武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
陳留を出た俺は、各地を彷徨いながら洛陽を目指した。
真っ直ぐ目指さなかったのは、やっぱ色々情報を仕入れたかったからさ。
路銀に余裕があったと言うのも大きい。
曹操様に感謝だね。
…あ、そういえば。
覇王翔吼拳を披露しようと思ってたけど、ドタバタしてて忘れてたなぁ。
まあ、今後の展開を考えれば嫌でも披露する機会はあるか。
その機会が良いものかはさておき。
と、余り彷徨ってては時間がいくらあっても足りない。
ある程度線引きして、外れすぎないように気を付けないとね。
あちこちで聞き込んだりした結果、様々な情報が集まった。
ううむ、取捨選択や精査が大変だ。
軍師なんて絶対なれないわー。
良く聞く名前は、董卓に袁紹、そして曹操様。
次いで袁術や孫策、公孫賛に孔融と言ったあたり。
あとは劉備ちゃん、一つ街を任されて頑張ってるんだね。
善政っぽいって評判だよ。
やったね!
地理的に、北部の方々が中心になってくるのは仕方がない。
こうして色んな噂やらを収集しつつ、洛陽に辿り着いた。
うん、でかいな。
陳留も整備されたいい街だったけど、洛陽もまた凄い。
さて、とりあえず宿でも探すとするか。
* * *
宿を見つけて、洛陽に逗留してから既に三日目。
お上りさんよろしく物見遊山してたけど、そろそろ方向性を決めないといかんな。
のんびり考えながら、通りを散歩していた。
「危ない!」
すると隣から悲鳴が上がり、見ると女性に向かって物凄い勢いで木材が迫っていた。
咄嗟に気を纏い、後背にぐぐっと力を溜めてから、勢いよく半身バネを使って左腕を突き出した。
「虎咆疾風拳!」
どごんっと鈍い音がして迫りくる木材を粉砕。
女性は守られたが、木材の価値は死亡した。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」
街の人かな。
怪我がなくて何よりだ。
しかし木材は……、あっちの荷車から落ちて来たのか。
商人と思しき者があわあわしてるな。
一応、一言声かけておこうか。
「そこの者!」
そこで突然声がしたかと思うと、ムンズッと突き出した腕を誰かに掴まれた。
うぇーい!?
結構な力ですねぇ。
「なかなかの剛力だ。その力、我が軍で生かさないか!?」
「え、どちら様?」
「董卓様が臣。華雄だ!」
ドーン!
そんな擬音が聞こえてきた気がした。
「さあ、参ろうか!」
何も言えないでいると、そのまま腕を手繰って引っ張られる。
…ええっ?
助けた女性と商人の人がポカンしてるのが印象的だった。
多分、俺も似たような顔してるんだろうな。
良く分らないまま、華雄と名乗った妙齢の女性にドナドナされる俺だった。
* * *
「さあ、やるぞ!」
恐らく董卓軍の練兵場だろう場所に連れてこられ、華雄は武器を構えて上記の言葉。
いや、どういうことだよ。
「やるって、何を?」
「もちろん、腕試しだっ」
今あったことをありのまま話すぜ。
俺は洛陽の街を散歩してて、ひょんなことから女性を助けたつもりだった。
そしたら次の瞬間、華雄と対戦することになっていた。
何を言っているか分らないと思うが、俺も訳が分からない。
頭が沸騰しそうだった。
「先ほど一連の流れを見ていた。その武才が本物か、確かめてやる!」
有難迷惑だ!
とは思ったものの、よくよく思い起こせば、華雄と言えば董卓軍の武官の一人だったはず。
華雄軍は洛陽の街を警固していると言うことで、市井での評判は良かった。
作品ではチョイ役だった気もするが、実際見てみると中々格好いいお姉さんじゃないか。
かゆーねーさん。
ゴロも良い。
どういう星の巡り会わせか知らんが、手合せの機会が来たと言うなら否はない。
流れが意味不明過ぎて暫し呆然としたが、もう落ち着いた。
「じゃあ、行くぞ」
「来い!」
この日から、俺は華雄隊の一員となった。
相変わらず理解を超えて事態が進む。
……まあ、いいか。
* * *
「副長!次はこちらをお願いします」
「はいはいっとー」
洛陽の華雄軍は、新たに副長となった人物についての噂で持ち切りだった。
なんと!初見で華雄がその実力を認め、副長に抜擢したと言うのだ。
一体何者なんだ…?
