武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
「そういえば呂羽。貴方、幽州で天の使いとか名乗ったそうじゃない?」
名乗ってねえ!
あれは白蓮が暗黒面に落ちて前後不覚になっただけだ。
「おかしいわね。報告では、公孫賛の下に現れた天祐と称して人材物資を集めたと聞いてるわよ?」
情報駄々洩れ。
しかし事実は方便と異なる場合があります。
ご了承願いたい。
「ふふ。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
ちゃんと劉備ちゃんとこでも訂正したんだから、勘弁して下さい…。
さて。
凪との再会。
それは舞い散る血の雨に彩られ…。
いや、これはあれだよ。
比喩表現。
うん、そうそう。
別に無影疾風重段脚で散らしたりとかしてないから。
力試しと称して主な曹操軍の武将たち全てと試合があっただけだ。
張遼や李典など、久々に会った面子も元気そうで何より。
北郷君もね。
「いや呂羽さん、凪としっかり向き合って下さいよ」
強い目で言う北郷君。
失敬な。
ちゃんと挨拶したじゃないか。
「そうじゃないです。わかるでしょう?」
「ふむ…」
相変わらず北郷君は良い奴だ。
部下のことを気にかけ、俺の事も考えてくれている。
「リョウ殿」
噂をすれば影。
まあ近くにいたんだけど、北郷君の後ろから凪が出てきた。
その北郷君は空気を読んでか離れていく。
「その節はお世話になりまして…」
「え?ああ、うん」
連合の時に対戦したことかな。
あれは中々楽しかった。
噛み合うという意味で、自分とレベルの近い奴は意外と少ないからなあ。
「時に、そちらのお連れ様方とはどのようなご関係で?」
はいきた核心!
以前、何かの折に混ぜるな危険と浮かんできた所であるが。
だがしかし!あらかじめ覚悟を決めておいた俺に隙はない。
「ほぼ初めまして。韓忠と申します。義兄上とは長らく旅を共にしております」
義兄上って初めての呼称だな。
お兄ちゃんよりはかなり良い……いや、別にお兄ちゃんも悪くは…何でもない。
「公孫賛だ。知ってると思うが、今はリョウの同僚?盟友みたいなもんだな」
盟友…なるほど、良い言葉だ。
確かに同僚よりはそっちだろうな。
それよりも、覚悟を決めた俺を差し置いて二人が前に出るのは何故なのか。
自己紹介と言えばそうなんだけど。
「私は楽進。…リョウ殿とは、最も長い付き合いがあると思っている」
正しくは一番古い付き合いだな。
長さで言えば、陳留を出てからほぼ常時一緒の由莉が圧倒的。
深さもな。
「二人には隊の副官を任せてる。特に白蓮は、太守経験もあるから重宝してるぜ」
「や、やめろよ。こっぱずかしいな!」
照れる白蓮プライスレス。
由莉と凪の視線が冷たい。
二人とも鋭いな。
「む、待て…。韓忠とやら、リョウ殿を義兄と言ったか?」
「はい。義兄妹の契りを交わしております」
ここで凪の目に光が戻った。
ハイライトの消えた目と言うのは恐ろしい。
原理も分からない……光学迷彩的な?
「そうか、義兄妹か。なるほど…それならば…」
凪がぶつぶつ呟いているが、表情は格段に明るい。
一方の由莉は無表情で白蓮は苦笑。
波風立てず、余計な事を言わないのは評価ポイント。
しかし普段の由莉から考えると、かえって不気味でもある。
「…失礼しました。では改めてリョウ殿。再び、共に研鑚を積んで行きましょう!」
「お、おう。そうだな、頑張ろうぜ」
輝く笑顔プライスレス。
凪の認識は、恐らく間違ってないけど正しくもない。
しかし今、それを指摘することは不可能。
よって後回し。
都合の悪い事を後回しにするのはフラグ。
知ってる。
でも、今が大切だから……後日の俺、任せた!
* * *
夏侯淵から凪へ覇王翔吼拳の伝授を頼まれた。
なんで夏侯淵は知ってるんだ?
