武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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オマケ 後日談


Z1 撃・龍虎乱舞

赤壁の畔。

三国間の実質的な最終決戦の地であり、天下三分の要となったこの場所に俺は道場を構えた。

 

極限流の門戸は広く、魏・呉・蜀、果ては南蛮出身の門弟も今は居る。

 

俺は三国どこにも属していないつもりだが、諸般の事情から呼び出されたら断れない。

だから結局、三国全てに属しているとも言えるだろう。

政治って面倒くさいね。

 

ちなみに此処赤壁は、極限流道場の総本山。

他に、洛陽に支部を持つ。

 

正妻戦争(仮称)に勝利した凪は俺の妻となり、魏の将でもあるので洛陽に居住。

支部の師範代も兼ねている。

 

一方、総本山のある赤壁は呉の勢力圏。

何かと縁の深い呉に対し、示せるものとして此処を選んだってことになってる。

 

実際の所、当初は洛陽に道場を開くつもりだったが呉蜀が猛反対。

パワーバランスが偏り過ぎて良くないってことらしい。

それで結局、俺が赤壁に駐在することでバランスを保つことになっているとか何とか。

 

赤壁は総本山だが、支部である洛陽の方が規模がでかいんだよね。

魏の思惑が大きく絡んでいるそうで、金もそっちから出てるから文句は言えない。

 

他にも色んな場所に屋敷を貰った。

何時でも好きに来ていいよって言う名目だが、隙あらば来させようとする真意が透けて見える。

って、本山で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる由莉が言ってた。

 

由莉の立場は呂羽隊副長の時から変わらない、ようで少し変わった。

側室も兼ねる、という立場に。

正妻と言う名を捨て実利を取ったのだ。

 

元々、公的な地位や武力では凪に敵わない。

だから傍近くに居れるなら、愛人でも構わないのだと。

それに、そっちの方が情が湧いてくっつく可能性も高まると分析したらしい。

 

そんな風に言ってたが、それは俺に言って良いのか?

本当に強い女子じゃて。

 

 

結局、凪と由莉の関係は険悪なまま。

 

正確には、凪が由莉を一方的に警戒してるって図式かな。

由莉は特に凪を気にすることはせず、慇懃無礼を貫いてる。

 

ま、お互い何らかの意識はしている。

無関心よりずっといい。

いずれは仲良く出来る日も来るだろう。

 

あと、由莉は凪よりも嫉妬深い。

その場で何も反応せずとも、後から俺に制裁を課してくることもしばしば。

それもまた、可愛いところではあるがな。

 

それぞれ特色があって面白いし、被害は俺に集中するから好きにさせている。

うん、何も問題はない。

…一応、刺されないようには気を付けてるが。

 

 

他方、姉さんと白蓮については協議中。

 

あと、シャオは相変わらず正妻を主張しているが、流石にな…。

雪蓮や紫苑とかも本気度を測りかねるし、まだ何とも言えない。

微妙なところが多くて困るぜ。

 

でも下手に寝室とかで、どうすればいいんだ!

とか逆切れすると、無言で由莉に押し倒される。

そして口を塞がれる。

あの母性は凶器やでぇ…。

 

由莉って、本当に二人きりだとかなり積極的なんだよね。

呼び方もリョウになるし、その……攻めてくるんだ。

 

微笑みながら母性を使ってのそれは……おっと、これ以上はいけない。

 

 

そんな訳で、俺は赤壁と洛陽を拠点として定期的に行き来している。

参勤交代みたいだな。

 

 

「じゃあ、洛陽に行ってくるから」

 

「はい。留守中の事はお任せください」

 

由莉に見送られ、赤壁を出立する。

色々思うところはあるだろうに、何も言わず健気に送り出してくれる由莉。

やっぱポイント高いよなぁ。

 

思わず抱きしめて……あ!いや、これは違うんだ。

すぐ出立するから、そこまでのつもりは……ちょっ、誰も居ない草陰だからって……待ッ!