何を隠そう、俺である。
ちなみに副長に抜擢されたのは、俺が事務処理を出来たからだ。
華雄って結構部下思いで面倒見はいいけど、事務処理は苦手っぽいんだよね。
何か夏候惇を思い出すな。
陳留で勉強してた甲斐があった。
ありがとう北郷君。
「華雄、居る?」
「居ませんよ」
執務室に華雄姉さんが居ることは少ない。
大体は俺か、もう一人の元々副長だった人が居るだけだ。
いや事務方の人は数名いるんだけど。
行き成りどこの馬の骨とも知れん奴が副長に任命されたら、元居た人は普通嫌がるんじゃないかと思うよね。
でも、事務処理出来る人が増えて良かったとむしろ喜ばれたのには驚いた。
分らんもんである。
「そう。華雄の現場主義にも困ったものね」
「だからこそ、民や部下にも慕われてる訳ですが」
「まあ、そうよね」
副長になって喋る機会が増えたこの人。
董卓軍の軍師、賈駆さんその人だ。
ツリ目がキュートって前に誰かが言ってたが、眉を寄せてジト目になってることが多い。
大変そうだもんね。
「……まあ、あんたでもいいか。ちょっと着いて来て」
そう言ってドナドナされる俺。
あれ、最近もあったなこんなこと。
ちなみに、董卓軍の方への自己紹介は一応してる。
華雄隊の副長って紹介だったから、あんまり印象には残ってないだろうけど。
そして連れてこられたのは賈駆の執務室。
何が始まるんです?
「お、賈駆っち。ようやく来たか。…ん?そっちの奴は確か華雄の…」
「華雄が不在でね。副長のこいつを代わりに連れて来たわ」
「どうも、華雄隊副長の呂羽です」
「おー、華雄が自慢しとった奴やな?」
なにそれ詳しく。
「霞、それは後でね。ねねが来たら始めるわよ」
残念。
ところで賈駆っちの執務室にいたのは張遼さん。
サラシを巻いた関西弁の姐さんである。
ねねこと陳宮がやって来て、何かの報告会が始まった。
「この物資はこっちにやるから、張遼隊はこれだけ。呂布隊はこっちを、華雄隊は…」
「ならばこちらはこう分けて、賈駆隊の分をこうすれば良いと思うのですぞ」
ひょいひょいと仕分けて行く賈駆さんに、陳宮が補足を入れていく。
俺は言われるがままに華雄隊の実績と消費予測を伝え、次の物資配給願いを出している。
あ、予算会議だこれ。
陳留で色々勉強した甲斐があった。
ありがとう、夏侯淵さん!
「ふう、大体こんなとこかしら」
終わったようだ。
疲れた。
しかし華雄ねーさん、これ前はどうしてたんだ?
「呂羽がおって良かったわ。華雄はホンマ適当やったらからなー」
疑問が顔に出てたのか、張遼が答えてくれた。
ねーさん、マジか。
前副長の苦労が偲ばれるぜ。
「ところで、当たり前のように居るお前。何者です?」
「華雄隊副長の呂羽です。宜しく」
ここに来て俺の存在に疑問を感じたようで、陳宮が難しい顔をして尋ねてきた。
だから改めて、自己紹介をしたのだが。
何やら、むむむと唸っている。
そして。
「呂羽ですと?呂布殿と似た名前なんて、う、羨ましくなんかないのですぞー!」
羨ましいらしい。
そう言うと陳宮は、走り去ってしまった。
いつの間にか張遼さんも居なくなってる。
正式に仕官したはいいが、全員と仲良くなる道は遠く険しそうだ。
「あ、ちょっとあんた。霞が忘れて行ったこの書簡、ついでに届けて頂戴」
そう言って書簡を押し付けられ、賈駆っちはさっさと仕事に戻って行った。
遠く、険しそうだ……。
・虎咆疾風拳
出展はKOF99で、雷神剛の代替品として虎咆に繋ぐことが可能。
使い勝手は悪くはないけど、使わなくても問題ない感じでした。
NBC版はちょっと格好いいと思います。
15話にて誤字報告適用しました。ありがとうございます!