたが、とりあえず試合を終えた。

楽進は最後の暫烈拳フィニッシュを受け、意識を飛ばしてしまったな。

 

多少手加減はしたが、やはり暫烈拳はやり過ぎだったろうか。

まあやっちまったもんは仕方ない。

 

特に怪我した様子もなく、安堵した曹操様たちは帰って行った。

北郷君も一緒に。

 

帰り際に典韋がわざわざやって来て、作ってくれてたらしいお弁当を二人分預かった。

あとで食べて下さい、ってさ。

流石は曹操軍の良心にして癒し枠。

とっても良い子やでぇ。

 

楽進が起きたら一緒に頂くとしよう。

 

 

* * *

 

 

練兵場にずっといるのも邪魔だろうし、楽進を隅の日陰に移そう。

お姫様抱っこで移動し、濡らした手拭を額に置いて、と。

 

さて、考えねばならない。

 

楽進は俺に師事を請うてきた。

とりあえず保留にして、今回の組手となった訳だが。

 

実力は確認できたが、やはり俺が弟子をとると言うのはちょっと烏滸がましいと思う。

未だ修行中の身であることだし。

 

そして何より、俺は遠からず再び旅に出る。

何処へと言った先は考えてないが、敵対する可能性も……むしろその可能性が高いよな。

 

そうなると、やはり弟子入りは拒否するしか無い。

しかしなぁ、うーむ。

 

「…ん」

 

お、楽進起きた?

 

「あ、…呂羽、どの?」

 

「よう楽進。気分はどうだ?」

 

「え?……ぁ、す、すみませっ、痛ぅ……」

 

「おっとまだ無理するな。少し痛めたか?」

 

「い、いえ。…大丈夫です」

 

相変わらず楽進は真面目だなぁ。

そんな飛び起きて謝らなくてもいいのに。

 

あ、そうだ。

典韋から貰ったお弁当を食べよう。

 

「呂羽殿!」

 

「っとぉ、なんだ?」

 

「全力を賭しましたが、完敗でした」

 

強い眼差しで俺を見詰めてくる楽進。

やはり師事云々の話か?

 

「前回は保留とされましたが、やはり真名を受け取って下さい」

 

「むっ?いやそれは…」

 

「無理に使わなくても構いません。しかし、是非とも預かって頂きたいのです」

 

予想に反して真名のことだった。

しかし真面目な楽進にしては、随分と強引だな。

何かあったのか?

 

「呂羽殿は、尊敬できる武人だと思っております。故に…」

 

おやまあ。

そんな思い詰めてしまっていたとは。

ここまで言われてなお断るのは、流石に失礼だろうな。

 

「分かった、真名を預かろう」

 

「は、はい!私の真名は凪です、宜しくお願いします!」

 

「ああ、宜しく。ちなみに俺の真名はリョウだ」

 

「はい…、はい!」

 

おお、素晴らしい笑顔だ。

これを曇らせるのは本意ではないが、言わねばなるまい。

 

「だが、やはり弟子は取れない」

 

「……そうですか」

 

一転シュンとしてしまう楽進、もとい凪。

うむ、心が痛むな!

 

「俺もまだ修行中の身。だからまあ、共に研鑽していかないか?」

 

これが俺の答え。

と言うか、元々俺はこれを言いたかったんだ。

まさか楽s…凪から弟子入りの申し出があるなんざ、思ってもなかったから狼狽しちまったけどな!

 

研鑽し合う仲と言うのは大切なものだ。

ライバルとまではいかずとも、な。

それに体術や気弾といった、共通するスタイルを持つ俺たちはいい感じに噛み合うだろう。

 

「もちろん、可能な限り助言はするぞ。これでどうだ?」

 

「…はい、宜しくお願いします!」

 

うん、良かった。

当初の目論見は達成できたと言っていいだろう。

 

「あ、あのっ。もう一つ、良いでしょうか」

 

「うん?」

 

「もしよければ、例の、覇王翔吼拳を見せて頂けないでしょうか……?」

 

「え?」

 

聞けば、凪が組手の後半に放ったでっかい気弾。

闘気弾と言うらしいが、俺の覇王翔吼拳を想像して練り込んだものらしい。

まじか。

 

