武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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15 ビール瓶切り

「乾杯!」

 

昨夜はお楽しみでしたね、なんてこともなく。

ちゃんと凪を部屋に届けた後は、普通に身体拭いて寝たよ。

 

そして今、ここにある宴。

 

「呂羽!旅に出るなど…、わたしとの決着はどうするのだ!?」

 

「ちょっと春蘭、落ち着けって」

 

「もとはと言えば貴様がー!」

 

「ぎゃー!俺は関係ないだろーっ」

 

うむ。

夏候惇の絡みに、北郷君が主人公してるのを肴に一献と言うのもオツなものだな。

 

ギャルゲーの主人公と言えば女難の相。

北郷君は正しく主人公してるぜ。

 

周囲も既に見慣れた風景なのか、止めようとする者は居ない。

うむ、流石だ。

 

あ、李典と于禁が絡みに行った。

更なる混沌を生むんだな。

いいぞもっとやれ。

 

本来なら凪もその中に入って行くんだろうけど、今日はずっと俺の隣にいる。

修行関連でお株を奪ってしまったな。

特に反省はしてないが。

 

「呂羽、良いか?」

 

「おお、夏侯淵。良いぞ」

 

夏侯淵さんが現れた。

クールビューティな彼女には何かと世話になってきたし、きちんと挨拶はするべきだったな。

 

「正直、お前には正式に仕官して貰いたかった」

 

そう言いながら酒を注いでくれる。

凪や北郷君との絡みが多かったが、実は一番買ってくれてたのは彼女だったかもしれない。

今頃になって、そんなことを思ってしまった。

 

「すまないな」

 

だから真摯な想いと共に謝った。

 

「いや、謝らなくていい。最初から言ってたからな。それにな?」

 

黙って続きを聞く。

 

「私だけじゃない。華琳様もまた、お前を高く評価されていた」

 

マジかっ

 

「真名の交換に至り、引き留めることが秘密裏に課されていたのだが……」

 

だから報告会での、あの呟きか。

そしてチラリと凪を横目で見てみると、凄く何かを言いたそうにしていた。

ごめんよ。

 

「いやすまん。愚痴になってしまったな。旅の目的が何かは知らんが、いつでも戻ってこい」

 

「ああ。ありがとう」

 

何とも有り難いお言葉だ。

全てが終わったら、そういう日も来るだろう。

言い終えた夏侯淵は席を立ち、北郷君たちの方へ向かって行った。

 

「リョウ殿。良かったのですか?その、真名のことは…」

 

その後ろ姿を眺めていた俺に、凪が小声で聞いてくる。

うん。

まあ、タイミングを見て言おうとは思ってるんだけどね。

 

「まあ、大丈夫だろう」

 

「そうでしょうか…」

 

凪は不安なようだ。

図らずも隠し事をしてる形になってるからな。

むぅ、仕方ない。

 

「よし凪、李典たちのとこに行くぞ」

 

「あ、はい」

 

いざ、暴露大会へ!

 

 

* * *

 

 

「あら呂羽。…と、凪も」

 

李典を探していると、曹操様が現れた。

典韋も一緒だ。

 

「どうもー」

 

そして俺たちを見る曹操様は、何を思ったか突然ニヤリと悪い笑みを浮かべる。

凄く嫌な予感。

 

「ねえ。呂羽と凪は、深い仲なの?」

 

「な、なななななににょ!?」

 

「な、凪さん。落ち着いて下さいっ!」

 

突然そんなことをぶっこんでくる曹操様。

そして凪が瞬間沸騰。

 

「なんですか、唐突に」

 

「あら。だって貴方、凪を抱えてたじゃない。それも、凪の部屋に向かいながら」

 

oh…

なんか聞こえた気がしたけど、まさかの曹操様でしたか。

 

「呂羽さんと凪さん、そうだったのですか……?」

 

凪を落ち着かせていたはずの典韋が、顔を真っ赤にしてる。

何を想像してるんだね君は。

 

あとその体勢で呟くと、凪の挙動が怪しいのだが。

 

「わ、わたわたしが……アイタッ」

 

うん、落ち着け。

スコンッと手刀を当てて気付けを行う。

 

ビール瓶切り。

 