 

 

そうそう、今から向かう洛陽だがね。

以前、呉から魏に降った孫静が住んでるんだ。

 

結局あれが偽降だったのか本当だったのか、真相は闇の中だ。

だって、孫静が語らんのだもの。

祭などは、孫静が居たお陰で偽降の計はやり易かったって言っていたが。

 

三国和平が成ってからも呉に戻ることは無く、洛陽に移ってそのまま隠居。

今度こそ完全に隠居して、表には全く出て来なくなった。

 

支部を構えた時に面会してみたが、以前のような覇気も鋭さも見られず、恐らく裏もない。

ただ、姉と親友たちの菩提を弔って残りの余生を過ごすと言っていた。

乱世は似合わん人だったのかもなぁ。

 

 

* * *

 

 

「突然だが、凪はとても女の子だと思うんだ」

 

「本当に突然だな。何言ってんだ?」

 

赤壁から洛陽に向かう道すがら、唐突に喋る始める俺。

 

乱世が終わり、呂羽隊は解隊。

隊員たちは極限流の門弟集団に変わった。

そんな彼らを束ねるのは、最強の副長・韓忠こと由莉。

 

一方で、白馬義従は白蓮の精鋭部隊として残った。

白蓮が俺についてきたので仕官はしてないが、他国に比べて騎兵力に劣る呉に半ば属する立場となっている。

韓当と仲が良いので程普が若干ピリピリしているが、まあ大丈夫だろう。

 

由莉は総本山に起居し、俺の不在時は留守を預かる良妻となった。

そんな彼女に代わり、白蓮が余所に出かける時はついて来てくれる。

 

白蓮は由莉とも仲が良いし、凪との仲も悪くない。

苦労人気質と言うか、中間管理職としての適性が高いのだ。

褒め言葉になってないとは思うが、俺はそんな彼女を好ましく思う。

 

それはともかく、凪の話な。

好いてくれてる女性の前で、他の女性の話をするのは宜しくない。

宜しくないと分かってはいるが、誰かに話したいんだ。

 

尚、由莉に話すと血の雨が降る。

 

本当は北郷君あたりが適任だろうが、今は居ない。

よって白蓮、君に決めた!

 

「いや、凪って強いだろ?特に最近は、そこらの武将よりも余程強い」

 

「そうだな。伊達にリョウの本妻じゃないってことだ。嫌味か?」

 

流石の白蓮でも、この話題は厳しいらしい。

だが、少しだけ俺の話を聞いてくれ!

あとで何か埋め合わせはするからさ…。

 

「それが恋と最後に手合せした時、詰めを誤り攻撃を受けそうになった」

 

「ああ、調印式後、宴の時な。そういえばお前、最後に恋の服を……」

 

いかん、完全にアウトだこれ。

でも、もう止まれない。

 

「そこにギリギリで俺の差し込みが間に合って、凪に被害が及ばずに済んだ」

 

「思い出したら腹立ってきた。とりあえず、由莉には言うとして…」

 

後生だ。

由莉には、由莉にだけは勘弁してくれ!

 

「そしたらさ、めちゃくちゃ喜んでてな。守って貰えて凄く嬉しかったみたいなんだ!」

 

いやー、やっぱり女の子なんだなーって凄く実感した。

とても可愛かった、感動した!

 

「そうか、良かったな。とりあえず殴るが、いいな?」

 

どうぞ。

 

ボグシャッ!あべしっ!

 

へへっ、中々いいストレートだったぜ……。

 

 

「──なんて言ってたぞ。愛されてるな」

 

そして洛陽に着き、凪に報告する白蓮。

いや、確かに由莉にだけはって言ったけどさ。

 

「あわわっ!そんな、リョウ殿が……」

 

もにょもにょしながら顔を真っ赤にする我が正妻殿。

相変わらず敬語に敬称。

時折敬称は抜けるが、敬語は抜けきらないなぁ。

 

「さて、私は少し席を外そう。凪、ちゃんとリョウに隙間を埋めて貰えよ?」

 

「ぱ、白蓮殿ッ!」

 

凄い。

立場を気にせず人を気にして、相手が誰であろうと気を遣える白蓮ちゃんマジ天使。

あとでちゃんと謝って、感謝の埋め合わせも全力でするよ!