ああ、連合の時に放った奴を見たのか。
「諸侯の牙門旗を撃ち抜いたのを見た時は度肝を抜かれたぞ」
狙った訳じゃないが、曹操様の部隊には影響がなかったのは幸いだった。
もし撃ち抜いていたらどんな悲惨なことになっていたやら。
まあ仮定の話を考えて仕方ない。
「聞けば、凪には以前見せたそうじゃないか」
前に居た時な、そういやあの頃の由莉はまだ頑なだったなあ。
変われば変わるものだ。
「奥義であるなら簡単ではあるまい。しかし、目標であるようだぞ」
「分かった。少し考えてみるよ」
「うむ、頼む。これは我が軍と言うより、凪のためだからな」
出会った当初から、何かと助けてもらってる夏侯淵の頼みだ。
無碍には出来ない。
まあ今のところ、最も取得に近いのは凪で間違いないからな。
伝授にあたり、何か支障があるという訳でもない。
そっちメインの修行にシフトしてみるか。
おっと、忘れないうちに由莉たちにも伝えておかねば。
不公平感を抱かれても困る
気の扱いは断トツ一位で凪。
次いで牛輔、由莉の順になるのだが…。
どちらもまだまだ、だからな。
「と言う訳で、しばらく凪との修練を優先するから」
「そんな…酷いです…っ」
「お前は酷い奴だな」
「何故!?」
* * *
超必殺技伝授!
前段階は氷柱割りやビール瓶切りなどで気力・体力鍛錬の行。
動きや気の回し方など、言葉だけで説明できない部分は行動で示す。
その際、一部だが手取り足取りな場面も生じたのは已むを得なかった。
由莉と白蓮が醸し出す不穏な空気は敢えて無視。
牛輔も含め、上位者の修練を見るのも良い刺激になるだろう。
そう思って呼んだんだが、失敗したかな?
何はともあれ座学が終われば実践あるのみ。
いくら凪が優れた気功の保持者でも、そう簡単には修められない。
そうこうしてるうちに袁紹が動いた。
これは…、うかうかしてられないな。
本気で行くぞ!
懐の天狗面に手が伸びかけたが自重。
極限神は言っている……まだその時ではないのだと……。
* * *
袁紹、袁術と協同して動く!
覇王翔吼拳は完成しなかったが、凪と由莉たちとの溝は深まった。
あれ…?
おかしいな、対戦とかして心を通わせたはずなんだが。
「対戦したからって、通じ合うとは限らないだろ」
白蓮、それはそうだが。
いやでも、ほぼ極限流同士の戦いなら何かしら得るものが…。
「確かに得るものは多くありました。特に、互いに相容れない相手だと知れたのは収穫かと」
俺が知らない間に何かあったのだろうか。
ちらりと牛輔を見る。
頷く牛輔。
「見解の相違ってやつだな!」
「見解?」
「隊長とは義兄妹ですが、当然それだけではありません」
「楽進自身は認めてないが、こちらから見れば間違いないしな」
分かるような分からないような。
「要は恋敵ってやつですよ。ははっ、色男はツライっすね!」
ふむ、恋敵…。
牛輔が二人にボコられるのを横目に色々考えてみる。
ポクポク、チーン。/Ω
「と、とりあえず今は戦の前だ。詳しいことは後で、な?」
「…はい。承知しました」
「うん。私もまあ、それがいいと思うぞ」
「…先送りしても、結局のところ変わんないと思うけどなーぅべしっ」
ぼそっと呟く牛輔に対し、咄嗟に後ろ捻り回り蹴り上げをお見舞い。
正論とは、時として動揺した暴力によって撃墜されるのだ。
そしてこれは昇燕。
覚えておきたまえ。
* * *
軍議を経て曹操軍は出陣。
呂羽隊は先陣として、夏侯淵隊の指揮下に入った。
一番最初の防衛線もこんな感じだったな、懐かしい。
面子は大分違うがな。
さあ、正面にあるのは袁紹軍本隊。
当然に牙門旗が誇らしげに翻る。
ククク、見てろよ…。
旗を持った袁紹軍が相手なら、覇王至高拳で粉砕せざるを得ない!
いざ、気力満載。
いくぞぉーっ
超………覇王至高拳ッ
「せりゃっ、せりゃっ、せりゃぁぁぁーーーっっ!!」
超気弾が虚空を切り裂く。
光が収まった時、眼前に広がるのは無限の荒野。
若干黄色っぽいのが散らばってるが、幾分スッキリしたんじゃないか?
「……なんと……」
後ろから聞こえる呆然とした夏侯淵の声。
少しはクールビューティに驚きを与えることが出来たかな?
ふははは!
「隊長…素敵です…」
「ああ、流石はリョウだ」
戦場故か、テンション高く蹴りを振りまき駆け抜けるッ
どんな奴が相手でも、全てこの俺が倒してやる。
「そらそら、どんどん行くぞぉー!」
「ちょっと待ちなさい」
「ん?」
声の方を向こうとすると、ビュォオンッなんて凄い風切り音を鳴らしながら刃が通り過ぎた。
しかし鋭敏に気配察知能力が向上した今の俺に隙はない。
咄嗟に左上体を反らすことで避け、カウンターに翔激掌を放つ。
「ちえっ、やっぱり簡単にはいかないわね」
「こちらの台詞だな」
咄嗟のカウンターも容易く往なされてはな。
目の前にはピンクの髪したナイスばでぇのお姉さん。
「孫策か」
「ええ。洛陽以来ね、偽天の御使いさん」
偽?