この世界には多分ビールがないので技名を言う訳にはいかないが、せっかく再現したのだから使っときたい。

本当は一旦身体を後方に捻ってから、水平に全力フックを放つ感じなんだが。

力を抜いて、気も込めずに軽ぅく当てる感じにしておいた。

 

「あれは、疲弊した彼女を部屋に送って行っただけですよ」

 

「疲弊した、ねえ」

 

「そうなんですか?」

 

「う、うむ」

 

淡々と弁明する俺。

意味深な笑みを浮かべ、目を細める曹操様。

キョトンとした表情で凪に聞く典韋。

若干顔を赤くしたまま答える凪。

 

カオス。

 

そんな混沌とした空間に、鋼の救世主が!

 

「凪ちゃん、どうしたの?すっごく、顔が赤いの~」

 

「な、なんでもない!」

 

来なかった。

 

「おー、兄ちゃん。こんなとこにおったんか」

 

来たのは于禁と李典だった。

そうそう、目的は彼女たちに暴露大会することだったね。

 

「北郷君はもういいのかい?」

 

「あー、隊長は桂花となんか話してたわ」

 

「沙和は、お兄さんに聞きたいことがあってきたの!」

 

なんでしょう。

これまた嫌な予感しかしないんだが。

 

「お兄さんはー、凪ちゃんとどこまで進んでるの~?」

 

凪、爆発。

せっかく鎮火してたのにね。

于禁め、相変わらず空気読まんでからに。

 

「良い感じに仕上がってきてるよ。共に修練を積む相手がいるのは有り難いことだ」

 

だからこっちも、敢えてずれた回答をしてやったさ。

 

「むう。そういうんじゃないのー!」

 

むきーと怒る于禁。

いちいちリアクションが大きくて楽しい奴だな。

 

「まあまあ沙和、兄ちゃんはそういう人やねんから」

 

どんな人だ。

 

「ふふっ。沙和、真桜。いいことを教えてあげるわ」

 

スッと横から入り込んできた曹操様。

口の端が思い切り吊り上ってるぞ。

 

「実は昨日ね、呂羽ったら凪を……」

 

oh

 

「な、なんやてぇー!?に、兄ちゃん、ホンマかいな!」

 

「凄いの!情熱的なのー!!」

 

「曹操様にも言ったけど、疲れて倒れた凪を介抱しただけだって」

 

……?

仕方なく再度弁明を試みるが、何故が場がシーンと静まり返った。

 

「ん?どうかしたか?」

 

曹操様も李典も于禁も、典韋までも目を真ん丸にしてこっちを見詰めている。

 

「あ、あの。リョウ殿……」

 

「凪?……あっ」

 

はい、暴露ー。

素だった。

暴露大会にしようとは思ってたけど、タイミングを見てこっそり仕込もうと思ってたのに。

 

しくじったー!

 

「は、ははは。兄ちゃん、そういうことかいなー」

 

李典が理解したようで、乾いた笑いを上げている。

 

「凪ちゃん、ずるいの!」

 

同じく于禁も騒ぎだす。

 

「ちょ、呂羽…貴様。一体どういうことだ!?」

 

いつの間にか近くにいた夏侯淵さんが激怒。

すまない、凪は特別なんだ。

 

 

「あ!凪が変やったあん時、まさかっ」

 

「なになに?詳しく聞かせて欲しいの!」

 

その後はもう、てんやわんやのお祭り状態。

場に居た面子以外の、北郷君やら夏候惇やらも巻き込んでの大騒ぎ。

 

まあ、曹操様と夏侯淵から追いかけられたのは良い思い出になったね。

イヤホント。

 

 

ドタバタ劇から数日後、俺は何事もなかったかのように凪たちに別れを告げ、陳留から旅立った。

別れ際には、最後に曹操様からも声をかけて貰えた。

 

「呂羽!次会った時は手加減しないから、覚悟しておきなさい?」

 

もの凄く良い笑顔だった。

激励の言葉だと受け止めておきます。

 

 




・ビール瓶切り
初代龍虎での気力アップの修行から、後に必殺技に昇華した存在。
使い勝手も含め、何も必殺技にしなくても…とか思いました。

これにて陳留編は終了。次回から洛陽編が始まります。

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