俺もあれから修行を重ね、ある程度威力の調整は効くようになってる。

しかし、それでも近隣に放つのは危険だし、自然破壊をするつもりもない。

凪に受けて貰うのが一番良いが、流石に今はな。

 

「…また今度な」

 

「約束ですよ!」

 

「あ、はい」

 

守りたい、この笑顔。

しゃーないな。

次までに、ちゃんと調整が効くようにみっちり修行しよう。

 

「じゃ、典韋に貰った弁当を食おうか」

 

「はい。流琉の料理はとても美味しいのですよ。私としては、もう少し辛い方が好みなのですが」

 

そういや凪は、激辛料理も平然と食える子だったっけ。

どこぞの麻婆料理も余裕ってネタがあった気がする。

食事に誘われることがあれば、気を付けよう。

 

 

そして弁当を取り出し胡坐をかいてムシャムシャしていると、凪が何かを聞きたそうにしていた。

 

「と、ところで。……リ、リョウ殿?」

 

「何かな?」

 

「リョウ殿の真名と、その、姓名は……」

 

「ああ、呂羽とリョウ。判り易くていいだろ?」

 

「は、はあ」

 

ドヤ顔で言い放った際の、凪のキョトンとした顔はとても可愛かったと心のメモに追記しておく。

 

 

* * *

 

 

翌日は非番だったので、早速二人で修行を開始した。

 

凪は覇王翔吼拳を熱望していたが、もうちょっと調整したいんだ。

すまないが我慢してくれ。

 

代わりと言っては何だが、前回の組手と違った取り口での組手を考えているからさ。

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

凪が横蹴りを放つ。

前回は虎咆で迎撃した訳だが、今回はまた別の方法を試すつもりだ。

 

左腕に気を纏わせ、上段ガードの構えを取る。

やや上体を仰け反らせ、右手を腰溜めに構えていざ集中。

 

「猛虎ッ」

 

蹴りを左で受けると同時に、踏み込み右アッパーを繰り出す。

 

「雷神剛!」

 

腰辺りを狙ったが、素早く足を戻した凪に捌かれてしまった。

いくらガードポイントがあっても、流石にゲームの様に上手くは行かないか。

てかこれ試しに使ってみたけど、今後実戦で使う機会は多分ないな。

難しすぎる。

 

ゲームの話になるが、極限流に技は多々あれど、実際の使用頻度は偏る傾向にあった。

実際に使えるとなると全部試したくはなるけど、やはりゲーム以上に偏ることになりそうだ。

どうにも難しいのう。

 

その後も色々試行錯誤しつつ、凪との修行を終えた。

やっぱ噛み合う相手だと良い修行になるし、何より楽しかった。

これからが楽しみだぜ。

 

「今日はありがとうございました」

 

「ああ、これからも宜しくな!」

 

「はい。……あの、一つ宜しいでしょうか」

 

「なんだ?」

 

「私とは真名を交換して頂きましたが、他の方とは?」

 

ああ。

そういえば昨日、後で典韋にお礼を言いに行ったんだ。

夏侯淵や曹操様もその場に居合わせたんだけど、真名の話はしなかったからな。

気になったのだろう。

 

「今のところ、真名を預かる予定はないよ。凪は特別だ」

 

暫定客将(仮称)なのは変わらない。

凪は、まあ言葉の通り特別なのさ。

色んな意味で。

 

「私は、特別……ですか」

 

「ああ。それじゃ、またな!」

 

「あ、はい。お疲れ様でした!」

 

軽く挨拶して凪と別れる。

さて、覇王翔吼拳の調整を急がねば。

 

「特別、特別。……わたしが………特別……」

 

背後で凪が何かぶつぶつ言ってる気がしたが、特に気にせず宿舎に戻った。

いい汗かいたし、軽く一杯飲んで寝るとしよう。

 

 

 




・猛虎雷神剛
KOF96と言う、何かと物議を醸した作品が初出展。私は好きです。
性能が良く、牽制潰しでも単体でも使えますが、虎咆に繋げるまでがワンセットだと思います。

あっさり十話超えちゃいましたが、今後流れは加速する、かも知れません。

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