情報が出回るのはともかく、そいつはどういうことだ。
「……何を言っているのですが、この桃頭は」
問い質そうとしたら、後ろから飛んできた声に先を越された。
もちろん、この冷厳な声色は由莉のもの。
「え、桃頭ってわたしのこと?」
疑問には同感だが、他に対象者は居ないな。
ピンク髪だから間違ってない。
「誰に向かってモノを言って「由莉、控えろ」……失礼しました」
だが、今はそんなことをしてる場合ではない。
余り強く言いたくはなかったが、発言を制して孫策に向き直る。
「あらら、随分と懐かれてるのねぇ」
「ああ。有難いことにな。…さて孫策、ここは戦場。わかるな?」
「もちろんよ。でもその前に一ついいかしら」
「断る。行くぞ、虎煌拳!」
「ちっ、つれないわね!」
* * *
「あははははっ」
孫策さん、ハイテンション。
「くははははっ」
俺、負けじとハイテンション。
由莉に呂羽隊を任せ、夏侯淵には白蓮から伝達してひたすら孫策と打ち合うこと暫し。
狂ったように笑いながら戦う二人がいた。
頭の隅っこで冷静な部分が思う。
これ、周囲からはお近付きになりたくない光景だろうなあ。
「はあっ」
「せい!」
このまま孫策を抑えたままでも、恐らく曹操様が袁紹を破って終わるだろう。
しかしそれでいいのかと少し悩む。
「あはははは!いい。いいわねぇ。実にいいわ!」
オマケに何か変なスイッチが入ったようで、終わらせ方が思い浮かばない。
困ったなー。
呉の人、お客様の中に呉の人はいませんかー!?
「是が非にでも貴方を降して、孫呉に連れ帰ってあげるわっ」
「笑止!」
孫呉に行くのはどうでもいいが、降されるのは論外だ。
かくなる上は、一撃の覚悟を決めよう。
孫策の振り被りを確認してから下段足払い。
軸足をずらしてステップの要領で避けるのは流石だが、折り込み済みさ。
通常ならあり得ない、直後に直立。
「覇王翔吼拳!」
「んなあっ!?」
発射直後、驚きながらも防御態勢に移行する様子が見て取れた。
そして巨大な気弾に飲み込まれ、着弾破砕音。
ふぅ…残心。
舞い上がった砂煙が落ち着くのを油断なく構えて待つ。
その向こう側に身じろぎする人影が…二つ?
晴れた先に現れたのは、元より少ない布地の面積がより少なくなった痴女…もとい、孫策の姿。
褐色が映えるな。
剥奪マシマシ。
おっと気を散らすな。
ここは戦場、まだ敵は伏していないのだ。
眼前で孫策を支える……あれは、確か周泰かな。
「…み、みん…めい…?」
「雪蓮様……くっ」
辛そうな孫策を支えながら、厳しい視線を送ってくる周泰。
片手には抜身の剣。
「ふむ。……行け」
「……ッ」
撤退したそうな雰囲気だったので、促してみると凄い形相で睨まれた。
でも、そのまま無言で撤退。
めちゃ睨まれたので、悔し紛れにその背に向かって呟いておく。
「覇王翔吼拳を破らぬ限り、俺を倒すことは出来んぞ…」
肩がピクリと動くのを遠目に確認。
それでも振り返らず、視界から消えていった。
しかし周泰か。
ニンニン。
いいよな、シノビ。
「お疲れさまでした。隊長」
それではここで問題です。
労ってくれる由莉ですが、その声色はどうでしょう。
また、彼女はいつからいたでしょう。
そして、何を見たでしょうか!
「あの状態の孫策を剥くとは、酷い奴だなホントに…」
正解は、白蓮の言葉を聞いたうえで推して知るべし。
だが敢えて言おう。
ワザとじゃないんだ信じてくれ!
リョウの戦いはこれからだ。
由莉と白蓮の愛がリョウを救うと信じて!
IFルートであり、本編の後日談ではありません。
本編と異なる個所をメインに描写しており、徐々に増えております。
・昇燕
KOFのユリが使う特殊技。
少しかがんでから蹴り上げる技で、ヒットすれば相手を浮かせて追撃可能。
飛燕鳳凰脚とかも可能だったような気がします。