 

 

後日、白蓮にはお姫様抱っこを所望された。

 

「こ、これは中々…こっぱずかしいな…」

 

だってさ。

そう言いつつも、喜んで貰えたようなので良かったよ。

 

 

* * *

 

 

定軍山。

此処にはある伝説がある。

 

それは、天狗の縄張りがあるというもの。

許可なく侵入した者は、力づくで追い払われるという。

 

そもそも天狗とは何か?

 

魏書に曰く。

黒い胴着に逆立った銀髪で、高い鼻と赤い顔を持つ。

人間離れした力を持ち、気と炎を操る。

女の服を無情にも切り裂き辱める、まさに外道である。

 

 

「…どう思いますか?」

 

「…いや、どう思うって言われてもな…」

 

凪に見せられたのは、最近書かれたらしい魏書(部外秘)の写し。

どう見ても空手天狗です、本当にありがとうございました。

 

「このこと、魏の中では?」

 

「リョウ殿と結び付けて、確信を持った方は恐らく居ないと思います」

 

ならば凪が暴露しない限り、当面は安全。

と言いたいところだが、ばれるのは時間の問題だろう。

だって、三国は協調路線を歩むのだから。

ちょっと蜀に聞き取りすれば一発だ。

 

「それで、どうしますか?」

 

「どうしたらいいかな?」

 

逆に問う。

何かいい案はないかい?

 

「…自首します?」

 

「断る」

 

華琳様や秋蘭、そして北郷君に殺されてしまう。

ばれた方が怒気は大きいだろうが、そこはそれ。

 

呆れたような凪の目がちょっと痛い。

 

「…とりあえず、蜀に言って裏工作を…」

 

「まあ、私から伝えることはしませんので」

 

嘘はつかない程度にお願いします。

流石に、凪にまで罪を被せるのは気が引けるからな。

 

「罪って分かっているのなら…」

 

アーアー、キコエナーイ!

 

最近、凪の俺に対する言動が由莉に似て来た気がする。

二人とも嫌がりそうだから言わんけど。

 

「とりあえず、蜀に行ってくるよ。姉さんの件もあるし」

 

「……はい。細かいことは、白蓮殿に頼んであります」

 

「うん、ありがと」

 

定軍山の天狗については置いておこう。

まずは、姉さんの処遇だ。

 

白蓮ともども、側室として迎え入れることはほぼ決定してる。

あとはそれぞれ、どう過ごしてもらうか…。

 

まあ多分、姉さんは成都に残るだろう。

月ちゃんたちも居るしな。

その辺りを確認して、諸々の準備をば。

 

他にも幾つか決着を付けんといかんこともある。

特に恋の件。

……まあ、それは追々考えよう。

 

「じゃあ凪。留守を頼んだ」

 

「はい、いってらっしゃいませ。……旦那様」

 

「お、おうっ」

 

凪の不意打ちに、二人して赤面する。

やばい、お持ち帰りしたい。

自分の家だけど。

 

 

* * *

 

 

やってきました蜀の国。

お久しぶり!

 

「うむ、久しいな。韓忠は元気か?」

 

「やあ姉さん。みんな元気だよ」

 

さて、細かいことはいい。

とりあえず姉さんの意思を最終確認だ。

自分から言うのはちょっと恥ずかしいものがあるが。

 

「姉さん。俺の妻になってくれるか?」

 

「うむ。私の夫になれ」

 

はい、終了。

なんて男らしいんだ。

 

「一応、地位とかの絡みがあるから…」

 

「正妻は楽進。韓忠は第二夫人か。公孫賛もなんだろう?私は構わん」

 

そ、そっか。

ここまでスッパリさっぱりだと実に清々しい。

 

「それで側室になって貰うんだけど、このまま成都に住む?」

 

「うむ。政治的判断もあろうからな、従おう」

 

洛陽に居た頃の猪な姉さんはどこに行った!?

そう疑わんばかりの冷静さ。

いや、良いんだけど。

 

「そんなことより呂羽。せっかく会えたのだ。手合せするぞ!」

 

あ、何時もの姉さんだ

何か安心した。

 

 

練兵場に移動。

 

日々の修練は欠かしてないが、こうやって将と手合せするのは久々だ。

色々と忙しかったからなぁ。

 

「我が真名は夫となる者にのみ明かされる。そして我が夫となる者は、私より強い者でなければならない」

 

手合せ前に滔々と語る姉さん。

ふむ、風習は地方によって様々らしいからな。

 

「呂羽なら申し分なし。故に今、その強さを私に示せ!」

 

「望むところだ!」

 

だったら小技は不要。

最初から大技で行ってやるぜ!

 

「行くぞ、極限流奥義!」

 

金剛爆斧を構える姉さんに対し、俺も両腕を引き絞る構えで気を充填。

 

次いで足先と踵に気を流し込み、一瞬の爆発でもって飛び出した。

姉さんが反応しきれない程の加速を得て、一気に懐に入り込み連続乱舞を見舞う!

 

「おらおらおらおらぁぁーー!!」

 

左正拳、ひじ打ち、三日月蹴り、しゃがみアッパーから足掛け蹴り。

横蹴りに鉄拳寸鉄、ひじ打ち、右正拳突きから外回し蹴り。

再度ひじ打ちから氷柱割り、鉄拳・風林火山に繋いで右正拳突き。

続けて後ろ回し蹴りから鉄拳寸鉄、ひじ打ち、右正拳突き、しゃがみアッパーまで。

流れるように乱舞した後、一度虎咆で軽く跳ねた後…。

最後に、強く気を纏った左ボディ気味の虎咆を打ち込み…昇龍の気を纏いつつ天高く舞い上がる。

 

「もらったぁぁ!!」

 

激・龍虎乱舞。

 

姉さんの期待に応えるべく、一切の手加減なく打ち放った。

 

近くで見てた牛輔や愛紗らには、やり過ぎと怒られたがな。

だが後悔も反省もしてない。

 

目を覚ました姉さんからはむしろ褒められた。

ほら、やはり間違いじゃなかっただろ?

 

ちなみに白蓮は何も言わなかった。

彼女の理解度が半端なく頼もしい。

今後ともヨロシクと、お願いせざるを得ない。

 

 

さて、これで二人を正式に迎え入れることが出来る。

それは良かった。

 

そして結局、政治的な思惑もあって姉さんは成都に居住することに。

よって、此処にも極限流道場の支部を開設する運びとなった。

でも姉さんは極限流じゃない。

ある程度の指導は出来るが、やはり流派の人間が必要だろう。

 

そこで白羽の矢が立ったのが、牛輔こと陽。

この機会に真名を交換し、師範代補佐として支部を任せることにした。

 

 

婚礼後、初めて姉さんと同衾した時の事。

そういやもう、華雄姉さんは姉さんじゃないんだなぁ。

 

「ふ…私の真名は─。お前にだけ預ける。普段は好きに呼べばいい」

 

そう言って微笑む─は、今まで見たことがない程に綺麗だった。

 

 

* * *

 

 

「しかし、陽が月ちゃんとくっつくとはねぇ」

 

「そうか?詠も含めて、お似合いだと思うがな」

 

これまで色々あった月ちゃんと詠っち。

彼女たちは、幼馴染でもある陽と一緒になった。

そこに至るまでは色んなドラマがあったようだが、詳細は知らん。

 

「お前が私を娶るなど、以前では考えられまい?それに比べれば…」

 

「確かに」

 

せっかく平和になったんだ。

好いた奴と穏やかに暮らせるなら、それに越したことはない。

 

俺もそうだが、みんな平和を満喫している。

頑張った甲斐があった。

今後とも、修行を続けて行くとしよう!

 

 

 

「…それで、白蓮殿の具合はどうでしたか?」

 

「お、落ち着け由莉!話せば分かるッ」

 

 




後日談でした。
由莉が不憫…な意見も頂きましたので、補完的な意味合いも込めて。
ついでに最終話に入れ損ねた話や、白蓮と姉さんのエピソードも一緒に。

その他のエピソードはいずれまた。
お読み下さり、ありがとうございました。


・撃 龍虎乱舞
KOFリョウの、いわゆるMAX龍虎乱舞。
ちょっとエフェクトつけたりコマンドが違ったりします。
仕方ないとは言え、フィニッシュが龍の咆哮付の虎咆なのはちょっと…。

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